15種類以上の燻製を一度に味わえるランチが人気の「燻製マーケット」がスゴい!
▲一見おいしそうな明太子オムライスのカフェごはん。実はこのランチプレートには16種類もの燻製が使われているのです
こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
こちらでは毎週、僕が住む京都から耳寄りな情報をお伝えしており、今回が47回目のお届けとなります。
■さまざまな燻製を使った香り豊かなランチメニュー
いよいよ「食欲の秋」と呼ばれる季節が近づいてまいりました。
食欲をそそるものといえば、やはり「香り」。
香りも「おいしさ」のひとつですよね。
特に樹木のチップをいぶして食材にじっくり香りと色をつけた「燻製」(くんせい)は、こたえられないおいしさ。
気品ある琥珀色に染まり、自然の恵みがもたらした濃厚で奥深い香りをただよわせるベーコン、サーモン、チーズ、ゆでたまご……(ごくり)。
仕事を終えて帰宅した夜、部屋の照明を少し落とし、そんな燻製をつまみに洋酒やビールをくぴっと飲れば、「うまい! たまらん! 今宵よ永遠に終わるな!」と神様にお願いしたくなるほど、おもむき豊かなひとときが味わえます。
「私も燻製、大好き! でも燻製って夜のお酒のアテっていうイメージが強すぎません? もっとお昼から楽しみたいんですけれど」
そういう方にうってつけのお店が京都にあります。
そのお店はなんと、16種類もの手作り無添加「燻製」を使った「ランチプレート」が味わえるのです。
一度にそんなにたくさんの燻製を、しかもランチタイムに料理としていただける飲食店は、同じ近畿はもちろん全国的にもきわめて珍しいはず。
わたくし、燻製のよい香りを鼻ひくひくで追いかけながら、噂の場所へとうかがってきました。
■チョコレートやマヨネーズまで燻製!?
場所は山科区。
京都市営地下鉄東西線「東野」駅から徒歩7分の住宅街に、そのユニークなお店はあります。
▲閑静な住宅街に現れる燻製専門店「燻製マーケット」
▲目印はスモークしたかのようなシブい色合いの暖簾
店名は「燻製マーケット」。
2015 年 10 月にオープンし、2周年を迎えようとしている、テイクアウト&イートインの専門店です。
まるで、いぶされたような色合いの暖簾が目印。いい味出していますね。
店内はカウンターのみの、かわいいスペース。
基本的に午前11時から午後3時まで、お昼どきが営業時間。
*10月から18時まで営業
つまりこのお店はランチタイムに燻製をふんだんに味わえるのです!
▲シンプルで清潔な店内。お昼からL字カウンターで燻製を使った料理やおつまみをサクっと楽しめる
オーナーシェフは、燻製職人の石本久子さん(38歳)。
こちらで供される燻製はすべて石本さんおひとりで、保存料などを一切使わず、店内で手作りしたもの。
▲「燻製マーケット」のオーナーシェフで燻製職人の石本久子さん
まず驚かされるのが燻製のバリエーションの豊富さ。
たまご、ベーコン、ビーフジャーキー、合鴨、チーズ、サーモンや塩さばなど定番から、果てはチョコレートやマヨネーズなど液体(!)と、珍しいものまで多種多彩(季節によって品ぞろえは変わります)。
▲たおやかな色つやのスモークチーズ
▲半熟加減が芸術的ですらあるたまご
▲燻製アーモンドをふんだんに使ったチョコレート
▲ドライフルーツの燻製、テスト中
▲デザートに挿す「ルマンド」まで燻製に!
▲ランチの素材にも使われる低温でしっとり香りをつけた燻製マヨネーズ。テイクアウトは3種類。手前からノーマル、ガーリック、赤ゆずこしょう。それぞれボトル入りで販売
どれも、う、うまそう!
もう喉のアラームが鳴ってやみません。
季節限定商品を含めると現在なんと27種類。さらにドライフルーツなど「思いついたらすぐに試作する」という発明家肌の石本さんの手により、新製品は続々と増え続け、入れ替わり、毎日通わないとコンプリートは難しいほどのタイプがズラリ並ぶのです。
石本
「その日にある燻製をちょっとずつ食べたいという方のために『燻製全種盛り』(1200円)という“おつまみアソート”もあります。『お昼に軽く飲みたい』という方におすすめです」
おお! 鰹と昆布で優しく味つけした「たまご」や、天然塩でじっくりおよそ2週間もかけて作るという手が込んだベーコンまで、燻製界のスター選手たちが一堂に会し、これはゴージャス。昼から冷たいビールを注ぐ手が止まらなくなりそう。
▲魅惑の「燻製全種盛り」。お昼から飲んじゃっちゃってください
■「燻製づくし」のランチに圧倒!
