演芸界を揺るがす大事件?! 伝説の落語家「月亭可朝」がベストアルバムを発売

2018/2/19 12:10 吉村智樹 吉村智樹

▲粋(いき)にカンカン帽をかぶる、ダンディなこの御仁こそ、数々のワイルドな伝説をのこしてきた上方落語界の大御所、月亭可朝さん。そして可朝さんは偉大なるブルースアーティストでもある


こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第13回目となります。





■伝説の落語家「月亭可朝」をご存知ですか?


皆さんは「月亭可朝」(つきてい・かちょう)という落語家をご存知でしょうか。


月亭可朝さんは、人間国宝となった三代目・桂米朝の筆頭弟子。
今年で80歳になり、落語家生活60周年を迎える上方落語界の大御所です。
弟子に月亭八方さん、孫弟子には月亭八光さんや月亭方正さんなど関西の人気芸人をずらり揃える「月亭一門」の大看板。


しかしそれほどの大名門のトップでありながら、お若い方は、月亭可朝さんのことをご存じないかもしれません。
なぜならば、メディアに登場する機会がきわめて少ないから



▲御年80歳、落語家生活60年を迎える月亭可朝さん。アーバンで、少々危険な魅力を放つ


■2度の逮捕歴。世間を騒がせ続けた人生


月亭可朝さんは1979年の野球賭博、2008年のストーカー規制法違反、それぞれの容疑による逮捕など、なにかとお騒がせの人


また、かたくなに譲らぬ独特な美意識の持ち主ゆえに、発言が現在の放送倫理に抵触して「炎上」する可能性が高く、呼ぶのをこわがる制作者が多いのです
そんな月亭可朝さんは、よく言えば、現在のこざかしいメディアの器にはおさめきれないほどの豪放な芸道を歩む落語ジャイアントと呼べるでしょう。


■どこまで本当? 語り継がれる奇行の数々


月亭可朝さんの出囃子は、艶のある女性を愛する氏らしく「芸者ワルツ」。
そして落語はカンカン帽をかぶったまま、たとえ女性を演じようとも脱がないしヒゲも剃らない独特すぎるスタイル。


それだけではなく、寄席や舞台での奇行伝説には事欠きません。
遅刻の末に靴を履いたまま高座へあがったり、あがったかと思えば「いやほんまにほんまがほんまやからね~、ほんまのはなしが。いやほんまだっせ」と、ただそれだけを繰り返して爆笑をさらい、落語もせず30分もの持ち時間をもたせたり、出前で頼んだうどんを高座で食べたり、襲名披露では「架空葬儀」をおこなったり、などなどなどなど、真偽は定かではないけれど、アナーキーな逸話は枚挙にいとまがないのです


元コメディNO.1の前田五郎さん著『素晴らしき吉本芸人たち』にも可朝さんのアウトローなのかなんなのか……困った一面をあらわしたエピソードが掲載されています。
いつものごとく寄席に遅刻してやってきた可朝さんは、なんとスーツ姿のまま舞台へ出て「今から噺家が高座へあがるときの様子をお見せします」と言って、座布団の上で着物にきがえだし、きがえ終わると、ゆうゆうと袖へはけていったのだそう


なんやそれ!
もうね、妖精ですよね。
存在がメルヘンとしか言いようがない。
人間国宝となった桂米朝師匠のお弟子さんではありますが、そんなふうに芸風や芸そのものの考え方が違いすぎるため、次第に米朝一門とは距離を置くようになり、現在は一匹狼のフリーランスなのです。


■「嘆きのボイン」ほか、たくさんの名(迷?)曲をリリース


可朝さんのもうひとつの特徴、それはミュージシャンであること
昭和のフォークソングブームに乗ってギターを抱えるようになり、「嘆きのボイン」「出てきた男」(ともに1969)など歌謡曲ならぬ「歌笑曲」で一世を風靡しました。
(ギターを買いに行かされたのは、当時まだ若かった弟子の月亭八方さんでした)。



▲80万枚の大ヒットを記録し、のちにMay J.もカバーした「嘆きのボイン」



▲デビュー曲「出てきた男」に添えられたキャッチコピーは歌謡曲ならぬ「歌笑曲」


80万枚の大ヒットとなったお色気ナンセンスソング「嘆きのボイン」は、あの歌姫May J.が「FNS27時間テレビ2015」でカバーして話題(というか騒然)となったため、「聴いたことがある」という方は多いかも。


■なんと新曲入り「ベストアルバム」「ニューシングル」を発売!


