【京都】ゲームデザイナーが作ったお弁当がアートすぎる!
箱のなかに、思い思いのおかずを詰めた、お弁当。
ふたを開けた瞬間、テンションあがりますよね。
そんなお弁当には、これまで幾度かのブームが巻き起こりました。
まず、アニメやゲームなどのキャラクターを惣菜の盛りつけで表現した「キャラ弁」。
洋邦のロックの名盤を模した、シャケ弁ならぬ「ジャケ弁」。
お子さんが震えるほど手がこんだ「虐待弁当」というものもありました。
しかし、京都市中京区にお住いの梅田啓介さん(34歳)が手づくりするお弁当は、これまで挙げたどのジャンルにも汲みいらない孤高の輝きを放っています。
とにかくおかずのレイアウトがシンプルかつ大胆。
たとえばこれ。
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カニが一匹、どーんと置かれているのみ!
「”クラブ”世代のお弁当」と言うべきか。
ほかにも……。
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(クチビルべんとう)
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(「タコウインナーべんとう」。タコはおよそ100匹)
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(DXタコちゃんべんとう)
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(生々しいべんとう)
まるでルネ・マグリットの絵画を思わせるシュールな世界。
そして、なんともおとぼけた作風に、くすっと笑ってしまいます。
そんなアートなお弁当をつくっている梅田さんはゲームデザイナー。京都でゲーム機のハードやソフトを開発する大手企業にお勤めで、誰もが知っている大人気ソフトのキャラクターデザインを数多く手掛けておられます。
そして梅田さんが会社へ持ってくるお弁当が「なんだかすごい」と同僚たちの目に留まり、その噂がじわじわ京都中へと広まっているという状況なのです。
(京都の大手ゲーム会社に勤務するデザイナー梅田啓介さん)
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(梅田さんが日々会社へ持っていくお弁当の数々)
ダリのような芸術家らしいヒゲをたくわえた梅田さんは、幼い頃は通訳の仕事をしていた父親とともにロシアで暮らしていたこともあるのだそう。そういわれると確かに、ごはんの白をそのまま活かしたお弁当の構図が、雪の日のモスクワに似ていなくもありません。
梅田さんがお弁当を詰めはじめたのが4年前。それ以来300種類ものユニークなお弁当を手がけ、インディーズの写真集『おべんとう』も発表されました。
では梅田さんはいったいなぜ、おかずの種類が極めて少ない、いさぎよいお弁当をこしらえるようになったのでしょう。
「初めは、昔からある日の丸弁当でした。それまで自分でお弁当を作ったことがなくて、弁当箱すら持っていませんでした。それでもやろうと考えたのは、ランチタイムをともにする同僚たちから『いまの時代に日の丸弁当?』とツッコんでもらいたかったから。そして狙い通りけっこうウケたんですが、翌日、梅干しを大小2個にして『うめぼし食べくらべべんとう』という名前をつけて持っていったら、みんなから『きのうの続きがあったのか!』って驚かれて、それから本格化したんです」
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(毎日お弁当を作るきっかけとなった「うめぼし食べくらべべんとう」)
サイズと味が異なる梅干しを2個ディスプレイするだけという、ありそうで誰もやらなかった、ちょっとずらしたアイデアのお弁当が同僚たちの歓心を呼ぶこととなり、これをきっかけに梅田さんのクリエイター魂のフタがパカッと開きました。
以来「梅干しとウインナーソーセージで“!”(感嘆符)をあらわす」「梅干しではなく、さくらんぼの日の丸弁当を作ってみる」など、最小限の具材でごはんというキャンバスにプチ前衛な世界を描きはじめ、社員食堂で公開するという怒涛の日々に突入。前日のアイデアを超えてゆくことを自らに課し始めたのです。
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(ありそうでなかった「さくらんぼの日の丸べんとう」)
「ただ、さくらんぼの日の丸弁当は、反応はいまいちだったですね。それで『ああ、ウケを狙いすぎるとダメなんだ』ということに気がつきました」
やはり、ごはんに合うおかずという前提がないと、周囲のリアクションは鈍いよう。
では、これらお弁当はいつ作るのでしょう。
「だいたい出勤前の30分~1時間を使って作ります。ものによっては前日の夜から煮込んだり、下ごしらえをします。材料は会社帰りに買い物をするんです。スーパーマーケットで食料品を見ながら。『これは“枯山水弁当”かな』『これで“間取り図弁当”を作ったらおもしろそう』とアイデアを貯めてゆきます。スケッチブックでレイアウトを描きながら考えることもありますね。思い浮かばないときですか? それが、あるんです。そういう日は社員食堂へ行かない(笑)」
同僚のなかには「お弁当に使って」と、素材をくれる人もいるのだそう。一例を挙げるとプラスチック製の兵士。これは無事「コンバットべんとう」という作品に昇華しました。
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(同僚のアドバイス(?)から生まれた「コンバットべんとう」)
あのう……こういうお弁当は鑑賞するだけではないですよね?
