【鉄道美術が東京に大集結!】「鉄道と美術の150年」開催中

2022/11/4 22:10 yamasan yamasan

こんにちは、いまトピアート部のyamasanです。

1872年(明治5年)に東京ー横浜間で鉄道が開業してから150年。
この記念すべき年に、東京ステーションギャラリーという、まさに鉄道にとって一番ふさわしい場所で展覧会「鉄道と美術の150年」が来年の1月9日まで開催されています。


展覧会B3ポスター

奇しくも「美術」という言葉が「書画」に代わって初めて使われたのも1872年。
「鉄道と美術の150年」は、キャッチコピーにあるとおり、鉄道と美術がともにたどってきた旅を追体験できる展覧会なのです。

それではさっそく展覧会の様子を見ていきたいと思います。

※展示室内は撮影禁止です。掲載した写真は報道内覧会で美術館より特別に許可を得て撮影したものです。


今回の展覧会は展示の章立てはありませんが、3階展示室には明治、大正期の作品、2階展示室には1930年代から2020年までの作品が展示されています。

それではまず3階から。

「鉄道開業150周年」と聞いて最初に思い浮かべるのが、新橋-横浜間に初めて鉄道が開業した当時の様子を描いた錦絵。やはり3階展示室の冒頭に展示されているのは鮮明な赤色が印象的な錦絵でした。

展示風景

鉄道開業式はまさにお祭り騒ぎ。
華やかな画面からは、その場に居合わせた人たちの喜びが伝わってくるようです。明治の初めのころはカラーテレビやパソコンなどはもちろんなかったので、錦絵はカラーで最新のニュースを伝える貴重なメディアだったのです。

鉄道は日本の近代化の象徴でしたが、年月が経つにつれてさりげない日常の景色の中に溶け込んできました。どこまでも続く線路、庶民の生活に密着した路面電車。どれもが郷愁や旅情が感じられるワンシーンです。

展示風景

画面左に近景の木や草、遠景の山々を背景に海岸線を走る蒸気機関車。これ以上ないというビシッと決まった構図の風景を描いたのは明治、大正時代の洋画家、五姓田義松。

五姓田義松《駿河湾風景》(笠間日動美術館 通期展示)

鉄道に乗る人たちの人間模様を描いたのは、明治~昭和時代の洋画家、赤松麟作。

赤松麟作《夜汽車》(1901年 東京藝術大学 通期展示)

明け方の客室の中の人たちはどこに向かい、何を思い、何を語り合っているのでしょうか。
今でこそ全車禁煙が当たり前になりましたが、当時、煙草は絵画にとって貴重なアイテムでした。画面手前右の、煙管につける火に照らされたご老人の表情は、人生の重みが感じられてたまらないほどいい味を出しています。


鉄道が地上を走っていた時代からこそ描かれる場面もあります。

展示風景

上の写真奥は、京都と大津を結ぶ京津線の線路と、急こう配で知られた蹴上の坂を大変な思いをしながら荷車を押す人たちを対比させて描いた神阪松濤の《暮れゆく街道》(1922年 京都国立近代美術館 通期展示)。
今では、京都市営地下鉄東西線と京阪京津線の相互の乗り入れによって鉄道が地下を通っているので、このような蹴上の風景はもう見ることはできません。


モクモクと白い煙を出しながら突進する黒い車体や、蒸気を出すシューッという音や汽笛。

力強く走る蒸気機関車は「絵」になる。

3階の作品を見ていたらこのような言葉が頭の中に浮かんできました。

展示風景


長谷川利行《汽罐車庫》(1928年 鉄道博物館 通期展示)

明治、大正時代までは、鉄道と美術はともに手を携えて歩んでいく蜜月の時代だったのかもしれません。

続いて2階展示室に移ります。

ここからは、「この作品と鉄道の関係は?」、「この作品の時代背景は?」と考えさせられる作品が少なからず展示されています。

所在なげにこちらを向いている母子たちは何をしているのでしょうか。


これは米子のアマチュア写真家・岩佐保雄による写真を絵画のように見せるピクトリアリズムの作品で、左から《踏切を守る母子(1)》(1931年)《踏切を守る母子(2)》(1932年)(どちらも米子市美術館 通期展示)。

かつて踏切には、横断者に警告を出したり、遮断機を開閉する踏切番と呼ばれた人たちがいました。踏切番は長時間に及ぶ過酷な労働であったため、家族が代行しなくてはならないこともありました。
この作品には、このような時代背景があったのです。

下の写真左は、山鹿清華のタペストリー作品《驀進》(1944年 通期展示)。



驀進するのは、最高時速130kmで大連とハルビン間を運行していた南満洲鉄道の特急列車「あじあ」。
戦況の悪化により作品が完成する前年には運行が中止され、以後、再開することはありませんでしたが、邁進する「あじあ」の姿はその後の日本の行方を暗示しているようにも感じられました。

場面はガラッと変わって、戦後の世相を反映した作品が続きます。

展示風景

上の写真左には横たわる人たちが描かれた佐藤照雄《地下道の眠り》(1947-56年 東京都現代美術館 通期展示)。
駅の地下道は、空襲などによって家を失った人たちのつかの間の安息の場だったのです。
上の写真右は、空襲で大きな被害を受けながらも、復興に向けて希望の光が見えてくるようにも感じられる東京駅の様子が描かれた伊藤善《東京駅(爆撃後)》(1946年頃 東京駅 通期展示)。

こちらは創建時の姿がよみがえった現在の東京駅。


鉄道は地獄にもなり、美術表現の舞台にもなります。
高度成長期の通勤地獄の様子や、前衛芸術家たちが山手線内や駅構内で行ったパフォーマンス「山手線事件」の記録写真も展示されています。

展示風景

ディーゼル化や電化が進む中、蒸気機関車に「時代遅れの象徴」と「無限性」を見出したのは前衛画家、中村宏でした。

中村宏《ブーツと汽車》(1966年 名古屋市美術館 通期展示)

一方で、全線高架の新幹線の力強さが感じられるのは、横尾忠則《健全な感情》(2002年 東京ステーションギャラリー 通期展示)(下の写真右)。

展示風景

全国約40ヶ所から東京に大集結した鉄道美術の名作、話題作、問題作150件(展示替えあり)が見られる展覧会です。
鉄道開業150周年の締めくくりにぜひご覧ください!

展示風景

展覧会開催概要

会 期  2022年10月8日(土)~2023年1月9日(月)
     ※会期中一部展示替えがあります。
休館日  月曜日(1/2、1/9は開館)、12/29-1/1
開館時間 10:00~18:00(金曜日 ~20:00) *入館は閉館30分前まで
入館料  一般 1,400円、高校・大学生 1,200円、 中学生以下無料
詳細は公式サイトでご確認ください⇒東京ステーションギャラリー