意外と合う! 「チキンラーメン」でスイーツをつくる洋菓子店
▲カラメルでしっかり焼きこめられたチキンラーメン。見た目になかなかのインパクトだが、肝心のお味は「すぐおいしい。すごくおいしい」のだろうか?
こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第16回目となります。
■チキンラーメンでスイーツを手作りする洋菓子店があった!
さて突然ですが、皆さんがもっとも好きなインスタントラーメンは、なんですか?
僕は日清食品の「チキンラーメン」。
小学生の頃から現在に至るまで、不動の第1位です。
小学生の頃、半ドンの土曜日に猛ダッシュで家に帰ると、待っているのはチキンラーメンのお昼ごはん。
たまごを落とし、もやしを加え、アルミの小鍋にふたをし、ガスコンロにのせて「鍋焼き」にするのが我が家流でした。
蒸し焼きした黄身が半熟のうちに火を止め、熱した小鍋ごと食卓へ。
ふたを開けると、もわんとたちのぼるチキンスープの、陶然とするほどよい香り。
黒コショウと青ねぎを散らし、硬さが残る程度に煮た麺にたまごの黄身をからめていただきます。
しっかり味がついたフライ麺と、とろりとした黄身の相性は最&高&好。
さらにこの麺を、白ごはんにのせて食べるんです。
もう、おいしくておいしくって、れんげでスープを一滴残らずすくってたいらげてました。
チキンラーメンをおかずに、ごはん3杯は軽くイケましたね。
そんな「すぐおいしい! すごくおいしい!」チキンラーメンを、なんと「スイーツの素材にしている洋菓子店がある」という噂を耳にしました。
チキンラーメンは大好物だし、甘いものも大好き。
そんな大好きどうしの夢のマリアージュ!
……って、いやいや、そうはならんならん。
どっちも好きだけれど、それとこれとは話が別なのでは。
チキンラーメンのスイーツって、いったいどんなものだろう……。
少々チキン肌になりながら、こわいもの食べたさでウワサのお店へと訪れました。
■「モンブランがおいしい」と評判のパティスリー
訪れたのは、大阪の北部に位置する池田市。
お店の名前は「パティスリー モンターニュ」。
▲阪急宝塚線「池田」駅を降りて北上。五月山のふもとにあるケーキと焼き菓子の「パティスリー モンターニュ」。農林水産大臣賞を受賞した「大阪産(大阪もん)」の地玉子や、四季を感じる池田産のフルーツなどをたっぷり使った手づくり洋菓子が味わえる
お店を営むのはオーナーパティシエの山田英樹さん(53歳)と妻の啓子さん(52歳)。
▲洋菓子職人の山田英樹さんと接客担当の妻・啓子さん。ご夫婦ふたりで営まれるアットホームなお店
「パティスリー モンターニュ」は 2013年にオープンし、「モンブランがおいしい」とたちまち評判となったお店。
ショーケースには、栗やイチゴ、チョコレート、マンゴーなど多種多彩なモンブランが並んでいます(季節により変動あり)。
甘さ控えめ、クリーム軽め。
素材そのものの味が楽しめる、シンプルなしあがり。
お年寄りでも「さっぱりして、胃もたれしない」「いくらでも食べられる」と好評なのです。
▲人気は「モンブラン」。いちごのモンブランはマスカルポーネを使った甘酸っぱい味
山田
「店名になっている『モンターニュ』はフランス語で“山”という意味で、僕の苗字の山田と、得意なモンブラン(フランス語で白い山)をかけているんです」
そんな人気のモンブラン、はじめは「もしやこのうにょうにょしたクリームがチキンラーメンでできているのか?」とビビりましたが、それはさすがにないようで、ちょっとひと安心。
■カラメルで固められたチキンラーメン発見!
では、どれがチキンラーメンのスイーツなのかというと……ありました!
店内の一画に専用のスペースがしつらえられています。
マスコットの「ひよこちゃん」が目印。
▲チキンラーメン・スイーツだけのコーナーがある。目印はチキンラーメンのマスコット「ひよこちゃん」
商品は、
チキンラーメンのクッキー「チキチキクッキー」(税込み216円)。
チキンラーメンとトマトが入った「チキトマクッキー」(税込み270円)
卵白多めの生地にチキンラーメンが入った薄焼きクッキー「チキチキチュイル」(2枚 税込み195円)。
▲よく見るとチキンラーメンがびっしり敷き詰められたクッキー「チキチキチュイル」
そして極めつけが、「チキキャラ」(税込み100円)。
▲まるでチキンラーメンの皿盛りのような洋菓子「チキキャラ」
チキキャラは一見、まるで丼に入った状態のチキンラーメン。
チキンラーメンのラーメンラーメンした姿がそのまんま。
後ずさりするほど縮れたラーメンがダイレクトにトッピングされたスイーツです。
山田
「チキンラーメンをキャラメリゼして、最中(もなか)の皮にのせて焼きました」
チキンラーメンをキャラメリゼ……ということはこのチキンラーメン、カラメル味なんですよね……。
うーん、申しわけないですが、単純に「合うのだろうか……」と不安がよぎりたおします。
■チキン風味の甘じょっぱいテイスト
そして実際に焼いているところも見せていただきました。
▲「チキキャラ」をつくる山田さん
▲キッチンには洋菓子の素材となる袋入りのチキンラーメンがどさっと
▲モナカの皮に適量のチキンラーメンをのせる
▲人気商品なのですぐ売り切れる。夫婦で取り掛からないと間に合わない
あ、本当に市販のチキンラーメンをそのまま使っているのですね。
山田
「はい。チキンラーメンが口のなかでぱちぱち弾ける食感が残るよう、粗めにクラッシュしています」
▲使用するのはごく一般に販売されている袋入りのチキンラーメン
キッチンはすでに、うっとりするほどチキンスープのいい香りで包まれています。
ここ、洋菓子店ですよね?
