存在しないアニメの「架空のアニソン」を熱唱する謎のシンガー「Maguma」(マグマ)とは

2018/2/26 12:00 吉村智樹 吉村智樹

▲人気アニメソングシンガーMaguma(マグマ)。圧倒的な歌唱力とパワフルなアクションで会場は興奮のるつぼに。しかし彼が歌うアニソンは、どれひとつとっても肝心のアニメが存在しないのだ


こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第14回目となります。





■「架空のアニソン」だけを熱唱するシンガーがいた!


いま「アニソン」シーンがアツい!


日本中、いや世界のライブハウスやクラブで、アニメソング(アニソン)イベントは花盛り。
現今のステージエンタメの世界に、アニソンは確実にひとつのシーンを樹立し、熱気をはらんでいるのです。


そして盛りあがるアニソンムーブメントから、さまざまなスターシンガーが誕生し、声優さんにひけをとらない人気を獲得しています。


そういった活気づくアニソンシーンの真っただ中で、ひときわ異彩を放つひとりのアーティストがいます。
それが、Maguma(マグマ)さん(29歳)。
神戸を拠点とし、関西のみならず全国津々浦々のアニソンイベントに登場。
絶品な喉を披露するシンガーソングライターです。





「王子」と呼ばれる彼がひとたびステージへあがれば、総立ちの観客たちが全員で同じ振りつけをするなど、かなりの人気。



▲「王子」がステージに登場すれば会場はヒートアップ!



▲観客はみな振り付けを憶えていて、一挙手一投足を同じくする


絶唱するアニメソングは、主題歌、エンディング曲、さらに挿入歌と多岐に渡ります。
自主レーベルから『王子降臨!』『王子進撃』の2枚のアルバムをリリースするなど、関西のアニソン界ではすでにその名が浸透しているのです。



▲架空のアニソン集『王子降臨!』『王子進撃』。それぞれ13曲、存在しないアニソンがたっぷり収録されている。キャッチーで切ない歌詞とメロディがたまらない


しかし、Maguma(マグマ)さんが注目される理由は、歌のうまさだけではありません。
彼が快哉をあげるのは、なんとどの曲も、本編が存在しない“架空のアニソン





夢も希望も正義も友情もロマンスもある。
なのに肝心の中身だけがないのです
そんな“架空のアニソン”だけをつくって歌うシンガーなんてMagumaさんをおいてほかにはいません。





Magumaさんは“架空のアニソン”を、こう定義します。

架空のアニソンとは、実在しないアニメの設定から作る「主題歌」「挿入歌」「エンディングテーマ」のことである。

もしもこんなアニメがあったなら、きっとこんな主題歌や挿入歌、エンディングソングがあるのだろう……というコンセプトで作られた、本編のないアニソンたちを「架空のアニソン」と呼ぶ




歌だけがあって、作品そのものは存在せず。
へたな人が歌うと「なんじゃそりゃ」。
しかしながら、架空のアニソンシンガーとしてデビューして6年目を迎えるMagumaさんの熱く爽快なシャウトを聴いていると、ないはずのアニメ作品のオープニングタイトル映像が頭に浮かびあがります。
脳内のセル画に、いるはずのないヒーローやヒロイン、サブキャラクターたちの姿が描きだされ、大活躍をはじめるから不思議。
圧倒的な歌唱力ゆえに、声が結晶化して絵となり、リアリティをまとうのです。


そしてどの作品の主役も「トイレへ行きたいのを我慢するヒーロー」「身体から激臭を放つカメムシのヒーロー」など、英雄としての凛々しさだけではなく、そこはかとなくペーソスを漂わせた、愛すべき2枚目半のキャラクターばかり



▲架空のアニソン「焼肉王子」


そういえばMagumaさん自身のステージングも、かっこいいだけではなく、えも言えぬ「おかしみ」に包まれており、歌えば歌うほど、じわじわと笑いが起きはじめます





そんな架空のアニソンシンガーMagumaさん、昨年11月25日には神戸の名門ライブハウス「チキンジョージ」で、バイタリティみなぎるワンマンライブを敢行
超満員の観客を前に “架空のアニソンのみでおよそ2時間”という前代未聞のステージをやりきり、老舗ライブハウスの歴史に架空のアニソンという金字塔を打ちたてたのです。





■「アニメよりアニソンが好き」な少年時代


いったいなぜ、そんな独自すぎるボーカリストになったのか?
Magumaさんに「進撃」してみました。
(ちなみにこのインタビューは架空ではなく実際に行われました)。



▲神戸を拠点として活動する架空のアニソンシンガーMagumaさん。ご本人もアニソン同様、二枚目になりきれない愛すべきキャラクター


――Magumaさんは架空のアニソンシンガーになる前から歌の仕事はされていたのですか?