続いてお見せいただくのは、お昼のランチメニュー。
まずは大盛り無料という太っ腹な「燻製づくしのパスタランチ」(750円)。
▲バケットつきが嬉しい「燻製づくしのパスタランチ」。バケットのトッピングほか、頻繁に変化があるとのこと。通わないと!
内容は、
●前菜(燻製チーズ3種+塩鮭の燻し焼き+ジャーキー、といった感じで燻製3種類~5種類)
*その時その時で毎回変わります。同じ組のお客様でも違うこともあります
●サラダ(燻製たまご+燻製オリーブとスモークチーズが入ったドレッシング)
●パスタ(燻製バターと燻製たらこのたらこパスタor燻製さばのトマトソースパスタ)
●バケット2種(いぶりがっこ&燻製クリームチーズ、燻製クリームチーズに燻製ナッツのはちみつ漬け)
*バケットも前菜同様、こちらも毎回内容が変わります
▲スモークチーズ、アンチョビペーストをいこんだ燻製オリーブ、サラダだけでごはんいけそう!
次に「ベーコンorさばサンドランチ」(700円)
内容は、
●前菜(パスタランチと同じく)
●サラダ(パスタランチと同じく)
●ベーコンorさばのバケットサンド
いやもう、この時点で「こんなにもたくさんの燻製を一度に賞味できていいのですか?」と驚きなのです。
▲およそ2週間、こまめに世話を焼きながらじっくり仕上げる自慢のベーコン
▲「ベーコンサンドランチ」。エレガントなまでにしっとり脂をにじませた自家製ベーコンをバケットにはさんでがぶりといけば、野趣あふれるうまさにのけぞりそう
■16種類もの燻製が使われたランチプレート
しかし、さらにそのうえをいくのが「ランチプレート」。
▲ほぼ月替わりのランチプレート。取材時は明太子オムライスがメイン
この日に登場したのは、一見とてもおいしそうな、でも洋食屋さんにもありそうな明太子オムライス。
いったいどこに燻製が使われているのでしょう?
石本
「実はこのランチプレート、16種類の燻製を使っているんです」
じゅ、じゅ、16種類も!?
*メニューの変更とともに増減があります
どのあたりにそれほどたくさんな燻製が忍ばされているのでしょうか。
石本
「オムライスのごはんの具に、燻製バターとハーブソーセージの燻製を使っています。オムライスにかける明太子もマヨネーズも燻製。サラダに使っているオリーブも燻製で、アンチョビペーストと和えているのが私のこだわりかな。そんなふうにプレートの上の料理にはすべて燻製を使っています」
そ、そんなに大集合した燻製たちが、奥ゆかしくそれぞれの持ち場にいたのですか。
▲刻んだ燻製ナッツが入ったポテトサラダ。マヨネーズも、添えられた枝豆も燻製
■燻製は食材を進化させる説
では、いただきます!
実はあまりにも香りがよくて、商品カットの撮影中にもうよだれが……。
(ひとくち食べて)うん。
うわ~、ぶわっと鼻腔を抜けるおおらかな森の香り、これはクる!
そしてライスの具に使われたソーセージ、スープに浮かぶベーコン、ポテトサラダに混ぜられたナッツなどなど、小さく刻まれているにも関わらず主張が強い。
栄養もさることながら、これは元気がもらえるランチプレートですね。
石本
「味が凝縮しているでしょう。私は燻製にすると食材は『進化する』と思っているんです。ソーセージもサーモンも、別物になりますよね」
「燻製にすると食材は進化する」。
わかる気がします。
▲燻製にしてさらに味が締まったハーブソーセージ
▲燻製バターのよい香りにうっとりするライス。具材の燻製ハーブソーセージは上品な塩気が
▲ソースに使うたらこも燻製に
あと、ランチプレートだけではなく「燻製きなこのアイスクリーム」(350円)も、香ばしくておいしいです。きなこの燻製は初体験でしたし、はちみつ漬けのナッツがこれまた野趣にあふれたナチュラルな甘さですね。
石本
「ナッツを燻製にすることによって、はちみつもおいしくなるんです。燻製したナッツをはちみつ漬けるとコクが出て、味が驚くほど変わるんですよ」
*「ナッツのはちみつ漬け」は500円でテイクアウトもできる人気商品
▲デザートの「燻製きなこのアイスクリーム」。きなこも、トッピングの「ナッツのはちみつ漬け」も燻製
▲燻製ミックスナッツ
さまざまな燻製のお料理をいただいて、全体的に味にふくよかさを感じました。
石本さんがいぶす燻製の特徴とは?
石本
「燻製って、煙たいくらいの燻香(くんこう)がついていて、硬い食べ物という印象が強いじゃないですか。でも、うちの燻製はそんなに煙たくはしていないんです。食感もやわらかく仕上げ、ほかの料理と合わせやすくしています。 “女子が食べやすい燻製” がうちの特徴ですね。もうひとつの特徴はスパイスにシナモンを使うこと。香りがいっそうよくなるんです」
▲やさしい味つけなので女性客や親子連れもひっきりなしに来店する。客層の幅が広い
「女子が食べやすい燻製」。
いいですね!
女子の「ちょい呑み」もブームですし、とても時代にマッチしていると思います。
石本
「お酒ももちろんたくさんご用意しています。世界のさまざまなビールを取り揃えています。ぜんぶ、私が実際に訪れた国のビールなんです」
「実際に訪れた国のビール」……。
実は石本さんは、このお店をオープンする以前、世界を放浪していた時期があったのだとか。
■世界を放浪した青春時代
石本さんが京都ノートルダム女子大学の1年生だったときに偶然、単身インドでがんばる日本人女性を紹介するテレビ番組を観て「なんてキラキラしているんだ」と感動。
大反対するご両親を説得し、およそ一か月間、バックパッカーとしてインドへ。
それを機に旅の魅力に目覚め、世界中を渡り歩きました。
▲お酒も豊富。ビールだけでもこれほどの種類が。すべてオーナーシェフの石本さんが実際に訪れた国のビールだ。この品ぞろえは言わば石本さんの紀行記録
さらに帰国後は四国へお遍路に出発。
歩きながら考えたのは「人の身体を作る食べ物の大切さ」だったのだそう。
■スモークサーモンのおいしさに驚き燻製に開眼
では、燻製職人になるきっかけは、なんだったのでしょう。
石本
「ちょっとややこしいんですけれど、友達の家に、“友達の友達のお母さん”が手作りしたスモークサーモンがあって、それがクリームチーズと赤ワインにぴったり合ったんです。なんの狂いもない、パーフェクトなお味。初めて “マリアージュ”のすごさを体感しました。感動しすぎて、次の日もそのスモークサーモンのことで頭がいっぱい。『よし! 自分でも作ってみよう』と思いたって段ボール箱で試してみたのがきっかけです。初めて手掛けた燻製がいきなりおいしくて、その瞬間に『燻製づくりを自分の仕事にしたい!』とひらめきました」
まさに結婚(マリアージュ)に匹敵するまでに、人生を変えるほどの素晴らしいスモークサーモンと出会った石本さん。
それまで、燻製への興味は?
石本
「興味は……正直に言って、ぜんぜんなかったです。燻製について考えたことがなかったし、『燻製』という言葉を自分の口から発した経験すらなかったかも。スモークサーモンやスモークチーズの『スモーク』が燻製という意味だということすら知らなかったんです」
興味がなかった燻製に、まるで天啓があったかのように、一夜にしてのめりこむことに。
しかし、「いける!」と思ってから実際に自分の燻製を確立するまでには、長い時間がかかったのだと云います。
石本
「お客様に買っていただける燻製ができるまでには、それから3、4年かかりましたね。たとえばベーコンひとつとっても果てしない数のレシピがある。作っているうちにだんだん、自分がどこを目指していいのかわからなくなってしまって。燻製づくりの先輩たちのもとを、ときにアポなしで飛び込んで現場を見たりしながら、自分のものにするまで試行錯誤を繰り返しました」
▲目指す味に近づくためにおよそ3年の歳月を費やしたというベーコン。それゆえに想い入れもひとしおだ
そうして数年の修業の末に自分なりの味にたどり着いた石本さんは、2013 年、軽ワゴンで手作り燻製の移動販売をスタート。「燻製マーケット」としての活動が幕を開けたのです。
▲「燻製マーケット」は移動販売からスタートした
■おいしいだけではなく「感動できる味」
そんな石本さんにとって、燻製の魅力とは?
石本
「燻製って、すごくおいしいし、それに、ちょっと贅沢な気分になれる食べ物やと思うんです。OLさんやママさんたちが『ああ、きのうはさんざんな一日やったな……』と落ち込んだときでも、燻製をつまみに少し飲んだら、暗い気分も晴れるじゃないですか。そういう点で、燻製は幸せになれるツールやなって。だから私は、おいしいだけではなく感動できる味に仕上げなければならないと思う。感動できるかどうか。それが私の燻製作りのポリシーです」
「燻製は幸せになれるツール」。
味の決め手は「感動できるかどうか」。
これらは世界を放浪した時代からじんわりといぶされて導き出した、石本さんの答え。
燻製をたっぷり使ったランチプレートをはじめ、おいしいだけではなく感動できるのは、石本さんの生きざまの味だからなんですね。
燻製マーケット
住所 京都市山科区東野中井ノ上町6-66
電話 075-204-7585
営業 11:00~15:00(LO 14:30)
*10月から18時まで営業
定休日 日・月
https://smokemarket0802.jimdo.com/
*料金は、テイクアウトは税別、店内飲食は税込みです。
(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy