ボブ・ディランとアンディ・ウォーホルを虜にした60年代最強の妖精イーディ

2014/10/23 13:30 星子 星子



こんにちは。近代芸能史を彩る美女達ををご紹介しております星野と申します。前々回の記事   「あなたはどっち派?ビートルズの女VSストーンズの女・超絶美少女対決」 では、60年代ロックミュージシャンを翻弄した可憐な美少女、パティ・ボイドとマリアンヌ・フェイスフルをご紹介しました。



“女性が女性らしく一番美しかった”と言われる60年代。ストーンズ・ビートルズを取り巻く才色兼備な美女軍団の中でも、ガーリーでドーリーなこの二人の容姿は、特に日本人受けが良さそうです。


■ 日本人受けする欧米美女の特徴って?

同じ美女でも、日本で受けるかどうかの境界線は“もののあはれ”に通じるような“儚さ・脆さ・いたいけさ”ではないでしょうか? 長い間肉食ではなかった文化の中で、クーガーのように強く美しいタイプより、ウサギのように愛らしいものを好む傾向がありそうですね。



個人の好みもあるので一概には言えませんが、一般的に日本のアイドルや女優は華奢な体型の方が好まれ、若々しくピュアであるほど人気が集中します。


■ 60年代美女の中でも飛びぬけて妖精的な存在

今回は、まさにそんな“儚さ”という概念を擬人化したような、最強の“妖精系美女”をご紹介したいと思います。



60年代、画家・アンディ・ウォーホルのファクトリーのミューズとして君臨し、あまたのロックミュージシャンやアーティストを魅了したイーディ・セジウィックという女性をご存知ですか?



マリアンヌ・フェイスフルを天使、パティ・ボイドをお人形に例えるなら、折れそうに華奢なボディといたいけな瞳を持つイーディは、まさに妖精のような女性でした。


■ 裕福で複雑な家庭環境で育まれた不安定な美しさ

イーディ・セジウィックは1943年カリフォルニア州にて、名門セジウィック家の8人兄妹の7番目の子供として生まれました。



上記のマリアンヌ、パティにも言えることですが、60年代スターを虜にしたミューズ達は、どれだけ奔放な人物であっても、育ちのよいお嬢様である確率が不思議な程高いです。



貴族的で優雅な生活の中で育まれた可憐な箱入り娘を手に入れることは、芸術的才能でスターにのしあがった男にとって、自分のクラス感をも底上げしてくれる魅力的なオプションだったのかもしれませんね。

父親は裕福な牧場主で、異常なほど厳格な人物だったと言われています。そんな背景もあってか、拒食症を煩って寄宿学校を1年で中退。1962年には精神病院にも入院します。


■ 映画「17歳のカルテ」そのもののような少女時代

当時の写真を見てみると、抜群に整った容貌ではあるものの化粧っ気もなく、どこか居心地の悪そうな笑みを浮かべています。同じく精神病院に入院する少女を描いた映画「17歳のカルテ」のアンジェリーナ・ジョリーを思わせる、癇症の強さを滲ませた佇まいです。



1964年には、兄のミンティが自殺してしまいます……。伝記「イーディ」(筑摩書房)には、華麗なる一族・セジウィック家は才能のある優秀な人物が数多く輩出している一方で、メンタルの弱い人物も多かったことが伺えるエピソードが記されています。



生まれながらの繊細さに、複雑な家庭環境……ウォーホルを初めとするゲイのアーティストまでも魅了したリアリティの薄い透明感は、そんなガラスのように脆いメンタルから醸し出されているのでしょうか。



■ 時代の寵児、アンディ・ウォーホルとの出会い

精神病院を退院したイーディーは美術を学ぶため、マサチューセッツ州のケンブリッジからマンハッタンに転居します。1964年、ニューヨーク東60丁目に住み始め、社交界デビューを果たすと、そのコケティッシュな立ち居振る舞いと並外れた美貌で、瞬く間に注目を集めます。



当時、アートの先端を行くニョーヨークで、飛びぬけてクールだと思われていたアーティストがアンディ・ウォーホルです。ポップ・アートというジャンルを切り開き、ファクトリーと呼ばれる工房で絵や映画など、時代を牽引する作品を生み出していました。



イーディはニューヨークでそんなウォーホルと対面を果たし、人生の転機を迎えます。ウォーホルはファクトリーのそこかしこに、たえず美女と美男をはべらしていましたが、イーディはそんな選ばれた人々のなかでも特別な寵愛を受けた、ファクトリーの第2号の妖精です。(第1号はベビー・ジェーン・ホルツァー)




■ ゲイ・ヘテロ・同性までも魅了するオールマイティーな美しさ



中性的な美貌で美少年のようにも見えるイーディは、ファクトリーに出入りするゲイのアーティスト達にも熱烈に支持されました。そればかりか、同性であるロック・スター、パティ・スミスまでも魅了します。彼女はイーディを評してこう語っています。「輝く知性とスピードはこういうふうに一緒になればいいんだ」



「イーディは最高だったわ。夢中だったといってもいいくらい。べつに女が好みってわけじゃぜんぜんないんだけど、彼女に私は首ったけだった」。(出展:「イーディ」【筑摩書房】)。無論、女好きのロックスター達は言うまでもありません。




■ 若者の繊細な感受性を揺さぶるカリスマに…

やがて「VOGUE」の表紙を飾り、若者文化を揺さぶる「ユースクエイカー」と呼ばれるようになり、1965年には「ガールズ・オブ・イヤー」にも選ばれます。



当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったイーディが、ロック界のレジェンド、ミック・ジャガーと話している希少な写真が残っています。大勢にモミクチャにされている風のブレた写真ではありますが、スター二人の登場に興奮する大衆の熱気が伝わってきます。



そんな時代の寵児、イーディとウォーホルの蜜月も、イーディがボブ・ディランと交際を始めたことがきっかけで終わりを告げます。



2人は恋に落ち、ディランはイーディからインスピレーションを受けて「Just Like A Woman」を作曲したと言われています。また、ボブ・ディランのみならず、あのジム・モリソンもイーディの虜だったとのことです。



ディランは、ウォーホルと彼のファクトリーに好意的ではありませんでした。イーディの人生を描いた伝記映画の中には、「ウォーホルが描いたスープ缶のように中身は空っぽ」と、“ファクトリー的なもの”に冷笑的な彼の姿が描かれています。




■ ファクトリーを追われたシンデレラの転落

そんな2人の関係に嫉妬をしたウォーホルは、イーディをミューズの座から引き摺り降ろし、変わりにイングリッド・スーパースターという新たな若い女性を引き立てます。



ファクトリーを追われたイーディはやがてディランとも破局し、毎夜毎朝がドラッグ漬けのファクトリーに毒されたまま世間に放り出され、精神のバランスを崩してゆきます。



奇行が目立ち始めた彼女を、両親は再び精神病院に入院させます。




■ つかの間の結婚と28歳の死

幾度もの脱走…ドラッグ過剰摂取による再入院を繰り返したイーディーは、病院で出会った患者のマイケル・ポストとつかの間の結婚をします。心身ともにボロボロで、“エイリアンのようだ”と言われるようになってしまっていた彼女ですが、結婚式の写真はかわいらしく、子供のような無邪気な笑みを浮かべています。



1971年11月、美術館で開かれたファッション・ショーのためパーティに出席した後、イーディは薬物過剰摂取により、28年の短い生涯を閉じます。


■ 彼女を薬物過剰摂取による死へと駆り立てたものは…

ファクトリー追放の原因を作ったボブ・ディランですが、イーディと交際当時密かに結婚していたと言われています。生活を共にする生命力のある美女をキープしつつ、儚げな妖精に恋をするのは芸術家にありがちな傾向ではありますが、むろんイーディにとっては受け入れがたい事実でした。



ウォーホルが「彼は結婚している」とイーディに忠告すると、彼女は動揺しつつも「うそよ?なに言ってるの?」と受け流したとのことです。



ウォーホルのミューズの1人、ヴィヴァは後にウォーホルとイーディの関係に対してこう語っています。「彼は多分イーディに恋していたのよ。(中略)セックスのない恋みたいなもの。(中略)彼は怒り狂ったわ。妾に裏切られた男ってとこね」(出展:「イーディ」【筑摩書房】)




■ 「ジゼル」の「ウィリ」を思わせる哀しくも美しい写真

バレエの演目「ジゼル」の中に、 男性に裏切られて乙女のまま死んだ“ウィリ”という精霊が登場しますが、ベッドのアラベスクのポーズをとる全盛期のイーディの有名な写真は、まさに哀しい乙女の妖精・ウィリそのもののように見えます。 性別問わずアーティスト達を揺さぶり惹き付けた痛々しくも美しい風情がダイレクトに伝わってくる1枚です。



ウォーホルはイーディに対して「(友人だったのは)だいぶ昔の話だし、それほど親しくもなかったしね」と語り、イーディの死に対しても無関心だったと言われていますが、“ファクトリー追放”というサディスティックな仕打ちの中に、イーディに対する愛憎が透けて見えます。



イーディとウォーホルの関係について、作家・トルーマン・カポーティは後にこう語っています。

「思うに、イーディはアンディがなりたかった何者か、だったんだ。ピグマリオン風にアンディは彼女に転換しようとした。(中略)アンディ・ウォーホルはイーディ・セジウィックになりたかった。チャーミングで生まれのいいボストン社交界の娘になりたかったんだ。アンディ・ウォーホル以外の誰かになりたかったんだ」



今回のコラムの参考文献「イーディ」に描かれている、2人のルーツから出会い・死までのドラマチックな流れを眺めていると、その悲劇的な結末も含め二人の関係性そのものが繊細なアート作品だったように思えます。


【参考】

※ イーディ―’60年代のヒロイン(ジーン スタイン (著), ジョージ プリンプトン (著) - 筑摩書房

※ ファクトリー・ガール (ジョージ・ヒッケンルーパー 監督)- エイベックス・ピクチャーズ

(星野小春)