Maguma
「いいえ。父がミュージシャンで、僕は父のステージにカホンという打楽器とコーラスで参加していました。父のステージで歌ったりもしていましたが、歌手と呼べるほどではありませんでした。アニソンシンガーになりたいという夢はあったのですが、どうやればそうなれるのかがわからず、戸惑っていた時期が長かったですね」


父……15万枚を売るヒットとなったコミックソング「ヨーデル食べ放題」を作詞作曲したリピート山中。


――もともと打楽器奏者だったというのは意外でした。ではそんなMagumaさんがアニメソングを好きになったきっかけはなんだったのでしょう。


Maguma
「カラオケです。中学校3年生くらいからかな。当時、友達とよくカラオケボックスへ行ったんです。そこでアニソンシンガーの影山ヒロノブさんやJAM Project(ジャム・プロジェクト)さんたちの曲と出会いました。アニソンならではの、元気で明るく、かっこいいサウンドに惹かれましたね。それから夢中でアニソンを歌いました。正直言って、歌は大好きだけれど、作品そのものは観たことがないという曲も多かったんです。アニメが好きというより“アニソンが大好き”な子どもでしたね。そしてその頃から漠然と『将来はアニソンシンガーになりたい』と思うようになりました」


――アニメより先にアニソンを好きになるなんて、言わば“申し子”ですよね。そして中学3年生の頃といえば、もう平成も半ばですよね。Magumaさんがつくる架空のアニソンには、そこはかとなく昭和レトロな香りがするのですが。


Maguma
「それはよく言われます。アニソンを歌うのは好きだったのですが、なんせ声が低いもので、なんでも歌えるわけではなかったんです。それで『自分の喉に合ったアニソンはないかな』と探しているうちに、『宇宙戦艦ヤマト』や『宇宙海賊キャプテンハーロック』など昭和アニメの名曲にたどり着きました。それ以来、水木一郎さん、ささきいさおさん、子門真人さんなど昭和の時代から活躍していたアニソンシンガーの曲を多く歌うようになったんです。自分がつくるアニソンが昭和っぽいのは、そのためだと思います」


――ヤマトやキャプテンハーロックって、お生まれになる以前の作品ですよね。自分の喉に合う作品をさがすうちに、そこにたどり着いたというのが、宇宙をさまようハーロックのストーリーに合致する部分があって面白いですね。


Maguma
「キャプテンハーロックの主題歌は、僕がもっとも好きなアニソンなんです。架空のアニソンシンガーになるずっと前から父親のライブなどで歌ってきました。自分にとって、とても大切な曲です」


――原曲を歌っているのは水木一郎さんですが、ご本人にお会いになったことはありますか?


Maguma
「はい。キャプテンハーロックは2年前に『アニソンのど自慢G』(NHK-BSプレミアム)に出場した際、水木一郎さんご本人の眼の前で歌いました。出るまでまさか水木さんがゲストだなんて知らなくって。まるで夢のようで、感慨深かったです」





■はじめは理解されなかった「架空のアニソン」


――ではMagumaさんがいよいよ“架空のアニソン”を歌うことになったきっかけはなんだったのでしょう。


Maguma
「きっかけは、ミュージシャンである父からの提案でした。どんなにアニソンシンガーになりたくても、目指す人は多いですから、すぐになれるものではないし、なれる確証もない。『ほな、チャンスを待ち続けるよりも、アニメそのものを勝手につくってしまった方が早いんとちゃうか』と言ってくれて。それが“架空のアニソン”の始まりでした」


――確かに架空のアニソンならば、食べ放題ならぬ歌い放題ですよね。しかしながら“架空のアニソン”だけを歌うシンガーって前例がないでしょうし、お客さんからすぐに受け入れられましたか?


Maguma
「いやあ、理解してもらえるまで3、4年くらいかかりました。板についてきたのは、それこそ最近やっとです。最初は僕がステージでなにをやっているのかを、わかってもらえなかったんですよ。どうやって観たらいいのかって、とまどっていましたね。それどころか正直、歌っている僕自身さえもよくわかっていなかった」





■ストーリーやキャラクターを考えてから歌をつくる


――続けることって本当に大事ですよね。では架空のアニソンはどのようにおつくりになられるのでしょう。


Maguma
「曲や詞を書く前にまず、架空のアニメ作品のあらすじを考えます。『こういう設定で、こういう主役がいて、こういう脇役がいて……』って。作品を想像してから、それに歌をつける感じですね。設定が決まったら次に頭でメロディを考え、いいフレーズが浮かんだら鼻歌を録音して、『ここはこのフレーズのほうが盛りあがるんとちゃうかな』『いや、ちょっとちゃうかな』と試行錯誤を繰り返して……そういうつくりかたです」


