ロボットに巨大戦艦!いま信楽(しがらき)の陶芸シーンが激アツ!

2017/11/13 17:40 吉村智樹 吉村智樹

▲すぐには信じてもらえないでしょうが、このロボットは「信楽焼」(しがらきやき)なんです


こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。


この連載では、僕が住む関西の耳寄りな情報をお伝えしてゆきます。
今回はその第3回目となります。





■陶芸新時代! 焼き物で戦艦やロボットをつくる男たち


さあ、秋が深まってまいりました。
秋の行楽には、高原を走る鉄道に揺られ、紅葉を愛でながら、焼き物の産地を訪れるのはいかがでしょう。


関西で焼き物のふるさととして知られているのが滋賀県の信楽(しがらき)。


信楽は「日本六古窯」(にほんろっこよう)のひとつに数えられ、その歴史は平安時代末期にまでさかのぼるという、永い永い歴史にいだかれた陶芸の街です。



▲信楽高原鐵道「信楽」駅のプラットホームには、たくさんの住民が電車が来るのを待っていました


信楽焼といえば「タヌキの置物」がとみに有名ですが、そもそもは「わび、さび」の表現にふさわしい素朴な茶道具の産地としてその名が広まりました。
土の持つあたたかでアーシーな質感をそのまま目や指で感じられるのが信楽焼の魅力だと云われています。



▲「信楽」駅のどでかいタヌキの置物(電話ボックス)がハロウイン仕様に!(その時期の取材でした)


そんな奥ゆかしい信楽焼の世界に、いま新たなアツいムーブメントが起きているのだそう。
なんでも若手作家たちの手により、旧来の信楽産のイメージを覆す陶芸作品が誕生しているのだとか。


平安時代末期にうまれた信楽焼が、平成時代末期に新たな展開を見せる。
それはぜひ目撃せねば!
僕はSHIGARAKIニューカマーたちの新世紀作品が一堂に会しているという「ファンタスティックフェスティバル2017 電光石火作戦」(10月20日~22日)の現場を訪ねました。


■伝統工芸の衰退に「オタク」たちが決起!


会場は、おもに水鉢など庭園陶器を焼くことで知られる窯元「壺八」(つぼはち)のショールーム。


イベントを主催するのは三代目、奥田大器さん(36)。
伝統を受け継ぎながらも、自らも洋間にフィットする新しいデザインの「水琴窟」をつくりだす新進気鋭の焼き物クリエイターです。



▲窯元「壺八」三代目、奥田大器さん。信楽で唯一、室内でもインテリアとして楽しめる水琴窟をつくっている。自ら「東宝特撮と円谷プロダクションを心から 愛する古い時代のオタク」を名乗る


奥田さんの経歴は、ちょっと変わっています。
「新世紀エヴァンゲリオン」に強い影響を受け、庵野秀明氏の出身校である大阪芸術大学「映像学科」に通います。
卒業後に上京し、映像制作会社へ。
そして家業を継ぐため2003年に、この信楽へと戻ってきました。


奥田
「滋賀へ帰ってきたら、信楽焼の景気が去っていました。焼けば焼いただけいくらでも売れる時代が終わっていたんです。伝統が途絶える危機を感じて『僕ら若手がなんとかしないといけない』と思っていました。新しいかたちの水琴窟を焼きはじめたのも、その一環だったのです」


幼い頃からアニメや特撮が大好きだった奥田さんが直面した、伝統工芸の衰退という現実。
自分が好きだった、しばしば「オタク」と呼ばれるカルチャーの力で信楽を蘇らせられないだろうか。
そう考えて開催したのが今回の「ファンタスティックフェスティバル」だったと云います。


■これ本当に焼き物? 全長2・4メートルもの巨大戦艦登場


会場には信楽で働くさまざまな作家のユニークな焼き物が並んでいます。
まず目を引くのが全長2メートル40センチにも及ぶ巨大な戦艦大和や、旧ソ連軍やドイツ軍に実在した戦車など「ミリタリー陶芸」



▲これが本当に信楽焼? 全長2メートル40センチにも及ぶ巨大な「戦艦大和」


戦艦大和のデカさと迫力に驚愕!
さらに艦体に載せられた兵器や戦闘機のリアリティには目を見張ります。
勇壮さと繊細さ、そのふたつのすごさが胸に迫り来て、思わずたじろいでしまうほど。



▲日本海軍が造船した史上最大の戦艦。水上偵察機まで搭載されている



▲まるで鉄製かのような重厚な色合いの砲台


しかし……。
一見して「鉄」なのですが、あのう、これ本当に焼き物なのですか?


奥田
「はい。正真正銘、焼き物です。これはフレイルさん(32歳)という作家の作品で、さすがにこれほど大きなものは窯には入りませんから、小さなディティールひとつひとつを焼いて、プラ板(模型の素材)を貼りつけてゆくように根気よく組み立てます。僕もこの作品を初めて見たときは『なぜこんなすごいことができるんだ?!』と驚きました」


小さな焼き物を貼りつけたり組み立てたりしながら巨大化させているだなんてな、なんという気が遠くなる作業。


戦史が好きで「ミリタリー陶芸家」となったフレイルさん。
窯元後継者ではありますが、もともとはゲームクリエイターを目指し、ハルで学んでいた時代もあったのだそう。
奥田さんは同じ信楽に「同じ魂」を持つ作家がいると知り、それまで面識がなかったにも関わらずフレイルさんに会いに行って展示を依頼したのです。


鉄のように見えるのは、素朴に焼きあがる信楽の技法があればこそ。
釉薬によって鉄を感じさせる化学反応は、信楽焼に新たな活路をうみだすかも。



▲フレイルさんは信楽焼で実在する戦車もつくっている



▲旧ソ連軍が第二次世界大戦に使っていた戦車「KV9」



▲キャタピラひとつ組み立てるだけで1週間かかるという労作



▲ドイツ軍の「ティーガーワン」


■陶芸界から誕生したスーパーロボット!


続いては、なんと焼き物のロボットフィギュア
谷陶択(たにとうた)さん(30歳)が焼くオリジナル作品「陶甲騎兵スティールメイト」です。



▲信楽焼でできたロボット「陶甲騎兵スティールメイト」



▲地球新世紀0065年、鉄鉱石の不足、消滅により地球の科学技術の発展は著しく停滞した。また「セラミック」がその代用品として一般的に使用されるようになった。"アーク5"。それは古代の水質だった地層から採取される「ゲノセオン」を高分子分解加工する事により生成される特殊セラミック。この"アーク5"で作られた特殊戦車兵器が『スティールメイト』である



▲作者の谷陶択(たにとうた)さん


ちゃんと設定資料があり、オリジナルストーリーも存在します。
白い「デザートローズ」は砂漠戦用
黒い「ダークフォックス」は夜間市街地戦用に備えてつくられました。
SD版まであり、「三目並べ」のコマとして遊べるのも楽しい(ゲームのボードまで焼き物!)。



▲白「デザートローズ」は砂漠戦用。黒「ダークフォックス」は夜間市街地戦用。それぞれに特殊な訓練を受けたパイロットが乗り込み操縦する



▲「デザートローズ」は砂漠戦用だけに信楽焼の「素焼き感」がうまく活かされている



▲”SDバージョン”は三目並べのコマとしても遊べる。なんとボードまで信楽焼


これまでロボットを焼く陶芸作家は、ほかにもいたでしょう。
しかしながら「鉄鉱石の世界的欠乏により、陶芸から誕生した」「全身が焼き物(セラミック)である」と、はじめから陶製と設定されているロボットは、谷さんの作品が初では。


谷さんもまたキャリア12年の窯元継承者。
そしてサンライズのアニメが好きで、学生時代に「装甲騎兵ボトムズ」に魅了されました。
「陶甲騎兵スティールメイト」には、ボトムズへの憧れが色濃く反映されているようです。



「ロボットを焼くようになったのは京都精華大学で陶芸を学んでいた頃からです。進級制作でアート的なオブジェを焼いていたのですが、どうも評価が芳しくない。それで『ならば、本当に自分が好きなものを焼いてみよう』と思ってロボットを手がけました。これが評判がよく、自分でもやりがいを感じたのです」


実はこのロボットのオブジェこそが、奥田さんとの出会いにきっかけに


奥田
「地元の展示会の片隅で開かれた陶芸教室で、ひたすらロボット制作の実演をしている男がいたんです。それが谷くんでした。陶器の展示会って商工会や組合員が集まって、なかなかシブい雰囲気なのです。そのなかで彼がひとり黙々とロボットを作っていて『おもろいやつ、おるなあ』と思ったのが初めての出会いでした」


そうしてふたりは意気投合。
「DT窯」(大器&陶択の窯)というユニットを結成し、幕張で開催される「ワンダーフェスティバル2017」に出店しました。


奥田
「焼き物のガレージキットを出品しました。果たして伝統工芸がこういう場で受け入れられるのか不安でしたが、好評でした。そして作家性が評価されることにも感動しました。『陶芸も、職人が大量に焼いて問屋さんに卸して……そういう時代はもう終わるんじゃないか』。そう感じたんです」


■「爬虫類LOVE」の気持ちが新たな焼き物を生みだした


滋賀県へ戻った奥田さんは「信楽で自分独自な好きなものを焼いている人を集められないか?」と思い、仲間探しをスタート。
先述のフレイルさんや、次に紹介する三尾昌賢さんと知り合うこととなります。



▲爬虫類大好き陶芸家の三尾昌賢さん。手にしているのはケヅメリクガメ


三尾昌賢さんが焼く作品は、爬虫類のシェルターや水棲動物のアクアリウム
「動物の棲み処を焼く」のが最大の特徴。


三尾
「跡を継いだ窯元が庭園陶器や屋外工作物を焼くのに長けていて、その技術を使って『爬虫類の家がつくれないかな』と考えたのがきっかけです。信楽焼は吸水性や通気性がいいので動物を飼うのにふさわしいはず。それに以前からメーカーがつくるシェルターは味気ないと思っていたんです。何を飼っているかですか? 亀が14匹、トカゲ3匹、蛇が3匹、あと熱帯魚がうじゃうじゃ。爬虫類の魅力は『人間になつかない』ところ。その野性味が、信楽焼の質感に合うんじゃないかな」



▲三尾さんが焼いたかわいいおうちでごきげんな様子のヒョウモントカゲモドキくん



▲リッチ! 一戸建てに住むフトアゴヒゲトカゲ



▲和室にも合う陶器のアクアリウム。泳いでいるのはカブトニオイガメ


爬虫類ミーツ信楽焼。
これまで「タヌキ」で有名な信楽焼でしたが、ここにトカゲくんがメンバーに加わる日は遠くないでしょう


■新しいかたちで次世代へ受け継がれる伝統工芸


では、奥田さんは信楽焼の「これから」について、どのように考えていらっしゃるのでしょう。

奥田
「信楽は僕ら30代が最若手。20代になると職人は激減します。深刻な状況で、このままではいけない。反面、Instagramで作品を発表して直接お客さんとやり取りをするなどSNSを使った新しい販路が広がりつつある。個人が好きなもの、面白いと思うものをどんどん形にしていって自力で売っていくスタイルが始まっている。そういう生き方があることをさらに僕らより若い世代に示して、信楽焼の未来につなげてゆきたいと思います」


平安時代から続く信楽焼は、このように形を大きく変えながら、当代に、そして次世代へと受け継がれようとしています。
奥田さんをはじめとする彼らは伝統工芸の神々から召集され、継承の役目を担う使徒なのかもしれません。


「大器の器」
http://www.daikinoutsuwa.com/



(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy