高橋由美子、深津絵里、永作博美…「チョコラBB」が描く『働く女性』像の系譜

2017/8/16 11:00 DJGB DJGB


世の中、お利口さんが多くて、疲れません?

こんばんは、バブル時代研究家DJGBです。

ナイチンゲールの書体でおなじみ“ヒューマン・ヘルスケア”のエーザイはこのほど、同社の「チョコラBB」発売65周年を祝して記念イベントを開催。現在CMに出演中の永作博美、新木優子に加え、かつてCMに出演していた高橋由美子が出席し、20年以上前の思い出を語りました。


1989年12月CDデビューの永作博美(もちろんribbonとして)と、1990年4月CDデビューの高橋由美子。ともにバブル末期にデビューし「アイドル冬の時代」をサバイブした2人の共演に、感慨もひとしおです。

そこで今日は高橋由美子の歩みを中心に、「チョコラBB」が描いてきた『働く女性』像をふりかえります。


■ホンネを言う女性が好まれなかった90年代初頭

●「世の中、バカが多くて疲れません?」(91年)



「チョコラBB」と言えば、このCMに触れないわけにはいきません。86年、男女雇用機会均等法の施行を機に、女性の社会進出が進みます。同年「新・チョコラBB」を発売したエーザイはバブル期、働く女性を応援するCM展開を強化。90年には初のドリンクタイプ「チョコラBBドリンク」を発売します。

けだるそうな桃井かおりが世の女性(だけではなさそうですが)の気持ちをストレートに代弁するこのCMには、放映直後からクレームが相次ぎ、あえなく放映中止の憂き目に。ところがエーザイは直後に、まったく同じ場所で撮影されたCMをオンエアします。


●「世の中、お利口が多くて疲れません?」(91年)



「バカ」「お利口」に差し替えたクレバーな対応が、またしても大きな話題に。あまりの周到さに、「あらかじめ別のバージョンを撮影しておいたのでは」とのうわさも囁かれましたが、真相は定かではありません。

いっぽうエーザイは同じころ、こんなCMもオンエアしています。

●「その名はサクロン」(90年)



新しいCMのたびに「結婚してくれる?」「ウチの商売継いでくれる?」「親と同居してくれる?」と畳みかける美女(杉山亜矢子)は、すでにこの時代には「パロディ」でしたが、それを差し引いても「チョコラBB」とはまた違う当時の女性像、あえて言えば“お嫁さん”像を感じさせてくれます。

同じエーザイの、2つのCMから透けて見えるのは、90年代初頭、働く女性はまだまだ珍しく、まだまだざっくばらんにホンネで話すことを許されていなかった、という空気です。


■脱“20世紀最後の正統派アイドル”の契機になったCM

ご存じない方のために貼っておくと、デビュー直後の高橋由美子はこんな感じ。大きな瞳とサラサラのロングヘア、元気いっぱいのスマイルで、「20世紀最後の正統派アイドル」と称されていました。インタビューでのハキハキとした受けごたえも好印象で、90年代前半の「アイドル冬の時代」において、優等生的な存在でした。


通っていた高校は、芸能人御用達の堀越学園。同級生には、夏川りみ、桜井幸子、中條かな子、稲垣吾郎(SMAP)、佐藤アツヒロ、赤坂晃(ともに光GENJI)、野村克則(のちのカツノリ、現ヤクルトコーチ)らがいます。

高校卒業後の94年1月にはドラマ「南くんの恋人」の主演に抜擢。事故のショックで小さくなってしまった17才の女子高生、堀切ちよみを熱演し、好評を博します。


●「南くんの恋人」(94年)



自身が歌った主題歌「友達でいいから」もオリコン10位、売上37.5万枚の大ヒットに。



エーザイが「チョコラBB」のCMに高橋を起用したのもこの年。当時19才、そろそろ「元気なアイドル」を卒業し、大人の側面を見せてゆきたい高橋としても、女性向け製品のCMオファーは渡りに船だったことでしょう。最初のCMは彼女のトレードマークだった笑顔を封印し、女性の気持ちを代弁する内容に仕上がっています。


●「チョコラBB」あなたという人は、あなた一人しかいない(94年)



