まるで現代アート…「これが書だ!」 書家・石川九楊のすごすぎる作品展

2017/7/5 10:55 Tak(タケ) Tak(タケ)


まずは上野の森美術館で開催中の展覧会会場の様子を写した画像を見てもらうことにしましょう。



一体何の展覧会だと思いますか?会場の壁を覆いつくさんばかりの巨大な作品たち。よく見ると足元の位置ににも平置きで作品が展示されています。

新進気鋭の現代アーティストか、はたまた20世紀アメリカで人気を博したジャクソン・ポロックをはじめとする抽象表現主義の画家たちの作品でしょうか。

残念ながらどれも正解ではありません。でも自分も答えを知らずにこの画像見せられたらまさかこれが書の展覧会の会場風景写真とは夢にも思わないことでしょう。



展覧会タイトルはズバリ「書だ! 石川九楊展」。少しでも書の道を歩んだことある方なら書家、石川九楊(いしかわ きゅうよう、1945年生まれ)の名前を知らない人は皆無でしょう。

美術界では例えることが難しい、この道の神様のような存在が石川九楊です。

石川九楊は福井県に生まれ、京都大学法学部卒業後、弁護士や検事の道を選ばずに書家としてやっていくことを決めた異色の経歴の持ち主です。

70歳を過ぎてた今でも精力的に書家としての活躍を続ける一方で、石川九楊には評論家としての側面もあります。試しにAmazonで「石川九楊」と検索してみて下さい。驚くほど多くの著書をこの世に送りだしているのです。ご自宅に一冊や二冊はあるのではないでしょうか、石川先生のご著書。



数々の文芸賞も受賞されており、1991年『書の終焉』でサントリー学芸賞受賞。2002年『日本書史』で毎日出版文化賞受賞 。2009年『近代書史』で大佛次郎賞受賞などあげたらきりがありません。

そんな石川九楊の制作作品1,000点、著作刊行100点への到達を記念し、石川九楊の書の宇宙を広く紹介すべく開催しているのが「書だ! 石川九楊展」なのです。一歩会場に入ると「すごい」「すごい」の連続です。もう「すごい」禁止令を出したいほどです。

巨大な作品や85メートルもある超ロングな大作がまず会場へ入ると目を引きますが、石川九楊の魅力はそれだけではありません。日本や西洋の文学作品を書で表した繊細で緻密な作品も数多くあります。


石川九楊「歎異抄(全文)№18」1988年

Googleで「歎異抄 全文」と検索すると親鸞に師事した唯円が書した仏教書の全文を閲覧することが出来ます。その全文がこの一枚の作品の中に全て書き込まれているのです。

世の中には耳や目を疑うようなにわかに信じがたいことがときたま起こるものです。『歎異抄』の全文がまさか筆でこんなサイズの中に収まりきるはずが…あるんです。これが、石川九楊の手にかかれば。

特別に「歎異抄(全文)№18」の拡大した細部を載せておきますね。



もうこうなると「すごい」では済まされなくなります。まさに言葉を失います。

決して適当に書いているのではなく、一文字一文字筆で書き表したそうです。一般的な「書」に対する思い込みやイメージを打破したいという想いがこうした作品によく現れていると思います。

個人的にお勧めなのは『源氏物語』を書で表したシリーズ「源氏物語書巻五十五帖」です。全点一気に公開されているのも嬉しい!印刷物でしか見たことが無かったので本物だけが発するアウラが半端なかったです。


石川九楊「源氏物語書巻五十五帖」

それぞれの帖ごとに作家自らが記した解説文も付けられています。例えば有名な「若紫」にはこんな解説が付けられてありました。

「少女・紫の上(藤壺の姪)との出会いと、藤壺(義母)との不義密通―物語の主題を象徴する帖。それを微動しつつも肥痩を抑制した筆触と、垂直と斜行の構成で、大事件としてではなく、背骨(バックボーン)となる帖として描き出す。」

「源氏絵」を展覧会で観てもその場面のことを知らないと上手い下手だけで終わってしまいます。書であればなおさらです。それを石川九楊の丁寧な説明によりまるで物語の一場面が浮かび上がってくるような錯覚に囚えられます。


石川九楊「盃千字文」2002年

書、評論、絵画、音楽、陶芸etc…嫌味なほどになんでもこなしてしまう「書家」の枠に収まりきらないマルチアーティスト石川九楊の展覧会。これは観ておかないといけません。同じ時代に生きたことを誇りに思えるはずです。

最後に石川九楊の言葉をいくつか紹介して終わりにしたいと思います。どれも今すぐ座右の銘にしたい言葉です。

「私は思う、現在、書にかかわる者は、まさに書にかかわることを耻辱とし、その耻辱を拠所にして、それを克服する方向を追求しつつ書く作しなければならない、と」

「夜の沈黙(しじま)の中でひっそり静かに墨を磨れ
心細かったら今も、どこかで同じようにいくるこの悲しみと苦しみとを織り込むように仕事をしている人が間違いなくいることを信じて墨を磨れ」

「今はこれが書だ―、と静かに言い切ろう。その傲慢と危うさを認めたうえで、なお」

「ぼくの書は廃墟にすっくと起って世界の無惨を見つづけるだろうか」

「芸としてはいざしらず
人間の生の苦しみや世界の痛みに衝り合う表現としての毛筆の書の命数は尽き始めている。低く、静かにそっとそのレクイエムを口ずさむことが、現在、たったひとつ残された書の可能性である」




「書だ!石川九楊展」

会期:7月5日 (水) ~ 7月30日 (日)
開館時間:午前10時~午後5時
*最終入場閉館30分前まで
会場:上野の森美術館
http://www.ueno-mori.org/
主催:石川九楊展実行委員会、日本経済新聞社
協賛:サントリーホールディングス / キーストーン・パートナース / 三洋化成工業 / 京都精華大学 / モリサワ / トンボ鉛筆 /ミマキエンジニアリング
協力:市之倉さかづき美術館 / ミネルヴァ書房 / 竹尾

「書だ!石川九楊展」公式facebookページ
https://www.facebook.com/shoda94ishikawa

「ああいいなあ、こんな書家がいるかぎり、書家の存在を捨象して、現在の造形的な芸術は語れないのだなと納得させられる」吉本隆明



石川九楊の行書入門ー石川メソッドで30日基本完全マスター