「世界でもっとも危険な建物トップ10」のひとつが長野県にあった!
アメリカのTime誌が数年前に「世界でもっとも危険な建物トップ10」を選出しました。文句なしの1位はイタリアにある「ピサの斜塔」(1173年)。これは誰しもが納得するところ。
その他にもスペインにある「プエルタ・デ・エウロパ(ヨーロッパの門)」や13世紀に建てられたドイツの「ズールフーゼンの教会」など建物自体が傾いてしまっている=危険という認識で選ばれた建築物が名を連ねています。
日本国内には「危険な建物トップ10」はまさか入っていないだろうな~と思っていたら、まさかまさか9位ではありますが、しっかりとランクインしているではありませんか。
世界で最も危険な建物に選ばれたその建物は長野県茅野市にあります。茶室「高過庵」です。これで「たかすぎあん」と読ませます。そうその名の通り高すぎる茶室なのです。
その高さ約6m、はしごを使って入る茶室なんで茶を愛した信長や秀吉が目にしたらどんな言葉を発するでしょうね。たわけ者!とその場で首をはねられるか激賞のいずれかであることは間違いありません。
さて、こんな奇想天外な危険な茶室を建てた数寄者は一体誰なのでしょう。どこかの世捨て人が奇を衒って作ったものかと思いきや、驚くことなかれ、東京大学名誉教授や東京都江戸東京博物館館長を務めている建築家の藤森照信(ふじもり てるのぶ)さんが手掛けた建物作品なのです。
御柱祭で有名な諏訪大社上社前宮からさほど距離のない茅野市高部という地域にこの「高過庵」の他、数点の藤森建築群があります。そしてそのいずれもが非常に特徴のあるもので一度目にしたら忘れることのない建物たちです。
古代から明治まで諏訪大社上社の神長官という役職を勤めてきた由緒ある神長官守矢家(じんちょうかんもりや)の敷地内に「神長官守矢資料館」(1991年)があります。これは藤森さんが手掛けた最初の建築作品です。
神長官守矢資料館から山へ向かい歩を進めて行くと、「高過庵」(2004年)と「空飛ぶ泥船」(2010年)が見えてきます。
神が宿る神聖な場所に突如現れた感のある「高過庵」と「空飛ぶ泥船」ですが、その奇抜な外観もしばらくそこで眺めていると不思議とその土地にとても馴染んでいるように思えてきます。
実際に藤森さんは、ここ長野県諏訪郡宮川村(現茅野市)の出身であり、生家もこのすぐ近くにあります。ある意味、目と鼻の先、自分が昔遊んだ山に、大人の遊び場として建てたのが「高過庵」や「空飛ぶ泥船」に他なりません。
逆に、その土地の歴史や成り立ちを知り尽くしている藤森さん以外の人が建てたとしたら、どんな素晴らしい建築物でもきっとこれほど周りと馴染まず、悪目立ちしてしまうことでしょう。
「神長官守矢資料館」をはじめとする高過庵」「空飛ぶ泥船」といった独特な姿をした建築群は、写真やwebで観ただけでは実は真の良さはその1割も伝わりません。実際に自分も今回それを最も強く感じこれらの建築群に対するイメージが随分と変わりました。
その土地の名産はその土地で食べるからこそ美味しいのと同じように、高部の藤森建築群もこの場の空気に触れながら観ないとその良さは分かりません。
絵画作品でこのような経験をしたことは今まで何度もありましたが、建築作品では初めてのことでした。出来れば諏訪大社にお参りしてから観ると猶更その良さが分かるはずです。
この他に国道を隔てて玄庵(2006年)もあります。そして今年の秋にもうひとつ建築作品が新たに加わります。その名も竪穴式茶室「低過庵」!出来たらまた観に行かなくちゃ!!
「世界でもっとも危険な建物トップ10」に選ばれた建物は「世界でもっとも神と近い場所にある建物」でもありました。そうそう「神長官守矢資料館」にこんなチラシも置いてありました。
「諏訪神秋祭」?!守備範囲広いな~諏訪!!
『藤森照信読本』