スイーツのカタチをした家具や雑貨をつくる女性作家が山奥にいた!
(クリームサンドビスケット型のバッグ、エクレアのティッシュカバー、パンケーキのポシェット、etc. これらはすべて”スイーツ雑貨作家”である彼女のお手製なのです)
こんにちは。
関西のローカル番組を手がける放送作家、吉村智樹です。
「いまトピ」の読者にはスイーツがお好きな方がたくさんいらっしゃると思います。
そして「家具」や「雑貨」に興味がある方も少なくないでしょう。
ならば、もしも、大好きなスイーツと家具や雑貨が合体したら、最高ですよね!(強引?)。
実は、そんな夢のコラボをかなえてくれる方が京都にいます。
わたくし、京都の森林地帯に、スイーツのカタチをした家具や雑貨を手作りする女性工芸作家さんがいらっしゃると聞き、会いに行ってきました。
訪れた場所は京都の「京北」(けいほく)と呼ばれるエリア。
(地域の9割が森林地帯という京北エリア)
地域のほぼすべてが森林。
銘木「北山杉」の磨き丸太の産地として知られる、林業が盛んな野里です。
ウワサの「スイーツ家具&雑貨」のアトリエは、静かでのどかなこの京北の山あいにありました。
(森の中の古民家にショートケーキのイラスト看板が)
(郵便受けまでロールケーキ!)
この方がスイーツ雑貨&木工アーティスト、和田紗夕里(わだ・さゆり)さん(36歳)。
リノベーションした古民家でアトリエ「泡糖工房」(カルメラこうぼう)を営んでおられます。
(木や布でスイーツ雑貨や家具をつくる和田紗夕里(さゆり)さん)
山深い場所でひとり黙々と手工芸をされていると聞いていたので、もっと「ゆるふわ」なナチュラリストの女性かと想像していたら、とてもスポーティで、かつセクシーな方だったのでびっくり!
和田
「ジムに通って筋トレしているんです。木工は力仕事ですからね」
なるほど。
作風は甘くても、仕事に挑む姿勢は決して甘くはないようです。
そしてやはりファーストインパクトを受けるのが、古式蒼然とした、この日本家屋。
味がありますね~。
和田
「もともとは農家の方が住んでいらした民家で、100年以上経っていたのだそうです。長く放置され畳が腐っていたので、全部はがして自分でフローリングにしました」
ええ!?
この広々とした建物の畳をはがして、床を自分でフローリングに!?
身体を鍛えているとはいえ、すごい体力。
技術もすごい。
木工を超えて建築の域に達しているじゃないですか。
(朽ちた畳をはがし、ひとりで木を切ってフローリングに張りかえた和田さん。クッキー型座布団もお手製)
(かまどがいまなお残る歴史ある台所もこんなにポップに)
ちなみに和田さんは現在、自力で土間を改造し、ギャラリーを建設中。
完成の暁には作品を常設展示し、一般公開されるそうなので楽しみです。
アトリエに入れば、うわぁ……素敵な作品がいっぱい!
ロールケーキ、エクレア、クレープ、パンケーキ、タルト、ビスケット、レーズンサンドクッキー、エトセトラ。
言わばここは「食べられない洋菓子店」。
(いちごのロールケーキ型ポーチ。絞ったクリームまで。芸が細かい。)
(いちごのショートケーキ型小物入れ。いちごを開けると……)
(ピアス入れに)
(いちごのクリームがコートされた円筒型トランク)
(オムレットのがま口)
(タルトやガナッシュのアクセサリー)
(和田さんの名を一躍世に知らしめた「いちごロールケーキのバッグ」。取っ手は金属。ロリータファッションにもお姉さん系にも合いそう。ミラノ万博「ジャパン・アート・テイスティング・エキスポ」にて)
一見して思うのは、ピンク色の多さ。
いま着ていらっしゃるノースリーブもピンク色ですし。
和田
「ピンク色が好きなんです。子供の頃、うちにもらいものの白とピンク色のハンカチがあったんです。すると姉妹でピンク色のハンカチだけ奪い合いのケンカになって(笑)。そういう家系ですね」
わかります、わかります。
そうめんやわらび餅にピンク色が入っていたら、味は同じなのに兄弟や姉妹で奪い合いの大げんかになりますよね。
そして品ぞろえの豊富さと、ワザの幅広さに驚かされます。
バッグにポーチ。
たんすに椅子に、果てはパーテーションやシングルベッドなどの大型ファニチャーまで。
ベッドは本体だけではなく布団までも板チョコになっているという凝りっぷり。
(チョコレートを模したシングルベッドほか、お菓子の家具でいっぱいな寝室)
(木工、金工、レザークラフト、テキスタイル、製鞄などあらゆる手法が一挙集結した板チョコ財布)
(いま手がけているのは板チョコのパーテーション)
(縫製専用アトリエのチェアはタルトやプリン。プリンのカラメルシロップは本革)
鞄も財布も、一から手づくり。
木工、テキスタイル、レザークラフト、金属工芸、製鞄(せいほう)などなど、あらゆるハンドクラフトのスキルがここに集約。
手工芸のデコレーションケーキ状態。
こんなにたくさんの技法を、いったいどこで習ったのですか?
和田
「ぜんぶ独学なんです。『こういうのを作りたい!』って思ったら、なんでもやっちゃうんです。木工をやりたいと思ったら、誰にも習っていないけれど卓上のジグソー(糸ノコギリ)を買って、さっそく始める。とりあえずやりたいものを自分で作ってから、専門の方に作品を見ていただくというやり方ですね。木製品の産業がある京北に引っ越してきてから、『この木、さかさまに取りつけてるよ』って指摘されたり(笑)。そうやって学んでいます。いきなり自分で見本を作ってから勉強していくという感じですね」
なるほど、なるほど。
やりたいという気持ちが湧いてきたら、ぐずぐずせず、まずやっちゃう。
修正はそのあと。
これは誰しもの暮らしに当てはまる、夢をかなえるためのライフハックかもしれません。
(ハニートーストのたんす。はちみつはレジンでできている)
(ホイップバターを開けると小物入れに)
(取っ手はフォークという徹底ぶり)
(木工用アトリエで黙々と作業)
(相棒の工具には「さゆり」と)
(重作業はアトリエから3キロ離れたプレカット工場で行う)
また和田さんの作風の特徴は、どのスイーツ風家具や雑貨も、褪せた色づかいのシャビーな仕上がり。
一貫してアンティークを思わせるタッチになっています。
ラブリー、かつ、「甘さをおさえた」雰囲気で、おいしそう。
(一見、ショートケーキ型のヴィンテージな置き物だが……)
(いちごのスイッチをオンにすると灯りに)
古書の絵本に描かれる洋菓子のような、西洋ロマンがあります。
おっさんの僕ですらうっとり。
和田
「アンティーク調、ジャンク調、荒い感じ、そう思っていただけるように作っています。年月が経った雰囲気のものが好きなんです。木だったら焦げさせたり、金属だったら錆止めの油をバーナーで炙って焼ききり、わざと金属の表面を荒らす専用の金づちで叩いたり」
新品なのにユーズド感があるのは、そういう工夫に裏打ちされていたからなのですね。
どうして古びた質感がお好きなのですか?
和田
「私は神戸のポートアイランド出身なんです。ポートアイランドは歴史が浅い人工島で、周囲に古いものがまったくなかったんです。だからアンティークを初めて見たとき感動してしまって。その感動の記憶が作品に反映されていると思います」
ではものづくりに興味をいだいたきっかけは?
和田
「母の実家がミシン屋さんだったので裁縫に興味をもち、3歳の頃にはすでにミシンを扱えてたんです。通販のカタログを見ては、同じようなものを自分で縫っていました。そして5歳くらいの時かな、父がシルバニアファミリーのドールハウスを買ってくれたんです。子供心に『これは質が高いな。ただ、この小物が私の好みじゃない』って思って、自分で作ったんですよ。その想いがいまもずっと続いている感じですね」
なんと、3歳からミシンを操り、5歳でシルバニアファミリーの質的向上のためにアイテムを自作していたという、根っからのクラフト女子だったんですね。
(細かい作業をするためのアトリエ)
(3歳から縫い物をやっていたという筋金入りの裁縫女子)
和田さんはその後、工業高校のデザイン科を経て京都市立芸術大に進学。
卒業後、泡糖工房を起ち上げました。
ではいったいなぜ、洋菓子をモチーフにしようと思われたのでしょう?
和田
「3歳か4歳の誕生日のとき、母がケーキ屋さんのショウウインドウの前に連れていってくれて、『好きなものを選んでいいよ』と言ってくれたんです。そのショウウインドウに並んでいたケーキがどれも宝石みたいに輝いていて、見とれていたんです。スイーツってそんなふうに人を笑顔にする力があるんですよね。家具や雑貨で笑顔になってもらうには、このカタチがいいなと思ったんです」
確かに、パティスリーのショウウインドウの前でしかめっ面している人は、ほとんどいないでしょうね。
和田さんの作品はどれも、どんな時刻のどんな荒んだ状況であっても「平和な午後3時」「おだやかな、おやつの時間」が訪れるような、多幸感と安堵感があります。
(パンケーキやクレープ)
(無垢材を彫ってつくったクッキーやプレッツエルのキーホルダー)
(血行によさそうな板チョコのサンダル)
そんな和田さんの将来の夢は?
和田
「お菓子の家を建てることですね」
それはまた、夢らしい夢ですね。
和田
「そのために長野県に土地を借りていて、近いうちに着手したいと考えています」
ええ?!
そんな具体的なプランがあるのですか!
てっきり、もっとふわっとした夢なのかと……。
長野県に新名所が誕生するかもしれませんね。
そんなふうに、じっくりやるところと、ささっとやるところ、そのメリハリ。
和田さんが手がけるスイーツをモチーフとした作品には、工芸だけではなく、製菓に必要なテクニックも備わっているように思います。
食べられはしないけれど、和田さんはやっぱり「工芸界のパティシエール」と呼んでさしつかえないでしょう。
(「幼い頃、ケーキがあると笑顔になったでしょう。私がつくる雑貨や家具も、そんなふうに笑顔になってほしいですね」と語る和田さん)
泡糖工房(カルメラこうぼう)
http://anime.geocities.jp/nqhww282/
(吉村智樹)