店内はカエルでいっぱい!カエル愛にあふれたお好み焼屋さん「けろった」がスゴい!
▲笑顔のカエルを焼いてくれるお好み焼き屋さん。実はこのお店、カエルなのはこれだけではないのです
こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
こちらでは毎週、僕が住む京都から耳寄りな情報をお伝えしており、今回が44回目のお届けとなります。
■店長が“カエル語”を話すお好み焼き屋さんがあった!
厳しい暑さが続いていますが、皆様いかがお過ごしですか?
「暑さ」には「熱さ」で対抗!
というわけで熱くておいしいもののテッパンといえば、やはりみんな大好き「お好み焼き」。
今回は京都の、おいしいお好み焼きのお店をご紹介しましょう。
……といっても、この連載が「おいしい」だけで採りあげるはずがありません。
いまから紹介するお店は、おいしいのはもちろん、いわゆるお好み焼き屋さんの常識からはぴょんとはずれた、ちょっと不思議な世界が待ち構えているのです。
■店内はカエル雑貨でいっぱい!
場所は世界遺産「下鴨神社」のすぐ西隣。
その名は「けろった」。
▲背景にうっすらカエルの姿が浮かぶ「けろった」の看板
けろった……カエル? まさかカエル肉のお好み焼き?
一瞬ひるみますが、そこは根性根性ド根性。
勇気を出して扉を開けると……。
こ、これはどーゆーことですケロ?
店内は見渡すかぎりカエル! カエル! カエル!
壁に天井にカウンターキッチンにトイレと、カエルがわんさかいるではありませんか。
▲扉を開けると……店内はカエルがいたるところに
▲まず目に入るのは膨大な数のカエル雑貨!
▲カエルのガチャやゲームも
▲鴨居にもカエルがズラリ
▲カエル関連書籍もふんだんにある
▲洗い場もかわいいカエルの台所用品がたくさん
▲トイレもカエル! カエル! カエル!
▲やっぱりカエルは水が好き? 「手洗い場」にもカエルが大集合
▲オブジェやインテリアだけではなく生きたツノガエルも鎮座
有名なカンパニーキャラクターから、造形作家の手づくりであろうアーティスティックなオブジェまで、その数は膨大。
たとえ宇宙からやってきた軍曹であっても、この光景には驚くはずであります!
この「けろった」をひとりで切り盛りするのは、オーナー料理人の長藤(ちょうどう)美奈さん(47歳)。
▲鉄板焼きとお好み焼きの店「けろった」のオーナーシェフ長藤美奈さん。緑に染めたウイッグがかわいい
長藤さん、この日、グリーンのポロシャツを着てやってきたぼくを見て――。
長藤
「あ、今日、ケロってきてくれはったんですね! ありがとうございますケロ。うれしいケロ!」
と喜んでくださいました。あ、こちらこそありがとうございます。なんとなく、そうしたほうがいいかなと思って。
ところで、すごい量のカエルグッズですが、どれくらいの数があるのですか?
長藤
「コレクションの数ですか? そんなん、わかりません。数えてないから。カエル箱に入れたままのもあるし。カエル箱とはなにか、ですか? カエラ―さんやったらみんな持ってる箱のことです。カエラ―ってなにか、ですか? カエルの心を持った人間のことです。カエラ―って日本だけで100万人いるらしいですよ。なんかの本にそう書いてましたケロ」
は~。知らなかったことばかり。脳みそがひっくりカエル感覚におちいります。
▲いたるところカエルのオブジェが
▲長藤さんのスマホケースもスナック菓子「キャベツ太郎」のマスコットカエル
さて、この「けろった」がオープンしたのが9年前。ただ開店当時の内装は、ここまでカエル押しではなかったとのこと。カエル一色になったのは、いまから3年前なのだとか。
長藤
「お好み焼き屋を続けていて、ある日ふと思ったんです。わたし、これまでケロれてなかったなって。『こんなことがしたいんじゃない。お好み焼き屋のままで終わりたくない。“カエル屋”で死にたい。もっともっとケロリたい!』っていう気持ちが湧きあがってきて、3か月かけて大改装したんですケロ」
そうして天井にカエルのフォルムに切られた大きなカラープレートを何重にも貼るなど、アートギャラリーを思わせる雰囲気に大転換。
▲改装の際、天井にもカエルの群れをデザインした
長藤
「お店をカエルのケロケロワンダーランドにしたかったんです。ジュラシックパークみたいに壁からカエルがたくさんうえーって出てきてるような。『これから全力でケロっていこう!』と思ってケロ」
ふむふむ。お好み焼き屋さんのケロケロ化をはかるワンダーな計画は、このように進んでいったのですね。
ところで、お話のなかに頻繁に登場する「ケロってる」という言葉は、どういう意味があるのですか?
