生田斗真「母性が膨らんだ」映画「彼らが本気で編むときは」初日舞台挨拶レポ

2017/2/25 16:31 柚月裕実 柚月裕実





「本日はわざわざ起こしくださってありがとうございます。こんな天気のいい日に「彼らが本気で編むときは」を選んでくれてありがとうございます。世の中ではプレミアムフライデーなんていって盛り上がってますけれど、今日はみなさんにとってプレミアムサタデーになっていただけれたらと思ってます。苦笑いありがとうございます」

登場の挨拶から清々しい笑顔を見せた生田斗真。
映画上映後の余韻を残したせいか、静かに舞台挨拶がスタートした。

2月25日から公開の映画『彼らが本気で編むときは』の初日舞台挨拶が同日、都内映画館にて行われ、主演の生田斗真、桐谷健太、柿原りんか、荻上直子監督が登壇し、上映後の余韻に浸る客席を前に晴れやかな笑顔をみせた。


■映画「彼らが本気で編むときは」初日舞台挨拶レポ

「改めまして足元の良いなか起こしいただきありがとうございます。たくさん喋りますので挨拶はこのへんにしておきます」
桐谷健太も笑いを誘う。
「毎日この日を待っていた」と子役の柿原りんかもハキハキとした口調で挨拶、「この日を迎えられて嬉しい」と荻上監督も続く。


本作は2月9日〜19日に開催された第67回ベルリン国際映画祭において、パノラマ部門、ジェネレーション部門の2部門に選出。観客賞(2nd Place)に続いて、LGBTをテーマにした全37作の中で優れた作品に贈られる「テディ審査員特別賞」を受賞、邦画作品としては初となる快挙を成し遂げた。

「ベルリン映画祭に行かせてもらい現地の方々やたくさんの方々にこの映画が届いてくれたなと、すごくいい手応えを持って日本に帰ってくることができました。本当にいい思い出です」

映画祭に参加した感想を聞かれると、生田は自信にあふれる表情をみせて笑顔で語った。
続いて桐谷、
「海外の映画祭ははじめてだったので、劇場で上映後に、本当にみなさんがスタンディングオーベーションをしてくれて、ずっとあったかい拍手を長い時間してもらえたときに、なんかしみじみと嬉しく感じました」

桐谷の報告を受けて、司会者から感想を聞かれると生田は「うれしかったでーす!」、すかさず桐谷が「小学生か!」とツッコミを入れる。
恋人役を演じた二人ならではの息ぴったりな様子を覗かせた。

会場の外を歩いていても、映画をみたことなどたくさん声をかけられたことなど反響を体感したようだ。

はじめての海外がベルリン国際映画祭という柿原りんか。「レッドカーペットを歩かせていただきいい経験をさせていただききました」
続いて荻上監督も、
「思いがけないところで笑い声がおきて、キャラ弁の猫のキャラ弁とか、ほんとドッカンドッカンうけてましたよね。意外な感じでした」
日本とはまた違う反応を感じたようだった。



双子の母でもある荻上監督

ここで壇上にクマの形をしたトロフィーが運ばれてくる。
トロフィーを手にした生田は、ラウンドガールのようにお披露目すると会場からも笑いが起こる。 「ずっしりと思い」というトロフィー。

「ベルリンの道路の石なんですって。なぜ重いかっていうと、これをウェポン(武器)にして、こう、戦おう。マイノリティー戦おうという意味があると聞きました」
荻上監督の情報に改めて関心を寄せる一同。

柿原に渡ると、生田と桐谷が「マイク持ってるから」と寄り添って支える。
自然と役どおりの振る舞いが見えたのがほほ笑ましい。

トロフィーが桐谷に渡る寸前に生田が「すっげー重いよ」と前フリ。「見た目こんなにちっちゃいねんから…」としつつ「重いです」と期待どおりの感想を漏らす桐谷。

テディ賞は37作品の中から審査員7名、全員一致で選ばれたという。 審査員から賞賛のコメントが寄せられていた。

「審査員、全員一致での決定でした。審査員の中で最も絶賛されたのが「彼らが本気で編むときは」が、子供の目を通してセクシャルマイノリティの家族を描いた点です。主演のリンコの役作りは実に説得力があり、彼女を広い心でおおらかに見守る恋人と、胸を締めつけるほど愛おしい子役の存在は、我々審査員の心を揺さぶり続けました。日本作品でありながら、世界に十分アピールできる家族の物語になっていましたし、その証拠に一般の観客の評判が最もよい作品だったことも私たちが納得して審査員特別賞を授けるにふさわしい作品だと思ったのです」

設立から31年目のテディ賞。邦画の受賞は今回が初。史上初の快挙を成し遂げた。

「いいリアクションを、笑うところもわーって笑ってくれるし、お弁当が出てきたら『こんなのみたことないよ』っていいリアクションをおこしてくれたので、嬉しいです」
生田が生き生きと語る。世界的に認められた事に対しては、
「日本映画おもしろいでしょ!って思ったし、これからの日本映画の可能性をもっと広げていくべきだと思ったし、自分もその力添えを少しでもできればいいなととっても強く思いました」

生田の熱いメッセージに桐谷も続く。
「嬉しいですよ、もちろんあの、賞をとろうと思って僕達は演じているわけじゃないので、いい作品をと思って作ってる思いが改めてよかったよって賞をもらえると本当に純粋に嬉しいですし、ありがたいです」
心の広さがでていたと評されたことを受けて、「でちゃったね」と笑いをとることも忘れない桐谷。

監督も作品に対する想いを語った。
「いまあの、トランスジェンダーの役はトランスジェンダーの人が演じなきゃいけないムーブメントがいまアメリカでおきていて。ヨーロッパとかで。で、生田さんが演じてくれた役は本物のトランスジェンダーが演じなければならないという意見もあったんですけど。なので全然期待してなかったんですこの賞を。ほんとうにびっくりしましたし、嬉しかったです」

ベルリン国際映画祭プログラミングディレクターは作品をこう評した。
「主人公の3人は普通の家族ですが、周りの人たちには普通とみられていない。「彼らが本気で編むときは」を見る人はふつうとは何かということを問いかけられているのがおもしろさの一つでもあるんですよ」

今回のやりたかったことは、そのまま言葉にしてもらったと荻上監督。
「ことさら声を大きくして、LGBTに対する偏見をやめましょうとか差別をやめましょうとかをそんなことが言いたかったわけではけしてなくて、色んな人がいていいよねって、いろんな家族と愛の形があっていいんだよね、ということをやりたかったことなので、すごく嬉しい言葉です」

海外在住経験や双子を出産したことなど、監督自身の経験が存分に生かし、いまだからこそ描けた映像作品といえそうだ。

母親がわりのリンコを演じた生田斗真と娘のようなスタンスを演じた柿原りんか。
司会から「母からの愛情を感じましたか?」の質問に、柿原は「はい!」と元気よく答える。

頰を緩ませた生田は、
「本当にあの、りんかちゃんがとってもとっても可愛らしくて、守ってあげたいなって思ったし、自分でいままで感じた事のないような胸の痛みというか、僕の中に、奥底に隠れているちいさなちいさな母性みたいなものがこの期間中はボンと膨れあがっていたようなきがしますね」


■「カタチなんてあとから会わせればいい」――映画「彼らが本気で編むときは」あらすじ

男性として幼少期を過ごしてきたが、性別適合手術を受けて女性となったリンコ。 トランスジェンダーの女性リンコと、彼女の心に惹かれた恋人のマキオの前に現れた少女トモを通じてストーリーが展開していく。

生田も映画『土竜の唄』シリーズでみせる迫力あるキャラクターからは一変、繊細な心境を見事に演じた。
懐の深さが伝わる演技が評されるなど、リンコの全てを受け入れるマキオ役に桐谷健太。 若手俳優の競演により、日本映画を世界に伝える大きな役目を果たした。

映画『彼らが本気で編むときは』2017年2月25日(土)、新宿ピカデリー、丸の内ピカデリーほか全国ロードショー。


(柚月裕実)