1971年には「酔った勢い」で第9回参議院選挙に全国区から無所属で出馬
「一夫多妻制の確立」「風呂屋の男湯と女湯の仕切を外すこと」を公約とし、高速道路で走りながら車上で演説していたといいますから、もう、やりたい放題。
良識派は眉をひそめますが、野放図な氏の人柄を愛する人たちもたくさんいて、故・立川談志とは気が合い、ひじょうに仲がよかったようです。


そんな、いまならギリギリどころか余裕でアウトな伝説の落語家「月亭可朝」さんのベストアルバムやニューシングルがP-VINEレコードから発売されると聞き、たいへん驚きました。



▲「ザ・月亭可朝ベスト+新曲」(P-VINE)



▲ニューシングル!「嘆きのボイン2017 / シャッシャッ借金小唄(借金のタンゴ2017)」(P-VINE)



▲アルバム、シングルともにフランク・ザッパ「いたち野郎」のパロディ


音楽面で、アーティストとしてベストアルバムを発売する上方落語家が、かつて存在したでしょうか?
しかもレーベルの垣根を越え、幻の自主制作盤までをも網羅
さらに「新録」(!)まであるというのだから、にわかにはその事実を信じられず、動揺すらおぼえました。
落語家生活60周年のこの時期に、サウンド面が再びスポットが当たるところが圏外落語家の可朝さんらしいとはいえ、理屈では説明できない時代の要請を感じずにはいられません。


そして新たに録音された「嘆きのボイン2017」のヨさたるや。
原曲が50年近い月日を経て静かに熟成され、琥珀色をたたえた洋酒のような味わいに。
女性のおっぱいの大小を歌った軽妙な艶笑ソングだったはずが、時間の重みが加わり、性の起源を諭す深奥な世界へと変化しています。








■いったいなぜ? プロデューサーを直撃


いったいなぜ、上方落語界を震撼とさせる奇跡が起きたのか?
新録音源のプロデュースをつとめられたシンガーソングライターの豊田道倫(とよた・みちのり)さん(47歳)に、お話をうかがいました。



▲新録音源のプロデュースをつとめたシンガーソングライターの豊田道倫さん


――豊田さんは幼少期に可朝さんの芸や曲に触れた原体験はありますか?


豊田
「それが、ほぼ、ないんです。落語を聴く習慣がなかったし、曲もたまに『かかってるな』と気づく程度でした。ほとんど印象に残っていないんです」


――では、このたびベストアルバムを制作するうえで、改めて過去の曲を聴き、どのように思われましたか?


豊田
「単純に、歌がものすごくうまい。声がすごい。抜群なんです。あと録音が素晴らしいですね。景気がよかったのでしょう。かなりいい環境で録れている。現在では、こんなふうに録音するのは難しいでしょうね」


――当時はそんなことは考えもしませんでしたが、改めて聴くと、なるほど音質のよさに驚かされました。では、そんな豊田さんが可朝さんに興味をいだかれたきっかけはなんだったのでしょう。


豊田
ピンときたんです。感じたんです。なにかを」


――ピンときた?!


豊田
「演芸評論家の吉川潮さんの本が好きで、そこに可朝さんのエピソードがたくさん書かれていたんです。それを読んで『一度、生で落語を聴いてみたい』と思い、東京での高座を観に行きました。そして観ながら『自分はいつかこの人と縁をもつだろう』という気がしたんです


――可朝さんには「あぶない」イメージがあるのですが、高座をご覧になって、どのように思われましたか。


豊田
「観る前はもっと露悪的な芸を想像していたんですが、とても上品できれいな高座で、大阪っぽくなかった。むしろ関東の芸人さんにある粋(いき)な雰囲気を感じました。訊けばご本人もご両親も関東のご出身だったんです」


――確かに可朝さんの芸風は浪花のコテコテとはまたちょっと違うように感じます。「しゃれっ気」というか。では、ご本人とお会いになられたいきさつは?


