「いにしえが、好きっ!」~図譜集『聆涛閣集古帖』の古器物が国立歴史民俗博物館に大集結!
千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館では、企画展示「いにしえが、好きっ!-近世好古図録の文化誌-」が開催されています。
企画展示室エントランスのパネル
今回の企画展示は、同館が所蔵する図譜集『聆涛閣集古帖』に描かれた、考古資料、文書・典籍、美術工芸品、画像資料など、さまざまなジャンルの歴史資料の原品や複製、模造品を展示することで2次元のものを立体的に浮かび上がらせるという、とてもユニークな展覧会。
キャッチコピーは、二次元から飛び出す、お宝の饗宴!
さて、どんなお宝が飛び出してくるのか、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
展示室のエントランスでお出迎えしてくれるのは、大化2年(646)に僧道登が宇治橋を架橋したと記されている現存最古の碑「宇治橋碑」の復元。
宇治橋碑 復元 原品:大化2年(646)在銘 国立歴史民俗博物館蔵(原品は放生院蔵、重要文化財)
右のパネルは『聆涛閣集古帖』に収録されている碑銘の断簡部分の拡大図
今回の企画展示のすごいところは、国立歴史民俗博物館の所蔵品にとどまらず、展示プロジェクト委員のメンバーが展示に向けて全国各地の美術館・博物館などのコレクションを調べ、『聆涛閣集古帖』の古器物をできる限り展示室内に展示していることです。
こちらは馬形埴輪と樽形𤭯(たるがたはそう)(『聆涛閣集古帖』では土馬と缶(ほとぎ))
右 馬形埴輪 伝茨城県(将門城址)出土 古墳時代 関西大学博物館蔵
左 樽形𤭯 古墳時代 個人蔵
現在は別々に所蔵されている古器物ですが、今回の企画展示では『聆涛閣集古帖』に描かれていたように配置されていて、馬形埴輪と樽形𤭯がおよそ150年ぶりに再会するという感動の場面が実現しました。
『聆涛閣集古帖』には国内の古器物だけでなく、海外から伝来した古器物も記録されていました。
ササン朝ペルシア(3~7世紀)領域からはるばる日本に伝来したのはガラス碗「白瑠璃碗」。
白瑠璃碗 古墳時代 東京国立博物館蔵 重要文化財
左隣のパネルと見比べると、漆などで接合された様子がそのまま保たれているのがわかります。
『聆涛閣集古帖』によってその来歴が明らかになった古器物もありましたが、下の写真右の銅鐸もそのひとつ。
この銅鐸は大正年間に一時来歴を失い「出土地不詳」とされていましたが、『聆涛閣集古帖』の拓本と注記によって滋賀県新庄出土の銅鐸ということが再認識されたのです。
展示風景
右 銅鐸 新庄出土 複製 原品:弥生時代 国立歴史民俗博物館蔵
(原品は倉敷考古館蔵、重要文化財)
『聆涛閣集古帖』には、現在では美術品の範疇からはずれている尺や升といった度量衡の資料も記録されています。
展示されているのは、江戸時代後期に各所に残る古尺を集めて研究し、『本朝度量権衡攷』を著した狩谷棭斎(1775-1835)が模造・復元した古尺(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫蔵)。
展示風景
100年にわたって編纂された『聆涛閣集古帖』
『聆涛閣集古帖』は、神戸・灘の地で酒造業を中心に巨大な富を築き上げた豪商・吉田家の第17代当主・吉田道可(1734-1802)から三代にわたって、およそ100年間に蒐集した古器物などおよそ2,400件の画像が収録されたものです。
伝吉田道可坐像 江戸時代(19世紀) 徳本寺蔵
「波の音が聞こえる書庫」という意味の「聆涛閣」に古器物を蒐集した吉田道可は茶道もたしなみ、京都の茶室「澱看の席」を邸宅内に模造建築したと伝えられています。
会場にはその茶室の「おこし絵図」が用意されているので、みなさんもご自宅で組み立てて二次元を立体的に浮かび上がらせてみませんか。
天保4年(1833)から同7年にかけて国学者・穂井田忠友(1791-1847)によって行われた東大寺正倉院宝蔵の調査は好古家たちの正倉院宝物への関心を高めました。
『聆涛閣集古帖』には正倉院宝物の図が多く収録されています。
展示室内には明治時代に模造された正倉院宝物が展示されているので、正倉院ファンにとっても見逃せない展示です。
展示風景
今回の企画展示の大きな見どころのひとつが、近代以降、各地に散在した多岐にわたる「聆涛閣コレクション」の一部がここに邂逅したことです。
吉田家は後に国宝になったものも所蔵していました。
線刻釈迦三尊等鏡像 平安時代 公益財団法人泉屋博古館蔵 国宝
鏡を反対側から見たところ。
手前 『聆涛閣集古帖』鏡 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵
線刻釈迦三尊等鏡像は、昨年(2022年)9~10月に東京・六本木にある泉屋博古館東京で開催された「古美術逍遥-東洋へのまなざし」で展示されていたので、ご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「聆涛閣コレクション」展示風景
