山種美術館で四季を堪能する 「日本の風景を描く」展が開催中

2022/12/29 15:10 虹

今年も残すところあと僅か。気がついたら冬になっていたけれど、夏以降の記憶が無い……という方も多いのでは? 1年があまりにも早すぎて、季節を味わう余裕もないまま年末になってしまうこと、ありますよね。

できることなら四季と向き合いたい。さらに言うなら旅に出て季節を満喫したい──。
そんな方に朗報です。

会場風景 手前は川合玉堂《春風春水》1940(昭和15)年 山種美術館蔵

現在山種美術館で開催中の「【特別展】日本の風景を描く ―歌川広重から田渕俊夫まで―」は、前後期あわせて65点で、テーマに四季折々の日本の名所や風景を楽しめる展覧会。出品作品も江戸時代から現代までと、幅広いラインナップとなっています。


風光明媚な名所から身近な駅まで「風景」に注目

見どころ溢れる本展ですが、ユニークなのがタイトルにもなっている「日本の風景を描く」という点です。
「日本の風景」と聞くと、渓谷や清流、静かな山村といった原風景をイメージしがちですが、会場には渋谷の雑踏や学校の校舎などが描かれた作品も展示。第1章では「日本における風景表現の流れ」として江戸絵画の作品を、第2章では「風景表現の新たな展開」として、近代から現代の作品を展覧します。

横山操《越路十景》のうち、左「蒲原落雁」、右「越前雨晴」いずれも1968(昭和43)年 山種美術館蔵

このように江戸時代から現代までの約200年で日本を見つめた内容となっているため、風景がどう変化したかだけでなく、西洋絵画の技法が取り入れられるようになった後、風景をとらえる目がどう移り変わったのかも見ることができます。


久しぶりの公開! 石田武の《四季奥入瀬》4部作は必見!

今回、久しぶりに公開される作品も幾つかあります。同館が日本橋兜町や九段(千代田区三番町)にあった頃からのファンには嬉しい再会となるでしょう。今や滝の名手となった千住博ですが、1984年には重厚な建築物をモチーフにした作品も描いています。

そしてぜひ観てほしいのが、石田武が春夏秋冬の奥入瀬を描いた連作《四季奥入瀬》(個人蔵)。なんと作品が発表されて以来、本展が初めて同時の展示となるのだそう。画家が延べ60日にわたって奥入瀬を訪れ、描き上げた雄大な風景は、吸い込まれるような没入感を体験することができます。

会場風景 左側手前より、石田武《四季奥入瀬 幻冬》、《四季奥入瀬 秋韻》、《四季奥入瀬 瑠璃》、《四季奥入瀬 春渓》いずれも1985(昭和60)年 個人蔵



広重の代表作《東海道五拾三次》 貴重な初期の摺りも展示

本展では歌川広重の代表作のひとつ《東海道五拾三次》も展示されており、早朝の日本橋から始まる旅路は、まさに東海道新幹線に乗ってこれから京都へ向かう時のような気持ちにさせてくれます。

さて、江戸時代の浮世絵や木版本の中には、途中で版木が消失・摩耗したり省かれたりして、初摺りと後摺りに違いを持つものが多数存在します。広重の東海道シリーズもそのひとつ。
まず「日本橋」。最初期の摺りには空の左右に雲が摺られているのが特徴です。これは後摺りになると省かれていってしまのうだとか。

歌川広重《東海道五拾三次之内 日本橋・朝之景》1833-36(天保4‐7)年頃 山種美術館蔵 ※前期展示:12/10‐1/15

また、「品川」にも注目しましょう。よく見ると、左側の船の帆の間に小さく朝日が摺られています。これが非常に早い段階で摺られたものの特徴で、後摺りでは省略されているのです。このように貴重な初期の作品を楽しめるのも、本展の大きな見どころです。

歌川広重《東海道五拾三次之内 品川・日之出》1833-36(天保4‐7)年頃 山種美術館蔵 ※前期展示:12/10‐1/15

現代の作家が描く 新たな日本の風景

明治以降急速に近代化した日本では、風景画の中に「ガス灯」が現れるようになり、やがてそれは「電柱」へと変化していきます。
田渕俊夫の《輪中の村》は、重い雲がたちこめる画面に瑞々しい緑の映える田畑を描いたものですが、よく見るとビニールハウスや電柱が見え、現代的な風景を描いたものであることがうかがえます。

会場風景 右側より、田渕俊夫《輪中の村》1979(昭和54)年 山種美術館蔵 空を覆う曇天の部分は、アルミ箔が使われている。

米谷清和の《暮れてゆく街》では、昭和の終わりの渋谷がモチーフ。描かれているのは馴染みのある東急百貨店東横店ですが、現在は営業が終了しています。
渋谷は大規模な開発の真っ最中。今日描かれた風景もいつかは「過去の風景」に変わっていく──長く変わらない風景もあれば、あっという間に変わってしまう風景もあるのだということを実感する作品です。

米谷清和《暮れてゆく街》1985(昭和60)年 山種美術館蔵  山種美術館ではフォトスポットとして、撮影可能となっている作品も。本展では昭和の渋谷の様子を描いた米谷清和《暮れてゆく街》が撮影できるようになっている。

鑑賞後は、「cafe 椿」で余韻を

山種美術館をSNSで検索すると、多くの人が投稿しているのが美しい和菓子の写真。
アートファンにはおなじみですが、同館では展覧会ごとに、作品にちなんだ和菓子を特別に作っているのです。


今回の和菓子はこちら。
左から時計回りに、横山大観の《春の水・秋の色》のうち「春の水」をイメージした「うららか」、川合玉堂の《早乙女》をイメージした「さなえ」、森寛斎の《雪中嵐山図》をイメージした「冬けしき」、山元春挙の《火口の水》をイメージした「みなもの色」、そして山本梅逸の《桃花源図》をイメージした「香りたつ」となっています。

会場ではこのようにキャプションの横にマークが付いているので、好きな作品の和菓子を選ぶ楽しみも。


山本 梅逸《桃花源図》19世紀(江戸時代) 山種美術館蔵

さらにはスペシャルメニューも登場します! 年が明けた 1月3日(火)から9日(月・祝)までの間、お正月限定で「ことほぎ」が仲間入り。柚子あんの爽やかな風味が楽しめるのだそう。
「通常のメニューも捨てがたい、選べない!」という方もご心配なく。和菓子はテイクアウトもできるので、カフェでひとつ頂いて、お家に帰って思い出を振り返りながら……という手もあります(※テイクアウトは2個からとなっています)。


オリジナルグッズで四季を楽しむ

カフェと同様、鑑賞後のお楽しみと言えばミュージアムショップ。四季を手元で味わえる様々なグッズがありますが、今回の目玉にもなっている石田武の《四季奥入瀬》のポストカードがおすすめ。色の再現もすばらしく、季節ごとに差し替えて部屋に飾っておきたくなるカードです。
そのほか2023年の干支にちなんだ、兎グッズもありました。




日々に追われ、あっという間に1年が過ぎてしまうのは現代人の哀しい宿命かもしれませんが、本展は四季を味わう楽しみ、そしてふとした風景の中にもそれは佇んでいるのだということを教えてくれます。
その感覚を維持したまま、ぜひ2023年は季節を楽しみたいですよね。遠くへ行かずとも、いつもの行動範囲を少し変えてみるだけでも違うはず。新鮮な驚きと美しさを味わう、そんな新年を迎えましょう!


【特別展】日本の風景を描く ―歌川広重から田渕俊夫まで―
会  期:2022年12月10日(土)~2023年2月26日(日)
     前期 12/10(土)~1/15(日)/ 後期 1/17(火)~2/26(日)
     ※会期中、一部展示替えあり。
会  場:山種美術館
開館時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:月曜日 [1/9(月)は開館、1/10(火)は休館、12/29(木)~1/2(月)は年末年始休館]
入館料:一般1300円、大学生・高校生500円(冬の学割)、中学生以下無料(付添者の同伴が必要です)

その他割引やイベントの詳細は美術館公式サイトにて: https://www.yamatane-museum.jp/

※文中のうち、所蔵先表記のない作品はすべて山種美術館蔵です。