――設定やストーリーや登場人物をこしらえてから曲に……気が遠くなりそう。たいへんですね。


Maguma
「主題歌やエンディング曲をつくるのもたいへんですが、“挿入歌”が一番難しいんです。『主人公がどういう心境の時に流れる曲か』『第何話の、どういう場面で流れる曲なのか』を想像しながら考えないといけないですから」


――「第何話の」! 放送回数や放送回ごとのエピソードも考えるんですか! それはすごい……。


Maguma
「あ、でも、たいへんだと言っても、もともと考えることが好きなので、曲をつくる作業はとても楽しいんですよ。子どもの頃から妄想するのが大好き。いまもつねに妄想しています。厨二病が治らないんです。たとえばここに財布があるでしょう? 『この財布が、どういういきさつで変身して、どんなヒーローになったらいいんやろう』とか、すぐ考えてしまうんです」





■ださいけど、かっこいいヒーロー像を歌っていきたい


――曲をつくるうえで心がけていることはありますか。


Maguma
「キャッチーでわかりやすく、“一回聴いただけで設定が理解できること”。これですね。架空のアニソンですから、聴き手がストーリーを一発で理解できないと受けとめてもらえないんです。そういうわかりやすい歌詞を書くために、僕は阿久悠さんがのこしてきたアニソンの歌詞をよく参考にしています。阿久悠さんが書く歌詞って、長くないでしょう。でも、短くても意味が伝わってくる。阿久悠さんほか大御所の作詞家たちが書きのこしてきた作品は本当にすごいなと思います」


――Magumaさんの歌詞がわかりやすいのは、そこを勉強されたからなのですね。おっしゃるように阿久悠さんほか先人たちがのこしたアニソンの歌詞って、初めて聴いてもすとんと腑に落ちますね。


Maguma
「まっすぐですよね。僕は変化球をあまり投げたくないんです。変化球は“打たせないための球”じゃないですか。僕はお客さんに打ちかえしてほしい。ホームランを打ってほしい。だからストレートしか投げないんです」


――とはいえ、単なるド直球で勧善懲悪なスーパーヒーローではないですよね。憂いをたたえた味のあるキャラクターが多く、そこにMagumaさんらしいユーモラスなひねくれも感じるのですが。


Maguma
ただかっこいいだけのヒーローは、いやなんです。『トイレへ行くのを我慢している間しか力が出ない』など、なにかリスクを負ったうえで超能力が使える。それぞれヒーローごとにコンプレックスがあって、リスクを背負う覚悟をもっている。そういうヒーロー像を描いていきたい。ださいけど、なんかかっこいい、みたいな」





■架空のアニソンで紅白に出るほうが面白い


――将来の夢はやはり本物のアニソンシンガーになることですか?


Maguma
「うーん。はじめは『架空のアニソンから本物のアニメが生まれたらいいな』と思ったんです。そうなれば『正真正銘のアニソンシンガーになる』という夢がかないますしね。でもこの頃は、違ってきたんです。存在しないアニメの持ち歌が100曲あって、紅白にも出て、ドームツアーまでやる。そんなシンガーがいてもいい。そっちのほうへ進んだ方が面白いかな、と思うようになりました」


――そうですね。むしろ架空のアニソンを歌いきる男として存在する方が、アニメの本質に近しいように思います。では、もし本物のアニメソングを歌う仕事が来たら、どうしますか?


Maguma
「あ、それはもちろんやります!(笑) でも、たとえ本物のアニソンを歌える機会を得たとしても、架空のアニソンシンガーをやめるつもりはないです」





■アーティストネームの意外な由来


――最後にひとつ。Maguma(マグマ)というアーティストネームの由来を教えてください。


Maguma
「マグマって、実は本名なんです


――え!? ご本名なんですか!


Maguma
本名が“まぐま”。山中まぐま。由来ですか? それが、ないんですよ。父親に訊くと『お告げがあった』んですって。天啓らしいです。『火山のマグマのように熱い人間に』とか、そういうのは全部あとづけ」


――なんだかアニメの主人公のような名前ですね。


Maguma
「架空のアニソンシンガーになることは、もしかしたら運命づけられていたのかもしれませんね」


――ありがとうございます。





架空でありながら、そこに魂が宿り、本物よりも真実味を帯びるMagumaさんのアニソンたち。
存在しないがゆえに、誰もが自分でキャラクターを想像し、頭のなかで彩色できる。
これってもしかして、アニメの新しいかたちなのかも。


Magumaさん、今後はどんなヒーローを生みだすでしょう。
たとえば仮想の世界から誕生するなら、昨今話題の得体のしれない通貨で損した時だけ変身できるヒーローとか。



Maguma Official Web「俺がアニソンだ」
http://maguma-fire.com/



(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy