逆境こそが美味?SKE48とファンの熱い関係を読む
『別冊カドカワDIRECT 03』 /KADOKAWA/角川マガジンズ
先ごろ流れたSKE48のNHK紅白歌合戦“落選”の報(正確には報ではありませんが)は、ファンに大きな衝撃を与えるものでした。
同じ48グループでは、AKB48と大阪を拠点とするNMB48のみが出場となり、SKE48とともに指原莉乃を擁するHKT48も落選。グループ内で明暗がくっきり分かれたわけです。
この結果は、少なからずファンをがっかりさせるものだったことは確かでしょうが、それと同じくらい、どこかファンの気持ちを熱くさせていた面もあったのではないかと推測します。
そう、おそらく多くのSKE48ファンは、むしろ“熱い気持ち”になったのです。
“落選”という出来事すらガソリンにして熱量を増していくファンとSKE48の関係の本質が感じ取れるムックが、絶妙なタイミングで刊行されています。
『別冊カドカワDIRECT 03』――今回は、「本」についてのご紹介になります。
■充実の総力特集70ページ
SKE48(エスケーイーフォーティーエイト)は、AKB48の初めての姉妹グループとして2008年に誕生したアイドル・グループです。名古屋市の栄に専用の劇場を構え、そこを中心に活動をしています。
長きに渡り松井珠理奈(まつい・じゅりな)、松井玲奈(まつい・れな)のWセンター制をとってきましたが、松井玲奈がこの夏に卒業したことで、グループには大きな転換期が訪れたといえるでしょう。
『別冊カドカワDIRECT 03』では、それを「再出発」と呼び、メンバーたちのインタビューにおける大きなテーマとしています。劇場支配人を含む16名もの人物にインタビューを敢行するという大掛かりな特集は全70ページ。“充実”の一言に尽きます。
ちなみに『別冊カドカワDIRECT』は、2013年にスタートしたムックのシリーズ。
刊行は不定期で、本年2015年の夏に第2弾が出ており、そこでは男性アイドル・グループのV6が“総力特集”されていました。この2冊目から、「インタビューによる人物の掘り下げ」がコンセプトとして定着した感があります。
さほど間をおかずに刊行された第3弾である本書では、SKE48がメインで特集されていますが、その他にも女性アイドル・グループ(アイドルネッサンス、わーすた、原宿駅前パーティーズ、そしてcallme)のインタビューなども掲載されていています。
■初期メンバーが語る貴重な本音
48グループは、各グループへ入った時期によって、メンバーを1期生、2期生……と呼んでいます(在籍期間が長くなるにつれ、卒業を選ぶ人も多くなるわけです)。
本ムックでは、ついに残る2名となったSKE48の第1期生である松井珠理奈と、もうひとり大矢真那(おおや・まさな)、それに2期生にしてSKE48の中心メンバーともいえる高柳明音(たかやなぎ・あかね)に特に多くのページがさかれています。
最初期からグループとともに過ごしてきた3名のインタビューが並ぶことで、ページ数の多い少ないを超えて、非常に興味深い内容になっているのです。
SKE48「1!2!3!4! ヨロシク!」上記3名がはじめて選抜に顔をそろえた4枚目のシングルです。
各自のインタビューからは、支柱となっていたメンバーが抜けた後のグループの状況など、大所帯アイドル・グループの内情が垣間見えます。また、先輩であるAKB48へのライバル意識も随所で吐露されています。
でも、それら以上に伝わってくるのは、CDの売行きは他のアイドル・グループを圧倒し、テレビにも頻繁に出演しているにも関わらず、それでもなお満たされていない気持ちでした。
松井珠理奈は、街を歩いていてもSKEではなくAKB48のメンバーと思われることが切ないといい、大矢真那は、松井珠理奈がAKB48との兼任状態を終えて活動をSKE48一本に絞ることに複雑な思いを抱き、高柳明音はSKE48には「“昔のほうが輝かしく見えてしまう”という変なフィルターがかかっている」と感じている……。
これはメンバーだけの過度な不安や被害妄想からくるものではないと思われます。SKE48のファンからも、紅白落選に限らず、SKE48は48グループ内でも不遇をかこつ立場におかれているとはよくいわれることのようです。たとえば、過去のテレビ番組ではAKB48のバックダンサーの如き扱いを受けたことだってある。
しかし、それゆえにファンの思いは熱い。「箱推し」と呼ばれる、個々のメンバーだけでなくグループ全体を応援する人が多いのもSKE48の特色です。
AKB48がメインのコンサートなのに、途中で登場したSKE48メンバーへのコールが度を越して大きかったというエピソードもあるくらいなのですから、ファンの熱量は推して知るべし。メンバーもそれに後押しされるように、SKE48をより確立させるために日々努力を続けている。
そんな相乗効果が、SKE48をして、グループ内でも屈指の“異様な熱さ”をたぎらせるグループにしているのでしょう。
グループインタビューの記事で3期生・須田亜香里(すだ・あかり)は、現在のメンバーたちの思いを「みんな飢えてる」と表現しています。
満たされないからこそ、逆境があるからこそ、メンバーもファンも強い団結力をもつ。紅白落選という負のドラマもまた、このグループの歴史を彩っていく甘美な記録なのかもしれません。
だから――華々しいはずのアイドルの世界で、SKE48は独特の輝きを放っている。『別冊カドカワDIRECT 03』の特集を読めば、その理由がよくわかるはずです。
付け加えると、このインタビュー記事は、ファンに向けてというだけではなく、職業アイドルという人々の内面に迫るとても貴重な記録としても読むことができるでしょう。プロデューサーたち大人のコントロールを超えたところにある、アイドルの意志の強さに圧倒される良質のインタビューは、ぜひ多くの人に読んでもらいたい内容になり得ているのです。
最後に、松井珠理奈をセンターに若手メンバーから成るグループ内ユニット「ラブ・クレッシェンド」のシングル「コップの中の木漏れ日」をどうぞ。SKE48の未来を予感させる一曲です。
(小池啓介)
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