深い闇と光の世界を味わう junaida展「IMAGINARIUM」が開催
心に衝撃を伴うほど美しく、幻想的で、どこか切ない──。
そんな世界を描く画家がいます。
絵本の制作を中心に広く活動しているjunaida(ジュナイダ、1978ー)。彼が生み出す作品は緻密で謎めき、多くの人を魅了してきました。そのjunaidaによる初めての大規模個展「IMAGINARIUM」が、現在PLAY! MUSEUMにて開催されています。
Hedgehog Booksの代表を務める京都在住のjunaidaは、絵本、イラスト、グッズ制作と、多岐にわたる活動をしています。本の装幀などで見かけたことがあるという方も、いるのではないでしょうか?
『HOME』(サンリード)でボローニャ国際絵本原画展2015を受賞したのを端緒として、瞬く間に数々の賞を受賞。近著には絵本『Michi』『の』『怪物園』『街どろぼう』(いずれも福音館書店)、画集『UNDARKNESS』(Hedgehog Books)などがあります。
また、2002年より個展も積極的に開催。国内のみならず海外でも作品が紹介されている、気鋭の画家のひとりです。
タイトルの「IMAGINARIUM」とは、「IMAGINE」とプラネタリウムなどに使われる「RIUM」をミックスした言葉。4つに分けて構成された章は、それぞれ「交錯の回廊」「浮遊の宮殿」「残像の画廊」「潜在の間」と名付けられ、初期作品や絵本の原画、ライフワークから最新作までがまとめられています。
まず入ってすぐに目にするのが、序章となる「輪郭の扉」の部屋に吊るされた円形の作品。円の中に入ると本展メインビジュアルの下描きが。強くスポットライトが当てられたこのエリアは、鑑賞者を物語の主人公のように照らします。
それでは「IMAGINARIUM」と書かれた巨大な扉を開けて、めくるめく世界に踏み込んでみましょう。
会場は赤と金を基調とした、宮殿をイメージしたつくりになっています。最初に登場するのは「交錯の回廊」と名付けられた章。ゆっくりと廊下を進みながら初期の作品『TRAINとRAINとRAINBOW』(Hedgehog Books、2011)や、『HOME』(サンリード、2013)を見ていきましょう。
初めてjunaidaの絵を見るという方は、その緻密な様子に驚くかもしれません。
絵はいずれも水彩、アクリル、ガッシュですが、水彩特有の透明感だけでなく、時に重厚で濃密な印象を我々に与えます。加えて、多くの要素が盛り込まれつつも見事にまとまり、確固たる世界がそこに息づいていることにも気づくはず。
1枚の絵の中でそれが展開されているのですから、それらが集合した絵本は一体どれほどの存在感があるのだろうと気になりますよね。
そんな絵本の世界を体験できるのが、第2章の「浮遊の宮殿」。こちらでは約110点の絵本原画を、大広間のような空間で味わうことができます。
絵本デビュー作となった『Michi』をはじめ、全ての場面が「の」で連なる循環の物語『の』、そして近著である『怪物園』と『街どろぼう』の原画が壁一面に並びます。
さらに中央には本展のメインビジュアルが3点。よく見ると絵の下方、塗り足しの部分がそのまま残っていますね。通常の印刷物ではこの部分は裁ち落とされてしまうため、表に出ることはありません。しかし本展は原画を見せる展覧会。表に出ない部分に施された作業に潜む、無意識的な美しさも見てほしかったということで、ポスターやチラシなどの宣伝物も全てこの状態で印刷されています。
第2章と第3章の部屋を繋ぐ薄暗い回廊に現れるのが、『怪物園』のアニメーション。百鬼夜行よろしく怪物たちが暗闇の中を後進する姿は必見です。よく見ると、一体一体動きが異なり、性格が表されているかのよう。視線も動くので、ぜひじっくり観察してみてください。
第3章「残像の画廊」では、約150点のカバーイラストや挿画、ポスターの原画が展示されています。また、junaidaがライフワークのように描き続けている宮沢賢治へのオマージュ「IHATOVO」シリーズも。
こうして見るととんでもない仕事の数ですが、どれもが強い存在感を持っている渾身の傑作です。特に「Hug」シリーズはシンプルな構図が多いのですが、その清らかさに、切ないまでの愛おしさを感じます。
