さあ一緒に百町森へ!カラー原画約100点で辿る「クマのプーさん」展
「クマのプーさん」展が、立川にあるPLAY! MUSEUMにて開催中です。
本展は、「クマのプーさん」の作者、A. A. ミルンによる言葉と、シリーズを彩った挿絵家のE.H. シェパードのカラー原画100点を中心に構成されています。
何度かクマのプーさんの展覧会に行ったことがある方は、「カラー原画100点?」と思われるかもしれません。
そう、こちらは1950〜60年代にアメリカで刊行された新装版のためにシェパードが描きおろした、カラー原画を中心に紹介する展覧会。これらが日本で展示されるのは、実はきわめて珍しいことなのです。
この度、本展監修者の安達まみ先生(聖心女子大学教授)による鑑賞ツアーに参加したので、安達先生オススメのポイントも交えて、展覧会をご紹介したいと思います。
※原画は全てペンギン・ランダムハウス所蔵
もはや説明不要なほど、世界中で愛されているクマのプーさん。この物語は、イギリス人作家のA. A. ミルンによって描かれました。
シリーズは全部で4冊。2冊の物語と、2冊の詩集から成り立っています。物語は、最も有名な『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh、1926年)と、『プー横丁にたった家』(The House at Pooh Corner、1928年)の2冊で、詩集は『クリストファー・ロビンのうた』(When We Were Very Young、1924年)と、『クマのプーさんとぼく』(Now We Are Six、1927年)の2冊。
詩集のタイトルはあまり知られていないかもしれませんが、『クリストファー・ロビンのうた』は、『クマのプーさん』誕生前夜とも言える作品です。
それでは会場に入ってみましょう。
小さな入り口をくぐった先には、この物語を語る上で欠かせない人物や事柄を、AからZでひも解くエリアが広がっています。
おなじみのキャラクターから、記念すべき第1話が掲載された新聞のコピーまで、愛らしく丁寧にまとめられた空間はこのミュージアムならでは。
早速見えてきたBは、"Bear of very little brain"、プーのことですね。
この「ちっぽけな脳みそのクマ」は、ともすれば悪口のように聞こえますが、彼はそもそもぬいぐるみ。脳みそがあるわけではありません。
ですがボンヤリ屋のプーも、いざと言うときは勇敢になる。そんな彼に愛をこめて、ミルンはこのような呼び名をつけました。
さて、プーは他にも ”silly old Bear”(こちらもありったけの愛を込めて、"ばっかなクマのやつ")や、”FOP” (Friend of Piglet=ピグレットの友達)など、作中では実にさまざまな呼び名で呼ばれています。ちなみに”silly old Bear”の方は、ディズニー版の歌にも登場します。
続いて安達先生が「絶妙な訳!」と称賛するのが、「G」の“Gloomy Place”。
『クマのプーさん』を初めて日本語に訳した石井桃子さんは、「Gloomy Place」つまり、じめじめした暗い場所を、「しめっ地」と訳しました。この語感、陰鬱な場所であることを表現しつつ、どこかユーモラスな響きであるため、イーヨーの持つ「ネガティブだけどとぼけた雰囲気」とぴったり合うところが素晴らしいですよね。
その石井桃子さんを紹介しているのが、「I」のコーナーです。石井桃子さんといえば、「うさこちゃんシリーズ」などでも知られる翻訳者。誰でも一度は、石井さんが携わった絵本を手にしたことがあるのではないでしょうか?
石井さんがプーさんシリーズの翻訳をすることになったきっかけは、1933年のクリスマス・イヴのこと。犬養毅の息子である犬養健氏と家族ぐるみの付き合いのあった石井さんは、彼の娘から1冊の本を「読んで」とせがまれました。その本こそ『プー横丁にたった家』だったのです。
この時即興で翻訳しながら読み聞かせをした出来事が、石井さんと「クマのプーさん」シリーズの出会いとなりました。
もちろん会場には物語の生みの親、ミルンとシェパードの紹介もあります。
彼らは『パンチ』という風刺雑誌で、それぞれジャーナリストと挿絵家として活躍していました。
ミルンが息子のクリストファー・ロビン誕生後に本を出したところ大ヒット。その際、自分の本の挿絵はシェパードに描いてほしいと希望したことで、この奇跡のタッグが生まれたのです。
ロンドンで生まれ育ったほぼ同年代の2人は、次第に息がぴったり合っていき、ご存知の通り素晴らしい物語の世界が確立されていきました。
プーさんの世界を構成するA to Zに触れたところで、おまちかね、カラー原画の森に迷い込んでみましょう。
作家の梨木香歩さんの言葉が紡がれた小径を抜けると、目の前に開けるのはとても明るい展示室。壁一面を彩る原画たちは、先に紹介した4冊のほかに、クリスマスカードや『プーさんのお料理読本』の表紙なども展示されています。
それにしても本当に多くの原画が、良い状態で残されていることに驚きます。百町森の地図のみずみずしさは、まるでつい最近描かれたかのよう。
面白いのが各国で出版された時の装幀です。こちらはドイツバージョン。壁に鳩時計が掛かっているのが見えますか?
ドイツと言えば、鳩時計。このように、会場に展示されている原画のありとあらゆるところにシェパードのユーモアが散りばめられており、ついつい隅々まで見入ってしまうのです。
冒頭で「あまり知られていないかも」と書いた詩集の挿絵がこちら。プーの物語では百町森(100エーカーの森)のような自然の中で過ごす描写が多いのですが、こちらは一転してロンドンの街並みにフォーカスしたものが多く描かれています。
会場では坂本美雨さんによる詩の朗読が木漏れ日のように降り注ぎ、照明もとてもやさしく、ゆったりした気分でシェパードの絵を味わうことができました。
物語の中で、我々はプーたちと一緒に百町森を探検してきました。しかし、実際の百町森って、どんなところなのでしょう?
百町森のモデルとなったのは、イングランド南部にある「アッシュダウンの森」。ロンドンから電車で約1時間の場所にあります。物語では百町森(100エーカー)とされていますが、実際は6,400エーカーもあるのだそう。東京ドーム516個分ということなので、迷子になったら大変ですね。
そんなアッシュダウンの森の現在が、本展では映像作品として紹介されています。
内容は写真家の岡本香音さんが今年(2022年)の5月に現地へ赴き、森の中や、そこで遊ぶ人々の様子を収めたもの。会場ではたゆたう布をスクリーン代わりにして上映されているのですが、木々から光がこぼれるシーンでは照明がランダムに明滅するなど、没入感のある気持ちの良い作品となっています。
そうそう、ここでは少しだけマスクをずらして、会場の空気を吸い込んでみてください。森の中を彷彿とさせる木々や葉の香りを楽しめる演出もなされています。
「クマのプーさん」の世界を、貴重なカラー原画で巡る「クマのプーさん」展。
PLAY! MUSEUMらしい展示空間は、のびのびとした気分での鑑賞体験を与えてくれました。その工夫は作品を乗せてある台座にも。ぜひ作品と合わせて、展示空間自体も楽しんでみてください。
その後は、ミュージアムショップやカフェのチェックも忘れずに。カフェにはイギリスらしいメニューもありました。
また、入り口にはこのようなフォトスポットも設けられているので、お家にプーさんがいる方はぜひ一緒に会場へ! きっと忘れられない展覧会となって、あなたの思い出に残るはずです。
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◆会場:PLAY! MUSEUM
◆会期:2022年7月16日(土)〜10月2日(日) ※会期中無休
◆時間:10時〜18時 ※入場は閉館の30分前まで
◆公式サイト: https://play2020.jp/
※本展は日時指定制です
※名古屋市美術館へ巡回予定となっています。2022年10月8日(土)〜11月27日(日)
▲「クマのプーさん」展 会場風景
本展は、「クマのプーさん」の作者、A. A. ミルンによる言葉と、シリーズを彩った挿絵家のE.H. シェパードのカラー原画100点を中心に構成されています。
何度かクマのプーさんの展覧会に行ったことがある方は、「カラー原画100点?」と思われるかもしれません。
▲左右とも『絵本 クマのプーさん』原画 1965年
そう、こちらは1950〜60年代にアメリカで刊行された新装版のためにシェパードが描きおろした、カラー原画を中心に紹介する展覧会。これらが日本で展示されるのは、実はきわめて珍しいことなのです。
この度、本展監修者の安達まみ先生(聖心女子大学教授)による鑑賞ツアーに参加したので、安達先生オススメのポイントも交えて、展覧会をご紹介したいと思います。
※原画は全てペンギン・ランダムハウス所蔵
プーさんの物語は全部で4冊 詩集もあるってご存知でした?
