パトリック・チャン復活!涙と鼻血出たフィギュア「四大陸選手権」

2016/2/27 17:15 東谷好依 東谷好依



ワールド・フィギュアスケート 58
ワールド・フィギュアスケート 58


フィギュアスケートの2015-16シーズンもいよいよ後半戦に突入! その幕開けとなる「四大陸フィギュアスケート選手権」が、2月21日まで台湾・台北アリーナで行われた。

宮原知子が優勝、本郷理華が銅メダルに輝いた女子の戦いもすばらしかったが、今回はなんといっても男子が面白かった! 日本勢は3選手が出場し、宇野昌磨が4位、無良崇人が5位、田中刑事が6位。表彰台は逃したけれども、決して演技が悪かったわけではない。ほんの少しのミスが結果を左右する、非常にハイレベルな戦いだったのだ。

ほかのスポーツにはないフィギュアの面白さは、「ショートプログラム(SP)とフリースケーティング(FS)の総合点で結果が決まること」にある。SPが良い出来でもFSで崩れる場合があるし、思わぬ逆転劇も起こりうる。そこに熱いドラマが生まれるのだ。

今大会では、SPで中国のボーヤン・ジンがトップに踊り出るも、FSではカナダのパトリック・チャンがSP5位から逆転優勝。ケガで2シーズン休養していたカナダのケヴィン・レイノルズは、SPで一度も決まらなかった4回転をFSで成功させた。


■ケヴィン・レイノルズの復帰にファン歓喜

レイノルズは日本にもファンの多い選手だ。軸を細くつくって、ふわりと飛び上がる4回転はまるで風のよう。魔法使いの衣装が似合いそうなチャーミングな顔立ちも人気の理由かもしれない。

13-14シーズンの四大陸で優勝し、まさにこれからというタイミングで膝の炎症や左股関節の故障に見舞われ、2シーズンの休養を余儀なくされた。復帰の舞台に四大陸を選んだのは、過去に優勝した大会といういいイメージがあったからだろう。

復帰のシーズン、レイノルズがSP用に選んだ曲は、日本のアニメ『カウボーイビバップ』の主題歌だ。軽快な曲調にあわせて4回転に果敢に挑戦するも、すべて転倒。演技後半ではキャメルスピンに入る際に転倒し、氷にお腹を打ちつけた。

日本好きを公言し、日本語の勉強もしているというレイノルズ。SPの後のインタビューでは、「残念な気持ちがいっぱいあります」と日本語でコメント。それでも、「今回のパフォーマンスは足りなかったんですけど、フリープログラムも頑張ります」と前向きな姿勢をみせた。

その言葉通り、FSでは冒頭の4サルコウに成功。続く4トゥループもしっかりと着地してみせた。体力が完全に戻っていないせいか、後半は2アクセルで転倒するなどミスが続いたが、復帰初戦としてはまずまずの演技内容。フィニッシュ後は、客席いっぱいにカナダ国旗がはためいた。レイノルズの復帰を待ち遠しく思っていたファンがいかに多かったか、彼自身も実感したことだろう。

2シーズンという長い期間、欠場せざるを得なかった悔しさをバネに、レイノルズが来シーズン以降どんな演技を見せてくれるか期待したい。


■王者復活!「これぞパトリック・チャン」なFS

フィギュアスケートを題材にした槙村さとるの漫画『愛のアランフェス』で、逃げ出した主人公が練習に戻ってきたときに、コーチが「リンクには魔物でも棲んでいるようだな」と声をかける場面がある。何度辛い思いをしても、結局スケートをやめることはできないという意味だ。

ソチ五輪後に1年間休養したのち、今シーズンのグランプリ(GP)シリーズで復帰を果たしたカナダのパトリック・チャン。漫画の主人公とは違い、チャンは “逃げ出した”わけではないけれども、一度離れた氷の上に戻る決意をしたのは、やはり魔物に呼び戻されたからだろうか。

復帰初戦のGPカナダ大会では完璧なSPで他を圧倒した。しかし、その後は思うような演技ができず、ギリギリで進んだファイナルではチャンらしからぬミスが続き4位に終わった。

休養からの完全復活は無理なのか……と思われた矢先の今大会。私たちは、「王者の健在」を思い知ることになったのだ。

SPでは4トゥループで片手をつくなどのミスがあり5位。インタビューでは、「氷にきちんと乗りたいけど氷と全く波長が合わない」と不満を述べた。それでもひととおりの要素をこなせたことに、「この状況の中では良い滑りができた」とコメント。自分を奮い立たせるためか、「FSでは3アクセルを2回入れる」と宣言した。

さて、そのFSである。冒頭の4トゥループ+3トゥループのコンビネーションが決まると、宣言していた3アクセルもきれいに着氷。宣言通り、その後もう一度3アクセルを飛び、見事成功させた。

音感のいいチャンの演技は、細かい音に動きがピタリと合っていて気持ちがいい。『革命のエチュード』の激しくスリリングな曲調を掌握して滑るチャンの姿を見ているうちに、「王者が帰ってきた!」と興奮のあまり涙があふれ、ついには鼻血まで滴ってくる始末。

フィニッシュ後、チャンは氷を大きくたたいてガッツポーズ。元王者の圧巻の演技に、宇野やジンなど控え室にいた若手も拍手を送った。

あと1か月後に迫った世界選手権は、チャンをはじめ、羽生や宇野、ジン、ハビエル・フェルナンデスなど、男子のトップ勢がそろい踏み。フィギュア男子のレベルは上昇の一途をたどっている。互いに影響されて、もしかしたら世界最高得点がまた更新されちゃうかも!?


(東谷好依)