店長がエアギターをやってくれるカレー屋さんに行ってきた!

2016/10/3 23:51 吉村智樹 吉村智樹




▲僕はいま、カレー屋さんに来ております。そうは見えないかもしれませんが……



こんにちは。
関西ローカル番組を手がける放送作家の吉村智樹です。
ここでは毎回、僕が住む京都から一風変わった情報をお伝えしております。


今回、訪れた場所は向日市(むこうし)。
向日市は世界一辛い唐辛子「ジョロキア」の国内生産地として知られ、激辛料理を出す店がたいへん多い街でもあります。
ひーひー辛いカレーを汗しながら食べたい気分のときには最適なエリアといえるでしょう。


やってきたのは「カレー工房GYAAA(ギャー)」
今年2016年の2月にオープンしたばかりの、京都カリー界のニューカマーです。
悲鳴をあげる店名が、かれぇカレーをがっつきたいという期待値をさらにアップさせます。


ただ、気になるのは……。



▲看板の隣の「エアギターの在庫アリ〼」が気になる……


そのお隣の「エアギター在庫アリ〼」の表示。
エアギターの……在庫?
いったい、どういう意味なのでしょう。
なにやら、ひりひりとした胸騒ぎがします……。


この方が、この向日市で生まれ育ったオーナーシェフの齊藤岳人さん(39歳)。



▲カレー工房「ギャー」オーナーシェフの齊藤岳人さん


実直なカレー職人という印象を受けるお顔立ちです。
「ギャー」という店名から、こちらのカレーはかなりの辛口だとお見受けしましたが?


齊藤
「ええ、辛いです。ただ、僕が提供したいのは“ちゃんとおいしくて、辛いカレー”。辛いだけのカレーなら誰でも作れるので。しっかり風味が味わえて、香りがよくて、そして辛いもの。そういうカレーをお出ししております」


まっすぐな視線で、そう語る齊藤さん。
言葉に気品が香りたち、こちらもピリッと背筋が伸びます。
誠実なカレーづくりをしておられるのが伝わってきます。


そんな齊藤さんはこのカレー工房ギャーをオープンするまで塾講師などをしており、意外にもプロの料理人になったのは、この店が初めてなのだそう。


齊藤
「カレーはずっと趣味で作ってきました。学生時代から20年ほど、ダシの取り方、スパイスの調合などを試してきたんです。そうして突き詰めていって、自分なりに味と香りに一定の成果が出たと思えたので、20年目にして店を開きました。きっかけは4歳くらいの時に食べたハウスのバーモントカレーですね。『これ、すごくおいしいな』と思って、それ以来、メーカーごとにカレールーの香りを嗅ぎ分けたり、レトルトカレーの味較べをしたり。幼い頃からずっとカレーが研究対象でした」


4歳でカレーに目覚めて35年。
以来独学で試作を重ね、理想のカレーを追求してきた齊藤さんに、さっそくおすすめの一品を、お願いしました。



▲齊藤さんのおすすめカレーは、2色に分かれていた


運ばれてきたのは「二種あいがけ」(並盛780円 税別)。
人気のカレー2種類を、ひと皿で楽しめるお得なメニューです。



▲人気カレーが一度に味わえる「二種あいがけ」


色が濃い方が「南森町あのカレー」(単品並盛780円 税別)。
2012年に惜しまれつつ閉店した、大阪の南森町にあった伝説の「のけぞるほど辛いのに、なぜかまた食べたくなる」「強烈に辛くて、猛烈においしい」カレー店の味をほぼ再現したもの


色が淡い方が「まろやかベジポタチキンカレー」(単品並盛780円 税別)。
辛さはさほどではなく、野菜の切れ端や皮から煮出したスープ「ベジブロス」を使っているので、まろやかで栄養価が高いのが特徴。
パプリカパウダーの赤が食欲をそそります。


2種類のカレーから、それぞれ異なるいい香りが立ち昇り、香りのステレオ状態。
さて気になるのが、トッピングされた、オイリーな液体。



▲カレーにトッピングされた謎オイル。その名は「ギャー油」


これは、なんですか?


