敗者のホンネ、女流棋士の迷画…ニコ生の将棋「叡王戦」がおもしろい!

2015/9/5 11:00 高橋 雄輔 高橋 雄輔





今年6月に開幕したドワンゴ主催の将棋「叡王戦」。その優勝者はコンピュータソフトと「電王戦」で頂上対決を行うのだが、これは単なる前哨戦ではない。テレビとは異なる画期的な将棋番組として、“観る将”のあいだで話題となっているのだ。そこで今回は「叡王戦」の注目ポイントを紹介したい。

この新棋戦には羽生名人や渡辺棋王らをのぞき、ほとんどのプロ棋士が参加している。予選を含めた全対局がニコ生で中継されるため、なかなかテレビに登場しない棋士の対局も観戦できる。「王座戦」の挑戦者となった絶好調の若手・佐藤天彦八段に日浦八段が勝つなど、ベテラン・中堅の強さに驚いた視聴者も多いはずだ。

そして、解説者と聞き手の軽快なトークも見どころ。NHKの将棋番組ではマジメな解説ばかりだが、ゆるい空気のニコ生では対局者のプライベートや解説者の失敗談などが明かされることも。視聴者からのコメントに解説者が反応してくれるので、対局の進行が遅くても退屈しない。


対局前に雑談をかわすベテラン、30分前から正座で待つ若手

将棋ファンにとってうれしいのは、対局前の駒並べから対局後の感想戦まで一部始終をずっと観られることだ。たとえば駒を並べる順番には「大橋流」と「伊藤流」という伝統的な作法が存在するが、先崎九段は自己流のテキトーな並べ方。「駒の配置は同じなんだから、どうだっていいじゃないか」というおおらかな性格がわかる。

もちろん、対局前の様子にも棋士の個性があらわれる。ベテランの青野九段は対戦相手と雑談をかわして、和やかな空気をつくっていた。一方、若手強豪同士の菅井六段と永瀬六段が対局した際は、開始30分前から双方が盤の前で正座。精神を統一しているかのような真剣な表情から、一局にかける想いが伝わってくる。


解説者も動揺!形勢判断がコンピュータと食い違うことも



対局が始まると、タブレットを使って解説者が指し手の意味を説明してくれる。コンピュータソフトの評価値(形勢を示す数値)が表示されるので、「この手順で進むと先手優勢」といった説明がわかりやすい。自身の説明と食い違う評価値が出た場合、解説者があわてて、視聴者のコメントも盛りあがる。正確な解説だけでなく、ミスやハプニングも含めて楽しめるのだ。

また、将棋は現役のプロが解説を行うため、予選を終えた棋士が解説者として登場する場合もある。大逆転負けを喫した西尾六段は解説者として登場した際、「いいわけなんですけど…」と自ら転んでしまった経緯を苦しそうに説明。A級棋士の久保九段も、反省をまじえながら自らの敗局をふりかえった。従来の将棋番組では考えられない人間味あふれる解説だ。


結婚生活はガマン? トップ棋士がプライベートな質問にも回答

最大の見どころは対局ではなく、じつはメールコーナーかもしれない。対局開始前に30分もの時間(おもに17時30分から18時)が設けられており、視聴者から寄せられたさまざまな質問に解説陣が答えてくれる。

17歳下の女性とゴールインした三浦九段(愛称:みうみう)が登場した日は、結婚に関する質問が殺到。グチのような回答を淡々と続けた後、「(奥さんは)今日がニコ生の解説とは思っていないので大丈夫です」と力強くいいはなつ。視聴者から「これはのろけ」とツッコミが入ると、微笑を浮かべる場面もあった。

女流棋士のお絵かきリレー!笑いをこらえる新しい将棋番組



「画伯」の異名をもつ藤田女流初段が聞き手を務めたときは「新作を描いてほしい」という要望が。優秀な運営スタッフ!にうながされ、独自の視点から犬やひつじ、スズメなどを描きあげた。解説者の深浦九段も“迷画”を前に「めずらしい将棋番組ですよね」と笑いをこらえる。翌日の放送では、中村桃子女流初段が藤田画伯に匹敵する絵心を披露した。

楽しい「叡王戦」は12月まで続く。はたして女流棋士のお絵かきコーナーは定例化されるのか。そして誰がトーナメントを勝ちあがり、最強のコンピュータと戦うのか。ニコ生の将棋中継から目がはなせない。

(高橋雄輔)