軽くトラウマ?小・中学校国語教科書に載っているゾッとする鬱展開
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みなさんは、国語や道徳の教科書に出てきたお話で、心に残っているものはありますか?「手袋を買いに」、「おじさんのかさ」、「大造じいさんとガン」などなど、同世代と懐かしの教科書ストーリーについて話すのも楽しいものです。かわいらしいストーリーも多いですが、「ごんぎつね」を初めとする、軽く泣きたくなるような悲しい話も少なくないですよね。
基本名作揃いなのですが、中には、「私、子供だけど、おおっぴらにこれ読んじゃってOK?」と子供心に衝撃を受けるほどの欝展開ストーリーも存在したりします。今回は、そんな「国語の教科書、欝展開のトラウマ話」を思い出してみたいと思います。
■ 欝オブ欝、いっそ清清しいほどの救いの無さにしびれる…
欝展開の教科書小説の王様と言えば、中学の教科書に出てくる短編・山川方夫 「夏の葬列」 ではないでしょうか?
秘封スレ百三
236:夏の葬列が怖くて読めない・・・
237:ではまず夏の葬列 (集英社文庫)をどうぞ
238:こっちの夏の葬列もBADぽいじゃないですかーやだー
240:夏の葬列(山川方夫)はBADENDの傑作なのでもっとやれ
— 七色/影・ブランドー/鬼巫女 (@nanasiki_brando) 2014, 5月 25
あらすじをざっくり書くと、
【主人公の男が子供時代、疎開先で空襲にあう。助けようとかけよってくれた幼馴染の女の子の白い服が爆撃の標的になるのが怖くて、「こっちへ来るな」と衝動的に銃弾のほうへつきとばしてしまい、その子は爆撃され大怪我をする。彼がしたことは誰にも見られておらず、彼女の生死が分からないまま東京に帰る。
「もしかしたら殺したかも?」と罪悪感を抱えたまま成人してその町に行ったら、大人になった幼馴染と思われる遺影を掲げたの葬式に行き当たる。「よかった!大人になっていた。あの時殺してなかった!」と安心したのもつかの間、実はそれは、あの時の爆撃で娘を失って気が狂ったまま生き続け、最近になって自殺した彼女の母親の葬式で、写真は若い頃のものだった。】
突然ですが、ショートショート(という言い方が適してるかやや微妙だけど)の中で最も好きなのは、山川方夫の「夏の葬列」。あの短さであの密度は途方もなく凄い。トラウマ的に忘れられない作品。
— Story Seller (@editor_of_SS) 2012, 3月 11
みたいなお話です。ひどいですね~。
悲鳴を、彼は聞かなかった。その時強烈な衝撃と轟音が地べたをたたきつけて、芋の葉が空に舞い上がった。辺りに砂ぼこりのような幕が立って、彼は、彼の手であおむけに突き飛ばされたヒロ子さんがまるでゴムまりのように弾んで空中にうくのを見た。(夏の葬列/山川方夫/中二)
— 国語の教科書bot (@kokugokyokasyo) 2014, 9月 8
「ヒロ子さんがまるでゴムまりのように弾んで空中にうくのを見た」という表現のグロテスクさに戦慄しつつも、最後の絶望的すぎるオチがジワジワ効いてきて、感動にも似たカタルシスを感じてしまう良質な短編です。
3階】懐かしの国語教科書に再会するフェア。戦争作品の紹介はこれで最後。『夏の葬列』(山川方夫)主人公の葛藤、心の動きに、こちらも強く心を揺り動かされる作品です。後味はあまり良くありませんが、強い推しのもと選出いたしました。http://t.co/lokxUGCz YA
— 紀伊國屋書店新宿本店 (@KinoShinjuku) 2012, 11月 29
■ 版画の絵がよりいっそう怖さを掻き立てる…和製「ライフ・イズ・ビューティフル」
小学生向けの絵本にも関わらずオチが残酷で、貧しい農民一家が権力に抵抗するという非常にシリアスなテーマを内包したトラウマ絵本の定番と言えば斎藤隆介の
「ベロ出しチョンマ」
があげられます。
「ベロ出しチョンマ」という絵本があります。子供の頃ショックを受けました…
。
“@chi_bakun_chiba: 佐倉宗吾(木内惣五郎)は、凶作と重税に苦しむ農民を救うため、禁じられていた将軍への直訴を行い、妻子とともに磔の刑に処され、財産も没収されてしまったんだって。”
— しの (@msgiab) 2014, 9月 6
こちらも、一部地域の国語の教科書に採用されていたようです。ざっくりとしたあらすじは
【冬になると霜焼けが痛くて泣く妹に、兄の長松は、眉毛をハの字型に下げて、舌をベロっと出すヘン顔をして笑わせていた。ある時、父親が生活に苦しむ人々のために年貢を下げてもらおうと、将軍家に直訴したために、家族全員、長松と妹も一緒にハリツケにされます。処刑台の上で怖くて泣き叫ぶ妹を笑わせるために、長松は自分もハリツケになりながら、いつもの変顔をして妹を笑わせます。二人は笑いながら槍で貫かれて絶命します。後に、そんな長松の姿は、ベロ出しチョンマの人形になって村に伝わる伝説になった】
@chi_bakun_chiba 子どものころ学校でベロ出しチョンマの劇をやりました。演じながらなんともいえずショックだった記憶があります。
— yukko (@oyukkok) 2014, 9月 6
といった感じです。さらに悲しいことに、実話をもとにしているとのこと。始まりがほのぼのとしているだけに、後半の残酷さとのコントラストが鮮烈で胸に迫ります。それでも笑いを忘れずに死んでいく姿は、ユダヤ人強制収容所でも最後までユーモアを失わない父親を描いた名作映画「ライフイズビューティフル」に通ずるものを感じます。
ひょっとしたら関西に住んでいたら知らないかも知れませんが、関東に「ベロ出しチョンマ」という話があって、これが非常に強く印象に残っています。 こういうタッチの絵本で…。 @junorei3 @budiutomo26051 pic.twitter.com/aaE9z2oSnB
— おかあつ (@ats4u) 2013, 12月 4
大人がしびれる切なくも繊細なストーリーですが、いかんせん子供向けの絵本としてはシリアスすぎるのと、絵柄が版画ということもあり妙な生々しさがあり、トラウマになっているちびっこも少なくなさそうです。
YouTubeで「夏の葬列」と検索したところ、教科書の落書きをつなげあわせたような動画を発見しました。子供が走り書きしたようなつたない絵がなんともいえないシュールな物悲しさを醸し出しています。
学童保育でバイトしていた頃、子供たちにベロ出しチョンマの本を読んで欲しいと言われ、ホンイキで感情移入して朗読していたら、あまりの悲しい結末に、僕も子供たちもまさかの号泣だったことがある。
— らくごてん (@rakugoten) 2014, 5月 30
いかがでしたか?他にも、中国・唐の時代のお話にもかかわらず、秀才なのに負け組みになってしまった現代ニートの話かと思うほどイタく身につまされる「山月記」や、ヒトラー政権下のドイツで命を落としたユダヤ人少年フリードリヒの悲劇の日々を描いた「あのころはフリードリヒがいた」の引用など、小学校・中学校の教科書はなかなか衝撃的な作品揃いです。宮沢賢治「オツベルと象」なども直接的な欝展開ではないものの、終わり方にうっすらシュールな闇を滲ませています。
何故小・中学生向けの教科書に欝展開のお話が多いのかは分かりませんが、中高生に人気のアニメやマンガ、ライトノベルなどもシリアスな闇を含んだものが多いですし、“中2病”を患いがちなアラウンド中2位の多感な年頃の少年・少女のフラストレーションの逃げ場として、適度な欝展開のストーリーは有効なのかもしれませんね。
(星野小春)