千葉ロッテ「井口資仁」はなぜ活躍し続けることができたのか【ベテランたちのターニングポイント】
井口 資仁著/ベースボールマガジン社
1997年、「新人選手によるデビュー戦満塁本塁打」は、史上初の快挙だった。
2009年、通算150号のメモリアルアーチは、史上7人目の「全打順本塁打」だった。
2013年、「日米通算2000安打」は、同年無敵を誇った田中将大からの本塁打だった。
大学時代からスター街道を歩み、ホークスでは日本一を、メジャーでもチャンピオンリングを獲得した男は、節目節目をド派手な本塁打で飾ってきた。
千葉ロッテマリーンズ、井口資仁。41歳。
彼は、なぜここまで第一線で活躍し続けることができるのか? ターニングポイントは「盗塁」「二塁守備」「2番打者」という、華々しい経歴とは裏腹の地味なプレーを極めたからだ。
■具体的な数字で表される、明確な目標
ドラ1ルーキーの期待どおり、華々しくプロデビューを果たした井口。ところが、一発はあってもヒットが続かないバッターとして伸び悩むことになる。
事実、プロ4年目のシーズンが終わっても打率は一度も2割5部を超えず、同期入団で自分よりもドラフト下位指名だった松中信彦、柴原洋にチーム内での立場も奪われてしまう。
そんな井口に転機が訪れたのは、入団5年目、2001年のこと。
「松中も柴原も活躍しているというのに、お前は悔しくないのか。(中略)何でもいいからタイトルを取るんだよ。お前の同期の連中は、まだ誰も何のタイトルも取っていない」(井口資仁著『二塁手論』より)
そんなコーチからの言葉がキッカケだった。
「自分がなにを目指せばいいかわからなくなっていたあの頃の僕にとって、具体的な数字で表される、明確な目標は魅力的だった」(『二塁手論』より)
結果としてこの年、44盗塁で見事に盗塁王を獲得。そして、盗塁にチャレンジすることが、投手を観察すること、相手の配球を読むという習慣化につながり、打撃にも好循環をもたらすことになる。
加えて、この年から二塁手にコンバート。これによって体のバランスも改善した井口は飛躍的に打撃が向上。この年、打率は.261と初の2割5分越え。そして、本塁打はキャリアハイの30本をマーク。30本40盗塁はプロ野球史上3人目、という快挙だった。
■人生は「小さな幸せの積み重ね」
メジャーでは「チームバッティングに徹する2番打者」として己の欲を消し、チームの勝利だけを目指してワールドシリーズ制覇に貢献。監督からは「本当のMVPはイグチだ」と評された。
舞台が変わっても、立場が変わっても結果を残すことができるのは、自分自身の中に揺るがない軸があるからだ。それは、小さな達成感の積み重ねが人生を変える、という信念だ。自著『心の軸』のなかで、こんな言葉を残している。
「今日を生きること以上に大切なことはない。それは小さな幸せの積み重ねかもしれないけれど、人生はその積み重ねでできている。今日という日をどれだけ大切に過ごすかで、人生の意義は変わる。人に与えられた時間は平等なのだから」
球界最年長野手となった今年、その積み重ねの先にはどんな成果が待っているのだろうか。
(オグマナオト)