▲クマのプーさん展 会場風景
もはや説明不要なほど、世界中で愛されているクマのプーさん。この物語は、イギリス人作家のA. A. ミルンによって描かれました。
シリーズは全部で4冊。2冊の物語と、2冊の詩集から成り立っています。物語は、最も有名な『クマのプーさん』(Winnie-the-Pooh、1926年)と、『プー横丁にたった家』(The House at Pooh Corner、1928年)の2冊で、詩集は『クリストファー・ロビンのうた』(When We Were Very Young、1924年)と、『クマのプーさんとぼく』(Now We Are Six、1927年)の2冊。
詩集のタイトルはあまり知られていないかもしれませんが、『クリストファー・ロビンのうた』は、『クマのプーさん』誕生前夜とも言える作品です。
プーさんを知るためのA to Z
▲クマのプーさん展 会場風景
それでは会場に入ってみましょう。
小さな入り口をくぐった先には、この物語を語る上で欠かせない人物や事柄を、AからZでひも解くエリアが広がっています。
おなじみのキャラクターから、記念すべき第1話が掲載された新聞のコピーまで、愛らしく丁寧にまとめられた空間はこのミュージアムならでは。
▲「クマのプーさん」展 会場風景
早速見えてきたBは、"Bear of very little brain"、プーのことですね。
この「ちっぽけな脳みそのクマ」は、ともすれば悪口のように聞こえますが、彼はそもそもぬいぐるみ。脳みそがあるわけではありません。
ですがボンヤリ屋のプーも、いざと言うときは勇敢になる。そんな彼に愛をこめて、ミルンはこのような呼び名をつけました。
さて、プーは他にも ”silly old Bear”(こちらもありったけの愛を込めて、"ばっかなクマのやつ")や、”FOP” (Friend of Piglet=ピグレットの友達)など、作中では実にさまざまな呼び名で呼ばれています。ちなみに”silly old Bear”の方は、ディズニー版の歌にも登場します。
▲「クマのプーさん」展 会場風景
続いて安達先生が「絶妙な訳!」と称賛するのが、「G」の“Gloomy Place”。
『クマのプーさん』を初めて日本語に訳した石井桃子さんは、「Gloomy Place」つまり、じめじめした暗い場所を、「しめっ地」と訳しました。この語感、陰鬱な場所であることを表現しつつ、どこかユーモラスな響きであるため、イーヨーの持つ「ネガティブだけどとぼけた雰囲気」とぴったり合うところが素晴らしいですよね。
▲「クマのプーさん」展 会場風景
その石井桃子さんを紹介しているのが、「I」のコーナーです。石井桃子さんといえば、「うさこちゃんシリーズ」などでも知られる翻訳者。誰でも一度は、石井さんが携わった絵本を手にしたことがあるのではないでしょうか?
石井さんがプーさんシリーズの翻訳をすることになったきっかけは、1933年のクリスマス・イヴのこと。犬養毅の息子である犬養健氏と家族ぐるみの付き合いのあった石井さんは、彼の娘から1冊の本を「読んで」とせがまれました。その本こそ『プー横丁にたった家』だったのです。
この時即興で翻訳しながら読み聞かせをした出来事が、石井さんと「クマのプーさん」シリーズの出会いとなりました。
▲「クマのプーさん」展 会場風景
もちろん会場には物語の生みの親、ミルンとシェパードの紹介もあります。
彼らは『パンチ』という風刺雑誌で、それぞれジャーナリストと挿絵家として活躍していました。
ミルンが息子のクリストファー・ロビン誕生後に本を出したところ大ヒット。その際、自分の本の挿絵はシェパードに描いてほしいと希望したことで、この奇跡のタッグが生まれたのです。
ロンドンで生まれ育ったほぼ同年代の2人は、次第に息がぴったり合っていき、ご存知の通り素晴らしい物語の世界が確立されていきました。
カラー原画で見る みずみずしいプーの世界
プーさんの世界を構成するA to Zに触れたところで、おまちかね、カラー原画の森に迷い込んでみましょう。
▲「クマのプーさん」展 会場風景
作家の梨木香歩さんの言葉が紡がれた小径を抜けると、目の前に開けるのはとても明るい展示室。壁一面を彩る原画たちは、先に紹介した4冊のほかに、クリスマスカードや『プーさんのお料理読本』の表紙なども展示されています。
▲『クマのプーさん プー横丁にたった家』(見返し) 原画 1957年
それにしても本当に多くの原画が、良い状態で残されていることに驚きます。百町森の地図のみずみずしさは、まるでつい最近描かれたかのよう。
▲『クマのプーさん』(ドイツ語版 表紙) 原画 1968年
面白いのが各国で出版された時の装幀です。こちらはドイツバージョン。壁に鳩時計が掛かっているのが見えますか?