齊藤
「それは“ギャー油”という自家製ラー油です。2010年くらいのとき、“食べるラー油”が流行ったことがありましたよね。すごいブームで、どこも品切れで買うことができなかった。それで自分で調合してみたんです。すると、それがとてもおいしかった。まわりにも好評でね。そのとき『人に食べてもらうのって、いいな』と思ったんです。そして、それまで自分で作って悦にひたっていたカレーを商売にしてみようと考え始めた。このギャー油が、私がカレーの店を開くきっかけになっているんですよ」



▲齊藤さんがあみだしたオリジナルの食べられるラー油「ギャー油」は瓶詰で販売されている。バリエーションがあり、なかでも地元・向日市産の世界一辛い唐辛子「ジョロキア」が入った「破ギャー油」は文字通り破格の辛さ


カレーにラー油、合うんだろうか……。
おそるおそる口に運ぶと、ナイスジョイント!
カレーもラー油も辛いけれど、まったくおもむきが異なる味わいなので、ツインリードギターが奏でるサウンドのように、味がカラフルにマジカルに飛散します。


カレーにラー油という、意外な、そして絶妙にマッチするコラボ。
ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュとB'zの稲葉浩志がフィーチャリングしたときの、あの衝撃に近しいものを感じました。


ほかにも「近江ぎゅうぎゅうギャーハンwithカレーソース」「マッドキーマ」などなど気になるメニューが目白押し。
ここはもうカレーのラウドパーク!



▲「近江ぎゅうぎゅうギャーハンwithカレーソース」(1080円 税別)。1日限定5食。濃厚な卵を近江牛で囲ったゴージャスなひと品



▲「マッドキーマ」(並盛950円 税別)。土日限定10食。店名通り「ギャー!」と叫ぶこと請けあいな激辛カレー


齊藤さんがつくる料理の特徴は、卓越のカバー力にあります。
南森町にあった名店のカレーの味を再現したり、食べるラー油を自分で調合したり。
さすが幼少期からメーカー別にカレールーを分析していただけあります。
齊藤さんがつくるカレーの数々は、対象への愛を表現する、言わば味のトリビュートアルバムなのです(その後、さらに齊藤さんのカバー力のすごさを目の当たりにすることに)。


そんなふうに思いながらメニューを紐解いていくと、素通りを許されないハードでヘヴィなページに辿り着きました。


▲カレーショップinエアギターショップ。表の看板の「エアギター在庫アリ〼」の正体はこれだった


「エアギター専門店 KUUKI-KAN(クウキカン)」

エアギター専門店……。
ここカレー工房ギャーは、なんと店内にもうひとつ「エアギター専門店」の「エア店舗」があったのです。
残念ながら僕の視力では確認できませんでしたが。


品ぞろえは、まずエアギターが一本1000円。
ほか、各種エアギターパーツ&アイテムがそれぞれ100円。



▲壁にズラリと掲げられたエアギターの名器の数々


料金は募金箱へ投入するシステム。
募金は全額「熊本地震」「東日本大震災」の義援金に充てられます。


そう、カレー職人・齊藤さんのもうひとつの顔、それは「エアギタリスト」。
料理人齊藤岳人の名は知らずとも、エアギタリスト「チョコバット鵜飼(うかい)」の名は「あー、知ってる!」というエアハードロックファンもおられるのでは?

*チョコバット鵜飼の名は、1990年代から2000年代にかけて活躍したかのセクシー男優にインスパイアされたもの。

齊藤さんは実はエアギター日本大会の2012年度全日本チャンピオンであり、同年フィンランドで開催された世界大会では6位という輝かしい成績を収めた日本一の名ギタリストだったのです。
そして現在も京都のライブハウスを中心にエアプレイを披露しています 。



▲2012年度エアギター日本大会に初出場した齊藤さん



▲圧倒的なパフォーマンスで優勝。決勝戦の対戦相手はくまモンだった



▲エアギター日本大会優勝記念に授与されたトロフィー。記念品の目録は、封筒を開けると空っぽだったという。粋だなあ


齊藤さんはいつからエアギタリストの道を歩み始めたのでしょう?


齊藤
「僕らはハードロックブームの残り火で温められた世代。僕もハードロックの影響を受け、学生の頃からずっとバンドをやっていたんです。クイーンのブライアン・メイ、ガンズ・アンド・ローゼズのスラッシュ、メガデスのデイヴ・ムステインなど偉大なギタリストたちに憧れていました。でもね、あんなふうにうまくは弾けないですよ。家で練習をしていたんですけど、あまりにも弾けないもんだから、ギターを放り投げて、弾くマネだけしていたんです。すると妹がその姿を見ていて大爆笑しましてね。そんとき『あ、笑いが取れるんだ』と。関西人のサガですよね。妹に笑われたことでフラストレーションがスッと抜けたんです。それからカラオケボックスなどで友達にギターの弾き真似を披露するようになったんです。ただ当時はまだ『エアギター』というジャンルがあることは知らなかったですね」


ではご自身のパフォーマンスがエアギターだと自覚されたのはいつ?