長藤
「“ケロってる”の意味ですか? そんなん……いまさら意味なんて考えてなかったですわ。『ケロってる』って普通に言いませんか? 『ケロいわ~』とか」
いやあ、すみません。ケロってるもケロいわ~も使ったことがなく(汗)。普段あまり人と接していないもので、会話の語彙が少ないのだと思います。
こんなふうにテンポよく、ぴょこんぺたんと跳ねた会話で幕を開けた「けろった」のひととき。
この後、ぼくは店長・長藤さんのストレンジな魅力にどんどん引き込まれてゆくこととなります。
■衝撃の告白「私の先祖はカエルなんです」
長藤さんがカエルにはまったのは幼少期。コルゲンコーワのマスコット「ケロちゃん」の指人形がきっかけでした。10本の指すべてにケロちゃんをセットし、10匹のカエルとしゃべりあう、ひとりカエル劇団状態に。
さらに中学三年生になってカールおじさんのそばにいる小さなカエル「ケロ太」くんのかわいさに惹かれ、そこから一気にカエル雑貨全般を愛するようになったのだとか。
現在は全国のカエル祭をめぐり、ハンドメイド作家たちが手製したカエル雑貨をオトナ買いするのがつね。祭のたびにコレクションが増加していくようです。
▲長藤さんは多くのカエル作家と親交があつい。これはフェルト作家さんがつくってくれた「けろった」オリジナル作品
でもなぜ、そこまでカエルにハマったのでしょう?
長藤
「わたし、先祖がカエルなんです」
え?! 先祖がカエル???
長藤
「うちの家系、8代前までは人間だった記録が残っているんです。でもそれ以前がない。だから9代前はカエルだったと思う。きっと私にカエルの血が流れているんですケロ」
なるほど。ということは、ご先祖様はカエルから人間に変化されたのですか。先ほど教えていただいたカエラ―にも通じますね。
長藤
「カエルの先祖は恐竜よりもっと前から生きている。そやからカエルの血が流れている人が世のなかにはいっぱいいるんです。人間社会で生きていかなあかんけど、違和感をおぼえているんですケロ」
そうだったのか。カエルと人間のあいだに、そんな深奥な歴史があったとは。そしてカエルを愛しつつも軋轢を感じながら暮らしているカエラ―たちが存在しているたことも知りませんでした。
長藤
「カエル好きのカエラ―やけどこれまで人前でそれを言い出せなかったお客さんが来て『ああ、こんなにケロってもいいんや~』って言ってくださる。そういうときは、お店をやっててよかったなと思いますケロ」
そうか~。ここはカエラ―たちが心をほどいてカミングアウトできる開放の場所でもあったのです。
■店内のカエルたちにはいろんなストーリーがあった
お話をうかがううちに、気になることが。
それは長藤さんの片腕に、まるでサイコガンのようにすっぽりはまったカエルの人形。
それは、なんですか?
長藤
「これですか? これはカエルのかたちをした楽器で“コケロミン”と言いますケロ。口を開く角度を変えることで、歌をうたうんです(といって実演。本当に歌うのでスゴい!) 名前は『けろぴー』といって、元気が出る粉が入った『けろった焼』を食べると『けろったちゃん』という女の子に変身するんですケロ。ねー、けろぴー」
うぅ……ついていけるかな。こんなふうに店内のカエルたちには、なんとなくここに置かれているわけではなく、それぞれに深いドラマがあり、長藤さんが愛情を注いでいるのです。
▲歌うカエル人形”コケロミン”に「けろぴー」と名付け、話しかけてかわいがる長藤さん。けろぴーが”元気が出る粉”が入った「けろった焼」を食べると大きくなって「けろったちゃん」になるという。憶えておくべし
▲神出鬼没なお店の人気者「けろったちゃん」。ちなみに女の子。ときどき街を歩く。「中の人? そんなのいないケロ」とのこと
▲けろったちゃんは時々カウンターのなかにも入る。出会えればラッキー
▲長藤さんが「私の旦那さん」だという「けろったくん」。こちらは男の子
▲「自分の身代わりになって腕が折れた」という、恩人ならぬ恩ガエルの「がまちゃん」。この店にいるキャラクターたちには、それぞれに意外とシリアスなドラマが背景にある
■お好み焼きももちろんカエル型!