ドイツと言えば、鳩時計。このように、会場に展示されている原画のありとあらゆるところにシェパードのユーモアが散りばめられており、ついつい隅々まで見入ってしまうのです。
▲左右とも『クリストファー・ロビンのうたの本』クリストファー・ロビンのうた バッキンガム宮殿 原画 1967年
冒頭で「あまり知られていないかも」と書いた詩集の挿絵がこちら。プーの物語では百町森(100エーカーの森)のような自然の中で過ごす描写が多いのですが、こちらは一転してロンドンの街並みにフォーカスしたものが多く描かれています。
会場では坂本美雨さんによる詩の朗読が木漏れ日のように降り注ぎ、照明もとてもやさしく、ゆったりした気分でシェパードの絵を味わうことができました。
今はどうなっているの? 映像で体験する百町森の現在
物語の中で、我々はプーたちと一緒に百町森を探検してきました。しかし、実際の百町森って、どんなところなのでしょう?
百町森のモデルとなったのは、イングランド南部にある「アッシュダウンの森」。ロンドンから電車で約1時間の場所にあります。物語では百町森(100エーカー)とされていますが、実際は6,400エーカーもあるのだそう。東京ドーム516個分ということなので、迷子になったら大変ですね。
▲「クマのプーさん」展 会場風景
そんなアッシュダウンの森の現在が、本展では映像作品として紹介されています。
内容は写真家の岡本香音さんが今年(2022年)の5月に現地へ赴き、森の中や、そこで遊ぶ人々の様子を収めたもの。会場ではたゆたう布をスクリーン代わりにして上映されているのですが、木々から光がこぼれるシーンでは照明がランダムに明滅するなど、没入感のある気持ちの良い作品となっています。
そうそう、ここでは少しだけマスクをずらして、会場の空気を吸い込んでみてください。森の中を彷彿とさせる木々や葉の香りを楽しめる演出もなされています。
▲会場にはひっそりとバードハウスが! どこにあるか探してみてくださいね。
「クマのプーさん」の世界を、貴重なカラー原画で巡る「クマのプーさん」展。
PLAY! MUSEUMらしい展示空間は、のびのびとした気分での鑑賞体験を与えてくれました。その工夫は作品を乗せてある台座にも。ぜひ作品と合わせて、展示空間自体も楽しんでみてください。
その後は、ミュージアムショップやカフェのチェックも忘れずに。カフェにはイギリスらしいメニューもありました。
▲ショップの様子
▲お子様ランチの旗はユニオンジャック! メニューにはフィッシュアンドチップスや、シェパーズパイも
また、入り口にはこのようなフォトスポットも設けられているので、お家にプーさんがいる方はぜひ一緒に会場へ! きっと忘れられない展覧会となって、あなたの思い出に残るはずです。
▲入口のフォトスポットには、自分のプーを座らせることができるスペースも
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「クマのプーさん」展
◆会場:PLAY! MUSEUM
◆会期:2022年7月16日(土)〜10月2日(日) ※会期中無休
◆時間:10時〜18時 ※入場は閉館の30分前まで
◆公式サイト: https://play2020.jp/
※本展は日時指定制です
※名古屋市美術館へ巡回予定となっています。2022年10月8日(土)〜11月27日(日)