「だまし絵画家」とだまされるな!日本初の「アルチンボルド展」

2017/6/20 14:13 Tak(タケ) Tak(タケ)


花、果物、野菜から動物や道具など身の回りにある様々なものを組み合わせ、人の顔を描いたジュゼッペ・アルチンボルド(Giuseppe Arcimboldo, 1526年 - 1593年7月11日)の展覧会が上野の国立西洋美術館で開催中です。

アルチンボルドと画家の名前を聞いてピンとこない方も、この絵を観れば「あぁ~このだまし絵を描いた人ね。」とすぐに分かるはずです。


ジュゼッペ・アルチンボルド《夏》 1572年 油彩/カンヴァス デンヴァー美術館蔵
©Denver Art Museum Collection: Funds from Helen Dill bequest, 1961.56
Photo courtesy of the Denver Art Museum


アルチンボルドほど作品のイメージがひとり歩きしている画家も滅多にいません。レオナルド・ダ・ヴィンチやヨハネス・フェルメールのように、人口に膾炙していないところも逆にアルチンボルドの魅力なのかもしれません。

それにしても、《夏》では巧いこと果物を組み合わせて人の横顔を描いているものです。今の時代スーパーへ行けば何十種類もの様々な果物を手にすることが出来ますが、アルチンボルドの生きた時代にはそんなことは不可能でした。

自分の生まれた土地から一歩も出ずに同じ国で過ごしたとすると、せいぜい生涯に数種類の果物を目にするのがやっとでしょう。同じことは野菜や花、そして魚に対しても言えます。


ジュゼッペ・アルチンボルド《水》 1566年 油彩/板 ウィーン美術史美術館蔵
©KHM-Museumsverband


クール宅急便もなかった時代にこんなに多くの種類の魚を観察することが果たして可能だったのでしょうか。そうそう、すっかり忘れていましたが、アルチンボルドが活躍したのは16世紀後半です。つまり1500年代にこうした作品を描いていたのです。

トリックアート的でもあり、だまし絵的でもある点に最初は強く関心が注がれますが、しばらくすると「この時代にこれだけの花や果物、魚に動物をよくぞまぁ目にすることが出来たな」とそちらの方へ興味が移行します。

上にあげた作品《水》には実に約60種類もの水棲生物が描き込まれているそうです。単に魚で人の顔の形にしたいのならこんなに多くの種類の魚を登場させる必要ありませんよね。


ジュゼッペ・アルチンボルド《春》 1563年 油彩/板
マドリード、王立サン・フェルナンド美術アカデミー美術館蔵
© Museo de la Real Academia de Bellas Artes de San Fernando. Madrid


極めつけはこの《春》で、80種類以上の花で描かれているそうです。それでは一体どうして無駄ともいえるほど多くの種類の花や動物を用いて人の顔を描いたのでしょうか?

その答えを解く鍵はアルチンボルドが仕えた人たちにあります。イタリアのミラノで生まれ画家の父と共に教会の絵などを手掛けていたアルチンボルドは、その才能を買われ36歳の時にウィーンへ招聘されます。彼を呼んだのは後の皇帝マクシミリアン2世でした。

マクシミリアン2世が亡くなった後も息子のルドルフ2世に仕え、なんと25年間もウィーンの街で宮廷画家として過ごしたのです。だんだん答えが見えてきましたね。そうアルチンボルドは一般の人が目にすることの出来ない珍しい野菜や果物、花、そして動物などを実際に観察することが出来たのです。


ジュゼッペ・アルチンボルド《庭師/野菜》 油彩/板 クレモナ市立美術館蔵
Sistema Museale della Città di Cremona - Museo Civico "Ala Ponzone" / Museo Civico "Ala Ponzone" - Cremona, Italy


時は丁度大航海時代、博物学がブームとなっていた時代です。皇帝たちは、ヨーロッパのみならず世界中から珍しい動物や植物を集め、学者たちに研究させていたのです。

歴史に「もし」はありませんが、もしアルチンボルドが生まれ故郷のミラノに留まっていたら、こうした奇妙奇天烈な作品は生まれなかったのです。

皇帝をはじめこの絵を当時観た人たちは、だまし絵的な面白さよりもそこに描き込まれたまだ目にしたことのない異国の花や動物たちに強く惹かれたに違いありません。ワクワクしながら。

奇想の画家やトリックアート、だまし絵作家的な捉え方が先行してしまっているアルチンボルドですが、ハプスブルク家に使えた宮廷画家であり当時の最先端のものを巧みに組み合わせ人物像に仕立てたとてもウィットに富んだ人物でした。


ジュゼッペ・アルチンボルド《ソムリエ(ウェイター)》 1574年 油彩/カンヴァス
大阪新美術館建設準備室蔵


日本で初めて開催される本格的な「アルチンボルド展」。待ち望んでいた人も多いはずです。油彩作品数が少なく、所蔵している海外の美術館から借りるのがとても難しいアルチンボルドの油彩が10数点集結しています。これだけまとめて観られることは二度とないでしょう。混雑する前になるべく早めに観に行きましょう~。



「アルチンボルド展」には、もしも彼が自分の顔を描いてくれたらという夢を実現してくれるその名も「アルチンボルドメーカー」が設置されています。

アルチンボルドが描いた作品をベースに約200種類の野菜や果物であなたの肖像画を作ってくれます。しかも3Dで!もちろんここでは写真撮影OK!


「アルチンボルド展」

会期:2017年6月20日(火)~2017年9月24日(日)
開館時間:午前9時30分~午後5時30分
毎週金・土曜日:午前9時30分~午後9時
(ただし6月23日、24日は午前9時30分~午後8時)
※入館は閉館の30分前まで
会場:国立西洋美術館
http://www.nmwa.go.jp/
休館日:月曜日(ただし、7月17日、8月14日、9月18日は開館)、7月18日(火)
主催:国立西洋美術館、NHK、NHKプロモーション、朝日新聞社
協賛:損保ジャパン日本興亜、大日本印刷、ブレンボ、三井住友銀行
協力:アリタリア‐イタリア航空、全日本空輸、西洋美術振興財団
特設サイト:http://arcimboldo2017.jp/


奇想の宮廷画家 アルチンボルドの世界