ではいよいよ、待望のお好み焼きを一枚、焼いてケロ!(だんだん長藤さんのカエル語が移ってきている)。
お好み焼きに使うキャベツや九条ねぎは京都の中央市場から仕入れた地元のフレッシュなもの。豚はミートアドバイザーが厳選した肉を使うなど、素材を吟味。
食材が良質なのもさることながら、スプーンですいすいと鉄板上にカエルを成型し、型崩れせぬよう、丸くないお好み焼きをスマートにひっくり返す妙技には思わず拍手!
長藤
「お好み焼きもカエルのかたちにしちゃえ! と思ったのが2年前。初めはわざわざ専用の型を作って使っていたんですケロ、洗うのが面倒くさくって(笑)。それで型なしで焼き始めたら、けっこううまくできたケロ」
▲カエルのかたちに生地をひろげる長藤さん。「わざわざ専用の型を作ったんだケロ、手でやったほうが早かった」とのこと
▲こんがりキツネ色になったカエル(矛盾?)
▲ソースとマヨネーズで笑顔を描く
ラストは、もっとも細心の注意を払うという“笑顔”をソースとマヨネーズで描き、フィニッシュ!
▲完成!
長藤
「さあ、焼けたケロ! 食べてケロ!」
あまりにもかわいいので切り分けるときの罪悪感がちとぬぐえないものの、甘みのあるキャベツの芯をつかっているためにホクホクで、素朴でほっとできる味。おいしいです!
長藤
「おいしいですか? よかった~。みんな『ケロってるわりにおいしいやん』『どうせケロってるんとちゃうんと思ってたケロ、おいしい』って言ってくれるんですケロ」
いやあ、ぼくは、ケロってるからこそおいしいんだと思いましたよ。ケロってるの意味はいまだによく分かりませんが、きっとこのお好み焼きは、最高にケロってる出来映えなんだと思います。
▲おいしそう! 「豚」「いか」(650円)、「えび」(700円)、「ミックス」「明太もちーず」(800円)。モダン焼きは各種+200円 *すべて税込み・すべてカエル型
▲寿司屋の大将からみっちり学んだという「だし巻き」は本格和食の滋味。カエルの焼き印が風流(500円)
▲宇治の粉末緑茶を練りこんで後味さわやかな「ケロッケ」(500円)
▲ビールもワンカップもカエル。「ケロカップ」はけろった特製の清酒
▲日本酒を注ぐ陶器にもカエルのフチ男さんが
▲料理をのせる皿も取り皿もカエル柄
■夢は「カエルのテーマパーク」だケロ
こうして京都に“真のカエルの楽園”をひらいた長藤さん。これからの夢は?
長藤
「いつか“かわず旅行社”をたちあげて、関空までケロコプターに乗って、日本国内のカエルの名所ツアーに行けたら楽しいな。あとはやっぱりテーマパークですね。京都にカエルのテーマパークを開きたいという夢は本当にあって、これは実現に向けて動き出し始めているのですケロ」
「京都にカエルのテーマパークを開きたい」。
長藤さんはその夢を実現するための一環として、京都府相楽郡(そうらくぐん)和束町(わづかちょう)にて「和束の蛙(かわず)まつり」というカエルフェスを開催しています。昨年が初開催で、今年2年目を迎えるのです。
▲10月9日(月祝)、京都府相楽郡(そうらくぐん)和束町(わづかちょう)で長藤さん主催の「和束の蛙(かわず)まつり」が開かれる。長藤さんは「カエル界の祇園祭にしたいんだケロ」と意気込んでいらっしゃいます。カエルを手作りするハンドメイド作家さんはぜひご参加を
そんな長藤さんにとって、カエルの魅力とは、どこにあるのでしょう。
長藤
「けなげなところですね。毒はあってもキバはない。嫌われても、けなげに生きている。そこに惹かれるんです」
そうだよなあ。自ら攻撃はしない。けれど、したたかに毒は持ちながら、けなげに生きる。カエルからは学ぶべきことはたくさんあるなと、今日は思い知らされましたケロ。
そして、いまだ正しくは意味をつかめてはいないものの、「ケロってることって、楽しいな」と、おなかも心もじんわりとあたたまった一日でした。
鉄板焼とお好み焼「けろった」
住所 京都市左京区下鴨松ノ木町49-8
電話 075-721-7630
営業 18:00~23:30
定休日 火曜日・第2水曜日(カエルイベント時、臨時休業あり)
URL http://www.kerotta.com/
frog、ではなくblog https://ameblo.jp/kerotta1970/
(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy