西洋絵画は「おフェロ顔」?!

2015/6/9 11:00 Tak(タケ) Tak(タケ)

今、InstagramやTwitterでしばしば見かける「おフェロ顔」。ちょっと口に出すの躊躇ってしまうほどのこの際どい表現を、若い女の子たちがバンバン使っているのですから、何とも怖ろしい時代です。

ところで、「おフェロ顔」って何よ?

「おフェロ顔」とは雑誌『ar(アール)』(主婦と生活社)が、世に広めた造語です。「おフェロ顔」の「お」は「おしゃれ」、「フェロ」はずばり「フェロモン」のこと。



つまり、おしゃれでフェロモンたっぷりの顔ということ。『ar』の表紙をしばしば飾る女優の石原さとみさんの顔を思い浮かべてもらえればOK!他にも水原希子さんや、長澤まさみさん、有村架純さん、本田翼さん等々。

潤いや艶(つや)のある、いわゆる「うるツヤな肌」で、血色が良いことも大事なポイントです。時にオカメインコもびっくりな思い切ったチークも忘れずに!


『ar (アール) 2014年 07月号』表紙

でも、この「おフェロ顔」ブームってここ最近ポッと出てきた単なるモテテクではなく、昔からず~と女性が目指し憧れていた顔なのです。現代のような飽食の時代とは違い、食べ物にありつけることがやっとの時代も人間の長い歴史の中で続いてきました。

それは「理想の美」を求め続けた、絵画の世界をちょっと覗いてみれば一目瞭然です。健康的で、うるツヤな「おフェロ顔」を絵画の中から幾つかご紹介しましょう。


ドメニコ・プリーゴ
《アレクサンドリアの聖カタリナを装う婦人の肖像》
1520年代 油彩、板

今年(2015年)の3月17日より、上野にある国立西洋美術館常設展(本館2階)にて新たに展示が始まった作品です(2014年に購入)。ラファエロの描く優しい女性像の影響を受けたこちらの作品。目はキリッとこちらを見据えてますが、お肌はツヤツヤ、頬紅もばっちりな「おフェロ顔」です。

一般:430円、大学生:130円(国立美術館キャンパスメンバーズ 加盟校の学生・教職員は無料)でこんな素敵な彼女に会えるのです!因みに高校生以下及び18歳未満、65歳以上は入館無料です。更に、お得情報として、2015年6月13日(土)、14日(日)の2日間は「ファン・デー」として無料開放されます。 詳しくはこちら



スペイン絵画の黄金期17世紀を代表する画家ムリーリョは、市井の子どもたちのありのままの姿を描いたことで知られています。(国立新美術館での展示を終え、6月16日より京都市美術館へ巡回する「ルーヴル美術館展」に一枚良い作品が出ています。)

一方で、聖母マリアの純潔性をあらわした「無原罪の御宿り」も得意の画題で、何枚も同じような作品を残しています。それだけ当時から人気があったです。やはり人気の秘訣は「おフェロ顔」でしょうね!



アート好きでも中々馴染みのない、ルネサンス・マニエリスム期のイタリアの画家アドメニコ・ディ・パーチェ・ベッカフーミが描いた「受胎告知」のマリアさま。まだ若干幼さが残る表情とは不釣り合いな筋肉隆々の二の腕がたまりませんね。あっ!腕じゃなくて顔に注目しなくちゃいけないのでした。失礼失礼。

「受胎告知」の場面に描かれているマリアさまの顔を画像検索かけて見らべてみると楽しいですよ。はたしていつ頃からこうした「おフェロ顔」的に描かれるようになったのか探ってみてみましょう。ひとつのテーマから「美」の変遷を追っていくと思わぬ発見があるものです。

さて、ルネサンス期から一気に印象派へ飛んでみると、「おフェロ顔」マスターとも言うべきひとりの画家に出会えます。彼の名はピエール=オーギュスト・ルノワール。


ピエール=オーギュスト・ルノワール「ジャンヌ・サマリーの肖像」(1877年) 油彩、カンヴァス

2013年に愛知、横浜、神戸で開催された「プーシキン美術館展」の「顔」としてポスターやフライヤーにも数多く使われていた作品なので、覚えていらっしゃるかと。

描かれた当時若干20歳の若手女優だったジャンヌ・サマリーの瑞々しい肌を見事に表しています。この作品が描かれた19世紀後半は、化粧がパリの市民階級にも爆発的に普及した時期です。赤く健康そうな唇と、頬のチークが若い女優の魅力を一層引き立ています。

最後に、ちょっと変化球的な作品で終わりにしますね。6月2日より東京藝術大学美術館でスタートした「ヘレン・シャルフベック―魂のまなざし」展に出ているこちらの作品です。


ヘレン・シャルフベック《黒い背景の自画像》 1915年 油彩・カンヴァス
フィンランド国立アテネウム美術館
Herman and Elisabeth Hallonblad Collection,
Ateneum Art Museum,
Finnish National Gallery/Hannu Aaltonen

「シャルフベック展」公式サイト

フィンランド生まれの女流画家シャルフベック。これまで日本で紹介されたことありませんでした。(シャルフベックの画業を知る最初で最後の展覧会となりそうです。)

フィンランドを代表する女性画家ヘレン・シャルフベックの日本で初めての回顧展が開催されます。

何点か自画像も出ている中で、「黒い背景の自画像」はまさに「おフェロ顔」。ちょいと澄ました感じではありますが、それもまたご愛敬。マリー・ローランサンとの関連性などを頭に入れながら見るとまた違った感じを受けるはずです。

さぁ、ミュージアムや展覧会へ「おフェロ顔」を探しに行きましょう!憂鬱な梅雨空なんてなんのその。何かひとつテーマを決めて観に行くと何倍も愉しめるものです。



「ヘレン・シャルフベック―魂のまなざし」展

会期:2015年6月2日(火)~7月26日(日)
会場:東京藝術大学大学美術館