祇園祭LOVE!巨大な祇園祭の絵を自宅ガレージに展示する画家に会ってきた!

2017/7/31 11:00 吉村智樹 吉村智樹


▲自宅ガレージにズラリ並んだ「祇園祭の山鉾」の油絵。目標は33基フルコンプリート。現在17基目を作画中



こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
こちらでは毎週、僕が住む京都から耳寄りな情報をお伝えしており、今回が43回目のお届けとなります。






さて、今日7月31日(月)は、一ヵ月の長きに渡って開催された京都の夏の風物詩「祇園祭」がグランドフィナーレを迎えた日でした。


日本三大祭のひとつに数えられる祇園祭、特に人気は、フェス最大の見どころと言われている「山鉾巡行」(やまほこじゅんこう)。



▲日本三大祭のひとつに数えられる京都の夏の風物詩、祇園祭。八坂神社の祭礼で、なんと9世紀(!)から1000年以上続く歴史の古い祭。7月1日から一ヵ月間にわたって行われ、期間の長さも特徴。特に人気が集まるのが「山鉾巡行」


「山鉾巡行」とは、7月中旬に行なわれる八坂神社の神幸祭に先立ち、町衆が各町に伝わる山鉾(やま・ほこ。飾り物をほどこした山車)を曳く、言わば“非エレクトリカル・パレ―ド”。この行事はユネスコ無形文化遺産に登録されています。


京都市街中心部である四条通~河原町通を、大きな鯉やかまきりを載せるなど、デザインを凝らしたさまざまな山鉾が巡行する光景は圧巻!
東京で例えるなら、渋谷のスクランブル交差点を、さまざまなフォーミュラカーがお披露目走行するようなもの。
今年の山鉾巡行には、去年よりも3万人も多い22万人もの人が訪れたのだそう。ご覧になられた方も多いのでは?


そんな祇園祭をこよなく愛し、山鉾巡行の光景を油絵に描き残し続けている画家がいます。


「ん? 祇園祭の絵を描いている画家さんって、京都にはよくいるんじゃないの?」


そう思われる方が、きっと大半でしょう。
実際、祇園祭の絵を描いていらっしゃる方は少なくはないはず。


でもでも、この方はちょっと違うのです
なんでも描いている油絵が巨大サイズなために、家のなかを占領しているというではありませんか。
そしてそれが外観からもわかるという“自宅の山鉾化”が進行している方なのです。


■ガレージの外まで溢れ出る巨大な油絵


「往来からでも、祇園祭の絵がたくさん並んでいるのがわかるお宅がある」という噂を聞き、訪れたのは京都市の西隣、向日市(むこうし)。
祇園祭の現場である河原町周辺からはずいぶんと離れた場所にあり、ここに山鉾の絵が並んでいるというのは、かなり意外な気がします。


足を踏み入れたのは閑静な高級住宅地。



▲一見、ごく普通の高級住宅地


落ち着いた雰囲気、整然とした家々の並び、外観に特徴があるお宅は特に見当たりま……あった!



▲しかし一軒、インパクトを放つお宅が



▲ガレージにずらり並んだ「祇園祭の山鉾」を描いた油絵。大きさは「F100」(長辺1620×短辺1303)という超巨大なもの


本来は自動車を停めるのが目的なはずのガレージに、人間の背丈ほどある大きな作品がズラリ。それはもう半・青空ギャラリーと呼べる状態に。


出迎えてくださったのは画家の杉森康彦さん(45歳)。



▲こちらが画家の杉森康彦さん宅。本来は車を停める場所なのに、大きな絵のギャラリーと化しているガレージ


杉森
「油絵を置くところがなくてガレージに並べたら、今度は自動車が置きにくくなってしまって(笑)。今日は取材に来ていただけたのでコインパーキングに駐車してきました」


と、ありがたくも、なんとも本末転倒な状態に。



▲ガレージが油絵で占拠されてしまった



▲特に一般公開はしていないが、道路から作品が丸見えなので、ご近所からは「絵の家」と呼ばれている





そして、おうちにあがらせていただき、さらに驚愕。
油絵! 油絵! 油絵! 部屋も廊下も大きな油絵でいっぱい。そしてそのすべてに豪華な山鉾の姿が描出されています。



▲家のなかも油絵が占領!



▲廊下も人が通れるのがやっと


■33年かけて祇園祭の山鉾33基すべてを描ききる壮大なプロジェクト



▲祇園祭を愛する画家の杉森康彦さん。祇園祭の期間は朝から晩までずっと現場で取材をしているという


キャンバスのサイズは「100号」。長辺が1メートル62センチもあり、それは僕の伸長とぴったり同じ。現在は17枚目の作画に取り組んでおられ、言わば僕が家屋内に17人も寝転んでいるようなもの(自分でもいやだ……)。



▲現在17基目「保昌山」(ほうしょうやま)を描く杉森さん。33基すべてが描き揃うのはあと16年後?



▲毎年祇園祭の時期にだけ各山鉾のお会所や八坂神社で販売される厄病・災難除けのお守り「粽(ちまき)」。完成を祈願してアトリエにも飾られている


さらに、作品はこれからも増え続けるのだとか。これ以上、どこに置くのやら……。


杉森
祇園祭の山鉾が33基あるので、すべて描ききってみようと思っています。一作あたり仕上げるまでにおよそ一年かかるので、『祇園祭三十三年計画』と呼んでいます


さ、33年計画! 『祇園祭三十三年計画』とは、なんだかエヴァンゲリオンを思わせるものものしいタイトル。33基のコンプリートが完遂されるまで、あと16年ですか。気が遠くなりますね。


杉森
「いやあ……実は、さらに2基が復活するらしいので、もっとかかるかもしれません


ということは、山鉾すべてを描き切ったら62歳。途方もない計画です。そうこうしているうちにさらに復刻される山鉾が現れると(実際、文献では最大で58基あったのだそう)……、これはもう京都のサグラダ・ファミリアと呼んで大げさではない無限の大事業。


■テーマ探しに悩んでいた日に出会った「真夜中の山鉾」


杉森さんが油絵を描き始めたのは2002年のこと。
学生時代からイラストレーションが得意で、デザイナーに憧れ上京。しかしオーダーメイドに終始するデザインの世界に退屈さを感じ、京都に帰り、次なる自己表現の方法を模索することとなります。



▲高校卒業の頃に描いていたイラストレーション。現在とは作風がずいぶん違う。その後、デザイナーを目指し上京した


そんなときに出会ったのが、祇園祭の山鉾でした。


杉森
「その頃の僕は『風景画をやってみたい。でもテーマが見つからない』という手探り状態でした。そして、たまたま友達と四条へ遊びに行き、深夜まで飲んでいたんです。店を出て夜中の街を歩いていると、目の前に祇園祭の山鉾が『どーん!』とあって、これがものすごい迫力でした。そのとき『ああ、これが描いてみたい。この迫力を、大きなキャンバスで表現したいな』と。さらにせっかくなら『何年かかってもいいから山鉾を全部描いてみたい』と考えるようになったんです」


昼間に観てもダイナミックな山鉾。深夜にふいに出会ったら、きっとそのド迫力にたじろぐでしょうね。祇園祭への想い入れは、それまであったのですか?


杉森
「いいえ。なかったです。僕は幼稚園に通っている頃からずっとここ向日市で暮らしています。幼い頃から洛外で過ごしていたので、京都に住んでいながら、これまで京都の祭にさほど関心がなかったのです。祇園祭も特に興味が湧きませんでした。八坂神社の祭礼だということすら知らなかったくらいですから」


それまで祇園祭に対し、さして気にも留めなかったという杉森さん。しかしながらその歴史について調べるうち、平安時代から始まり1000年を超えるほどの永きに渡って続いている祭は世界的にも珍しいことを知り、維持している人々の努力に想いを馳せ、畏敬の念をいだきはじめたのだとか。


そうして杉森さんは、自己流で山鉾のひとつ「鶏鉾」(にわとりほこ)を油絵で完成させ、公募展に応募。これがいきなり京都府知事賞を受賞し、はずみがつきました。祇園祭三十三年計画が遂に幕を切って落とされたのです。



▲かまきり山の愛称で知られる「蟷螂山」(とうろうやま)。文字どおり、かまきりが屋根の上に乗り、リアルな動きを見せる。山鉾のなかでも特に子供に人気が高い



▲「芦刈山」(あしかりやま)。わけあって妻と離れ、芦という植物を刈って暮らす老翁が、やがて妻との再会をはたす。そんな夫婦和合の姿をあらわすという超ドラマチックな山鉾


