山口晃さんと道後アートの相性は抜群だった。
「街歩き旅ノ介 道後温泉の巻」山口晃×道後アート2016 に行って来ました。
道後(どうご)アートとは、2014年から道後温泉を中心とし開催されているアートフェスティバル。
初年度は草間彌生さん他のアーティストが道後温泉をアート空間に変え注目を集め、実際にお客さんの数もぐんと増えたそうです。翌年の2015年は写真家の蜷川実花さんが担当。温泉地が華やかに変身を遂げより賑わいをみせました。
そして、3年目となる今年2016年の道後アートが白羽の矢を立てたのがみんな大好き山口晃さん。彼の作品が道後温泉周辺に展開されると想像しただけでワクワクドキドキしたものです。
でも、山口さんの作品は草間さんや蜷川さんとは違い街中に展開されるインパクトのある大きなものではありません。顕微鏡でのぞき込みながら細部まで丁寧に描かれた人物や風景、そして建物などをじっくりと愛でるタイプの作品が主です。
道後温泉
「山口晃×道後温泉 道後アート2016」が果たしてどんな展開を見せるのかこれは実際に現地へ行ってみないことには何とも判断できません。公式サイトからはいったい道後温泉周辺で山口さんの作品がどう展示され、どう見られるのかいまひとつ伝わってきません。そもそも作品は出来上がっているのでしょうか…
2016年4月から長期間にわたり開催されている「山口晃×道後温泉 道後アート2016」ですが、流石にこの時期になればある程度の作品は観られるだろうと信じ、いざ松山へ!
話しは少しそれますが、現在は日本のそこかしこで芸術祭が開催されています。いったいいくつあるのか、どこで何が開催されており、どんな作品が観られるのかとてもとても把握できない状況。アートで町おこしもここまで多いと差別化が課題となってきます。
山口作品と道後温泉。
道後温泉アートへ行って感じたのは、その差別化が上手く出来ていることでした。一般的な芸術祭のように海外からのアーティストを招聘し大勢の作家で広範囲に渡りアート作品を点在させるのではなく、道後温泉周辺という非常に狭いエリア(約半径200m)に、一人のアーティスト(今回は山口晃さん)に限定して展開させていく手法は、開催側にとっても鑑賞する側にとっても負担が少なく、アートを楽しめる上手く考えられたシステムだと肌で感じ取れました。
茶玻瑠(1階ロビー)「階段遊楽圖」
「街中をアート作品で埋め尽くす」こと自体がナンセンスなことなのかもしれません。ましてや道後温泉のような完成された観光地においてはその必要性は皆無です。作家は、今ある道後温泉とその周辺をどのように活かしながら、自分の色を溶け込ませていくかに主眼が置かれることになります。つまり、如何にして花を添えるかが大事なポイントとなるのです。
見た目も鮮やかな蜷川さんの写真のように遠目で観てもはっきりと判別できる作品は、山口さんにはありません。それならどうするか。きっと悩みに悩んだはずです。そして出した結論がいつもの通りの自分を貫き通すことでした。そしてそれは見事なまでに道後温泉の地と融合を果たし、新たな景観を生み出しました。
道後商店街正面入口に設置された「鈴生り門」
じっくり隅々まで観ることが、山口作品の真骨頂であり、多くのファンを魅了する点です。彼は道後温泉周辺の景色をそのまま用い自分の作品を忍び込ませることに見事成功しています。それらはあまりにも自然過ぎるので、道行く人がほとんど気がつかないほどです。
「要電柱」や「見晴らし小屋」はその最たる作品です。写真を見てもどこに作品があるのか分かりませんよね。こうした作品を現地で観ていると、してやったりというしたり顔でほくそ笑む山口さんの顔が目に浮かんでくるようです。
完全に景色と一体化している「要電柱」
「見晴らし小屋」から見た道後温泉
また、周辺のホテルや旅館にも山口さんの作品が展示されています(ホテルギャラリー)主に防犯上の理由から実物を展示することは流石にできませんが、そのホテルの雰囲気をより魅力的にする作品を選び、ロビーや受付などに展開しています。
道後プリンスホテル(2階ロビー)「今様遊楽圖」
中でも最も注目すべきは、道後温泉の源泉でもある「ふなや」の日本庭園内「詠風庭」東屋に展示されている「武人圖」です。創業390年以上を誇る道後一の老舗旅館の日本庭園に違和感なく溶け込んでいる山口さんの作品。これは一見の価値ありです。(お庭にある足湯も気持ち良かったです!)
ふなや(庭園内主屋)「武人圖」
インスタレーションだけではなく、勿論新作絵画もちゃんと?!描いています。その名も「道後百景」。10枚の新作は実際に山口さんが道後の街を歩くグッときたスポットをいつもの緻密さとウィットに富んだ筆で描き上げています。
どの場所をどんな風に描いたかが一目で分かる案内書『道後エトランゼマップ~山口晃「道後百景」ごく私的迷所ガイド』をホテルギャラリーを開催している宿でまず手に入れることをお勧めします。
地方芸術祭のひとつの成功の鍵として、その土地や歴史を理解してくれる作家に依頼することがあることを、今回の「山口晃×道後温泉 道後アート2016」では強く感じました。そしてまだまだ紹介していない山口作品が道後温泉にはあります。
宝探しのようにあちこち歩いて疲れたら、道後温泉にゆったり浸かり疲れを癒す。
何て素敵なアートフェスティバルなんだ!
「街歩き旅ノ介 道後温泉の巻」山口晃×道後アート2016
会場:道後温泉およびその周辺エリア
愛媛県松山市「道後温泉」では、2014年に道後温泉本館改築120周年の大還暦を迎えたことを記念してアートフェスティバルを開催しました。それ以降、さらに多くの観光客や市民に道後にお越しいただき、日本最古の温泉という地域資源にアートを取り入れることで、日本のみならず世界に向け新たな道後温泉の魅力を発信することができました。
道後でアートフェスティバルが始まり3年目となる2016年は、メインアーティストに画家の山口晃さんをお迎えします。本年は文豪・夏目漱石の没後100年、小説『坊っちゃん』発表110年。よそからやって来た夏目漱石が松山を舞台にアイロニーとユーモアを込めて小説「坊っちゃん」を書いたように、山口さんも“よそもの”視点で道後を描きます。時空を超えて過去・現在・未来を行き来することで、どことなく懐かしくて何だかおかしな世界に迷い込んでしまいそうです。日常と空想、実景と虚構がないまぜになったような感覚で、人びとを街へ誘います。絵画のみならず立体・建築的手法やインスタレーションなどの自由な発想で、見慣れた街の風景がそれぞれの記憶と混ざり、不思議な姿として浮上するような、そんな作品たちが街に出現します。
「山口晃展 松山シフト ~道後に関する作品から代表作まで~」
会期:2016年9月1日(木)~11月20日(日)
会場:愛媛県美術館
http://www.ehime-art.jp/
「道後アート2016」のメイン・アーティストである画家・山口晃は、俯瞰で描かれた近世の風俗図屏風を思わせる人物や街並みの卓越した細密描写や、機知に富んだ作風で高く評価されています。
「道後アート2016」の興隆期に合わせ、『道後エトランゼマップ』の原画や未実現のプランも含めたスケッチなど、道後に関連する作品とともに、山口氏の学生時代の作品から近作まで展示し、幅広くその画業を紹介します。
『山口晃 大画面作品集』