明治9年(1876)に東大寺で開催された第二回の奈良博覧会では、吉田喜平次が所蔵品を提供し公開していました。
バインダーに綴じられている博覧会の目録をパラパラとめくっていくと、現在は宮内庁書陵部が所蔵する『日本書紀』はじめ多くの所蔵品が提供されているので、「聆涛閣コレクション」の奥行きの深さが感じられます。
「聆涛閣コレクション」の奥行きの深さは、著名な好古家たちとの交流のエピソードからもうかがえます。
好古家との交流には、寛政の改革を断行した松平定信(1759-1829)も登場します。
定信が老中退任後に完成させた『集古十種』の編纂にあたり、定信に仕えた谷文晁などの絵師たちが情報収集のため吉田家を訪れ、吉田家も協力を惜しまなかったのです。
集古十種稿 寛政12年(1800)序刊 慶應義塾(センチュリー赤尾コレクション)蔵
北海道の名付け親として知られる探検家・松浦武四郎(1818-1888)は、「聆涛閣コレクション」を見るため2回も神戸の吉田家を訪れています。
松浦武四郎の好古家ネットワークの幅広さがわかるのが、自らの古希を記念して、友人や知人を通じて数年をかけて各地の霊社名刹などの建造物の古材を集めて作った書斎「一畳敷」(展示されているのは原寸模型)。
一畳敷原寸模型 原品:明治時代 国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館蔵
吉田家を中心とした好古家たちの知的ワンダーランドが楽しめるとても内容の濃い展覧会です。
ぜひお楽しみください。
企画展示室エントランスのパネル
今回の企画展示は、同館が所蔵する図譜集『聆涛閣集古帖』に描かれた、考古資料、文書・典籍、美術工芸品、画像資料など、さまざまなジャンルの歴史資料の原品や複製、模造品を展示することで2次元のものを立体的に浮かび上がらせるという、とてもユニークな展覧会。
キャッチコピーは、二次元から飛び出す、お宝の饗宴!
さて、どんなお宝が飛び出してくるのか、さっそく展示の様子をご紹介したいと思います。
二次元から飛び出してきたお宝たち
展示室のエントランスでお出迎えしてくれるのは、大化2年(646)に僧道登が宇治橋を架橋したと記されている現存最古の碑「宇治橋碑」の復元。
宇治橋碑 復元 原品:大化2年(646)在銘 国立歴史民俗博物館蔵(原品は放生院蔵、重要文化財)
右のパネルは『聆涛閣集古帖』に収録されている碑銘の断簡部分の拡大図
今回の企画展示のすごいところは、国立歴史民俗博物館の所蔵品にとどまらず、展示プロジェクト委員のメンバーが展示に向けて全国各地の美術館・博物館などのコレクションを調べ、『聆涛閣集古帖』の古器物をできる限り展示室内に展示していることです。
こちらは馬形埴輪と樽形𤭯(たるがたはそう)(『聆涛閣集古帖』では土馬と缶(ほとぎ))
右 馬形埴輪 伝茨城県(将門城址)出土 古墳時代 関西大学博物館蔵
左 樽形𤭯 古墳時代 個人蔵
現在は別々に所蔵されている古器物ですが、今回の企画展示では『聆涛閣集古帖』に描かれていたように配置されていて、馬形埴輪と樽形𤭯がおよそ150年ぶりに再会するという感動の場面が実現しました。
『聆涛閣集古帖』には国内の古器物だけでなく、海外から伝来した古器物も記録されていました。
ササン朝ペルシア(3~7世紀)領域からはるばる日本に伝来したのはガラス碗「白瑠璃碗」。
白瑠璃碗 古墳時代 東京国立博物館蔵 重要文化財
左隣のパネルと見比べると、漆などで接合された様子がそのまま保たれているのがわかります。
『聆涛閣集古帖』によってその来歴が明らかになった古器物もありましたが、下の写真右の銅鐸もそのひとつ。
この銅鐸は大正年間に一時来歴を失い「出土地不詳」とされていましたが、『聆涛閣集古帖』の拓本と注記によって滋賀県新庄出土の銅鐸ということが再認識されたのです。
展示風景
右 銅鐸 新庄出土 複製 原品:弥生時代 国立歴史民俗博物館蔵
(原品は倉敷考古館蔵、重要文化財)
『聆涛閣集古帖』には、現在では美術品の範疇からはずれている尺や升といった度量衡の資料も記録されています。
展示されているのは、江戸時代後期に各所に残る古尺を集めて研究し、『本朝度量権衡攷』を著した狩谷棭斎(1775-1835)が模造・復元した古尺(慶應義塾大学附属研究所斯道文庫蔵)。
展示風景
100年にわたって編纂された『聆涛閣集古帖』
『聆涛閣集古帖』は、神戸・灘の地で酒造業を中心に巨大な富を築き上げた豪商・吉田家の第17代当主・吉田道可(1734-1802)から三代にわたって、およそ100年間に蒐集した古器物などおよそ2,400件の画像が収録されたものです。
伝吉田道可坐像 江戸時代(19世紀) 徳本寺蔵
「波の音が聞こえる書庫」という意味の「聆涛閣」に古器物を蒐集した吉田道可は茶道もたしなみ、京都の茶室「澱看の席」を邸宅内に模造建築したと伝えられています。
会場にはその茶室の「おこし絵図」が用意されているので、みなさんもご自宅で組み立てて二次元を立体的に浮かび上がらせてみませんか。
天保4年(1833)から同7年にかけて国学者・穂井田忠友(1791-1847)によって行われた東大寺正倉院宝蔵の調査は好古家たちの正倉院宝物への関心を高めました。
『聆涛閣集古帖』には正倉院宝物の図が多く収録されています。
展示室内には明治時代に模造された正倉院宝物が展示されているので、正倉院ファンにとっても見逃せない展示です。
展示風景
よみがえる聆涛閣コレクション
今回の企画展示の大きな見どころのひとつが、近代以降、各地に散在した多岐にわたる「聆涛閣コレクション」の一部がここに邂逅したことです。
吉田家は後に国宝になったものも所蔵していました。
線刻釈迦三尊等鏡像 平安時代 公益財団法人泉屋博古館蔵 国宝
鏡を反対側から見たところ。
手前 『聆涛閣集古帖』鏡 江戸後期 国立歴史民俗博物館蔵
線刻釈迦三尊等鏡像は、昨年(2022年)9~10月に東京・六本木にある泉屋博古館東京で開催された「古美術逍遥-東洋へのまなざし」で展示されていたので、ご覧になられた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「聆涛閣コレクション」展示風景
明治9年(1876)に東大寺で開催された第二回の奈良博覧会では、吉田喜平次が所蔵品を提供し公開していました。
バインダーに綴じられている博覧会の目録をパラパラとめくっていくと、現在は宮内庁書陵部が所蔵する『日本書紀』はじめ多くの所蔵品が提供されているので、「聆涛閣コレクション」の奥行きの深さが感じられます。
「聆涛閣コレクション」の奥行きの深さは、著名な好古家たちとの交流のエピソードからもうかがえます。
好古家との交流には、寛政の改革を断行した松平定信(1759-1829)も登場します。
定信が老中退任後に完成させた『集古十種』の編纂にあたり、定信に仕えた谷文晁などの絵師たちが情報収集のため吉田家を訪れ、吉田家も協力を惜しまなかったのです。
集古十種稿 寛政12年(1800)序刊 慶應義塾(センチュリー赤尾コレクション)蔵
北海道の名付け親として知られる探検家・松浦武四郎(1818-1888)は、「聆涛閣コレクション」を見るため2回も神戸の吉田家を訪れています。
松浦武四郎の好古家ネットワークの幅広さがわかるのが、自らの古希を記念して、友人や知人を通じて数年をかけて各地の霊社名刹などの建造物の古材を集めて作った書斎「一畳敷」(展示されているのは原寸模型)。
一畳敷原寸模型 原品:明治時代 国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館蔵
吉田家を中心とした好古家たちの知的ワンダーランドが楽しめるとても内容の濃い展覧会です。
ぜひお楽しみください。
展覧会開催概要
会 期 2023年3月7日(火)~5月7日(日)
会 場 国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
料 金 一般 1000円 大学生 500円
※総合展示も合わせてご覧になれます。
※高校生以下は入館料無料です。
※高校生及び大学生は学生証等を提示してください。(専門学校生など
高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳等提示により、介助者と共に入館料無料
です。
※半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。また、
植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日 ※5月1日(月)は開館
展覧会の詳細は同館公式サイトをご覧ください⇒国立歴史民俗博物館
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
展示作品のカラー図版や展示作品のエピソード満載のコラムなど充実の内容の図録(税込2,420円)もおすすめです。
会 期 2023年3月7日(火)~5月7日(日)
会 場 国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B
料 金 一般 1000円 大学生 500円
※総合展示も合わせてご覧になれます。
※高校生以下は入館料無料です。
※高校生及び大学生は学生証等を提示してください。(専門学校生など
高校生及び大学生に相当する生徒、学生も同様です)
※障がい者手帳等保持者は手帳等提示により、介助者と共に入館料無料
です。
※半券の提示で、当日に限りくらしの植物苑にご入場できます。また、
植物苑の半券の提示で、当日に限り博物館の入館料が割引になります。
開館時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日 月曜日 ※5月1日(月)は開館
展覧会の詳細は同館公式サイトをご覧ください⇒国立歴史民俗博物館
※展示室内は撮影不可です。掲載した写真は報道内覧会で主催者の許可を得て撮影したものです。
展示作品のカラー図版や展示作品のエピソード満載のコラムなど充実の内容の図録(税込2,420円)もおすすめです。