アイドルから歌手、スポーツ選手、作家、美術家、音楽家、舞踏家、歌舞伎役者までこれまで写真家篠山紀信の被写体となった人は数知れず。その中にはジョン・レノンとオノ・ヨーコの最後の写真も含まれます。

写真家の展覧会が美術館で開催されることは稀なことですが、篠山紀信に関しては別。「篠山紀信展 写真力」は2012年から今年の2月まで国内27か所の美術館を巡回し大きな話題となりました。

ひとりの写真家の個展をまだ存命中に日本各地の公立を含む美術館で開催すること自体異例なことですが、それも何も全て「篠山紀信だから」で理由付けがなされてしまうのが篠山紀信の篠山紀信たるゆえんでしょう。


「LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN」© Kishin Shinoyama

50年の長きにわたり時代を写してきたと言っても決して過言ではない篠山紀信が、75歳を過ぎて次なるターゲットとして狙いを定めたのが「ラブドール」。そう所謂ダッチワイフです。

1991年に発売された宮沢りえのヌード写真集「Santa Fe」は社会現象となり、現在でもその余波は収まる気配がありません。

また過激な写真で警察沙汰になることもこれまで経験してきたそんな篠山紀信が被写体に選んだのがラブドールというのですがら、少し驚かれるかもしれません。

それはラブドールに対する認識不足から生じる齟齬なのでしょう。ダッチワイフ「南極2号」と今の製品とでは雲泥の差があり、現在販売されているラブドールはもはや芸術品の粋にまで達しているのです。



昨年、銀座にあるヴァニラ画廊で開催された展覧会「人造乙女美術館」での主役もこのラブドールたちでした。意外や意外男性よりも女性のお客さんが多く訪れ大盛況となりSNSでも大きな話題となりました。
http://bluediary2.jugem.jp/?eid=4328

東京藝術大院卒→オリエント工業の造形師が、究極の機能美を追究した先に見た「ドール×Tech」の未来
http://type.jp/et/feature/162

最新の本物のラブドールに触れさせてもらい、まじまじと見せてもらったのですがそれまで心の底に抱いていた偏見のようなものがきれいさっぱりと吹き飛びました。まさに芸術品です。これは。

そうでなければ、これまで数多のアイドルや女性のヌード写真を激写してきた篠山紀信のお眼鏡にかなうわけがありませんよね。


「LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN」© Kishin Shinoyama

よくよく考えてみると人間を撮るよりもラブドールを被写体とする方が困難をともなくことが多いはずです。例えば「目線少し下げて」と篠山紀信が指示しても当然動いてくれません。また好みのポーズをとらせるまでも試行錯誤の連続でしょう。

とりわけ、こうした野外での撮影は通常のモデルさんの撮影より何倍も時間を要したはずです。「人形」と思わせないと同時に「人形」であることも分からせなくてはなりません。その微妙な匙加減を一体どのようにして行ったのか是非伺ってみたいところです。


「LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN」© Kishin Shinoyama



篠山紀信がラブドールを激写した写真が観られる展覧会が4月29日（土）より東京渋谷にあるアツコバルーarts drinks talkにて開催となります。

ラブドールという未知の世界に挑んだ篠山紀信が一体どのようにフレームに収めたのか。そして敢えてラブドールを撮ろうとした目的は何か。会場で詳らかになるでしょう。


「LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN」© Kishin Shinoyama




篠山紀信 写真集『LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN』

篠山さんが初めて撮影に挑んだラブドールの写真観たいけど期間中に渋谷まで行けない…という方に朗報です。小学館より篠山紀信 写真集『LOVE DOLL×SHINOYAMA KISHIN』が展覧会に先駆けて発売となっています。

出版社の中でも硬派な小学館さんがラブドールの写真集を出すとはこれまで驚きですが、単なる変化球でなくあくまでも芸術作品を扱う写真集として直球勝負に出ている一冊なのです。

以下の紹介文からも編集担当者さんの熱いラブドール愛が伝わってきます。