【京都】頭の上で活け花? 日本で唯一の「花結い師」TAKAYAの技術がスゴイ!

2016/7/22 01:17 吉村智樹 吉村智樹





(モデルさんの髪に、造花ではなく本物の花が活けられている。日本で唯一の「花結い師」による作品だ)



京都を拠点に活躍するTAKAYA(タカヤ)さん、41歳。

TAKAYAさんは花を活ける仕事をしています。

けれども、華道家ではありません


TAKAYAさんは髪に触れる仕事をしています。

けれども、ヘアメイクアーティストではありません

TAKAYAさんは活きた自然の花を髪に結う、日本でたったひとりの「花結い師」(はなゆいし)なのです。


いま、ブライダルやコレクション(ファッションショー)、レセプションパーティーなど華やかな世界でとみに注目される花結い師のTAKAYAさん。

その作風は、きわめてナチュラル。
自然の花や葉や枝、時にはフルーツや野菜をも髪に挿してゆきます。



(頭に植物を乗せているのではなく、髪にしっかり結いこまれている)


目を見張るのは、髪に活ける花の量
頭の上で繰り広げられる色とりどりな花々の饗宴。
大胆さと繊細さが、髪という小さな花壇で爛漫に展開しています。
もはや髪飾りなどというレベルではおさまりません



(モデルさんそのものがブーケになったような華麗な作品)


TAKAYAさんがアレンジした作品は、生きるブーケというか、まるで植物と人間が一体化し、人間の養分で花が咲き誇っているような幻想的なムードに包まれているのです。

なにより、そうとうにボリュームのある植物たちが、髪から落ちないことが不思議
いったいどういう仕組みなのでしょう。



(頭を動かしても花が落ちない超絶の技巧)


そんなハイテクニックを持つ花結い師のTAKAYAさんに、お会いしてきました。


TAKAYAさんのアトリエ「TAKAYA.Design.Office」(タカヤ・デザイン・オフィス)があるのは東山(ひがしやま)と呼ばれるエリア。

観光客でごった返す喧騒の祇園の目と鼻の先にありながら、奇跡的に静かで、緑が多い、風情豊かな街並みの一画にあります。



(TAKAYAさんのアトリエのそばをせせらぐ鴨川の支流。人々が水遊びに興じるのどかな光景)


取材日も、アトリエのそばを流れる鴨川の支流ではのんびり水遊びを楽しむ親子の姿があり、水と緑に恵まれたこの場所は、植物を扱うアーティストにぴったり。


アトリエにいらした花結い師のTAKAYAさん。
この日はブライダルファッション界の第一人者である桂由美さんのグランドコレクションの準備であわただしい様子。


(日本で唯一の「花結い師」TAKAYAさん)


しばし手を止めていただき、いきなり根本的な質問。
なぜあれほどたくさんの生きた花を、髪の上にとどまらせておくことができるのでしょうか?


TAKAYA
「帽子のようにかぶっているわけではなく、花を一輪ずつ、髪に結いこんでいるんです。どう結っているかは詳しくはお話できませんが、僕があみだした独自の手法です。ヘアメイクの世界にはない方法だから、プロの美容師さんが『なぜ落ちないんですか?』『なぜ留まっているんですか?』と訊きにこられます。モデルさんが動けるのか、ですか? しっかり結っているので、動きまわっても落ちることも崩れることもありません。それに重そうに見えますが、バランスを最重要視して結っているので、さほど重く感じず、苦痛や不快をともなうこともないんです」


造花ではないのに、髪から落ちないだけではなく、モデルさんたちが自在に動いても崩れないだなんて驚きです。


しかし生花を髪にそこまでしっかり固定させようとすれば、セットにそうとう時間がかかるのではないでしょうか?


TAKAYA
「いいえ、生きている花ですから、そうゆっくりはしていられません。作品は20分から30分、ブライダルでは10分でつくりあげます。コレクションだと舞台裏で『一分半で変えて!』と言われることもあるんです。もともと僕はコレクションの世界に進みたいと考えていたので、デビューの頃から“早さ”にはこだわって進化させてきたつもりです」


ブライダルだとわずか10分!



(これほどの量の花を、驚くほど短時間でセットしている)


その恐るべき早業もまた一躍TAKAYAさんの名を知らしめたひとつの要因。
結婚式などで披露されるライブパフォーマンスでは、髪の上の現れた花々が一瞬で劇的にその場の空気を変えてしまうので、観客は息をのむほどのスリルを感じるのだそう。



(TAKAYAさんが花結いを始めると、まるで神事のようにおごそかなムードになる)


高速と呼んでさしつかえないそのスピードを実現するには、ずいぶん前からアイデアを考えておられるのではないでしょうか?


TAKAYA
「いえ、花は事前に市場で選びますが、アイデアまでは考えません。デザイン画などもいっさい描きません。なにも考えず、本番で先ずモデルさんの髪に一輪置いてみます。するとその瞬間、手からどんどんイメージが湧いてくるんです。そのイメージにしたがって花を結っていきます」


手、手からですか?


TAKAYA
「そう、手からです。手から花が湧いてきたり、反対に吸いついてきたり、そういうイメージのなかで、手が動くままに結っていきます。なので、同じ作品はないんですよ。作品のタイトルもない。なにを表現したいか、ですか? そう問われるのが一番困るんです。インスピレーションなのでメッセージはないんです。追い求めているものといえばひたすら『きれいに』と『バランス』ですね。ほんの少しでもずれたら、見た目が気持ち悪くなる。そのぎりぎりのラインでバランスを保つことが、言わば僕の美意識です」


花を持った瞬間、手からイメージが湧いてくるというTAKAYAさん。
実は「花結い師」という仕事も、ある日突然湧いてきたイメージから始まったのだそう。


TAKAYAさんは15歳からパティシエやフレンチのシェフをつとめる料理人でした。
24歳でカフェのオーナーシェフとなり、30歳になる直前の、ある日のこと。


TAKAYA
「その日、いつものように厨房で調理していていたんです。そしてフライパンを振っていると突然、“ドレスが枯れ葉でできた女性の姿”が頭に浮かんだんです。さらに枯れ葉が次第に若葉へと変わってゆき、女性の頭から花が湧き出てきた。頭に浮かんだこの映像がとてもきれいで、どうしても『具現化してみたい』と思ったんです」


料理をつくっている最中に突如、女性の頭から花がどんどん湧き出でるイメージが降ってきたというTAKAYAさん。
なんとしてでも実現したいという想いに駆られ、友人女性に頼み、つけかたもわからないまま紫のチャックワンブルー(蘭の一種)を頭に乗るだけ乗せたところ、「これから自分が生きる道はこれだ!」と確信したのだそう。


そうしてTAKAYAさんは、なんと30歳でオーナーシェフの職を退き、髪に花を結うことに特化した、日本で唯一の「花結い師」になることを決意
研究を重ね、短時間に髪と花を仲よくさせるオリジナルな手法をあみだしたのです。



(花結いの手法は進化を重ね、表現の幅も広がっていった)


現在、キャリアは12年目。
かつては、あまりにも斬新な作風だったため、はじめはなかなか受けいれられず、ウエディング会場で強い拒否反応に見舞われたこともあったのだそう。


しかしデビュー当時から地道に続けたパフォーマンス「花衣華 (かいか)」で培った表現力とそのスピード感が桂由美さんに認められ、TAKAYAさんの名はファッション業界を駆け巡りました。

現在は日本のみならず、イギリスのファッションサイト、アメリカやオランダの有名雑誌や新聞などでも紹介され、いま世界中から熱い視線を浴びています。



(花結いはもちろん男性にも施す。結婚式で新郎新婦ともに花結いをすることもまれではない)



(技術が進歩し、造形物も髪に結うことができる)


TAKAYA
「夢ですか? パリコレです。これもイメージなんですが、なにもわからず初めて女性の髪に花を挿したとき、『パリコレに行かなければ!』とひらめいたんです。きれいなだけではなく、早く作品を仕上げるというところにこだわってきたのも、パリコレを前提にしているからなんです」


ファッションの世界に疎い僕でさえ、パリコレへと進むことがどれほど大変かは想像に難くありません。
されど、浮かんだイメージを次々とリアル化してきたTAKAYAさんなら、それは遠くない時期に実現する気がします。

ではTAKAYAにとって、生花を使うことの魅力は、どこにあるのでしょう?


TAKAYA
「花に触れているとわかるんですが、生きた花って本当に同じものがないんです。開き方、色合い、表情、こんなに違うのかというくらい、ひとつとして同じものがない。それに花びらが元気に開いているのって1、2時間くらい。はかないんです。だからその日にできた作品は二度と生まれない。そこがいいと思うんです」


再現不可能な生花のひとときの輝きを、その人の晴れの舞台にリンクさせる。
「花結い師」とは、まさに花と人を結う仕事なのですね。




▼花結い師 TAKAYA Webサイト
http://takaya-hanayuishi.jp/phptest/new_test/bin/index.php



(吉村智樹)


画像提供:TAKAYA