作家たちは植物に何を見たか 練馬区立美術館にて「植物と歩く」が開催

2023/5/31 21:05 虹



植物学者・牧野富太郎をモデルとした主人公を描いたドラマ『らんまん』(NHK)が放送中です。
神木隆之介さん扮する主人公・槙野万太郎と彼を取り囲む人々を、時にほのぼのと、時にどきどきしながら見守る方も多いのではないでしょうか。
またドラマに影響を受け、植物に興味を持ち始めたという方もいると思います。



▲佐田勝《野霧》1970年代 油彩・キャンバス 練馬区立美術館蔵

2023年7月2日より練馬区立美術館で開幕する「練馬区立美術館コレクション+(プラス)植物と歩く」は、同館の充実したコレクションを中心に、植物がどのように作家を触発してきたかを探る展覧会。練馬区にゆかりのある人物として、牧野富太郎による植物図と植物標本も登場します。


「植物と歩く」とは?
展覧会のタイトルにもなっている「植物と歩く」。
植物と言えばひとつの場所に留まり続けるイメージがありますが、本展ではこの言葉に「植物の営む時間と空間に感覚をひらき、ともに過ごす」という意味を込めていると言います。


▲牧野富太郎 「ホテイラン」(東京帝国大学理科大学植物学教室編纂『大日本植物志』、第一巻第四集、第一六図版) 1911年 紙に多色石版印刷 個人蔵


植えられた種から根や芽が出て、少しずつ成長し、やがて葉を茂らせ花や実を付け、また種をつくる──当たり前の循環のように感じますが、そこには私たちが普段気づかずにいる視点も多く存在するはずです。
そういった植物特有の営みを、作家たちはどのような視点で観察し、触発されてきたのでしょうか。
同館の多彩なコレクションを中心に、その視点と表現に迫るのが本展の狙いです。


植物に焦点を当てた多彩な見どころ
本展では近現代の作品が紹介されますが、そのジャンルは多岐にわたり、洋画、日本画、ガラス絵、版画、彫刻、和本、植物標本とさまざま。
植物である「木」をダイレクトに用いて新たな造形を生み出す木彫のジャンルからは、繊細で写実的な作風で知られる須田悦弘による、牧野富太郎の植物標本を題材とした作品も出陳されます。


▲須田悦弘 《チューリップ》 1996年 岩絵具・木 練馬区立美術館蔵  © Yoshihiro Suda / Courtesy of Gallery Koyanagi


また第3章では「木と人をめぐる物語」と題し、大小島真木の大作を展示。
作品からは、木からあらゆるものを作り出すという古くからの人間の営みと、あらゆる生命にとっての拠り所としての神秘的な存在という、対極的な側面を見ることができるでしょう。

▲大小島真木 《胎樹 Fetus tree》 2020年 アクリル、ラッカースプレー、マーカー・綿布 練馬区立美術館蔵  2020年練馬区立美術館展示風景


多彩なジャンルの作品があるということは、その表現方法も千差万別。会場で展示される作品が制作された1910年代から 2020年代までの約100年にわたる多様な植物にまつわる表現にも注目します。

例えば対象を仔細に観察して記録するという方法においても、牧野富太郎がおこなった植物分類学としての植物画と、倉科光子が東日本大震災の津波浸水域のフィールドワークを通じて描いた水彩画では、視点も表現も大きく異なります。


▲倉科光子 《35°36'38.1"N 139°27'38.0"E》 2010-2015年 水彩紙に透明水彩 作家蔵


このように「植物」と一言に言っても、表現や目的によって鑑賞者に与える印象は変化します。作家が植物と歩んできた道を作品を通して我々が体験できることも、本展の大きな特徴と言えるでしょう。



春に芽吹いた緑が青々とした葉を広げる、今の季節にぴったりの展覧会です。
練馬区には「練馬区立 牧野記念庭園」をはじめ、石神井公園など植物を観察することができる施設もあるので、展覧会の後に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
慌ただしく過ぎる日常の中で見落としてしまう小さな驚異に、あらためて目を向ける好機となりそうです。


練馬区立美術館コレクション+(プラス)植物と歩く

◆会 場:練馬区立美術館
◆会 期:2023年7月2日(日)~8月25日(金)
◆休館日:月曜日(ただし、7月17日(月・祝)は開館、7月18日(火)は休館)
◆時 間:10:00~18:00  ※入館は17:30まで
◆観覧料:一般500円、高校・大学生および65~74歳300円、中学生以下および75歳以上は無料(その他各種割引制度あり)
◆練馬区立美術館 公式サイト:
https://www.neribun.or.jp/museum.html