ファンとカラオケ?CDが売れない時代を遊ぶ「Awesome City Club」とは?

2016/5/3 14:08 小池啓介 小池啓介


メンバーと一緒にカラオケができる。ランニングをしてランチをする。はたまた女性メンバーとの女子会に参加する――自分の好きなミュージシャンやバンドのメンバーとこんな交流ができたら、おもしろいと思いませんか? それを実現させてしまおうという人たちがいます。

Awesome City Club(オーサム・シティ・クラブ)。去る4月15日の夜からクラウドファンディング企画をスタートさせた新進気鋭の日本のバンドです。

クラウドファンディング・プラットフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」

ふだんは女性アイドル・グループを紹介する記事がメインの当コラムですが、今回は番外編ということで、“アイドル顔負けのおもしろい活動を展開するバンド”をご紹介したいと思います。


■注目度急上昇中!

あらためまして、Awesome City Club は男性3名、女性2名からなる5人組。2013年に結成され、2015年に早くもメジャーデビューしています。

バンド名に冠されたあまり聞きなれない英単語「Awesome」は日本語訳で「素晴らしい」という意味です。そしてその名の通り、まだ数年の活動期間のうちに生み出された楽曲の数々は、驚くほど幅の広いawesomeなものばかり。

一般的な知名度はまだまだですが、音楽フェスなどでは――決して激しいノリを生むわけではないのに――入場規制がかかったりと、音楽ファンの間でにわかに注目度が高まりつつあります。
まずは2曲をお聴きください。

「4月のマーチ」


「Lesson」


いかがでしょうか。これって同じバンドの曲なの? と戸惑われたはずです。
共通点は、ゆるめのBPM(テンポ)と、抜群のメロディセンスがあるということくらいかもしれません。

この2つの楽曲を同じバンドが鳴らしているという点だけでも相当な多様性が感じられますよね。男女のツインボーカル体制とはいえ変化が大きすぎる。曲によってサウンドががらりと変わる点は、Awesome City Clubの最大の特徴ではないかと思います。


■クラウドファンディングって何?

音楽面だけではなく、活動全般がまた自由。
たとえば季節ごとに開催している自主企画では、ステージや会場内の装飾も自分たちでアイデアを出し合い、来場者を楽しませます。

本年3月に渋谷CLUB QUATTROで行われた自主企画では、メンバーや関係者の持ち寄った私物をギャラリーのように展示し、フリーマーケット方式で販売も実施。会場内に貼られたチラシやシールもはがして持ち帰ってOKでした。

その自主企画で初披露された最新曲は、またもや新機軸のテクノ・ポップ。「Vampire (Lyric Video)」。


そんな彼らは、 「クラウドファンディング」の存在をも自由に利用します。
クラウドファンディングとは、インターネットを利用した資金集めの仕組みのこと。“何かを企画しているけれども資金が不足している”ため、その主旨を説明して、ウェブ上で出資者=賛同する支援者を募り実現にこぎつける――それが一般的な意味合いでのクラウドファンディングです。

支援した人には「リターン」と呼ばれる特典が(その出資金額に応じたかたちで)お返しされるのが、これも一般的です。たとえば自主企画映画であれば、エキストラとして出演できたり、出演者からお礼の手紙が届くといったように。

Awesome City Clubの場合は、ちょっと違います。
彼らがクラウドファンディングで“プロジェクト”を立ち上げるのはこれが2度目。ベースを担当し、バンドを主宰するリーダー的な役割のマツザカタクミさんは、自分たちのクラウドファンディングを「自家販売」と表現しています(「時価販売」あるいは「直販売」ともいえますね)。

企画を実現させるという目標を掲げるというよりも、もう少し気軽な感覚なのでしょう。良い音楽が作れたので、1曲いかがですか? といった感じでしょうか。


■遊び心あふれる“リターン”

近年、女性アイドルが握手会などの場で直接ファンと交流する姿は珍しいものではなくなりましたが、今やそれもアイドルに限らなくなっているようです。

たとえばタワーレコード等のCDショップではひんぱんに、ミュージシャンによるミニライブとサイン会がセットで催されています。

さらに、SNSなどを通じて――その是非はともかく――ダイレクトに“本人と”やり取りをすることさえできるようになっている。

こういった昨今の流れからくる距離感の変化を、CDが売れなくなったことに対する苦肉の策ととらえて使うのではなく、“楽しむ”“遊ぶ”方向にもっていっているのが、Awesome City Clubにほかなりません。CDシングルが売れないのであれば、出さないのではなく、欲しい人を募って必要なだけ作り、さらに、みんなでお祭りのように楽しんでしまう――柔軟で前向きな発想ですね。

ここで、メンバーがクラウドファンディングの支援者を募集する動画をご覧ください。集まった資金でシングルが制作される新曲「Don't Think, Feel」が試聴できます。


先に上げたメンバーと交流をする以外にも、リターンの内容は楽しそうなものばかり。
過去に販売したTシャツ(メンバーがデザイン)や、インディーズ時代のサンプル音源の復刻。ライブ後の打ち上げへの参加。もっとも高額なものは、なんとバンドからのオリジナル楽曲1曲プレゼント!

希望の場所までライブをしに来てくれるなんて夢のようなものまで、遊び心たっぷりのリターンが揃っています。お金がからむことは確かですが、そのリターンのラインナップを眺めるだけでもわくわくした気分にさせられるのではないでしょうか。


■音楽の楽しみ方が立体的に

とはいっても、バンドを知るには何よりもその音楽から。
まずは動画サイトで彼らのPVを検索してみてください。1曲でも気になった曲があれば、現在2枚出ているアルバムを手に入れて、そのawesomeな音楽の海に飛び込んでみてはいかがでしょうか。

そして、気分が盛り上がったところで――開始2日目にしてすでに目標金額を達成してしまった――クラウドファンディングのサイトにも是非アクセスを。5月中旬くらいまで募集は継続されています。

さて、最後ご紹介するのは、スマートフォンやパソコンで360度の光景を臨める「Lullaby for TOKYO CITY」のPV。不思議な映像体験は驚きの一言です。



CDが売れない時代といわれて久しいわけですが、いろいろなツールを活用して、こんなにおもしろい“音楽”活動をしている人たちがいるということをもっとたくさんの人に知っていただけると、世の中がちょっとずつ楽しくなる気がします。

良い音楽を鳴らすだけではなく、新しい音楽の楽しみ方を提案してくれる――音楽体験をより立体的にしてくれるAwesome City Clubという新人バンド。要注目です。

(小池啓介)