「ちゃんと食べるのか? もちろんです。残さず食べるのが僕のルール。プラスチック製の兵士は食べられませんが、足がピックになっていて、それでブロッコリを食べました」
決して遊びだけではなく食べきるのがポリシー。食べられないものは食器に。
そんな梅田さんのお弁当は、一見シンプルですが入念な下準備あり、工夫が行き届いています。素材の色や見た目をそこなわぬよう、調味料は塩だけにとどめたり、カニは爪の裏を前夜からほぐして食べやすくしたり。とはいえ素材が偏っていますから、栄養面が心配になりますね。
「栄養は、一食ごとではなく、全体で考えるようにしています。たとえば100個のお弁当だったら、100個を通して栄養が偏らないように」
100個を通して栄養のバランスをとるだなんて!
そのスパンの長い発想は梅田さんの本職であるRPGの世界につながっている気がします。
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(「サンマたちの横顔べんとう」の翌日は……)
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(当然「サンマたちのおしりべんとう」に)
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(まだ六分咲きほどの桜は……)
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(翌日は満開に)
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(桃の正体はかまぼこ)
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(キャベツの塩漬けと酢漬けでこんなに色が変わる「実験べんとう」)
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(京都の逸品「千枚漬け」でつくった「パンティべんとう」)
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(ごはんのおかずがおにぎり……)
梅田さんはそののち、京都マルイからのお弁当展の開催依頼を引きがねに「丸い(マルイ)タッパーウエア」を使った新シリーズをスタートさせました。
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(100円ショップで購入した丸いタッパーによる新シリーズ)
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(無数のブタが見つめる「ブタちゃんたちのおべんとう」)
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(「赤い糸こんにゃくべんとう」。こ、こわい……。)
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(おさかなソーセージべんとう)
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(リラックスできないリラックマべんとう)
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(ちりめんキャベツべんとう)
さらには2015年の12月にまるまる一か月の休暇を取り、インド、ケニア、モロッコ、キューバ、ボリビア、アメリカを旅しながら現地で30個のお弁当を作るというアド弁チャーな偉業を達成。海外でのお弁当展「ウメコポーロ おべんとう見聞録」も今冬に京都のギャラリーで開催され、好評を博したのです。
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(インドのアムリットサルの黄金寺院で何万人という信徒とともに受けたほどこしを詰めた想い出深い弁当)
思えば、お弁当箱は携帯可能な、小さな小さなギャラリー。
そしてお弁当とは、親が子供に初めて見せてあげるアートなのかもしれません。
さて気になるのは今後の展開。
「今後……実は昨年、結婚しまして。お弁当は妻が作ってくれるようになったんです。なので自分で作る頻度は減っていますね。会社の同僚たちも『やっぱり奥さんのお弁当の方がおいしそうだね』って(笑)」
(新婚ほやほや。結婚指輪がまぶしい梅田さん)
(奥様が作ってくれた「お弁当柄のお弁当入れ」)
そう照れくさそうに表情をほころばせる梅田さん。
ちょっと残念な気もしますが、いつかぜひ夫婦のコラボレーション作品にもチャレンジしていただきたいです。
(吉村智樹)