豊田
「一度、自分のイベントにゲストとしてお呼びしたいと考え、連絡を取りました。そして浅草フランス座演芸場東洋館まで会いに行き、お話をしました。残念ながらスケジュールが合わず、イベントにご出演いただく話は流れてしまいました。ただそのとき可朝さんが『新曲をつくりたい』とおっしゃって、『だったら、お手伝いしますよ』という流れになったんです」



▲豊田さんが初めて月亭可朝さんの作品をプロデュースしたのが、自主レーベル「HAPPENING」からリリースした「いってる北朝鮮ep」





――ご本人にじかにお会いになって、印象は変わりましたか?


豊田
「いいえ。『みかん食べや』とすすめてくださったり、やさしい方でした。そして、いい意味で“普通の人”。世間のイメージと違い、マナーがある人だなって。弟子の八方さんの本を読んでも『一度も大きな声で怒られたことがない』と書かれてあり、とても穏やかな方なんですよね」


■独特な緊張感のなかで進んだレコーディング


――可朝さんは「新曲をつくりたい」とおっしゃったそうですが、音楽に対する想いがずっとあったのですね。


豊田
「『自分にしかできないことをやろう』という気持ちが一貫してある方でした。普通の歌手ではないから『人が歌わないことを歌おう』という気持ちが根底におありになるのでしょうね」




▲久々のレコーディング。その歌声は、円熟とはまた違う、凄みをさらに増したものだった


――実際にレコーディングをしてみて、どのように思われましたか?


豊田
勘が鋭い。歌いだしのタイミングとか。『噺家って仕事はやっぱりハンパじゃないな』と。そしてすっぴんの声に尋常じゃない緊張感がある。独特の張りつめた声に『こわいな』とすら思いました。普通は歳を重ねたら声でもなんでも丸くなるじゃないですか。それがない。うかつに近づくもんじゃないなって。ただ、それはあくまで声の話で、一貫して礼儀正しく、紳士でした。『芸人さんだから接するときに難しい面があるのかな』と考えていたけれど、それはなかったですね」





――こうして可朝さんと過ごしてこられ、氏の魅力はどこにあると思われますか?


豊田
「やっぱり “勝負師” なんですよね。生きている間に、まったりすることがない。それが迫力として伝わってくる。昨年8月に、せんだみつおさんと可朝さんの対談があったのですが、せんださんの足がぶるぶる震えているんです。ああ、可朝さんが放つ緊張感が伝わるんだなと思いました」


――ありがとうございました。





■規制が多い現代に風穴をあける黒い弾丸


放蕩の限りを尽くした可朝さんのような存在は、きっともう二度と現れないだろうな。
芸も生き方も誰も後継できないし、しなければならない理由もないし、するべきではないとすら思います。


でもこの不世出のパンクス、ザ・可朝さんの黒い魅力が詰まったこのアルバムは、規制規制で息苦しくなった現代に風穴をあける、弾丸のように胸をすく一枚です。
時代が可朝さんの不謹慎な笑いを再び求めている、そんな気がします。


そういう点で、こんなに貴重なCDはありません。
いやほんまだっせ。



月亭可朝プロフィール


破天荒なエピソードに事欠かないレジェンド芸人。
2018年に80歳、落語家生活60周年を迎える。


1938年3月10日 神奈川県横浜市出身。
神奈川県三浦郡葉山町生まれ。
大阪育ち。


桂米朝門下の筆頭弟子。
トレードマークはカンカン帽で、自宅には50個近くをコレクション。
1968年に幕末から明治にかけて活躍した落語四天王のひとり月亭文都ゆかりの亭号である月亭を襲名し「月亭可朝」となる。
襲名翌年には「嘆きのボイン」「出てきた男」をリリース。
「嘆きのボイン」は80万枚を超す大ヒットとなった。


「新婚さんいらっしゃい」「夫婦でドンピシャ」の初代司会者に抜擢されるなどテレビにラジオに多数のレギュラーを抱える売れっ子芸人となった人気絶頂の1971年と、その30年後の2001年に参議院全国区に出馬。
公約は「一夫多妻制の実現」「全国の銭湯の男湯と女湯の仕切りをはずす」など。


好きな言葉は「遊びにブレーキついてない」「楽に生きる」


「ザ・月亭可朝ベスト+新曲」
価格:¥2,700(税抜)


2018年の御年80歳、落語家生活60周年を記念したリリース。
生ける伝説、月亭可朝師匠の喉が堪能できる新曲入り決定的ベスト盤!!


あのMay J.もカバーした「嘆きのボイン」、そして激レア自主制作盤「借金のタンゴ」それぞれのセルフカバーと33年振り新曲「寝るに寝られん子守唄」に加え、レーベルを越えて収録となる世界初CD化9曲。
さらに我が芸人生活を振り返った、粋で滋味溢れる貴重なトークも収録した決定的ベスト盤。


知る人ぞ知る早すぎたラップ歌謡「ミスター・チョンボ」、貴重なLP盤から初めてCD化された小噺付き楽曲も聴きどころ。


〈収録曲〉
1.月亭可朝talk(ご挨拶2017年)
2.嘆きのボイン(作詞作曲:月亭可朝 1969年12月10日)
3.出てきた男(作詞作曲:月亭可朝 1969年11月5日)
4.ミスター・チョンボ(作詞:月亭可朝 作曲:池田幾三)
5.借金のタンゴ(作詞作曲:月亭可朝 1984年)
6.さよならのブルース(作詞:月亭可朝 作曲:原田信夫1984年)
7.ザ・どどいつ(作詞作曲:たきのえいじ 編曲:高橋城1979年)
8.ギター小唄(作詞:向井修二 作曲:月亭可朝1973年2月1日)
9.かつらの唄(作詞作曲:月亭可朝 1969年11月5日)
10.幸せな男(作詞作曲:月亭可朝 1970年3月15日)
11.あんさん別れなはれ(作詞:月亭可朝 融紅鶯 作曲:月亭可朝1970年5月25日)
12.嘆きのボイン2017 (作詞作曲:月亭可朝) ※セルフカバー
13.シャッシャッ借金小唄(借金のタンゴ2017) (作詞作曲:月亭可朝 ) ※セルフカバー
14.寝るに寝られん子守唄 (作詞作曲:月亭可朝 ) ※書下ろし新曲
15.月亭可朝talk(芸人生活を振り返る1)
16.月亭可朝talk (芸人生活を振り返る2)
17.月亭可朝talk (芸人生活を振り返る3)


● 新録音源プロデュース&アレンジ:豊田道倫
● 解説:安田謙一(ロック漫筆家)
● Photo:倉科直弘
● ジャケット原画:吉岡里奈
● コメント:都築響一 吉村智樹


「嘆きのボイン2017 / シャッシャッ借金小唄(借金のタンゴ2017)」
価格:¥1,800(税抜)
アナログ7インチEP


「嘆きのボイン」「借金のタンゴ」それぞれのカバーとオリジナルが聴き比べられる全4曲入り超限定EP盤!
MIXは7インチONLY ver.となっているためファンならCDと併せて揃えたい!
B-1はLP盤小噺付き音源を初EP化。


A面 SELF-COVER SIDE
A-1 嘆きのボイン2017<7inch mix>
A-2 シャッシャッ借金小唄(借金のタンゴ2017)<7inch mix>


B面 ORIGINAL SIDE
B-1 嘆きのボイン(Original LP ver.)
B-2 借金のタンゴ(Original ver.)


p-vine.jp/月亭可朝
http://p-vine.jp/artists/%e6%9c%88%e4%ba%ad%e5%8f%af%e6%9c%9d






(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy