京都祇園の新名物?「盆栽パフェ」が食べられるBar『さとりえ工房』へ行ってきた!
▲BARカウンターで、ほがらかなママと差し向かいでいただく「盆栽パフェ」。このスイートなひととき、最高のお花見ですよこれは
こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
こちらでは毎週、僕が住む京都から耳寄りな情報をお伝えしており、今回が33回目のお届けとなります。
さて、4月はお花見のシーズン。京都の桜も見ごろとなり、ブルーシートの陣取り合戦が火蓋を切って落とされました。桜を見たい人たちによる桜人(おうにん)の乱が激化。このままヒートアップすれば花より先に血を見ること必至。実際の話、あまりにも人が集まりすぎて危険なため、30年近くも続いた桜のライトアップを中止した自治体もあるほどなのです。
そんな京都の桜を独り占めにし、ゆったりと楽しめる穴場があります。しかも桜を愛でながら、おいしいスイーツまでいただけるというから、花より団子、いや「花も団子も!」という欲張りさんにはもってこいなスポットなのです。
場所は京都を代表する一大歓楽街、祇園。
花見ができてスイーツまでいただけるという奇特な場所は、スナックビルが林立する一画にあるとのこと。
噂の桜の園のドアを開けると、そこはカウンターの中にママがひとり立つ、いわゆる「BAR」。BARで桜を? BARでスイーツを? 意外性が早くも満開です。
▲ムーディなほの灯りの「さとりえ工房」
ここは今年2017年の3月10日にオープンした、洋食とスイーツがいただけるBAR「さとりえ工房」。ケーキのオーダーメイドに応じるパティスリーを兼ねているので“工房”と名付けたのだそう。
▲料理もお菓子づくりも腕利きなさとりえママ
▲チャームポイントのぽってりリップがお店のシンボルマーク
ママの名前は「さとりえ」さん(37歳)。ぽてりとした唇がチャーミングな方です。東山で生まれ育った生粋の京女。同じ東山で開店44年目を迎える『手作りの洋食屋さん 里』の娘さんでもあります。BARなのにハンバーグなど庶民的な洋食メニューがいただけるのも、そのため。
さとりえ
「父が起ち上げた洋食屋の娘です。店の2階が住まいだったので、小学生の頃にはもう厨房に入り、コックだった父の料理を手伝っていました。料理をつくるのは大好きでしたね。中学生になったらフライパンを振っていましたし、クッキーは自分で焼いていました。父は手作りにこだわり、食材も京都市中央卸売市場から直接仕入れるなど、おいしいものを安く提供したいという信念がある人で、私もそんな父にならって料理を憶えました。『さとりえ』とは私のあだ名です。本名が“理絵”なので、ずっと“里のりえちゃん”と呼ばれていて、次第に“さとりえ”と短くなっていったんです。3月10日にオープンしたのも“さと”の日だから」
なるほど。つまり、この「さとりえ工房」は本店「里」の味を広く伝えたいという想いが実っての、念願の2号店なのですね。
▲44年の歴史を誇る本店「手作りの洋食屋さん 里」
▲本店「里」の素朴な洋食を祇園でいただける(祇園なので本店より少しお高め。しかしそれでも祇園では破格に安い)
ベテランシェフである父譲りの腕で、ほっとする料理でもてなしてくれる、さとりえママ。そんなさとりえ工房のもうひとつの目玉が、デザインを凝らしたスイーツ。祇園のBARで手作りの洋菓子が味わえるだなんて、かなり意外なのですが。
さとりえ
「本店の里が“女坂”と呼ばれる、女子大や女子高が周囲に多く集まる場所にあるため、スイーツメニューは欠かせないものでした。おいしいスイーツがあると、お客さんの反応がぜんぜん違うんです。人って、おいしいお菓子を食べたとき、めっちゃ感激するでしょう? お客さんが喜んでくれる顔を見て、『甘いものが人を幸せにする力ってすごいな』っていつも思っていたんです。だからこの祇園でお店を始めるにあたって、本店と同じようにスイーツはやろうと決めていました。手作りの甘いお菓子で、お勤めを終えられた方の疲れをいやせたらいいなと思っています」
そんなさとりえママの肩書は「ケーキデザイナー」。お客さんをコミカルにデフォルメした似顔絵や、ケーキの概念をぶっちぎるほど奇抜なオーダーにも誠実に応えた驚異の造形など、これはまさにデザイナーと呼んで然るべき出来映えです。
▲さとりえママのデザインがさく裂したスイーツの数々
▲食べられる似顔絵付きケーキ。オーダーメイドには極力応えてくれる
▲岩風呂を模したケーキ
▲パチスロから「ラーメン鉢につかる人」までなんでもケーキに
さとりえ
「ケーキデザイナーという肩書は、このお店を開くときに『憶えてもらいやすいものはないかな~』と思ってつけました。お菓子づくりは十代の頃からやっていましたが、製菓の技術は独学ですね。お菓子の専門書を読んで、何回も何回も失敗を繰り返しながら憶えました。有名店で修業をしたわけではないし、師匠もいませんので、パティシエールを名乗ることはしないです」
確かに、これまで手掛けられたスイーツには、製菓の伝統や常識から解放された自由なセンスを感じました。ホワイトチョコレートに描いたイラストがとても活き活きとしていてほほえましい。ユーモラスなイラストを採り入れるようになったのは2年前に知り合いの方のウエディングケーキを依頼されたことがきっかけなのだとか。
では、そもそもなぜこんなに絵がお上手なのでしょう。
さとりえ
「小さい頃から絵を描くのが大好きで、幼稚園の頃から絵画コンクールで賞状をもらったりしていました。ひいおじいちゃんが画家だったそうで、遺伝しているのかもしれません。そしてもっと絵の勉強をしたくって京都造形芸術大学では日本画を学びました。ただ……」
ただ……?
さとりえ
「将来は『画家になりたい』という夢はあったけれど、現実は厳しかったですね。実は当時、母が病気で倒れまして、介護と店の手伝いに追われました。家族を背負うことになったので、父とふたり、とにかく繁盛させることに必死でした。そんな日々が2年ほど続いた頃、『自分は何のために生きているんやろう』ってつらくなってきて……。私がアートの道へ進みたいと思っていることを知っていた父が『飲食店に活かせるものを身につけてみてはどうや』と勧めてくれて、それでフルーツカービングの資格を取ったんです」
そう、さとりえママのもうひとつのスキル、それは「フルーツカービング」。祇園では古くからお祝いにフルーツを贈る習慣がありますが、表皮に彫刻を施してくれるサービスはこれまでなく、注文が相継いでいるのだそう。芸は身を助くとは、まさにこのことですね。ほかにもフラワーアレンジメントも体得し、華やかさを演出する技術と感性がお菓子作りにもフィードバックしています。
▲フルーツカービングでもスゴ技を発揮
そして! さとりえママのデザインとスキルを存分に味わえるのが、先述した“桜を愛でながらスイーツをいただける”その名も「盆栽パフェ」。
▲桜と松の「盆栽パフェ」(1650円 税込)。意外にも注文するのは男性の方が多いのだとか
祇園にBARを開くおり、店の特徴をわかりやすく伝えたいと思い、考案したものなのだそう。鉢植えを模したパフェの上で桜と松が見事な枝ぶりを魅せています。これでもう花見の混雑とはおさらば。爛漫たる桜を独占しながらスイーツもいただけ、なにより京都を実感できる“雅”なパフェなのです。
パフェの構成は、まず植木鉢ふうの陶器に、抹茶アイスクリーム&カモミールアイスクリーム、抹茶プリンorカスタードプリン、小倉あん、白玉、いちご、生クリーム、粉抹茶、土に見立てたグラノーラを敷きます。ここまでが先ず盆栽でいうところの「用土」。
▲植木鉢をイメージした器にアイスクリームと自家製小倉あん。アイスクリームは抹茶とカモミールティーの2種類が入っている
▲抹茶プリンorカスタードプリンの2択。プリンはほろにがいレトロテイスト
▲木の幹を立てる重要な役目を果たす生クリームをたっぷりと
▲手作りグラノーラを敷き詰め、土に見立てる
続いては桜と松の樹々。チョコレートプレッツエルでこしらえた枝に、いちごチョコレートでできた桜、抹茶チョコレートでできた松を、さらにチョコレートコーティングした枝に配して枝棚をつくり、鉢に挿します。植物は季節によって変え、次は蘭を予定しているのだそう。
▲チョコレート製の松と桜。松は抹茶味。桜はいちご味
▲濃い目の生クリームに桜の木を静かに挿し込む
▲チョコレートプレッツエルにさらにチョコレートをコーティング。そこに花を貼り付けてゆく
▲おしべは別のチョコレートを使う凝りよう
素材はほぼすべてが、さとりえママの手作り(グラノーラまで自家製!)。お父様のハンドメイドイズムが盆景となって伝承されています。値段は1650円(税込)。ちょっとお高い気もしますが、祇園というスペシャルな場所で、チャージ料金も取らず、しかもこの手の込みようを鑑みると、むしろ安いくらいではないかと。
ではさっそく、いただきます! ほぉ……(頬がほころぶ)。なんとおいしい。濃厚で甘酸っぱい桜の花とチョコレートプレッツエルのさくさく感が絶妙にマッチ。そして抹茶プリンの“ほろにが”がもうたまりません。
さとりえ
「抹茶プリン、おいしいですか? 東山にある宇治茶の銘店『大谷園茶舗』製の良質な抹茶を使っています。抹茶プリンは自信があって、本店の里でもずっとむかしから私がつくっています。実は抹茶プリンを提供することは父から猛反対されたんです。父はプリンと言えばカスタードという世代ですから『そんなおかしなもんつくるな』って。大喧嘩して、それでも負けずにメニューに加えました」
お父さんと争ってでも食べてほしいと願った自信作の抹茶プリン。その情熱が、鉢の上で艶やかに開花しています。冷たいのに、食べるとあたたかな気持ちになる不思議なパフェなのです。
さとりえ
「わたし、人に喜んでもらうことがすごい好きなんです。将来は“年中クリスマスみたいな雰囲気のお店”を開くのが夢。おいしいだけではなく、テーマパークのように華やかで楽しいお店がやりたいんです。そして世界中の子供たちにお菓子を届けられるサンタクロースになりたい。60歳くらいには実現したいんです」
一年中クリスマスムードに包まれた店に。ほがらかな笑顔で迎えてくれるさとりえママなら、いつかその願いをかなえられる気がします。そのときは盆栽パフェに、モミの木やヒイラギのバージョンが生まれているかもしれませんね。
名称●さとりえ工房
住所●京都市東山区新橋通大和大路東入林下町420番地 日宝バッカスビル3階B号室
電話●075-741-7994
営業時間●20:00~AM3:00
休館日●日曜・祝日&不定休(要確認)
Facebook●
https://www.facebook.com/satoriekoubou/
「手作りの洋食屋さん 里」
https://www.tedukurinoyoushokuyasan-sato.com/
(吉村智樹)