▲オーブンで焼くとカラメルが溶け、冷えると飴状に固まる
では、焼き上がりをひとくち。
………!
あれ?
お、おいしい!
めっちゃうまい!
ぱりん、ざく、ざく。
チキンラーメンの鶏しょっぱさと糖分が絶妙にからみあい、飴状に硬くなったカラメルとざくざくした麺の食感のコントラストもおもしろい。
かつて経験したことがない、なのにどこか懐かしい味。
小学生の頃の幸福な昼ごはんタイムが蘇ってきます。
山田
「この“あまじょっぱい”味にたどり着くまで、かなり試行錯誤を繰り返しました。はじめは『これチキンラーメンの味がせえへん』『甘いばっかりや』って、なかなかうまくいかなかった。お客さんに何度も試食をしてもらい、それで『まずい』って言われたらすぐにやめようと思っていたんです」
そうして、洋菓子の味とチキンラーメンの味、どちらも「すごくおいしい」バランスが見つかったとのこと。
正直、おいしくて、「記事にできる!」と、ほっとしました。
■お客さんの「池田市のおみやげがないねん」のひとことから始まった
ではいったいなぜチキンラーメンをスイーツにしようと思われたのでしょう。
そのきっかけは、妻の啓子さんにありました。
啓子さん
「店をオープンして1年経ったくらいのとき、ご年配のお客さんから『池田市のおみやげがないねん』と言われたんです。先様へ持っていく『おもたせ』(一緒に味わうことを前提に持っていく手土産)がないなぁと。それなら『池田市が発祥のチキンラーメンでお菓子をつくったらええんとちゃうかな』とひらいめいたんです」
そう、ここ池田市は、商業的に成功した即席ラーメン第1号「チキンラーメン」を生みだした街。
日清食品を創業した安藤百福(あんどうももふく)が自宅に研究所をつくって誕生させたのがチキンラーメンなのです。
山田
「この店を開くとき、『できるかぎり新鮮な地元食材を使おう』と決めていました。たとえば池田市産の花梨をコンポートしてケーキにするなど、できるだけ地元でとれたものを使用しています。そして『それやったら池田市生まれのチキンラーメンを使うことは、まったくポリシーに反してない』と考えたんです」
▲同じ池田市の新鮮素材を極力使う。珍しいフルーツの焼き菓子も
▲いちごも近場のものを使うのでフレッシュ!
こうして意外な形で誕生したチキンラーメン・スイーツ。
はじめは疑うような目でおそるおそる購入していたお客さんたちが、「食べたらおいしかった。クセになった!」と続々とリピーターに転じるほどの花形商品に。
「このチキチキチュイル、お酒にも合うな」
「チキチキクッキーを東京の企業へお土産に持っていったら、こちらからは何も説明していないのに『池田市生まれのお菓子ですか?』って言われたわ」
などなど、総じていいリアクション。
娘さんも大好物で、毎日のように食べているとのこと。
▲池田市では飲食店がチキンラーメンを食材として使うことを推奨している。平成27年には「チキチキチュイル」が人気メニューランキングの第1位に輝いた
■父親譲りの「頑固に自流を貫き通す」スピリッツ
とはいえこの異種コンボは、製菓の優れた腕があるからこそ、なせるワザ。
山田さんはお隣り豊中市で戦前から三代続く和菓子店「津の国屋」の長男として生まれ、26歳から47歳までこの津の国屋の「洋菓子部門」を任されていました。
和菓子ひとすじの父の背中を見ながら洋菓子をつくり、和と洋それぞれのよさを橋渡す技術を体得していったのでしょう。
山田
「実家の銘菓は“どら焼き”で、通常のものに較べてたまごを3倍多く使います。だからパンケーキのようにふわふわな食感なんです。これは親父の我流。自分が一度『こうだ』と思ったら突き進んでしまうタイプの人なんです。僕も親父譲りの頑固者なんで、人の言うことをあんまり聞きませんね。こうした自分流の御菓子を焼くのも、そういうDNAが流れているのかもしれません」
お話をうかがうと、ヒットというものは「こうしなければいけない、の向こう側」にあるんだなと改めて思いました。
そして旧来の空気乾燥から、麺を油で揚げて乾燥と味つけを同時に行う画期的な手法をあみだしたチキンラーメンの父・安藤百福の発明家スピリッツも、この池田の地にはずっと流れているんだなあとも感じたのです。
パティスリー・モンターニュ
大阪府池田市大和町5-6 和田ビル1F
電話 072-737-6938
営業時間 10:00~19:30
定休日 月 *臨時休業あり http://cake-montagne.com/
(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy