全国でわずか2%…続々受賞!いま注目の「蒸し製玉緑茶」を大解剖
蒸し製玉緑茶(たまりょくちゃ)。
蒸し製をとって玉緑茶やぐり茶と呼ばれることもあります。
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煎茶やほうじ茶など日本茶の茶種のひとつですが、はじめて聞く方もいるのでは。
昨年末に開催された日本茶のコンテスト「日本茶AWARD2017」の一般審査員投票により、岡田商会の蒸し製玉緑茶が日本茶大賞を受賞しました。
これまでも日本茶AWARDの第1回目(2014年)の日本茶大賞に茶友の蒸し製玉緑茶が、第3回目(2016年)の日本茶準大賞に西海園の蒸し製玉緑茶が選ばれました。
岡田商会、茶友、西海園は長崎県の茶業者で、長崎県は蒸し製玉緑茶の産地です。2016年(第71回)の全国茶品評会の蒸し製玉緑茶部門では長崎県のそのぎ茶が産地賞と農林水産大臣賞をダブル受賞しました。
蒸し製玉緑茶は長崎県のほかに、佐賀県嬉野や熊本県、静岡県の伊豆などで作られていますが、蒸し製玉緑茶は、国内で作られるお茶のわずか2.2パーセント!(1,690t/77,100t:平成28年度統計値)
とても希少なお茶です。東京など九州以外のスーパーなどであまり見かけることはないのでは?
投票で1位に選ばれることを考えると、一般的に飲まれていないだけで、現代人の味覚や食事にあうお茶と言えるかもしれません。
飲んだことのない人は今すぐ飲むべき!超レアな蒸し製玉緑茶をご紹介します。
◆普通の煎茶とどう違うの?
まずは、日本茶といえば煎茶!煎茶とどう違うのかというと…製造工程は途中まで同じです。
▼こちらが蒸し製煎茶の荒茶の製造工程。
(生葉)→→
蒸熱(蒸し)→粗揉(葉振るい)→揉捻(回転揉み)→中揉(揉み切り)→精揉(転繰揉み・こくり)→乾燥
→→(仕上げ工程へ(選別、整形、火入れ、合組み))
蒸し製玉緑茶は「精揉」の工程がありません。
精揉で煎茶特有の細い針のようなピンとしたお茶の形に成形されるのですが、その工程がない為、蒸製玉緑茶は勾玉状、釣り針状になります。
蒸し製玉緑茶の特長の1つはくるんとカールした形です。
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そして、煎茶よりも渋みの少ない、まろやかな旨みを感じられる、見た目も味もまるみが魅力のお茶です。
ちなみに、殺青の工程を蒸し製でなく炒った釜炒り製の玉緑茶を釜炒り茶と呼んで区別することも。
いずれも区分け的には緑茶(不発酵茶)になります。
◆長崎とお茶。古くは鎌倉時代まで遡る深~い関係とは?
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長崎は古くからお茶との関係が深い地でもあります。
臨済宗の開祖、栄西禅師が1191年、宋から戻る際に茶の種を持ち帰り、長崎県平戸の葦ヶ浦(古江湾)に着いたと言われています。平戸市木引町には栄西禅師が建立したという「冨春庵」(現千光寺)があります。
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▲長崎県平戸の風景
江戸時代のはじめ1650年頃、明から長崎に着いた隠元禅師が釜炒り茶の製法をもたらしたと言われています。この釜炒り茶の「殺青」という工程を蒸し製に代えたものが蒸し製玉緑茶です。大正時代にロシアへの輸出用として九州で造られたとか。現在、長崎では蒸し製玉緑茶が主流になっています。
釜炒り茶の製法が九州の佐賀(嬉野茶)や宮崎、熊本(青柳茶)などにいまなお残っています。現在、釜炒り茶も生産量が少ない大変希少なお茶です。
◆教えて渕さん!長崎玉緑茶のこと
長崎県農林部農産園芸課(茶)の渕通則さんに蒸し製玉緑茶について伺いました。
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長崎生まれ長崎育ちの渕さんですが、意外にも子供の頃は家庭では麦茶を飲んでいて、日本茶を飲み始めたのは県職の茶の技術員になってからだそう。
そこから茶の栽培や製茶、PRイベントで呈茶をするようになり玉緑茶の魅力に取り付かれ、いまでは毎日飲んでいるのだとか。
昨年11月に長崎で初開催された全国お茶まつり長崎大会も担当し、玉緑茶に詳しい渕さんに聞いてみました。
―― 長崎県では玉緑茶をどのくらい生産されているんですか?
渕さん(以下渕):
平成28年度(2016年)末で生産農家は437戸、そのうち茶専業農家は93戸です。荒茶生産量は775t(全国11位)、そのうち91%の706tが玉緑茶です。
―― 生産しているほとんどが玉緑茶というのがわかりますね。
岡田商会や茶友、西海園のある東彼杵町は玉緑茶作りが盛んな地域なんですか?
渕:
長崎県での玉緑茶生産量の約6割が東彼杵町です。平成28年度は61%でした。
―― 長崎の地元でも玉緑茶はよく飲まれていますか?
渕:
はい、地元でもよく飲まれています。他には知覧茶の煎茶も飲まれています。
―― 昔から玉緑茶は身近なお茶でしたか?
渕:
玉緑茶を日本茶の味と思い込んでいる地域は、長崎県の中央から北部に多いようです(諫早市以北)。こうした地域では、昭和の中ごろまで集落に釜炒り茶の釜があって、八十八夜頃には地域の人たちが集まって茶を手摘みして、釜で炒ってムシロでお茶を揉み、一年分のお茶を手作りしていたそうです。その名残からか、釜炒り茶に源流を持つ蒸し製玉緑茶が日本茶の味と思って飲まれています(なので、普通煎茶を出すと、渋~いと言われます)。
―― 長崎県内でも地域で微妙に捉え方が違うのも興味深いですね。
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▲長崎玉緑茶の水出し茶を手に持った渕さん
―― 今年は全国茶品評会での農林水産大臣賞(1等)・産地賞獲得や、日本茶AWARDの日本茶大賞受賞と、長崎玉緑茶が注目されていることについてどう思われますか?
渕:
これまで全国的に見れば茶産地が在ることすら殆ど知られていない長崎県ですが、実は永く品質にこだわって玉緑茶を一貫して生産してきた産地であり、このことを世に知らしめる絶好の機会を得たと思っています。
これまでの各賞受賞者以外にも高い品質の玉緑茶を生産する茶農家や茶商社が多くおられますので、私たち行政の担当者としては、そうした方々が順次スポットライトを浴びる機会を増やしていきたいと思っています。
実際に渕さん自ら淹れていただいた長崎玉緑茶を試飲させていただきました。
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「渋みが少ないまろやかなところが長崎玉緑茶の特長なんです」と渕さん。
全国茶品評会上位入賞茶をブレンドしたという玉緑茶は一口飲んだだけで口の中に風味豊かなお茶の味わいが優しく広がります。
軽やかでいながら旨みがあるお茶なので和食だけでなく洋食やお菓子などにもあいそうです。
◆飲みたい!東京都内で品揃えNo.1は○○○
ここまで読んで飲んでみたくなった方もいるのでは。
残念ながら東京ではあまり見かけない玉緑茶ですが、東京での蒸し製玉緑茶の聖地があるのです。そこに行けば蒸し製玉緑茶に出会えます。
そこは、
日本橋にある長崎県アンテナショップ「日本橋 長崎館」!
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長崎県の名産品とともに蒸し製玉緑茶も並んで販売されています。
「東京都内での品揃えは、日本橋長崎館が一番多いです。」と渕さん。
日本茶アワードで過去入賞した西海園や茶友だけでなく、グリーンティ五島、前田製茶、お茶の秋月園、前田園、大石農園など、お好みのお茶を選ぶことができます。
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長崎県アンテナショップ「日本橋 長崎館」には、長崎のお菓子やお茶、お酒などを味わうことができるカフェスペースも併設。カステラとともに長崎のお茶を楽しむことも。
煎茶とはまた違った、まるみのある優しい味わいの蒸し製玉緑茶。まだ味わったことがない方はぜひ体験してみては。
そして、ここで朗報です!
2月18日(日)に日本橋 長崎館に長崎県内のお茶農家6名が集結し、自ら製茶したお茶を振舞うイベントが行われます。
翌週2月23日(金)24日(土)には日本茶AWARD受賞者の西海園と岡田商会が日本橋 長崎館にて長崎玉緑茶のPRを行い、コラムで玉緑茶について教えていただいた渕さんも登場します。
蒸し製玉緑茶に興味がでてきたぞ!という方や、試飲してみたい!というは、この機会をお見逃しなく。
・長崎県アンテナショップ「日本橋 長崎館」
住所:東京都中央区日本橋2-1-3アーバンネット日本橋二丁目ビル1階
営業時間:10:00~20:00
年中無休(ビル施設点検日等除く)
TEL:03-6262-5352(ショップ)
TEL:03-3241-1777(観光案内)
ホームページ
【長崎玉緑茶PRイベント】
2月18日(日)11:00~18:00
2月23日(金)11:00~19:00
2月24日(土)10:00~16:00
※イベントの詳細は日本橋長崎館のホームページにて掲載予定
(satomin@お茶ライター Teawriter)