新境地を切り拓いたのは96年。「チョコラBB」の新たなCM(肌荒れ休暇篇)で仕事に疲れ切ったOLをコミカルに演じ、健気なちよみのイメージを打ち破ることに成功します。こちらは97年放映のバージョン。当時22才。


●「チョコラBB」同窓会篇(97年)



アイドル時代は優等生的なふるまいで知られた彼女ですが、どうやらこちらのぶっちゃけキャラのほうが“素”だったようです。このシリーズは好評だったようで、96~98年まで複数制作されました。先日のPRイベントでも、当時をふりかえり

「かなり思い切った演技で、当時の私としては前代未聞のCM内容。周囲には『いいんですか』ときかれましたが、友達からは『ふだんと何が違うの』と言われて。ほとんど地でしたね」


とコメント。それまで「20世紀最後の正統派アイドル」という重荷を背負わされていた高橋は、「チョコラBB」のCMを機に自らを開放し、以降、個性派女優としての道を歩み始めます。


■『働く女性』像の変化と、「ショムニ」

コメディエンヌという新境地を開拓した高橋に、ドラマのオファーが舞い込みます。

●「ショムニ」(98年)




高橋はこのドラマで、他人の運命が見えるという特殊な能力を持つ無愛想なOL、日向リエを演じ、存在感を発揮します。

96年、労働者派遣法が改正され、派遣労働の対象となる業務に「図書の制作及び編集」「アナウンサー」「セールスエンジニアの営業」など11業務が追加されます。「ショムニ」前年の97年にはスタッフサービスのCM「オー人事、オー人事」が話題を集めます。

「職場のアイドル」としてのOLは徐々に姿を消し、代わりに特殊技能を持つスペシャリストとしての“ハケン”が多くの企業に浸透していった時代。「ショムニ」も、そんなトレンドを受けて企画されたドラマでした。

かつて「南く~ん!」と叫んで運命に抗おうとしていたちよみは、その2年後、図太く「肌荒れ休暇」を申請できる強さを獲得します。さらに2年後にはオフィスの片隅で水晶玉を見つめながら「それもまた運命です」とつぶやく占い師になったのです。高橋がアイドル歌手の路線を続けていたら、決して舞い込むことのなかった役どころでしょう。


■激変する『働く女性』像を表現し続けた高橋由美子と「チョコラBB」

バブル崩壊を受け、90年代、働く女性を取り巻く環境は大きく変わりました。 「20世紀最後の正統派アイドル」という十字架を背負ってデビューした高橋は、CMでその仮面を自ら脱ぎ捨てることで、同世代のOLたちに「無理して笑わなくてもいいんだ」というメッセージを投げかけていたようにも見えます。

高橋の現在の所属事務所も「チョコラBB」のCMが転機となったことを認めています。


21世紀に入ると「チョコラBB」ブランドのCMは、奇しくも堀越高校で高橋と同級生だった深津絵里(年齢は深津が1つ上)へと引き継がれます。キャッチコピーは「疲れていたら、カワイクないぞ」。2000年代、働く女性たちのあこがれは、強い女性ではなく、カワイくて仕事のできる女性でした。


●「チョコラBBライト」(03年)



その系譜は、昨年からキャラクターを務める永作博美にも受け継がれています。かつて「肌荒れ休暇」を申請していた女性の仕事には、やがて責任が生まれ、強さ、カワイさだけでなく、後輩に慕われる人望まで求められるようになりました。


●「チョコラBBローヤル2」チョコラ、いきます篇(17年)



90年CDデビューの高橋、高橋と同級生の深津、そして高橋より4か月ほど早くCDデビューした永作…。この20余年、「チョコラBB」はいわゆる団塊ジュニア世代の女性の成長と、お肌の悩みを描き続けてきたことがわかります。驚くべきは、最近起用された女優ほど年上(高橋74年1月生まれ、深津73年1月生まれ、永作70年生まれ)という事実でしょう。

発売以来、女性のキレイと元気を応援し続ける「チョコラBB」。その軌跡をたどると、バブル以降の『働く女性』像の移り変わりと、「アイドル冬の時代」にデビューし苦労した面々のポテンシャルの高さが見えてきました(そこかよ)。


(バブル時代研究家DJGB)