最後の部屋である第4章「潜在の間」は、まさに展覧会のキャッチコピーの一節である「光も闇も引き連れて」が具現化された世界。深紅の部屋を取り囲むように約120点の絵が埋め尽くす様子は、圧巻のひと言です。
2015年に発表された画集「LAPIS・MOTION IN THE SILENCE」(Hedgehog Books)から、ミヒャエル・エンデの『鏡の中の鏡』のオマージュである最新作『EDNE』まで、junaida作品が持つ可愛いだけではない、深い闇と光の世界を堪能することができます。
ちなみにこちらの部屋と第2章の部屋のBGMはjunaidaによるオリジナル曲なのだとか。ぜひ耳を傾けながら、絵と向かい合ってみてください。
先に述べたように、一枚の絵が持つ奥行きが途方もないため、鑑賞時間にはぜひ余裕をもって出かけてください。会場では思わぬところに、このようにキャラクターたちが住んでいます。彼らを見つける楽しみも、本展における隠れた見どころと言えるでしょう。
グッズやカフェメニューも要注目です。本展オリジナルポストカードはもちろん、スノードームに靴下、九谷焼のマグカップなど、力の入った会場限定グッズが多数ショップを彩っています。
カフェメニューもとても賑やか! カフェスタッフが「今までのコラボメニューで、一番難しかった」と語るのも頷けるデコレーションは、食べてしまうのがもったいない愛らしさです。
上階の「PLAY! PARK」(別料金、子どものための屋内遊び場)でも、本展関連のワークショップが開催されています。絵本をモチーフにした遊び場では、展覧会の会期と連動して一つの作品ができあがっていくなど、ユニークな工夫がされているそう。繰り返し足を運ぶのも面白そうですね。
そうそう、会場では『の』の「わたし」が着ているコートと帽子を借りられるコーナーも! 大人の方も帽子を借りることができるので、ぜひ「わたし」になりきってみてください。
作品の完成形を強くイメージして作業を進めるjunaidaは、印刷物に対しても全力で向き合います。むしろ最終的な作品の形状が印刷物であるならば、「原画よりも印刷された状態を一番良い物に」という気持ちで取り組まれているのだとか。
よって本展の図録は、印刷物でしかできない表現に挑戦されているそうです。
原画では見落としてしまうような場所をクローズアップしたり、収載された作品によって紙を変えたり(なんと4種類もの紙が使われています)。中でも黒い紙が使われたページは必見。特殊な技術を用いてやっと表現できた世界観だそうで、静謐な雰囲気を見事に表しています。
絵を描くこと、表現をすることは、何かを得て、何かを手放しているのだろうか? はてしない問いを繰り返しながら、思い巡らせたものを絵筆に乗せ、描き続けるjunaida。
「形のなかったその想像や空想が、僕の右手から絵筆へ伝わり、その先端に灯ったものが、たぶん、僕の絵です」
IMAGINARIUMという世界になった幻想的な作品群を、ぜひ本展で体験してみてください。
◆会期:2022年10月8日(土)~2023年1月15日(日)
◆会場:PLAY! MUSEUM
◆時間:10時〜17時(土日祝は18時まで/入場は閉館の30分前まで)
◆公式サイト: https://play2020.jp/
※会期中無休(年末年始の2022年12月31日、2023年1月1日、2日を除く)
※当日券で入場可。休日および混雑が予想される日は事前決済の日付指定券(オンラインチケット)推奨
そんな世界を描く画家がいます。
「IMAGINARIUM」会場風景
絵本の制作を中心に広く活動しているjunaida(ジュナイダ、1978ー)。彼が生み出す作品は緻密で謎めき、多くの人を魅了してきました。そのjunaidaによる初めての大規模個展「IMAGINARIUM」が、現在PLAY! MUSEUMにて開催されています。
junaidaとは?
「IMAGINARIUM」会場風景 『Michi』原画(福音館書店)より
Hedgehog Booksの代表を務める京都在住のjunaidaは、絵本、イラスト、グッズ制作と、多岐にわたる活動をしています。本の装幀などで見かけたことがあるという方も、いるのではないでしょうか?
『HOME』(サンリード)でボローニャ国際絵本原画展2015を受賞したのを端緒として、瞬く間に数々の賞を受賞。近著には絵本『Michi』『の』『怪物園』『街どろぼう』(いずれも福音館書店)、画集『UNDARKNESS』(Hedgehog Books)などがあります。
また、2002年より個展も積極的に開催。国内のみならず海外でも作品が紹介されている、気鋭の画家のひとりです。
IMAGINARIUMを体験する
junaida初の大規模個展となる「IMAGINARIUM」では、2006年から最新作までの400点以上の原画が出陳されています。タイトルの「IMAGINARIUM」とは、「IMAGINE」とプラネタリウムなどに使われる「RIUM」をミックスした言葉。4つに分けて構成された章は、それぞれ「交錯の回廊」「浮遊の宮殿」「残像の画廊」「潜在の間」と名付けられ、初期作品や絵本の原画、ライフワークから最新作までがまとめられています。
「IMAGINARIUM」会場風景 序章「輪郭の扉」
まず入ってすぐに目にするのが、序章となる「輪郭の扉」の部屋に吊るされた円形の作品。円の中に入ると本展メインビジュアルの下描きが。強くスポットライトが当てられたこのエリアは、鑑賞者を物語の主人公のように照らします。
それでは「IMAGINARIUM」と書かれた巨大な扉を開けて、めくるめく世界に踏み込んでみましょう。
宮殿をイメージした展示室
「IMAGINARIUM」会場風景 第1章「交錯の回廊」
会場は赤と金を基調とした、宮殿をイメージしたつくりになっています。最初に登場するのは「交錯の回廊」と名付けられた章。ゆっくりと廊下を進みながら初期の作品『TRAINとRAINとRAINBOW』(Hedgehog Books、2011)や、『HOME』(サンリード、2013)を見ていきましょう。
「IMAGINARIUM」会場風景 『HOME』原画(サンリード、2013)
初めてjunaidaの絵を見るという方は、その緻密な様子に驚くかもしれません。
絵はいずれも水彩、アクリル、ガッシュですが、水彩特有の透明感だけでなく、時に重厚で濃密な印象を我々に与えます。加えて、多くの要素が盛り込まれつつも見事にまとまり、確固たる世界がそこに息づいていることにも気づくはず。
1枚の絵の中でそれが展開されているのですから、それらが集合した絵本は一体どれほどの存在感があるのだろうと気になりますよね。
100点超えの絵本原画が並ぶ 圧巻の空間
「IMAGINARIUM」会場風景 『の』原画(福音館書店、2019)
そんな絵本の世界を体験できるのが、第2章の「浮遊の宮殿」。こちらでは約110点の絵本原画を、大広間のような空間で味わうことができます。
絵本デビュー作となった『Michi』をはじめ、全ての場面が「の」で連なる循環の物語『の』、そして近著である『怪物園』と『街どろぼう』の原画が壁一面に並びます。
「IMAGINARIUM」会場風景 junaida展「IMAGINARIUM」メインビジュアル(2022)
さらに中央には本展のメインビジュアルが3点。よく見ると絵の下方、塗り足しの部分がそのまま残っていますね。通常の印刷物ではこの部分は裁ち落とされてしまうため、表に出ることはありません。しかし本展は原画を見せる展覧会。表に出ない部分に施された作業に潜む、無意識的な美しさも見てほしかったということで、ポスターやチラシなどの宣伝物も全てこの状態で印刷されています。
一体一体に命が宿る 怪物園のアニメーション
「IMAGINARIUM」会場風景 『怪物園』(福音館書店、2020)アニメーション アニメーションの担当は、朝ドラ「舞いあがれ!」(NHK)のオープニングも務める新井風愉。
第2章と第3章の部屋を繋ぐ薄暗い回廊に現れるのが、『怪物園』のアニメーション。百鬼夜行よろしく怪物たちが暗闇の中を後進する姿は必見です。よく見ると、一体一体動きが異なり、性格が表されているかのよう。視線も動くので、ぜひじっくり観察してみてください。
切ないまでの愛おしさが宿る 渾身の作品たち
「IMAGINARIUM」会場風景 第3章「残像の画廊」
第3章「残像の画廊」では、約150点のカバーイラストや挿画、ポスターの原画が展示されています。また、junaidaがライフワークのように描き続けている宮沢賢治へのオマージュ「IHATOVO」シリーズも。
「IMAGINARIUM」会場風景 「IHATOVO」シリーズ原画
こうして見るととんでもない仕事の数ですが、どれもが強い存在感を持っている渾身の傑作です。特に「Hug」シリーズはシンプルな構図が多いのですが、その清らかさに、切ないまでの愛おしさを感じます。
深い闇と光の世界を堪能する
「IMAGINARIUM」会場風景 第4章「潜在の間」
最後の部屋である第4章「潜在の間」は、まさに展覧会のキャッチコピーの一節である「光も闇も引き連れて」が具現化された世界。深紅の部屋を取り囲むように約120点の絵が埋め尽くす様子は、圧巻のひと言です。
「IMAGINARIUM」会場風景 『UNDARKNESS』原画(Hedgehog Books、2021)
2015年に発表された画集「LAPIS・MOTION IN THE SILENCE」(Hedgehog Books)から、ミヒャエル・エンデの『鏡の中の鏡』のオマージュである最新作『EDNE』まで、junaida作品が持つ可愛いだけではない、深い闇と光の世界を堪能することができます。
ちなみにこちらの部屋と第2章の部屋のBGMはjunaidaによるオリジナル曲なのだとか。ぜひ耳を傾けながら、絵と向かい合ってみてください。
鑑賞時間には余裕をもって! 隠れたキャラクターを見つける楽しみも
「IMAGINARIUM」会場風景 キャラクターが隠れているのは全部で5カ所だそう
先に述べたように、一枚の絵が持つ奥行きが途方もないため、鑑賞時間にはぜひ余裕をもって出かけてください。会場では思わぬところに、このようにキャラクターたちが住んでいます。彼らを見つける楽しみも、本展における隠れた見どころと言えるでしょう。
「IMAGINARIUM」ミュージアムショップ
グッズやカフェメニューも要注目です。本展オリジナルポストカードはもちろん、スノードームに靴下、九谷焼のマグカップなど、力の入った会場限定グッズが多数ショップを彩っています。
PLAY! CAFE による、「IMAGINARIUM」特別メニュー
カフェメニューもとても賑やか! カフェスタッフが「今までのコラボメニューで、一番難しかった」と語るのも頷けるデコレーションは、食べてしまうのがもったいない愛らしさです。
上階の「PLAY! PARK」(別料金、子どものための屋内遊び場)でも、本展関連のワークショップが開催されています。絵本をモチーフにした遊び場では、展覧会の会期と連動して一つの作品ができあがっていくなど、ユニークな工夫がされているそう。繰り返し足を運ぶのも面白そうですね。
そうそう、会場では『の』の「わたし」が着ているコートと帽子を借りられるコーナーも! 大人の方も帽子を借りることができるので、ぜひ「わたし」になりきってみてください。
見逃せない展覧会図録
「IMAGINARIUM」図録(税込価格 3,850円) デザインは近年の絵本も担当する「コズフィッシュ」(祖父江慎+藤井瑶)
作品の完成形を強くイメージして作業を進めるjunaidaは、印刷物に対しても全力で向き合います。むしろ最終的な作品の形状が印刷物であるならば、「原画よりも印刷された状態を一番良い物に」という気持ちで取り組まれているのだとか。
よって本展の図録は、印刷物でしかできない表現に挑戦されているそうです。
「IMAGINARIUM」図録より
原画では見落としてしまうような場所をクローズアップしたり、収載された作品によって紙を変えたり(なんと4種類もの紙が使われています)。中でも黒い紙が使われたページは必見。特殊な技術を用いてやっと表現できた世界観だそうで、静謐な雰囲気を見事に表しています。
「IMAGINARIUM」会場風景
絵を描くこと、表現をすることは、何かを得て、何かを手放しているのだろうか? はてしない問いを繰り返しながら、思い巡らせたものを絵筆に乗せ、描き続けるjunaida。
「形のなかったその想像や空想が、僕の右手から絵筆へ伝わり、その先端に灯ったものが、たぶん、僕の絵です」
IMAGINARIUMという世界になった幻想的な作品群を、ぜひ本展で体験してみてください。
junaida展「IMAGINARIUM」
junaida展「IMAGINARIUM」メインビジュアル(2022)©junaida
◆会期:2022年10月8日(土)~2023年1月15日(日)
◆会場:PLAY! MUSEUM
◆時間:10時〜17時(土日祝は18時まで/入場は閉館の30分前まで)
◆公式サイト: https://play2020.jp/
※会期中無休(年末年始の2022年12月31日、2023年1月1日、2日を除く)
※当日券で入場可。休日および混雑が予想される日は事前決済の日付指定券(オンラインチケット)推奨