齊藤
「『デイリーポータルZ』(ニフティ株式会社が運営する読み物サイト)にエアギター講座の記事があったんです。宮城マリオさん(日本のエアギターの先駆者)の活躍が記事になっていて、それを読んで初めて『エアギター』という言葉を知ったんです。自分が学生の頃からやっていたギターの弾き真似にエアギターという名前がついていて、パフォーマンスとしてなりたっている。さらに世界大会が行われる競技として認知されていることに驚きまして、ならば『いつか自分も日本大会に出場しよう』と思いました」


では、おそらく日本で唯一であろう「エアギター専門店」をオープンされたのは、なぜですか?


齊藤
「熊本の震災がきっかけです。熊本には想い入れがありました。なぜならエアギター日本大会で闘った相手が、くまモンだったんです。そして会場は宮城県の仙台でした。奇しくもふたつとも被災地。それもあって『なにか自分にもできることはないか』と考えたんです。そこで『そうだ、自分にはエアギターがある』と。お客さんも、エアギターやエアパーツを買うというエア買い物がひとつ乗っかっていると募金しやすいだろうと考えました。募金してくださった方には『エア商品購入証明書』の名で、割引カードを発行しています」



▲募金をすると『エア商品購入証明書』という実質のカレー割引カードがもらえる


齊藤さんの発案により、先月はエアギターなら5本、購入する人が現れたのだそう。
海外のロックシーンにはアーティストにもお客さんにも「エイド」(援助)という考え方が根付いていますが、京都の片隅にもそれが届いていることが感動的です。


さらに齊藤さんは、お客さんが混んでいる時、料理などで手が離せない時以外、一分間3000円でエアギターを披露してくれます。
もちろんこれも募金の一環であり、全額を寄付しているのです。


齊藤
「一分はエアギターコンテストの予選に与えられる時間。3000円はエントリーフィーと同額なんです。ですのでこの時間、この値段に設定しました」


では、いよいよ日本一に輝いたエアギターのパフォーマンスを観せていただけますか?


齊藤
「わかりました。ではクイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』を演奏します」


そうして齊藤さんは名曲『ボヘミアン・ラプソディ』を“エア再生”し、いよいよ華麗なるレースならぬライブがスタート!(心を研ぎ澄ませ、齊藤さんの世界へ飛び込まないと無音にしか感じません)。



▲女王も戦慄するエアライブ開幕!



▲ちゃんと曲に合わせてコードを押さえている。ここがリアルギタリストでもある齊藤さんの強み



▲いよいよギターソロに突入!



▲白熱のあまり「ぎゅい~ん」という音が聞こえた気がする



▲どうやらイってしまわれたご様子


……すごい(息をのむ&拍手)。
わずか1分間で、指技、体技の限りが尽くされています。
それに実際にバンドをやっていらっしゃったからか、リズム感が素晴らしい。
妹さんが大爆笑したという齊藤さんのエアギター、僕は感動しました。
なにより、ないはずのギターが見えました!


齊藤
「ギターが見えると言われると嬉しいですね。エアギターの世界には『エアネス』という言葉があります。これは、ないはずのギターが見えることを言い、パフォーマンスが優れていなければ達せない境地なんです。でもまだまだです。カレーもエアギターも、僕にはまだ通過点なんです」


カレーとエアギターの求道者が歩む道は、きっと門外漢にはわからぬほど険しいのでしょう。
そして味とパフォーマンスでこれからもお客さんを「ギャー!」と叫ばせるのでしょう。
これからもストイックな齊藤さんから目が離せません。


あ、皆さん。
カレーはエアではないのでご安心を。



▲「ギャー」のカレーは齊藤さんのロックスピリッツがうねっています



名称●カレー工房ギャー
住所●京都府向日市寺戸町八ノ坪120
営業時間●11:00~14:00 &金土日のみ15:00~20:00も営業
定休日●月曜日
電話番号●075-921-0878
facebook● https://www.facebook.com/curry.gyaaa/
Twitter● https://twitter.com/curry_gyaaa



(吉村智樹)