【浮世絵の絶景が…今はインスタ映え!】紅葉の名所&日本三奇橋の「猿橋」って?

2017/11/24 21:00 スージー小江戸 スージー小江戸



高山や北日本から始まった紅葉も、関東の平地まで下りてきていよいよ終盤戦!SNSには鮮やかな赤や黄色の葉に彩られた絶景の写真が溢れかえっていますね。

紅葉の絶景を愛でているのは何も現代人に限りません。名画と称される江戸時代の浮世絵にも登場する屈指の紅葉の絶景があるのを知っていますか?それは

山梨県大月市にある 猿橋

変わった構造と見た目の面白さが有名で、「岩国の錦帯橋」「木曽の棧(かけはし)」と並んで日本の“三大奇橋”に挙げられるほど。(木曽の棧の代わりに「黒部川の愛本橋」などが入る説もあり)。

新宿から電車で1時間半弱+駅から歩いて15分ほどと行きやすいので、どんな絶景&奇橋なのか見に行ってみました!

■オススメは「大月市郷土資料館」→「猿橋」ルート



JR中央本線「猿橋駅」の北口を出たら駅を背にして直進。国道20号に出て歩道橋に上がると周囲の山々が全山紅葉していて早くも絶景ポイント発見です。



国道20号=甲州街道は新宿方面へ。江戸時代は車の代わりに馬とか籠が、コンビニの代わりに茶屋が…と想像すると楽しい。なかなか想像できないけど。



コンビニの先の信号を渡ると案内板が。「名勝猿橋」方面へひたすら進みます。



「名勝」というのは庭園や橋梁、峡谷や海・山など景観の良い場所のことで、猿橋は橋だけでなく付近一帯も含めて昭和7年に国から名勝指定されているとのこと。

そう聞くと道すがらの遠景や道端の紅葉もいっそう美しく見えるから不思議。





駅から10分弱で「大月市郷土資料館」の案内板が頭上に。直進すれば5分で猿橋だけど、時間に余裕があれば資料館に寄って“予習”するのがオススメです。



左折して道なりにゆるくカーブを下り、2~3分歩けば資料館入り口に到着。



展示内容は大月市全体の歴史や民俗、自然についてがメイン(入館料100円)ですが、ちゃんと「猿橋」専門コーナーもアリ。ここを見るだけでも、ただ橋を見に行くより何倍も楽しくなりますよ。



さて、ここで予習しておきたい「猿橋」のポイントは3つ!

① なぜ「猿橋」?いつ頃できた?

一説によると、推古天皇の頃(西暦612年)に百済からやってきた造園博士の志羅呼(シラコ)さんが、この深い峡谷への橋の建設方法を考えあぐねていたところ、たくさんの猿がつながりあって対岸に渡るのを見てそれをヒントに橋を架けたのが「猿橋」の名前の由来だそう。



確かに猿が連なってるように見え……なくもない!?後ほど現物で確認しましょう。

志羅呼さんの話はあくまで伝説だけど、橋自体は「廻国雑記」という文書に記述があって530年前(1486年)には確実に存在していたらしいです。

② 変わった構造とは?

川面からの高さが31mもある桂川渓谷には橋脚を立てることが難しい…そこで“猿の渡り”よろしく両岸から4段×2列の桔木(はねぎ)を張り出し、てこの原理を使って橋板を支える構造になっています。



桔木構造では現存する日本で唯一の木造橋だそうで、定期的な架け替えや修復が必須。1984年(昭和59年)に嘉永4年のモデルを復元した架け替えが最新で、資料館には工事の様子や以前に使われていた古い梁や柱の展示も。



③ 江戸時代、人気の絶景ポイントに!

絶景「猿橋」を一躍有名にしたのは、「東海道五十三次」で大ブレイクして風景画家の地位を確立した浮世絵師・歌川広重

天才をして「言語に絶えたり、拙筆に写し難し」とまで言わせた猿橋を描いた「甲陽猿橋之図(こうようさるはしのず)」は広重の作品中でも最高傑作といわれるほど。


そして、「甲陽猿橋之図」の十数年後に刊行された広重晩年の作「六十余州名所図会(ろくじゅうよしゅうめいしょずえ)」。日本各地の絶景を描いたこの浮世絵集にも「甲斐 さるはし」が登場し、何と紅葉と共に描かれています



橋の下部をよく見ると今と同じ桔木の構造が描写されています。あわよくば同じ構図で絶景が見られるかも!?よく目に焼き付けたら、本物を見に出発です!


■猿橋だけじゃない!?桂川渓谷と橋4つ

資料館を出たら目の前の「猿橋近隣公園」の北側へ。桂川沿いの紅葉も奇麗です。



だけど500万年前の大昔、ここは東京湾と駿河湾をつなぐ桂川海峡で何とクジラやサメが泳いでいたらしい…。

ザックリいうとその後、関東・東海全体が隆起して陸地に。富士山も何度か噴火。特に6千年前の噴火で流れてきた「猿橋溶岩流」は末端が柱状節理になっているのが川から猿橋近隣公園を挟んだ南側に見られるので、好きな人はお見逃しなく。



川沿いを進んでいくと突然、川の左右が荒々しく切り立った崖に!

もしや広重の構図はこれでは!?



と思ったけど、見えている橋は県道505号に架かる一つ手前の橋でした。
※この写真は昨年のもので塗装工事中。橋の見え方の現況はおそらく異なります

地図によると次の橋こそが本物の猿橋!「展望台」と書かれた場所へ行ってみると、



見えた~!かなり上空に橋の左下の桔木を発見。

でも何かちょっと広重の構図と違う…と思ったら視点が高くて右に寄りすぎているんですね。どうやら名画と同じ構図でこの絶景を愛でようと思ったら、ボートに乗って川面レベルから見上げる必要があるとのこと。

実は資料館からくる途中、有料で渓谷を遊覧できるボート乗り場があったのでした。



ボートに乗って進めばこんな風に同じ構図で見られるもよう。


ボートも乗りたいところですが、まずは本物の猿橋を目の当たりにせねば!“一つ手前の橋”をくぐると真正面の目の高さに例の桔木がくるんだけど、これが驚いたことに



予想よりずっとデカい…!!

桔木の間に挟まって支える「枕梁」のこちら側に見えている木口(断面)の大きさは、大人の頭2つ分くらい余裕でありそうだし、



逆サイドの桔木を見るとどこか兵器っぽいというか、メカメカしい雰囲気が漂っていて異様な迫力が!



とにかくこんな橋見たことないので、唯一無二の奇妙さにザワザワ…します。日本の「奇橋=奇妙な橋」ベスト3とは、まさに言い得て妙。



まじまじ観察すると「生々しい」「グロテスク」「キモカワイイ」といった言葉が浮かんできたけれど、それはもしかしたらすべての部材の上につけられている小屋根のせいかもしれません。

小屋根は、桔木や枕梁などが木造なので雨や風から守り腐食を防ぐためについていて、意匠的に“和の風情”を強く醸し出す一因になっているのですが、上から見ると



完全に渋滞しちゃってます。

いきなり見ると「なんで橋の下にこんな物がうじゃうじゃしてるの!?」となりそうですが…予習してきて良かった。

あまりにズームで見すぎて異様だのグロいだの言ったけれど、少し距離をとって「引き」で猿橋を見てみると



あら、どうしたことでしょう。
だんだんバランス的なおさまりがよくなってきて猿橋が“絶景マジック”を発揮してきました。



これは…インスタ映え確実の眺め!

思うに桔木の構造は、幅3.3m×長さ30.9mの橋を支えるために必要な大きさを確保しつつ、全体像を眺めたときには美しく見えるように設計されているのでしょう。

今の猿橋は江戸末期の嘉永4年(1851年)モデルの復元。「甲陽猿橋之図」と「六十余州名所図会」の間にあたるので、一躍有名な絶景スポットになり多くの人で賑わった頃と同じ猿橋、同じ光景をいま目の当たりにしているのかも。

せっかく橋に来たのでもちろん渡ります!橋自体はシンプルな木橋だけど、



渡って逆側から紅葉と合わせて見る風景はやはりインスタジェニック。

紅葉の向こうに見える「大黒屋」さんは国定忠治が逗留して食べた「忠治そば」が名物で、日立製作所の創業会談の場にもなったのだとか。



そして、渓谷×紅葉の絶景が最も美しく感じるのは猿橋の上から南東側の眺め。



さっきからずっと猿橋の向こうに見えてる橋は何なの?
そう思っていた方、お待たせしました。とりわけ手前に見える不思議な形の橋は

八ッ沢発電所施設第一号水路橋

です。明治45年に送電を開始した八ッ沢発電所に送水するために造られた橋だそう。

近くで見るには、大黒屋さんの前の紅葉が美しい赤い鳥居の方向へ進み



駐車場の奥にトイレがあるので、その左脇に入り込みます。



「猿橋」の由来になった猿の像にご挨拶してフェンスを覗くと



美しい紅葉の陰から水路橋がチラリ。



角度を変えれば、長さ42.7m、鉄筋コンクリート造単アーチ橋のほぼ全景を見ることができます。



赤レンガの水門から轟々と水が流れるこの橋は、周辺の景観に溶け込んで調和するようにデザインされていて、国指定の重要文化財になっているそう。

最後に、国道20号に架かる4つ目の橋、新猿橋も見に行きましょう。



桂川の下流方向も紅葉した山々の眺めが素晴らしいのですが



やっぱり圧巻は上流方向を見たときの猿橋を含めた



3つの橋・深い渓谷・紅葉のトリプルコンボ!


紅葉の絶景にして日本三奇矯だなんて「一粒で二度おいしい!」と思って行ったら、広重や江戸時代の人々と同じ絶景を見て当時に思いを馳せたり、四つも橋が楽しめたりとさらに盛りだくさん。興味のある方はぜひ、紅葉の猿橋に足を運んでみては。


■大月市郷土資料館
http://www.city.otsuki.yamanashi.jp/bunka/shisetsu/otsukishi_kyoudoshiryoukan.html


(スージー小江戸)