【なぜ出っ歯にメガネ】海外メディアに描かれる日本人像が酷すぎるワケ

2017/5/18 19:01 服部淳 服部淳


どうも服部です。昭和の映像を紐解いていくシリーズ、今回は太平洋戦争中にアメリカ海軍の提供でつくられた2本のアニメーション映像をピックアップしました。

映像は、日本でも何度も放送されているアニメ番組「ウッディー・ウッドペッカー(映像はこちらで見られます)」の作者である、ウォルター・ランツによって制作されたものです。

【動画】「Mr. Hook #1: "Take Heed Mr. Tojo" US Navy 1943 World War II Cartoon, Technicolor」



1本目の映像タイトルは、“TAKE HEED MR. TOJO(著者訳:トウジョウ氏にご用心)”。もちろん、当時のアメリカ人に一番悪名高かった日本人であろう、太平洋戦争開戦直前から1944年(昭和19年)まで首相を務めた東條英機氏に因んでいるのでしょう。

開戦3年目の1943年に制作された、テクニカラーという技術を使ったカラー映像です(テクニカラーについてはこちらで説明しています)。


映像の内容は、今回記事ではさほど重要ないのでざっくり説明しますと、時は10年後の1953年、太平洋戦争の終わっている世界線のようです。


見るからに悪ガキっぽい少年が、この映像の主人公であり、少年の父親であるフックさんをおもちゃの銃で叩き起こすことに始まります。


「どう、怖かったでしょ」と尋ねる少年に(やっぱり悪ガキ)、「銃なんか怖いもんか。なにせ、俺は銃なしにゼロ戦を落としたんだから」とフックさんは誇らしげに語ります。


時は1943年に戻ります。太平洋上を航海中の空母にてフックさんが掃除係(息子にはうそぶいてますが)としてモップをかけていると、突如電報室から「日本軍機発見。捕らえよ」という指令書を渡されます。慌てて艦長に届けにいくと……


急な大役を受け動転したようで、うまく説明できないフックさんは、日本軍が来たということを伝えるためにこの表情。出っ歯に吊り目です。


すぐに米軍飛行隊が出撃していきますが……


なんと日本軍のトウジョウ氏は、雲の中に隠れてやり過ごし、


単機、フックさんの空母に向かって突進していきます。トウジョウ氏も見事に吊り目に出っ歯です。


なぜかフックさんを狙い撃ち。


命からがら(アメリカアニメ特有の)壁を突き破ると、その部屋にはポスターが多種積み上げられていました。
「ゼロ戦を落としてヒーローになろう。戦時債券(WAR BONDS)と共に」
「日出ずる国をあなたの銃がごとく戦時債券で沈めよう。戦時債券は弾薬です」




それらポスターを見て、勇ましい気持ちになったフックさんは、(たまたま)その部屋にあった飛行機の操縦入門書とポスターの束を飛行機に積み込み、入門書を読みつつ飛び立っていきます。


その後は、雲の中で待機していたトウジョウ氏と素手でポカポカ殴り合ったり、空中、はたまた海中で追い回し、追い回され、「ウッディー・ウッドペッカー」と変わらぬドタバタ劇が繰り広げられます。




最後は積み込んでいたポスターの束をトウジョウ氏の飛行機にぶん投げると、命中。




トウジョウ氏の飛行機は小島に墜落。出っ歯と飛行機の後部だけが残って終わります。


再び1953年のフックさんのお宅。ゼロ戦の後部が飾られている部屋で、戦時債券がいかに有用なものか子供に問いて終わります。米海軍提供のこのシリーズは、戦時債券購入を海軍関係者に促すためのプロパガンダ映像だったのです。



【動画】「Mr. Hook: "Tokyo Woes" 1945 US Navy Training Cartoon World War II Mel Blanc」



2本目の映像は、1945年(昭和20年)に制作された同シリーズ。タイトルは“TOKYO WOES(著者訳:災難な東京)”。予算が減らされたのか、戦時債券の募集はそれほど必要なくなったのか、モノクロ映像になり、前作は7分ほどあった尺も4分ほどと短縮されています。


「東京」の札が付いたマイクでしゃべるのは、これまた吊り目に出っ歯で黒縁メガネとステレオタイプな日本人像で、日本人の英語の発音を模したと思われる話し方の男性(RとLの発音があやふやなど。Rの発音が凄い巻き舌なところは、日本人ぽくないですが)。「ここで尊敬すべきアナウンサーを紹介します」とアナウンスすると、




扉の向こうにいたのは「東京ローズ」。連合国軍兵士に向けて英語で放送していた、日本のプロパガンダ・ラジオ番組の女性アナウンサーのことです(詳しくは「【東京ローズって誰?】太平洋戦争中に米兵たちを魅了した日本の女子アナ」をご覧ください)。当初はおしとやかそうに見えますが、


口を開くとこの表情です。


さらにもう一人、男性アナウンサーも。この人はしゃべるたびに歯がマイクにぶつかっています。


ちょうどそのラジオを軍艦内で聞いていたフックさんでしたが、戦時債券が茶化されていることに激怒。


素手で砲弾を日本に向けて投げ付けます(アニメなのでもちろん届きます)。




砲弾は東京ローズのところまで飛んで行くと、中から戦時債券を擬人化したような人形が出てきて、爆弾のお土産。


お約束通り爆弾は爆発、前作のように出っ歯が、そして男性たちのメガネ、東京ローズのカツラだけが残る結末です。


一方で戦時債券を購入したフックさんは、戦争終結後、戦時債券の擬人化人形からお金やタキシード、車をもらい……、


さらにはセクシーなお姉さんまで手に入れて、顔中キスマークまみれにされましたとさ。

まあ、戦時中の交戦国の人間を醜悪に描くのは仕方ないとして、この悪意に満ちたステレオタイプな日本人の描き方は、戦争が終わっても、すぐになくなるワケではありませんでした。




画像引用元:YouTube ムービー((C)1961 by Paramount Pictures Corporation and Jurow-Shepherd Productions. All Rights Reserved.)

有名なところでは、1961年(昭和36年)に公開のオードリー・ヘップバーン主演映画「ティファニーで朝食を」に出てくる、日系アメリカ人のユニオシ(上の画像の人物。演じているのは白人俳優の故・ミッキー・ルーニー氏)が、出っ歯に丸メガネという出で立ちで、“TOKYO WOES”の冒頭に出てくる日本人英語を模したような話し方をしていました。

メガネは分からなくもないですが、なぜゆえ出っ歯が日本人のイメージなのでしょう。

そのルーツは、結構前にあったようです。




画像引用元:ワーグマン日本素描集(岩波書店)

こちらは江戸時代末期に来日し、幕末史好きならお馴染みの、イギリス公使ハリー・パークスや通訳のアーネスト・サトウらと行動を共にした、画家兼通信員のチャールズ・ワーグマンが1875年(明治8年)に描いた作品です(「ジャパン・パンチ」明治8年8月号掲載)。


描かれている日本人の顔を拡大したものがこちら。出っ歯にメガネの日本人像が、すでにできあがっていました。拡大していない方の絵を見ると、馬までメガネをしています。

「ワーグマン日本素描集(岩波書店)」によると、明治初期の日本には、出っ歯の人が多く、その原因は栄養状態が悪かったからだといわれているそうです。

一方で、メガネについては「明治以降、日本人に目がねが急速に普及したのは、視力が弱いからではなく、ファッションとして広がった(以上、引用)」のだそう。


画像引用元:ワーグマン素描コレクション 下(岩波書店)

続いての絵は、「西南戦争に出陣する政府軍のラッパ手」だそうで、こちらも出っ歯にメガネです(「ジャパン・パンチ」明治10年2月号掲載)。

ワーグマンはもともと、英国の「イラストレイテッド・ロンドン・ニューズ」という週刊新聞の特派記者(兼画家)として訪中、その後来日。本業とは別に、横浜の居留外国人たちのために「ジャパン・パンチ」という風刺雑誌を発行しており、このようなイラストと風刺のきいた文章を掲載していました。


画像引用元:ワーグマン日本素描集(岩波書店)

最後の1点は、描かれている全員が出っ歯にメガネという作品(「ジャパン・パンチ」明治15年5月号掲載)。ワーグマンが描いたこれら作品が世界中に渡り、外国人が描く日本人像の元になったというのが通説のようです。

ちなみに、ワーグマンは日本人女性と結婚していたこともあってか、出っ歯の日本人女性は描かなかったそうです。引き続き、歴史の1ページを紐解いていければと思います。

(服部淳@編集ライター、脚本家) ‐ 服部淳の記事一覧



※参考文献
・ワーグマン素描コレクション 下/芳賀徹、酒井忠康、清水勲、川本皓嗣、新井潤美 編(岩波書店 2002)
・ワーグマン日本素描集/清水勲 編(岩波書店 1987)