爆走! ヤンキー仕様の焼き芋カー「金時」。8年目の激アツ新展開!
▲ネオンまたたく大阪の街にあってなお異彩を放つマッドなデコレーションカー。その正体は「石焼き芋の販売車」
こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第10回目となります。
■もはや関西の冬の風物詩。街を疾走するド派手な焼き芋屋さん
いよいよ冬が本番を迎え、各地で豪雪が記録されています。
こんな寒い日に嬉しいのが、ほっかほかの「石焼き芋」。
「あちっ、あちっ」と耳たぶをつまみつつ素朴な甘さの焼き芋をほおばるひとときは、まさに至福。
冬の金時(ゴールデン・タイム)です。
そして関西では冬になると毎年、名物の石焼き芋販売車が出現します。
神出鬼没のこの車、その名は「金時」(きんとき)。
▲威風堂々としたたたずまいの「金時」。車体は総理大臣をはじめVIPが乗るトヨタ・センチュリー。知らない人が見たら、よもやこれが石焼き芋を売る車だとは思わないだろう
▲オリジナルのエンブレムは金太郎。つまり坂田「金時」
「あ! 金時が来た!」
「やったー!」
「金時さーん、焼き芋ちょうだい~」
ひとたび街に金時が現れれば、そこにはたちまち人だかりが。
もはや「アート」と呼んで大げさではない甘くておいしい焼き芋を求める人で、行列ができます。
▲「金時」は大人気。街にやってくれば、たちまち人だかりができる
運行を始めて8年目という金時は、すっかり関西の冬の風物詩となりました。
SNSにも各地から頻繁に目撃情報がアップされます。
■電飾ギラッギラ。ヤンキー仕様の焼き芋カー
ではいったいなぜ「金時」はそんなに人気があるのか?
それは石焼き芋販売車の既成概念をくつがえす、ドいかついフォルムにあります。
威厳ある国産最高級車トヨタ・センチュリーのVT45に搭載されたのは、ギラッギラにまたたたく電飾。
もうもうと湯気が立ちのぼるマフラーふうな排気口は竹槍のごとくツンツン8本挿し。
ウーハーがガチギマリなスピーカーから流れる「♪いしや~きいも~」という売り声は、なんとトランスミックス!
ほれぼれするほどヤンキー仕様なデコレーションなのです。
▲過剰な電飾の搭載がアートトラックを思わせる
▲金太郎(坂田金時)の絵も描かれている
▲ドデカホーンから聞こえてくるのは重低音を効かせた「♪いしや~きいも~」のゴアトランスミックス!
▲LEDライトで地面を照らす。威圧感がさらに倍!
▲イカつッ! ヤンキー車でおなじみ竹やり直管マフラー……に見立てた湯気の排気口。ゴー☆ジャスな8本挿し
このゴージャス極まりない「金時」に乗って焼き芋を販売しているのは、きっとごりごりなビーバップ野郎に違いない。
■ウワサの焼き芋販売車は岡本太郎賞受賞の「作品」だった
……と、思いきや、その正体は、意外にも現代美術の作家さん。
大阪の守口市にアトリエを構えるアートユニット「Yotta」(ヨタ)の木崎公隆さん(38歳)と山脇弘道さん(34歳)だったのです。
▲アートユニット「Yotta」(ヨタ)の赤い方が木崎公隆さん、緑の方が山脇弘道さん。「ヨタ」とは与太者という意味……ではなく、メガやギガ、テラなど国際基準単位の最上級である10の24乗のこと。「最上級のグルーブを出そう!」という意気込みで名づけたのだとか
▲「ヨタ」の名を一躍ちまたに知らしめたのが13メートルにも及ぶ巨大こけし「花子」(2011)。足元(?)には足湯が設けられている。彼らの表現活動は、焼き芋だったり足湯だったり、なんだかとてもあたたかい
そしてこのデコデコしい焼き芋販売車「金時」は第18回「岡本太郎現代芸術賞」のグランプリ「TARO賞」を受賞した“作品”なのでした。
木崎
「僕らがやっているのは、石焼き芋を売るという“表現”ですね。売る車だけではなく、売っている芋も作品で、食べてはる人も作品の一部やと考えて制作しました」
なんと! 「金時」の焼き芋販売は、車体だけではなく、焼き芋も、それを食べる人までをも含め、すべてが「作品」だというではありませんか。
焼き芋を買いに来たお子さんや近所のおばちゃんたちも知らず知らず芸術作品の一部として機能していたのですね。
■最高級品種のさつまいもを焼いた激ウマ作品
そして肝心のお味は……これが、う、うまい! 甘い!
琥珀糖のようにしっとりと輝く、蜜たっぷりなスイートポテト。
まるで太陽を食べているかのようにアツうま。
素晴らしいイモスタレーションです。
木崎
「表現活動といっても焼き芋の味には、めっちゃこだわってます。さつまいもの最高品種にして希少種『鳴門金時・里むすめ』を使っているんです。鳴門金時には誇りを持っていて、車の名前に冠したほど。そして『里むすめ』は徳島県の海岸で潮風が当たる険しい状況で育つので、甘さが強く、うま味が濃い。焼くとホクホクで食感もいいんですよ。いろんな芋を焼いて何度も試食しましたが、やっぱりこれが最高です。芸術作品やから味は二の次でいいなんてまったく思っていない。お客さんのなかには『あんたんとこのお芋さん、おいしいから大好きやねん』と言っていつも買いに来てくれるけど、車自体にはまったく興味を示さない年配女性もおられます」
徳島県物産協会が芸術に理解があり、まさに我が娘を嫁がせる想いで特別に分けてもらうことができたというトップブランド「里むすめ」。
さらに火力の調整や焼いている最中に水をふりかけるタイミングなど、おいしくするためのテクニックを日夜試行錯誤しながら磨き続けているのだそう。
▲さつまいもの最高品種にして希少種「鳴門金時・里むすめ」。「仕入れは中央市場の中卸さんで購入しています。本当なら僕ら得体のしれない部外者が入れる場所ではないし、希少種なので青果の素人が手に入れられるものではないんです。なので徳島県物産協会の大阪支部に話を聞いてもらいにいきました。すると僕らの活動を理解してくださって『わかった。いい芋を扱っている人を紹介してあげる』と言ってくださって」(木崎さん)
▲火を入れると魅惑の飴色に変わり、食感はねっとり&ほこほこ。そして上品な風味と高い糖度に驚くはず。こんなにおいしい芸術作品は初めて
▲石焼き芋の「かま」は薪で火をおこす。「ほかの焼き芋屋さんをいっぱいまわって、かまを見せてもらい、食べて食べて、『もうちょっと高温の方がおいしくなるんちゃうか?』って試行錯誤を繰り返しながら、納得できる味になるまでに1年かかりました」(木崎さん)
▲センチュリーの後部シートには燃料の薪がたくさん積まれている
そうして、「TARO賞」のみならずミシュランガイドの星も狙える勢いの、クリーミーでデリシャスな逸品が焼きあがるのです。
ネットでの評価のなかには「こんなおいしい焼き芋、初めて食べた」という声も。
■「海外から見たNIPPON」を車体で表現した
ではどうして、焼き芋を電飾ギラギラなマシンで販売しようと思われたのでしょう。
山脇
「焼き芋の素朴なイメージからもっとも遠いのが『デコトラだろう』と、木崎さんと発想がぴったり合った。本当に同時にバチっと思いついたんです。デコトラをダサいと思う人もいるけど、海外の人から見たら印象がかなり違うと思うんです。“外国人が見たNIPPON”を、デコトラを通じて表現できるんじゃないか? それで車体をつくったんです」
母体となるセンチュリーに天守閣のごとき豪壮な装飾物を冠載するため、わざわざ大工さんに頼んでアトリエにクレーンを設置したというからすごい!
(法規上『改造』は絶対に許されないため、装飾物は車上にしっかり“乗せている”のです。もちろん車検も通っており公道を走行できます)。
▲最初期の「金時」。この頃は現在よりパフォーマンス色が強い
▲電飾の外装パーツを冠載するため、アトリエにわざわざクレーンを設置した
▲永田町で公用リムジンとしても使われる国産の最高級車トヨタ・センチュリー登場
▲いよいよセッティング。「派手な改造車に見えますけれど、車体に穴をあけたりしていません。上に載せているだけなので、カーキャリーに自転車やサーフボードなどを積んでいるのと同じ。荷物扱いなんです。陸運局へ何度も通って法規を確認し、遵守しています。無茶をしているように見えても高さは3、8メーターまでとか車幅、全長など決まりは守っています。車検ももちろん通りますよ」(山脇さん)
▲トランクにすっぽり収まる焼きがまも、なんと自分たちでデザインした。「芋を焼くかまなんて見たことがなかったので、ミナミの道具屋筋へ行って『だいたいこんな寸法やな』っていうのを調べて、自分たちで設計特注したんです。失敗もありました。最初は鉄で作ったんです。するとものすごく熱くなる。あまりにホットになりすぎるのでステンレス工場の方に相談しながら作りなおしたんです。ヘンに思われなかったかですか? それが……担当者もちょっと変わった方で(笑)。すごい興味をもってくれて、『ここはこういうやりかたがある』とアドバイスをくれたり、いろんな人に相談してくれましたね」(木崎さん)
