本当は怖くない現代美術。インドからの刺客、N・S・ハルシャ展

2017/5/10 21:30 いまトピ編集部 いまトピ編集部



N・S・ハルシャ

ぼく「は~」

友人A「どうしたんだい?溜息なんかついて」

ぼく「GWなのに海外は高いし、どこか近場でいいところはないかなって…」

友人A「はは。そんなことかい。じゃあ、近場で都内の美術展にでも行ってみては?」

ぼく「いや、それこそ。混んでて入るのに2時間待ち。入っても、長蛇の列で、じっくり鑑賞なんてできたもんじゃないだろ?」

友人A「メディアに露出の多い一部のルーブル展や印象派あたりの展覧会ならそうだな。しかし、現代美術ならどうだい?」

ぼく「え~。現代美術って何かチンプンカンプンで難しそうというか。小難しそうというか、怖いというか」

友人A「はは。君の時間は一体いつで止まってるんだい?現代美術の重厚長大なイメージなんて、一昔前のものさ。
むしろ、最近の現代美術はポップでわかりやすく、壮大なスケールの体感型のものが多いからこそ、おすすめだ!
長蛇の列の癖に大した作品が来ていない人気展なんかよりよっぽどいい!」(※あくまでAの暴論です)


というわけで、半ばAに強引に引きずれられる形で、六本木の森美術館で行われているというN・S・ハルシャ展へ行ってきました。

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見所1:美術館なのに写真が撮れる!







ぼく「ちょ、ちょっとA。美術館でそんな写真バシャバシャ撮っちゃまずいでしょう」

友人A「入口の案内を見てなかったな?この展覧会に関しては写真OKなんだよ。古典作品の場合はまずNGだが、現代美術の場合は拡散目的で写真OKにしているケースも多い。それもまたおすすめのポイントだ」

ぼく「げ、こんな時に限ってスマホの充電が切れている…」

友人A「君もつくづく運のない男だな。ちなみに、今展では解説が収録された音声ガイドも無料貸し出しされているからお得だぞ。無論、今回はこの私がついているから、そんなものは不要だがな!」

ぼく「(い、いや、せっかく無料で借りれるんなら、借りたいが…)」

※参考記事
森美術館で日本初の「#empty」開催。美術館のソーシャル戦略を問う(美術手帖)


見所2:グローバル VS ローカルに萌える!








N・S・ハルシャ「私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る」(部分)

友人A「ふむ。まずは、ハルシャの初期の代表作。『私たちは来て、私たちは食べ、私たちは眠る』からだな」

ぼく「うわあ。細かくビッシリ描かれているね。壁画みたい。ああ、確かにこういう絵ならとっつきやすいかも」

友人A「壁画スタイルというのは、いい着眼点だ。あと繰り返される同一モチーフの【反復】もな」

ぼく「それが代表作ということと何か関係あるの?」

友人A「あるさ。この代表作以降、壁画スタイルによる同一モチーフの反復というのが、この作家のトレードマークとしてカッチリ確立する。だからこその代表作なんだ」

ぼく「なるほどね。一種のブランディングだね」

友人A「アントニオ猪木における『元気ですか?』みたいなもんだ」

ぼく「(その例え、今いらないような…)内容的には、人の移動・食事・睡眠がテーマになっているんだね。まあ、そこは万国共通というわけか」

友人A「そう。そういうハリウッド映画ばりの王道テーマを選びつつも、実際に描かれている内容は、インドのふつうのおっちゃん、おばちゃんという…。まず、このギャップに萌えてほしい」

ぼく「ギャ、ギャップ萌えか…」

友人A「膨大な数の人に混じってちょいちょい虎や幽霊、謎の人物が混じっていたりといった、細かいギャグも見逃すなよ」


「ここに演説をしに来て」展示風景


「ここに演説をしに来て」(部分)

友人A「反復系の作品の集大成とも言えるのが、この『ここに演説をしに来て』だ」

ぼく「2000人もの数の人が描かれているんだね」

友人A「そう。しかも、ひとりひとり姿、形、表情もちがう」

ぼく「ところどころ、スーパーマンやバットマンとか、おかしな人物も混じっているみたいだけど…」

友人A「そうした引用ネタを探すだけでも、見飽きないよな」


「煙が上へ、下へ、きみはいつも僕を探している」(『チャーミングな国家』シリーズより)

友人A「これもハルシャの初期の代表作『チャーミングな国家』シリーズからの一枚だ」

ぼく「煙つながりで、インド古来の供養の儀式とスペースシャトルの煙という対比がシュールだね」

友人A「このシリーズはインド社会が抱える様々な問題や現状を描写しているからね」

ぼく「グローバルVSローカルみたいな?」

友人A「そう。現代作品ならではの風刺やあるあるネタにウンウンとぜひとも共感してもらいたいものだ」


「染まってゆく偉大なインド人」(部分)


「溶けてゆくウィット」(部分)


見所3:体験型の作品が多数!



ぼく「うわ! いくらインドの作家の展覧会だからって、カレーの食べ残しがこんなに会場に…」

友人A「バッキャロー! それは『レフトオーバーズ(残り物)』という作品だ!」

ぼく「え? このハルシャさんって絵描きじゃなかったの?」

友人A「基本はそうなんだが、立体や空間展示、地元とのコラボなど、色々こなせてこその現代美術という側面もあるのでな」

ぼく「現代美術家って、多芸じゃなくちゃいけないのね」

友人A「そういう引き出しの多さを求められる点は確実にあるだろうね」

ぼく「あ、このカレー。よく見たら偽物だ」

友人A「偽物というか。食玩だからな、それ」

ぼく「ああ。あの飲食店のガラスケースでよく見かける…」

友人A「そう。来日した際に、日本の食玩技術に出会って生まれた作品らしいぞ」

ぼく「ふつう食べる前の完品に使う食玩技術を、あえて食べ残したものに使うというあたりが…」

友人A「ふむ。そういう逆転の発想がいかにもアーティストらしいよな。展覧会では、この『レフトオーバーズ』以外にも、広大な空間を活かした体験型の作品が目白押しだ!」

ぼく「なるほどね。確かにぼくが今まで見てきた近代以前の美術展だと、こういう馬鹿でかい作品ってなかったかもしれない」

友人A「そう。最早、現代美術展のお約束とも言っていい、空間展示を体験しにいくのも楽しみのひとつだろう。今回のハルシャ展でも、様々な空間展示が楽しめるぞ」


「レフトオーバーズ(残り物)」展示風景




「空を見つめる人々」展示風景


「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」展示風景


「ふたたび生まれ、ふたたび死ぬ」部分

(展覧会を見終って)

ぼく「うん。確かに面白かった。今まで、現代美術の展覧会って何か小難しそうで避けていたけど、今日のは良かった」

友人A「君のさもしい人生観すら変わったというなら幸いだ」

ぼく「いや、そこまで言ってねえよ。さもしいって何だよ」

友人A「さあて、今展の見所のまとめだ」

ぼく「人の話、聞けよ」

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N・S・ハルシャ展の見所のまとめ

1:写真がバシャバシャ撮れて、SNS的にも魅力!
(写真を撮る際はフラッシュNGなど注意書きをご確認ください)

2:グローバルVSローカル問題など、現代美術ならではのあるあるに共感できる!

3:大規模な作品展示に圧倒されるという体験型の作品多数!





N・S・ハルシャ展 -チャーミングな旅-
■日程:開催中~6月11日まで
■時間:10時~22時(火曜は17時まで)
■場所:森美術館
http://www.mori.art.museum/jp/index.html



(いまトピ編集部/塩川)