【キモカワ】血を吐くキャラ「ぽっぴんたろう」が女性に大人気!
(キャラクター雑貨をハンドメイドする女性作家さん。手に持つぬいぐるみの口元には、なにやら赤いものが……)
キティちゃん、ミッフィーちゃん、リラックマなど、かわいいキャラクターは暮らしに潤いを与えてくれます。
単なるキャラクターグッズを超え、血を分けた妹や弟のようにかわいがっていらっしゃる方も少なくないでしょう。
そして京都ではいま、女子の間で「かわいい!」と評判になっている新たなキャラクターがいるのだそう。
かばんに取りつけたり、ぬいぐるみのように抱いたりといった様子が頻繁に目撃され、噂が噂を呼び、密かなトレンドになっているようなのです。
それはいったいどんなキャラクターなのでしょう?
血沸き肉躍るほどの期待感を胸に、僕はそのキャラクターの生みの親に会いに行きました。

(猫も気になる京都で話題の白いキャラクター)
噂の作家さんが営むショップがあると聞き、やってきたのは京都の五条通りに建つ「つくるビル」。
アーティスト、クリエイターのために全室アトリエとして使えるようリノベーションされた築50年を超えるレトロビルです。
(歩道橋が異様に近い奇妙な立地の”つくるビル”)
なかに入ると、古いビルならではの味わい深い哀愁と情緒を感じます。
そして、かすかな外光に照らされて、目に飛び込んできたのが、まるっこくて白いキャラクター。
(三角旗がたなびく「つくるビル」のなかに”あの”キャラクター発見)
(店名は「hellchocolate」(ヘルチョコレイト))
ここが、どうやら目的のアトリエ兼ショップ「hellchocolate」(ヘルチョコレイト)のよう。
若いお客さんが絶え間なく出入りする人気店です。
足を踏み入れると、おお〜充実。
黄色に塗られた壁に、先ほど対面した白くて丸みのあるキャラクターがいたるところ、もこもこ置かれています。
(かわいいような、そうでないような……)
(黄色く塗られた壁にTシャツやエコバッグが吊られている)

(キーホルダーの数も豊富だ)
ぬいぐるみ、キーホルダー、エコバッグ、Tシャツ、エトセトラ。
アイテムの種類はさまざまなようですが、キャラクターに一貫しているのが口元の赤いワンポイント。
ルージュが溶けている、わけではなさそな。

(Tバック?をはいた謎のキャラクターたち)

(細胞分裂しているものもある)
(口元から垂れているのは、明らかに……)
この赤色は……いったい……。
この方が、店主であり作者であるおおえしょうこさん(35歳)。
(「ヘルチョコレイト」の店主であり、ハンドメイド作家のおおえしょうこさん)
想像以上におきれいな方だったので、どきまぎ。
おおえさんはこのお店の中でミシンをかけ、作品づくりの様子もオープンにしておられます。
(店舗兼アトリエなのでお客さんは制作工程を観ることができる)
おおえさん、まず率直にお訊きいたします。
このキャラクターの口元の赤、もしかしてこれって血……血ですよね?
「はい。血です。これは『ぽっぴんたろう』といいまして、感情が昂ぶると血を吐くんです。ここは『ときめき』と『吐血』をキーワードにした『ときめき吐血雑貨』のお店で、笑顔が生まれるものづくりを心がけています」
ときめき……吐血……雑貨……。
吐血……笑顔……。
「ときめき」と「吐血」と「雑貨」のスリーワーズがなかなか頭の中で合体しないのですが……。
▼これが「ぽっぴんたろう」だ!

(これがいま「血を吐いててカワイイ」と評判の「ぽっぴんたろう」)

(みんなほがらかに血を垂らしている。キーホルダー一体1800円~(税込))
おそらく京都はもとより日本でただひとりであろう“ときめき吐血雑貨アーティスト”のおおえしょうこさんは千葉県の館山市のご出身。
両親は学校の先生。
地元の人は皆「先生の娘だ」と知っており、そのため「優等生でいなければ」というプレッシャーが常にあったといいます。
「いま思えば、無理をしていたのかなあ。成績も素行もよくないといけない。おとなしく、いい子にしていなければならないという考えがずっとありましたね」
高校卒業後は英語を学ぶべく東京外国語大学へ進学。
さらに同大学の大学院へと進み「英語音声学」の修士課程を修了されました。
取材日も海外からのお客さんがひっきりなしに来店していましたが、その都度、よどみない英会話で対応されており、さすがでしたね。
大学院生の時代、仏像や神社を鑑賞するため京都を旅したことをきっかけにご主人と出会い、結婚と就職のため2006年に京都へ転居。
京都では印刷会社に勤め、海外への物流を担当されました。
そうして2011年の8月に退職。
同年11月に“ときめき吐血雑貨”のブランド「ヘルチョコレイト」を起ち上げられたのです。
お話をうかがうかぎり、これまでエリートコースを歩んでこられたように思いますし、だのに2011年の急展開が激しすぎるんですが、そんなおおえさんがものづくりに興味をおぼえたきっかけはなんだったのでしょう?
「小学生の頃、8歳上の兄が持っていた吉田戦車さんのコミックス*『伝染るんです。』を読んで衝撃を受けたんです。『なんて素敵な絵を描く人だろう。なんて面白い漫画なんだろう!』って。それからもう何回も何回も繰り返し『伝染るんです。』のキャラクターたちを模写していましたね。あんなに感銘をおぼえた漫画は初めてでした」
*『伝染るんです。』:1989年から1994年にかけて青年漫画週刊誌ビッグコミックスピリッツ(小学館)に連載された大ヒットコマ漫画。アニメやゲーム化もされた。かわうそ、かっぱ、マフラーを巻いたしいたけなど得体のしれないキャラクターが続々と登場。それまでの起承転結というコマ漫画の基本形をくつがえし、不条理ギャグ漫画というジャンルを確立させた。
小学校時代の吉田戦車を!
小学生の頃に吉田戦車のシュールな世界に触れたら、それはきっとすごい衝撃だったでしょうね。
確かにおおえさんが生みだす作品には吉田戦車のぶきみかわいい空気感に近しいムードがあるように思えますし、『伝染るんです。』に登場する「かわうそ」や「頭に包帯を巻いた少年」などの無表情な面影が、この血を吐くキャラクター「ぽっぴんたろう」にも垣間見え、”遠い親戚感”があります。
(宇宙人と合体してしまったぽっぴんたろう。確かに吉田戦車が描くキャラクターに近しい味わいがある)
では『ぽっぴんたろう』誕生のいきさつを教えてください。
「大学時代から趣味で手芸をやっていました。それで、はじめは『マメのキャラクターをつくろう』と思ったんです。すると描いているうちにキャラクターが勝手に動きだして、なんとなく手足が生えてきたんです。あ、これ、いいなと思って。でも『なんか足りない』って気がして、じゃあ血を吐かせようかと。そして血を吐かせてみたら、かわいくなったんです。けっこう『いい』と言ってくれる人もして、楽しくてもつらくても感情が昂ぶると吐血して表現するという設定が次第にできてきたんです」
淡々としたやわらかなトーンでお応えいただいていますが、「じゃあ血を吐かせようかと」と、いきなりそこへぶっ飛んでしまうセンスがすごい。
(体内が京都の深泥池(みどろがいけ)とつながっており、血だけではなく、池の水を吐く者もいる)
ちなみに「ぽっぴんたろう」の名は「ポップ」(はじける)と「ポップカルチャー」と「太郎」の組み合わせなのだそうで、その異世界な言葉どうしのマッチングもまたいい感じに不条理です(ちなみに太郎という名前ですが、性別は特にないのだそう)。
▼「ぽっぴんたろう」ができるまで
(綿ジャージーと呼ばれる生地にアウトラインを描き、切りだす)
(ミシンで布を貼り合わせる)
(貼り合わせた布に綿(おおえさん曰く内臓)を詰める。触ったときのクッション感触が命なので慎重に)
(チャコペンで顔の表情を描く)
(黒い糸でファニーな垂れ目など表情を縫う)
(赤い糸で口から血を吐かせる)
(パーツをつけて、ぽっぴんたろうキーホルダーの完成)
(購入すると玉ねぎの袋に入れてくれる。理由は「え、だって、かわいいから」)
それにしても大きな会社を退職し、自分でオリジナルキャラクターブランドを起ち上げるって、勇気がありますね。
「友達に誘われて、手作り市に出品したのが始まりでした。それがとっても楽しかったんです。自分のブランドを持ったり、お店を開いたのも、それがきっかけですね。『ヘルチョコレイト』というブランド名の由来ですか? 私の名前が“しょうこ”なのでフリーメールのアドレスにハローショコラっていうのを使っていて、はじめはこれを店の名前にしようと考えていました。でも『ハローって感じでもないよな』と思い、『だったら地獄(hell)だろう』と(笑)」
だったら地獄って!
こうして幕を開けた、チョコレイトディスコならぬチョコレイト地獄。
「ぽっぴんたろう」は、たちまち「かわいい」と、京都の若い女性の間でウワサになりました。
……ですが、やはり皆が皆、快い反応をしてくれるわけではないのだそう。
「手作り市やイベントだと、どういうキャラクターだか知らない方も多いじゃないですか。だから気持ちわるがられることもあります。おばあちゃんが『かわいいお人形さんやねぇ』と手に取ってくださるんですが、血に気がついて『なんやこれ。血ぃ吐いとるがな。気色悪い!』って投げ捨てられたり」
なにも投げ捨てなくても。
店名どうり、血も涙もない地獄経験も少なくない様子。
(ぽっぴんたろう以外にもこんなキャラクターが。自称二ホンオオカミの子孫「丸顔のおおかみ」)
(「鬼さん」。子供の頃から桃太郎の鬼がかわいそうでならなかったというおおえさん)
(恥ずかしがりの「ぴこぴこちゃん」。感情を表に出さないが、嬉しいことがあると身体から伸びた触手が動く)
ではいったい、なぜ血を吐くキャラクターづくりをこうして続けておられるのでしょう。
「大学院から会社に入ったあたりの時代は、なるべく感情を悟られないように頑張っていました。毎日、気を張って、気を張って、自分を殺していました。上司に『鉄仮面』と呼ばれるほど無表情で働いていたんです。そのとき『ああ、いま血を吐けたら、どんなにスッキリするだろう』と。私、イライラすると『血を吐きたい』って思うんです。だから私にとって血を吐くのってあんまり悪いイメージがないんです。むしろ笑顔とか、幸せなイメージ。精神的なデトックス効果というか。もちろん本当に吐くのは大変ですから、キャラクターに吐いてもらって。ぽっぴんたろうを見て、ときめきを感じて、すっきりした気持ちになって、笑ってもらえたらいいな」
(血を吐いてすっきりした表情のエレガントなぽっぴんたろう)
新鋭クリエイターたちが集うビルの一画から生みだされる「ぽっぴんたろう」は、とぼけた表情ながら「かわいい」の概念を変えてしまうほどのポテンシャルを秘めているように感じました。
そして次代を担う作り手の、才能の鮮血を浴びたように思いました。
(おおえさんは世の中にときめきをもたらすために、今日も血のかよった雑貨を作り続けている)
店名●hellchocolate(ヘルチョコレイト)
住所●京都市下京区西錺屋町25番地つくるビル1F toiro D
営業時間●11:30〜18:00
定休日●火曜日・水曜日+不定休
電話●(非公開)
URL●http://hellchoco.theshop.jp/
(吉村智樹)