家が植物で「もじゃもじゃ」に! 「もじゃハウス」(R)を手がける女性設計士

2018/1/15 11:00 吉村智樹 吉村智樹

▲干潟裕子さんが設計する家は、どれも植物で「もじゃもじゃ」に覆われている


こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第9回目となります。





■植物で「もじゃもじゃ」に覆われた家を設計する女性がいた!


先日、とても素敵で、そしてかなりユニークなミニプレス誌と出会いました。
それが「House”n”Landscape」(ハウス”アンド”ランドスケープ 家と緑と、もじゃもじゃ)。



▲ミニプレス「House”n”Landscape」(ハウス”アンド”ランドスケープ 家と緑と、もじゃもじゃ)。現在4号まで発刊。創刊号は売り切れ。2、3号は500円。4号は650円(すべて税抜)


季刊発行で現在4号を数えるこの雑誌、ページを開いて驚きました。


ちょっとどうかと思うほど植物で「もじゃもじゃ」に覆われた家の数々の紹介と、ときに海外まで出かけての、そこに住まう人々のインタビュー。
そして発行者自身が設計する「もじゃハウス」(R)の解説。



▲植物に覆われて暮らすフィリピンの家



▲台湾の人呼んで「モヒカンハウス」


眼にやさしい緑と、吹き抜ける爽快な風を感じさせてくれるレイアウト。
されど単なるナチュラル系のほんわか雑誌とは一線を画する、既成概念をつきやぶりたいと願う熱い想いも感じたのです。


「House”n”Landscape」の巻頭では「もじゃハウス」(R)なる謎の造語について、このように書かれています。


もじゃ・はうす【もじゃハウス】

緑でモジャモジャした家。
建物の上に大地があり、
そこでは植物がいきいきと育ち、
移ろうことで、
建物の姿も日々変わる。
人の生活と植物の生活が同じ建物の上で共存することで、
人と植物は同じ場所に根を張り、
風を感じ、
土を踏みしめ、
時間を共有しながら共に暮らし、
共に生きるもの同士となる。
そういう時間を育てながら暮らす、そんな家のこと。



この「House”n”Landscape」をたったひとりで取材・執筆・撮影・編集をしている発行人が、干潟裕子(ひがたゆうこ)さん(38歳)。



▲「もじゃハウス」(R)を設計する干潟裕子さん


1級造園施工管理技士、二級建築士、さらに樹木医の資格を持つ干潟さん。
建築と植物、両面の専門家です。


そんな干潟さんは2012年、極めて自然に近い植生を家屋と敷地に再現する設計事務所「もじゃハウスプロダクツ」を起ち上げられました。


■「欲しいものは自分たちでつくる家風」のなかで育った


干潟さんは山口県生まれ、山口県育ち。
設計士の父と、オートクチュールのテーラーをやっていた母とのあいだに誕生しました。


干潟
「家族の根底にいつも『設計』『製図』『ものづくり』がありました。本棚がほしいといえば父がつくってくれ、リクルートスーツは母親自ら仕立ててくれました。幼い頃から『買い与えられる』ということがほとんどなく、ほしいものは自分たちで作るという家風のなかで育ちました」


干潟さんはそう話します。
建築の職に就いたのも「一念発起ではなく自然に」そうなったのだそう。


■“植物を設計する仕事”があることを知った


高校卒業後、ランドアート(大地をキャンバスに見立て、土などの自然素材を用いて造形していく大規模な美術作品)の芸術家になりたくて京都芸術短期大学のランドスケープデザインコースへ進学。


干潟
「でもランドアートの授業はなくて、ランドスケープ(都市景観設計)の課題ばかり。宝が池公園で植物の名前を憶えるなんて授業もあったんです。そうして短大でランドスケープに初めて触れ、都市の中に“植物を設計する仕事”があるんだと知りました」


そうして卒業後はランドスケープと関係が深い大阪の造園資材メーカーで営業アシスタントとして働き始めることに。


干潟
「その会社では屋上緑化の土や壁面緑化部材などを扱っていたので、建物を緑化するための方法や防水、排水などの技術に関する知識はそこで学びました。そしてそこで得たものを今でも応用しながら設計しています」


のちに、ランドスケープの設計事務所や建築設計事務所で10年以上、設計士としての経験を積みながら、だんだんと点が線になるように、蓄積のすべてを統合した「植物共生住宅」を設計する仕事を具体的に思い描くようになったのだそう。


■「もじゃハウス(R)が世の中に求められるかを確かめたい!」


そしていよいよ、33歳のおりに独立。


干潟
「33歳というのは、35歳までには『もじゃハウス(R)が世の中に求められるものなのかどうかを確かめたい』と思っていたからです。手応えがないなら35歳以降の人生は、もじゃハウス(R)ではなく、会社勤めのランドスケープの設計士として生きる選択肢も考えていました」


このような決意をもって、京都の出町柳に“みどりともに生きる家”を設計する「もじゃハウスプロダクツ」の設立に至ったのだそう。



▲干潟さんが興した「もじゃハウスプロダクツ」のオフィスにてインタビュー


■「もじゃハウス」(R)と「ガーデニング」はなにが違うの?


そんな建築士の干潟裕子さんに、さらに深く『もじゃハウス』(R)のなりたちについておうかがいしました。


――干潟さんは「もじゃハウス」(R)を専門に手掛けていらっしゃるのですか?


干潟
「はい。建築士を受験した時からもう『もじゃハウス』(R)という建物だけを設計する未来を描いていました。『もじゃハウス』(R)を建てるために建築士になったので、それ以外の建物の仕事はお断りをしています。『もじゃハウス』(R)の設計ができないのであれば『建築はやめよう』とも思っています


――強い決意ですね。そして「もじゃハウス」(R)だけを設計しているってすごいですね! 「もじゃハウス」(R)って、緑に覆われた家の状態を表すとてもいい言葉だと思うんですが、干潟さんがお考えになられたのですか?


干潟
「これがね……自然発生なんです。独立前に8年くらい勤めていた会社の会議で、毎回毎回しつこく野草でいっぱいな建物の提案をしていたんです。私がたぶん『もじゃもじゃもじゃもじゃ』言いながら説明していたんでしょうね。いつの間にかみんなが『もじゃハウス』と呼ぶようになったんです


――では肝心の「もじゃハウス」(R)とは、どのような家のことをそう呼ぶのでしょうか。「植物をたくさん育てる家」との違いを教えてください。


干潟
「はい。『もじゃハウス』(R)というのは植物とともに暮らす『植物共生住宅』のこと、いわゆる『花壇』『ガーデニング』『自家菜園』とは大きく違いますね。庭ではなく『もじゃ』なんです


■「もじゃハウス」(R)は、なにが生えてくるかわからない


――植物共生住宅ですか。ガーデニングと違うということは……家になにを植えるのですか?


干潟
わかりません


――わ、わからない!?


干潟
「そうなんです。設計って普通は『ここに○○という植物を植えて、このスペースにはこれを植えて』って決めちゃうものなんですけれど、あえてそうしない。自分がなにかを植えて育てる庭や家ではないんです。屋根ならば、はじめこそ芝を張りますが、それはあくまで土台、言わば台地です。ここへ飛んできて舞い降りた種子がそのまま育ってゆき、日々姿を変え、しげってゆく。原っぱになる。植物自身がつくりあげる風景のなかで人々が暮らす家が『もじゃハウス』(R)なんです。だからどんな草が生えてきて、どんな花が咲くのか、どんな実をつけるのか、わからないんです。ただ、メインとなる高木だけは最初に植えておこうとは思っています」


――なるほど! つまり「ほったらかしの草原」のなかで人々が暮らすという、本当に自然と一体になれる家なんですね。


干潟
できるだけ『ほったらかし』にしたいんです。ゴルフ場のように芝生の景観を維持していこうという気はさらさらなくて。野草が自然にいっぱい生えている場所って、子供の頃の楽しい遊び場でしたよね。あの草原を建物のなかにつくってしまおう、そういう試みなんです」



▲勝手に生えてきた草花に囲まれてくつろげる屋根


――なにが生えてくるかわからない、ということは「完成がない家」とも言えますね。


干潟
「そう、『もじゃハウス』(R)の“もじゃ”って草が生い茂っている状態を指すとともに、時間の概念のことだと考えています。家が緑でもじゃもじゃになるまで、時間がかかるんです。そして、ゆっくりと家が育ってゆく。だから建った時が完成ではない家なんです」



▲はじめに芝と高木のみしつらえ、あとは極力「ほったらかし」。そうやって植物と人間がともに成長してゆく家づくり



▲広い庭がなくても緑化できる工夫がある



▲住居のみならずパブリックな場所にも


■よりどころになる景色がないと人の心は枯れる


――干潟さんがそもそも「もじゃハウス(R)を設計したい」と思われたいきさつはなんだったのでしょう?


干潟
「東京の設計事務所で働いていた頃、会社での徹夜があたりまえな忙しさで、アパートへは寝に帰るだけの日々だったんです。ドア・トゥ・ドア。それで鬱っぽくなってしまって……。実家では窓から山が見えたり大きな桜の樹が見えたり、そういう自然に恵まれた環境で当たり前に過ごしてきた自分にとって、そこには心のよりどころになる景色がなかった。そしてついには普通に暮らすことすら危ぶまれる状態に陥り、仕事を辞めざるをえなくなりました。こころざし半ばで会社を去らなければならないことが悔しくて、自分にとってこれは大きな事件だったんです。じゃあ田舎へ帰ればいいかというと、そうすると今度はリアルに仕事がない。“田舎あるある”ですよね。そして『都会で生きる人たちが、よりどころとなる景色がないために夢を諦める。それってすごく過酷なことなんじゃないかな』と考え、『人のよりどころとなる風景を都会のなかでも設計できないか』という想いを強くしたのが始まりでした」


――ということは「もじゃハウス」(R)というのは都会での暮らしのためにあると考えていいのですね?


干潟
「限定はしませんが、都市向きだと思います。たとえばこの模型は土地面積が20坪という家を想定しています。20坪の敷地に建坪は10坪。間口が狭くって、京都の街なかによくある土地形状に合わせたミニマムなタイプ。でも値段に応じて、折り合いをつけながら、いろんなかたちで植物が育つ景色を描くことができる。都会のなかで、広い土地や大きなお屋敷でなくても、植物と暮らせる家を設計するのが自分の仕事だと思っています。植物のある家は土地に余裕がなければ手に入らないものだと諦めてほしくない。『植物を植える土地がないなら、建物の上に植えてしまえばいいんですよ』という可能性をたくさん提案したいです。そして、植物とともに暮らせる家というのはつまり、植物にとっても終の棲家ですので、建物があるかぎり植物も生きていて継承が可能。必ず人々の心のよりどころになってくれると思うんです」


――植物に覆われて暮らすとなるとそれ相応に広い土地や大きな建物が必要なのかと思っていましたが、そうではないんですね。


干潟
「そうなんです。『大金持ちでないと建てられないんじゃないか?』とかすごく言われるんですが、私は“高くない家”を建てたい。贅沢なものとして売り出したくはないです」


■「耐久性」や「雨漏り」への対策


――「自然と暮らせるなんて、いいなあ」と思うのですが、失礼ながら正直、不安もあります。もじゃハウスは屋根の上に草原と呼べる場所を再現していますが、あんなに植物を乗っけて、耐久性や雨漏りもりなど大丈夫なのかと。


干潟
「大丈夫です。実は私、以前に勤めていた造園資材メーカーが屋上緑化のための導水技術や軽量土壌、壁を緑化する技術に長けていて、その会社に技術協力をあおぎながら設計しているので。日本国内にも屋根が植物で覆われた公共建築が2、30年経っていてなんともないという事例もありますし」


――ただ、食い下がるようで申し訳ないのですが、なにが生えるかわからないということは、どんなふうに根づくか、どっち方向へ伸びるかもわからないですよね。そこへの不安もあります。


干潟
「そうなんです。家の構造だけではなく『植物がどう生きるか』ということになっていくんですよね。植物の専門性と建築の専門性、両方を必要とする設計です」


――先日「樹木医」の資格をお取りになられたのは、そのためなんですね。


干潟
「そうです。これからは樹木医として植物の苦楽に立ち会う機会も増えると思いますので、経験を積み重ねながら植物が長生きできるよう、設計に活かしてゆきたいです」



▲「樹木医」の資格を取得し、いっそう植物と建築の両方の専門性を活かしながら設計してゆく


■植物を家族だと思って暮らす家


――実際に「もじゃハウス」(R)にお住まいの方々は、どのような感想をお持ちですか?


干潟
「皆さん植物が大好きなんですが、かといって“園芸”という感覚はぜんぜんないようです。植物を家族だと思って、ひとつの人格としてとらえておられますね。だから『いいことばかりではないんですけど、それはしょうがない。人格だから』と。人間どうしでも家族に不満がない人はいないでしょう。『親父ムカつく!』とか(笑)。気に入らないこともあるけれど、譲ったり、妥協したりしながらみんなで生きてるのが楽しくもあります。メリットもデメリットもある暮らしだけど、それが当たり前だと思って受けとめておられます」



▲住む人の多くは植物を家族の一員のように感じており、ひとつの人格としてとらえている様子


――そうか、植物が家族なんですね。


干潟
「人間と植物が一緒に成長してゆく。たとえば子供が大きくなったら部屋を増築したりするじゃないですか。植物も同じで、大きく育ったからって伐るのではなく、屋根のかたちを変えてしまう、そういう例もあるんです」


■住まいの選択肢が増えることで、世の中の幸せが増える


――確かに、特に育てているわけではない、家の庭に勝手に生えている雑草の成長を愛おしく思える時間って、ありますよね。


干潟
「“植物好き”の人たちは世の中にたくさんいらっしゃいますが、まめにお世話をして育てることが得意な方ばかりではないと思います。また、きれいに手入れされたお庭が好きな方もいれば、私のように人間の想像を超えてのびのびと育つ野生的な植物を愛でることが好きだという方もいるはずです。そんな嗜好の人が住みたいと思えるマイホームを設計し、世の中の建築に選択肢を増やしたいと思いました。『手入れをしなければ』『きれいな花をさかせなければ』『うまく育てなければ』なんてことを思うでもなく、ぼんやりと過ごす時間の中に『おお、こんな花が咲いてる!』という発見があるというのが『もじゃハウス』(R)の理想の暮らしです。住まいを決める選択肢が増えることで、世の中の幸せが増えると嬉しいです


植物を「植える」「育てる」「開花させる」という感覚が当たり前になってしまっていましたが、「とも暮らす」、そして人間が育てられることもある、そんな視点へと立ちかえらせてもらえたお話でした。
設計を通じて、植物も人も、好きなように、好きな方向へと伸び、降り立った場所で咲けばいいとメッセージされておられるのではないでしょうか。


ランドスケープデザイン&建築設計事務所
「もじゃハウスプロダクツ」

http://mojya-house.com



▲干潟さんが編集長をつとめるミニプレス誌「House”n”Landscape」は取扱店のみで入手できる


ミニプレス誌「House”n”Landscape」(ハウス”アンド”ランドスケープ)

<関西取扱店>

■京都
・レティシア書房
・ホホホ座
・恵文社バンビオ店(長岡京市)

■大阪
・FOLK old book store

■神戸
・1003



(吉村智樹)
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