さらに油絵のスキルをアップさせるため、2008年に京都造形芸術大学の通信教育部「洋画コース」に入学。2016年に同大学大学院の洋画分野を修了し、プロの画家となりました。


■朝から夜まで!夏はひたすら祇園祭に密着する生活


2002年から始まった祇園祭とのつきあい。深夜に山鉾と出会って以来、杉森さんの夏の過ごし方は、大きな変化を遂げたのだそう。


杉森
「夏は、特にハイライトとなる山鉾巡行の日(7月17日/前祭/23基 7月24日/後祭/10基)は朝から夜まで、ずっと祇園祭の取材をしています。写真も祭礼中は何千枚も撮ります。祇園祭は時間帯や巡行の場所によって表情が変わるんです。山鉾が細い路地を入ってゆく姿を間近で観ると手に汗を握るほどの迫力がありますし、提灯がともる時間になると、これがまた風流なんです。何度通ってもそういう新しい観点が見つかるので、ひとたび現地に着けば、そのまま5時間連続で歩いていることもあります


朝から夜までずっと祇園祭の現場に立ち、ベストな角度を切り取ろうと努める杉森さん。そんな杉森さんがお勧めするシチュエーションは?


杉森
雨の日です。天気が悪いと普通は『今日は行くのやめよう』と思うじゃないですか。でも祇園祭は意外と雨の日が楽しめます。提灯のあかりが水たまりに映えて、とても情緒があるんです」



▲「霰天神山」(あられてんじんやま)。雨の日の祇園祭を描いた。「実は祇園祭は、雨の日がいいんですよ」


■描きたいの写実ではなく「再現」。祇園祭の臨場感を伝えたい


確かに杉森さんの作品には、雨の日を描いた作品がありますね。山鉾が放つ光が雨しずくににじんで、とてもファンタジック。この作品に限らず、鉾全体ではなく屋台の上にしつらえられた人形にだけスポットをあてていたり、パリの風景なのかと見まがうほど洋画然とした描き方だったりと、一作ごとに表現方法や味わいが異なるのがたまりません。


杉森
「僕が描きたいのは写実ではなく“再現”。その場の雰囲気、たたずまいが、山鉾によって異なります。その場所に立って感じたことを油絵で再現したい。だから描き方が変わってくるのだと思います」



▲「岩戸山」(いわとやま)。天岩戸を開いて天照大神が出現する日本神話にもとづいて造られた山鉾



▲「船鉾」(ふねほこ)。鉾全体を船の型にした海洋ロマンあふれる山鉾



▲「占出山」(うらでやま)。神功皇后が肥前国松浦で鮎を釣って戦勝の兆しとしたという言い伝えをもとにデザインされている。御神体(人形)は右手に釣竿を持って立つ。杉森さんはその姿を詩情をこめて描いた


■夢は33基すべてそろってからの個展。しかし展示できる場所が……


なるほど。作品の前に立つだけで祇園祭の真っただ中にいるような臨場感は、まさに“再現”。やはり33基すべてが再現された日をこの目で見たくなります。完成したら、どうされるのですか?


杉森
夢は個展です。ただ33基ぶんの作品を並べるとなると横幅60メートルはある会場が必要で……


60メートルもある会場……。
祇園祭は、もともとは夏の疫病を防ぐための祭だったという説があります。
だから、大きな廃病院なんていいかも(不気味すぎますかしら)。


そんな杉森さんが渾身の力で描いた臨場感に溢れた作品が8月1日(火)から京都府立文化芸術会館にて展示されます(今回は祇園祭ではなく動物の絵の展示です)。


第3回 洛楽会絵画展「それぞれの明日へ」
2017年8月1日(火)~6日(日)
10:00~18:00(最終日16:00)
場所:京都府立文化芸術会館
http://www.bungei.jp/


そして16年後に予定している「祇園祭三十三年計画」展用の広~い会場をご提供くださる方、おられましたら16年後にぜひご連絡ください。



杉森康彦さんのWEBサイト「杉森康彦の色々」
http://www.eonet.ne.jp/~iroiroyasuhiko/



(吉村智樹)
https://twitter.com/tomokiy



画像協力:祇園祭 京都のホテル予約ガイド
http://kanjisc.com/