テレ朝「土曜ワイド劇場」が40年の歴史に幕、「10時またぎガール」はいずこへ?
「プレミアムフライデー」と聞くとつい「はなきんデータランド」からの「欽ちゃんの週刊欽曜日」まで一気に思い出してしまうテレビっ子世代のみなさんこんばんは。バブル時代研究家のDJGBです。
ところで先ごろテレビ朝日は、4月から日曜午前10時に2時間ドラマ枠「日曜ワイド」を新設することを発表しました。これに伴い、1977年にスタートした土曜午後9時の「土曜ワイド劇場」の歴史にピリオドが打たれます。
夜9時は土曜ワイド劇場「パーフェクト弁護士・南蛇井律子」#財前直見 がちょっと変わり者のやり手弁護士を演じる新作誕生!
— テレビ朝日宣伝部 (@tv_asahi_PR) 2017年2月11日
敷島あかり(#平山あや)が遺産相続の相談に現れ、本当の娘を名乗る綿貫紗英(#西原亜希)が遺産相続を要求してきたという…。#黒沢かずこ #渡辺いっけい #市川知宏
今日は40年にわたる「土ワイ」の歴史の一端をふりかえってみましょう。
■幼少期のトラウマに!おどろおどろしいオープニング
事件を予感させるオープニングテーマは、二時間ドラマのマストアイテムです。「土ワイ」でも数パターンが制作されていますが、特に印象が強いのは1979~1993年まで使用された2代目テーマでしょう。チカチカしながら動き回る赤・青・貴・緑の円に、フィルム撮影による陰影が重なり、独特の雰囲気を醸しています。
作曲は、「仁義なき戦い」のテーマを手掛けたことでも有名な津島利章。わずか20秒足らずにも関わらず、幼少期の記憶をこれだけ喚起してくれる映像作品は他にありません。このオープニングが流れると
「早く寝なさい!」
と言われた記憶のある方は、私だけではないはず。
■「10時またぎガール」を編み出した「土ワイ」
それまで子供向けに映像化されることの多かった江戸川乱歩作品を、原作に縛られず、あえて大人向けにテレビドラマ化した「江戸川乱歩の美女シリーズ」。昭和の名優、天地茂が名探偵明智小五郎を演じ、「土ワイ」初年度の1977年から通算33作(天地茂出演は25作)が制作される人気シリーズとなりました。
シリーズの名物は番組ラストの謎ときと、9時55分ごろになると必ず挿入される美女の入浴シーン。これは当時、常に視聴率30%前後を記録していた裏番組「ウィークエンダー」(日本テレビ)への対策として編み出された手法でした。番組と番組の間にチャンネルをひねる(そう、チャンネルはひねるもの!)視聴者の手を止めさせるこのテクニックは「土ワイ」の他のシリーズにも応用され、昭和の終わりごろまで10時前後の“濡れ場”が定番化。のちに明石家さんまが「10時またぎガール」と名付けたことで知られます。
■松本清張作品をお茶の間に浸透させた功績
1950年代から何度も各局でドラマ化されてきた松本清張作品。「土ワイ」でも初年度の1977年から放映され、80年代だけでも18作品が制作されました。中でも1981年に放送された「松本清張の山峡の章」は、清張原作ドラマの最高視聴率記録(28.0%・関東地区)を記録。
●「家政婦は見た!」の原点も松本清張作品
全26作品が制作された市原悦子主演「家政婦は見た!」も、「土ワイ」を代表する人気シリーズ。実はこれも、最初は清張の原作による単発ドラマでした。「松本清張の熱い空気-家政婦は見た! 夫婦の秘密『焦げた』」(1983年)が視聴率27.7%をたたき出したことから、設定だけを引き継いでシリーズ化。2008年をもって完結していますが、のちに松嶋菜々子主演の「家政婦のミタ」(日本テレビ)や、松岡昌宏主演の「家政夫のミタゾノ」(テレビ朝日)といった派生作品を産み、2014年からは米倉涼子主演で復活しています。
■35年以上続く「西村京太郎トラベルミステリー」
西村京太郎の『十津川警部』シリーズが原作の「西村京太郎トラベルミステリー」も定番でした。全国津々浦々の急行列車を舞台に、十津川警部と亀井刑事のコンビが巧妙な鉄道トリックを見破ります。
十津川警部を演じたのは三橋達也(1979~)と高橋英樹(1999~)。いっぽうパートナーの亀井刑事は愛川欽也(1979~)から高田純次(2012~)にバトンタッチ。
■大人気シリーズ「相棒」も「土ワイ」出身
現在season15が放映中のテレビ朝日の看板ドラマ「相棒」も、もともとは「土ワイ」の単発ドラマでした。2000年の「刑事が警官を殺した!?」を皮切りに計3話が放映され、いずれも高視聴率を記録したことから連ドラ化が決定。2002年10月に現在の1時間ドラマのスタイルが始まりました。
■印象的なのはドラマだけではなかった。
「土ワイ」がスタートした1977年は、日本教育テレビ(NET)が社名を全国朝日放送へと変更し、テレビ朝日が発足した年でもあります。一定の割合で教育番組を放送しなければならない、という制約から自由になったテレビ朝日は、映画館に行く暇のない主婦のために、お茶の間で楽しめる長時間テレビドラマをスタート。日用品、自動車、食品、アルコールをはじめ、大人をターゲットとした商品を販売する多くの企業がスポンサーとなりました。 中でも印象的なのは、長きにわたり「土ワイ」の提供を続けたこの2社ではないでしょうか。
●ダイア建設「ダイアパレス」
内山田洋とクールファイブの「東京砂漠」をバックに、ビルの谷間でタキシード姿の男性がバスケをするこのCMは、80年代後半のバブル期から数年にわたってオンエア。ダイアパレスの認知度を一気に高めました。
●セシール
日本人にもっとも耳なじみのあるフランス語と言っても過言ではない“Il offre sa confiance et son amour.”「愛と信頼をお届けする」という意味だそうです。私には「篠塚くん幸せそうなの」と聞こえましたが、みなさんにはなんと聞こえましたか?
■テレビが一家に一台だった時代を思い出す「土ワイ」
「8時だョ!全員集合」(TBS)も「オレたちひょうきん族」(フジテレビ)も見せてもらえない比較的カタめの家庭で育った私が土曜8時に唯一見せてもらえたテレビは、「暴れん坊将軍」(テレビ朝日)でした。「土ワイ」のオープニング映像は、その直前に流れる北島三郎のエンディングテーマから、父親の「これは怖いやつだからお前は見ちゃだめ、早く風呂に入りない」という幼少期の土曜日の一連の流れを思い起こさせてくれます。
今回紹介した以外にも、「タクシードライバーの推理日誌」(渡瀬恒彦)、「終着駅シリーズ」(露口茂・片岡鶴太郎)、「法医学教室の事件ファイル」(名取裕子)、「火災調査官・紅蓮次郎」(船越英一郎)といった人気シリーズを生み出してきた「土ワイ」。その終焉には、テレビが一家に一台だった時代が、もはや遠い昔になったことを感じざるを得ません。
(バブル時代研究家DJGB)