さらに車内のビロード生地やシートカバーのレースは映画『トラック野郎』に出てくるデコトラ『一番星号』のイメージに近い素材を使い、サロンバスに使われるシャンデリアまでセットするなど「イイ感じの悪趣味」な演出がちりばめられ、凝りに凝っています。
▲サロンバスに使われるシャンデリア。後部シートで麻雀を打ちながら水割りを飲みたい気分
▲ハンドルもご覧の通り、イイ感じ! 「こういう内装にして、採りあげてくれる媒体も変わりました。アートの専門誌だけではなく、トラッカーのための雑誌『カミオン』に取材されたり。『実話ナックルズ』で紹介されたり」(木崎さん)
なるほど、この異様にオリエンタルでエキゾチックないでたちは、「海外から見たNIPPON」をさらに日本人が表現するという、そんなテーマが潜んでいたのですか。
誤解が誤解を生んだ果てに生まれたモンスター、それが「金時」だったわけか。
車体に書かれたインチキっぽい言葉や日本と香港がごっちゃになったようなエセフォントが、いっそううさんくさくてたまらないです。
山脇
「これ、僕が書いたんです。絵や文字は僕で、造形や電気系統は木崎さんが担当しました。それぞれ得意分野が違うからやれたのかなと思います」
木崎
「僕は子供用の電気自動車を開発する仕事もしているんですが、大型のセダンを扱うのはさすがに初めてだったので、馴れるまでたいへんでした。金時の制作をやって本当にいろんなことが勉強になりました」
■チンピラにからまれ、警察からは職務質問を受ける日々
勉強といえば、「社会勉強」も経験したのだそう。
木崎
「チンピラにからまれることもあります。怖い人たちに囲まれて『ここで商売したらどうなるか……わかるな?』って。あと、しょっちゅうパトカーから停められますね。『この車なに?』って怪しがられる。それで『芋を焼いてます』と言うと『ええっ⁉』って驚かれる。あとは車検証と免許証を見せて、まあそれで終わるんですけど、ちょっと管轄が違う隣の区に移動すると、また同じことの繰り返しなんです。この頃やっと先方も知ってくれていて、おかげで誤解されなくなりました」
現在はどこへ行ってもまず歓待される金時ですが、そこに至るまでには8年もの時間を要したのです。
■新展開は、なんと「ポン菓子」
そんな金時を走らせる「Yotta」のおふたり、実はいま、新展開を見せています。
それがトラックに大砲を積んだ「穀」(たなつ)の発動。
なんとこれ、「ポン菓子」をつくる移動販売車。
▲荷台に大砲が! これぞ新たに誕生した「ポン菓子」をつくる移動販売車「穀」(たなつ)
芋の旬の時期のみ活動する金時と違い、原料がお米なので一年中表現ができます。
それにしても、迫力を超えて「軍事力」すら感じさせるこの「ポン菓子」販売マシン。
どういういきさつで生まれたのでしょう。
山脇
「岡本太郎賞をいただいて、記念館で展示させていただくことになったんです。記念館はもともと岡本太郎さんのアトリエだったので、『岡本太郎さんと一緒に作品をつくるつもりで挑みたい』と思いました。だったら、テーマは『やはり“爆発”だろう』ということになったんです」
木崎
「あと、岡本太郎さんは戦争を経験されていて、僕らも生と死について考えてみようと。ポン菓子って第二次世界大戦のときに生まれたもので、大阪の小学校の先生が『食糧難のこの時代に、子供たちにおなかいっぱい食べさせたい』と考え、海外の穀類膨張機をもとにあみだしたのだそうです。ただ当時の大阪には鉄がなく、鉄を求めて北九州の現八幡市に渡り、武器工場で武器の隣で造られたのがポン菓子の製造機の始まりだと云われてます。人を生かす機械と殺す機械が並んでいた。生と死がそこにありました。そういったルーツを知ったことから大砲型ポン菓子製造機をピックアップしたトラックを思いついたんです」
▲岡本太郎の代表作「太陽の塔」をバックに。「芸術は爆発だ!」の精神から誕生した、言わば太郎氏の息子だ
金時と穀(たなつ)。
そこに一台あることでアートが幅広い人たちに伝播し、道ゆく人たちを巻き込み、食べることでメッセージがひろがり、街が変わってゆく。
なんという素敵なことでしょう。
街でYottaの表現活動を見かけたら、ぜひあなたも作品の一部に溶けこみ、ほかほかできたての現代美術作品を召しあがってみてください。
Yottaオフィシャルサイト
http://yotta-web.com/
*「金時」は「里むすめ」が入手できる3月ごろまで運行予定です。
(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy
取材協力 カドカワ株式会社