和の香り文化、500年を超える歴史がわかる展覧会がスタート

2023/3/15 20:45 明菜 明菜

自宅から図書館へ行く道に、花の甘い香りが漂う季節になりました。香りを鼻で辿っていくと、沈丁花の花壇が。春ですね……!


四方盆 手前香道具 一式 江戸時代 志野流松隠軒

皆さんには、好きな香りはありますか? 緑や潮風のような自然界の香りもあれば、室内で楽しむアロマやお香のような香りも、たくさんの種類がありますよね。

私たちにとって身近な香りの文化が日本で幕を開けたのは、595年のこと。淡路島に香木が漂着したことから始まります。はじめは仏教の儀礼に香りが用いられ、平安時代には貴族たちが香りを日常に取り入れました。『源氏物語』でも描かれるとおり、自ら調合した香りを身にまとうなどして、香りを楽しみました。


伏籠に着物をかけ、香を薫きしめる様子
蒔絵伏籠 一基 江戸時代 志野流松隠軒


その後、遣唐使の廃止により国風文化が発達するにともない、香りの文化も中国とは別の道をたどります。応仁の乱のあと、足利義政に仕えた志野宗信により「香道」の基礎が作られて、現代まで継承されてきました。


香木の展示風景

2023年は志野宗信の没後500年という節目の年。500年以上にわたり香道を継承してきた志野流の歴史を紹介する「特別展 初代 志野宗信没後五百年記念 香道 志野流の道統」が、京都の細見美術館で開幕しました。


名香「蘭奢待」一具 江戸時代 志野流松隠軒

本展では、香炉や香木をはじめ香道に欠かせない道具などが展示されています。明治天皇が聞いた「蘭奢待」も特別に展示され、直に見られること自体が貴重な体験になりました。

展示のなかで私が特に心を引かれたのが、お花の飾りのついた「挿枝袋(さしえだぶくろ)」です。手のひらに載るくらいの小さな袋で、香を入れて香会に持ち寄ったり、飾り物として用いたりするそうです。


挿枝袋・十二ケ月挿枝 一揃 江戸時代 志野流松隠軒

たとえば茶道ではお茶の席に生花を飾りますが、においを放つため香席には持ち込めません。そのため造花を添え、香りだけでなく視覚でも四季を楽しもうという工夫なのだそうです。


デモンストレーションを行う志野流若宗匠・蜂谷宗苾さんと、細見美術館館長・細見良行さん

報道向けの内覧会では若宗匠によるデモンストレーションが行われました。ときおり穏やかな風が吹く同館3階の茶室、古香庵の静かな雰囲気のなかで、若宗匠の洗練された所作がとても美しかったです。


私も香りを体験させていただきました。

香道では香りを「嗅ぐ」のではなく「聞く」と言いますが、私も体験させていただき、意味するところが少しわかったように思います。香炉を覆って香りを吸い込んだ瞬間、現実と幻の境界を踏み越えたような、不思議な感覚がありました。

香りを介して自然と会話する感じがして、これが「自然界の声を聞く」ことなのかな、と素人ながらに感じています。


志野流の香席「松隠軒」を再現した展示の風景

香りは私にとっても身近なものですが、文化として500年以上の歴史があることや、「聞く」という感覚など、知らないことがたくさんありました。本展は「香道をよく知らないけど、香りには興味がある」という人が、香道に関心を持つぴったりの機会だと思います。ぜひ、奥深い香りの世界に足を踏み入れてみてくださいませ。

特別展 初代 志野宗信没後五百年記念
香道 志野流の道統

会場:細見美術館
会期:2023年3月4日(土) - 5月31日(水)
開館時間:午前10時 - 午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日(ただし、5月29日は開館)
https://www.emuseum.or.jp/exhibition/ex080/index.html