【あの椅子に座ってみたい】が叶う展覧会! 「フィン・ユールとデンマークの椅子」が開催

2022/8/12 21:30 虹

▲会場風景

7月23日より、東京都美術館にて企画展「フィン・ユールとデンマークの椅子」が開幕しました。
本展ではデンマークのデザイナー、フィン・ユールが生み出した、優雅で麗しい椅子を中心に紹介。加えて彼が手掛けた幅広い仕事から、デンマークにおけるデザインの歴史と背景を紐解くという内容となっています。


フィン・ユールとは?


▲会場風景 フィン・ユール自身が設計した自邸に置かれた家具と同じタイプのもの。温かみのあるフォルムが美しい。

1940年代から60年代にかけて、デンマークでは歴史に残る優れた家具が多数誕生しました。中でもフィン・ユールは「彫刻のよう」と評されるほど、優美な曲線が印象的な椅子をデザインしたことで知られています。

1912年にコペンハーゲン近郊に生まれたユールは、当初王立芸術アカデミーの建築科に入学します。はじめて一人暮らしをした際に、独学ながら自ら使う家具を設計。この頃出会った家具職人のニールス・ヴォッダーを通じて、椅子をデザインするようになりました。

その後もユールは美しい椅子を生み出し続け、アメリカにも活動の場を広げます。国連本部のインテリアデザインをはじめ、世界にその名を轟かせる活躍を見せました。


▲ユールの椅子は国連信託統治理事会議場でも採用された。左より、ダイニングチェア(1951年)、イージーチェア(1951年)ともに織田コレクション(東川町)蔵。右は議場の大規模改修後に採用された椅子のひとつ、サルト&シグスゴーのカウンシルラウンジチェア(2013年)デニッシュインテリアス株式会社蔵。


ずらりと並んだ椅子に魅入る 豊かな織田コレクション


▲会場風景

会場に入った私たちを迎えてくれるのは、ずらりと並んだ数々の椅子。デザインが特に好きという人でなくとも、一度は目にしたことがあるものが見つけられるはずです。
これらは織田憲嗣氏のコレクションによるもの。織田氏は椅子研究者として、20世紀の家具や日用品を長きにわたり収集してきました。


▲会場風景

本展覧会は世界的に知られている「織田コレクション」が、初めてまとまった状態で東京にて紹介される、稀有な機会と言えるでしょう。中には世界に一脚しかない、プロトタイプも展示されています。


「座ってみたい」が叶う展覧会

こうして鑑賞していると、つい湧いてくるのが「座ってみたい」という願望。

「パッと見たところ座りにくそうだけど、実際はどうなのだろう」
「あんなに優美な椅子に座ったら、二度と立ち上がれないのでは……?」
そんな思いが駆け巡ります。

実は本展の会場には、この願いが叶ってしまうエリアがあるのです!
憧れのデンマークデザインを体験できるのも、フィン・ユール展の見どころのひとつです。

家具は使ってこそ真価がわかる どんどん座ろう

展示を十分味わい、「デニッシュモダンへの憧れゲージ」が最高潮に達したころ、おあつらえ向きにそのエリアは登場します。
様々な椅子だけでなく、机、照明と、まとまりごとに異なる趣きで設えられた巨匠たちの作品。


▲会場風景 フラッシュを使わなければ写真撮影もOKです。ルールとマナーを守って楽しく体験しましょう。

フィン・ユールと同じく、デンマークデザイン界において大きな功績を残したハンス J. ウェグナーはかつてこう語りました。

「椅子は、誰かが座ってはじめて完成する」

そう、座ってこそ、椅子は椅子たり得るのです。そんなわけで、どんどん座っていきましょう!


まずはこちら。
フィン・ユールの代表作にして歴史的名作「チーフティンチェア」


▲フィン・ユール「チーフティンチェア」(1949年)デニッシュインテリアス株式会社

座る部分が背もたれに向かって下がっているので、一瞬「座りにくいのでは……?」と思うものの、実際に腰かけてみると程良いホールド感があることがわかります。
そして「意外と座り心地が良いなあ」と思ったが最後、立ち上がりたくなくなるほど椅子に身を委ねていることに気づくはず。このリラックス度、まさに歴史的名作と言えるでしょう。



▲ハンス J. ウェグナー 手前「PP19 ベアチェア」(1951年)、「PP130 サークルチェア」(1986年)ともにスカンジナビアンリビング

続いてハンス J. ウェグナー「サークルチェア」と「ベアチェア」。こちらもホールド感がありそう、と思っていたのですが、首のあたりが少し合わず。というのも私は日本人女性の中でも小柄な部類に入るので、北欧の人々の体型を基準に作られた椅子の中には、合わないものもあるのかもしれません。実際に座ることで、このような発見もありました。



▲アルネ・ヤコブセン 左から反時計回りに「3300シリーズ」(1956年)、「ドロップ」(1958年)、「3300シリーズ」(1956年)、「エッグチェア」(1958年)、「スワンチェア」(1958年)全てフリッツ・ハンセン

ミッド・センチュリー・モダンが好きなら、一度は夢見たアルネ・ヤコブセンの名作たち。ひとつひとつ座ってみて、どれが自分にとってのベストになるか、座り比べてみるのも面白そうです。形こそシンプルですが、「3300シリーズ」は安定した座り心地。



▲ハンス J. ウェグナー 左「CH410(ピーターズチェア)」、右「CH411(ピーターズテーブル)」(1944年)ともにカール・ハンセン&サンジャパン株式会社

そのほか小さなお子さんにも意見を聞いてみたいウェグナーの「ピーターズチェア」と「ピーターズテーブル」、見ただけで絶対に座り心地が良いと確信できるオーレ・ヴァンシャー「コロニアルチェア」と「コロニアルソファ」、“北欧デザイン”と聞くとこういった空間を連想する人は多いのでは? というポール・ケアホルム「PK0 A」、「PK22」。そしてポール・ヘニングセンの照明「スノーボール」は鉄板ですね。


▲オーレ・ヴァンシャー 左「OW149(コロニアルチェア)」(1959年)、右「OW149-2(コロニアルソファ)」(1964年)ともにカール・ハンセン&サンジャパン株式会社



▲左「PK22」(1952年)、右「PK0 A」(1956年)ともにフリッツ・ハンセン



体験することで、そのデザインを理解する

このように「使うこと」を目的として作られたものは、実際に体験することで、そのデザインを理解できるのではないでしょうか。
ちなみに東京都美術館では、展覧会会場以外の場所でも、様々な名作に座ることができます。


▲東京都美術館にて配布されているリーフレット「美術情報室と佐藤慶太郎記念 アートラウンジ 美術館でアートの本とすてきな家具に出会う」より


優美でシンプルという、流行に左右されない恒久的な美意識が込められているからこそ、時が経っても色褪せず、今も私たちを魅了するデンマークの椅子たち。
ぜひこの機会にたくさんの北欧デザインを鑑賞し、体験してみてはいかがでしょう。


フィン・ユールとデンマークの椅子


◆会期 2022年7月23日(土)~10月9日(日)
◆会場 東京都美術館 ギャラリーA・B・C
◆休室日 月曜日、9月20日(火)
 ※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室。
◆開室時間 9:30~17:30(入室は閉室の30分前まで)
 ※金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
 ※特別展「ボストン美術館展 芸術×力」のチケット提示にて、各料金より300円引き
 ※事前予約不要。ただし、混雑時に入場制限を行う場合あり。
◆展覧会公式サイト https://www.tobikan.jp/finnjuhl/index.html