松尾芭蕉の直筆図巻が再発見!2022年秋から久々の一般公開

2022/5/29 10:40 明菜 明菜


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》部分

ここ3年ほど、感染対策や各自の自粛により自由な旅行ができない状況でしたが、観光地には少しずつ賑わいが戻ってきています。私が住んでいる京都も、修学旅行の生徒さんが一気に増えたような気がします。

皆さんは、旅の移動手段といえば何を思い浮かべますか? 新幹線、鉄道、自動車、自転車、飛行機などいろいろありますが、「東京から京都まで歩いて行くよ!」という方はいらっしゃいますか?


与謝蕪村《松尾芭蕉像》

徒歩の旅の達人といえば、江戸時代の俳諧師・松尾芭蕉(1644~1694)です。芭蕉は江戸を基点に全国を歩いて旅し、俳句や紀行文をしたためました。代表作といえば『奥の細道』ですが、それより早くに書かれた『野ざらし紀行(甲子吟行)』をご存じでしょうか。途中に伊勢や京都、名古屋などを経由し、故郷の伊賀へ帰省して江戸に戻る旅について書かれた作品です。

芭蕉が自ら書いた『野ざらし紀行』は2点が知られており、ひとつは天理大学附属天理図書館に所蔵されています(通称、天理本)。もうひとつは、研究者の間で存在は知られていたものの、長らく行方が明らかになっていませんでした。


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》部分

ところが2021年11月、大阪市の美術商から京都の福田美術館に情報が寄せられ、その存在が確認されました。12月に本作《野ざらし紀行図巻》を購入した同館によると、『芭蕉全図譜』(岩波書店)に所蔵の筆跡との鑑定により、芭蕉の真筆であると確かめられたそうです。

そして、本作は10月22日から福田美術館と嵯峨嵐山文華館で共同開催される展覧会『芭蕉と蕪村/蕪村と若冲』で一般公開されます。

要するに、「松尾芭蕉の直筆作品が再発見され、一般公開されるから見に行こうよ!」というお話です。

■「野ざらし紀行」とは?


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》冒頭部分

「野ざらし紀行」は、芭蕉が41歳のとき、貞享2年(1685)に初稿したとされる作品です。芭蕉による自筆本は2点の存在が確認されており、天理本、福田本(今回再発見された《野ざらし紀行図巻》)の順に書かれました。

俳句と文章のみで構成される天理本と異なり、福田本には挿絵が描かれています。挿絵も芭蕉の直筆です。


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》記者発表会での展示風景

約15メートルという長さの巻物で、文章と俳句、挿絵がテンポ良く並んでいるのが特徴。芭蕉はプロの絵師ではなく、また絵を人に習う前の作品なので、線の引き方や物の形の捉え方にぎこちなさが見られます。しかし、濁りのない鮮やかな色彩で描かれた紅葉の風景など、美的センスの高さを感じられる箇所もありました。


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻き》奈良 水とりや

俳句の達人で言葉による表現に長けている人が、わざわざ絵で何かを表現しようとしたこと自体、とても興味深いです。芭蕉をしても、言葉では伝えられないものがあったのでしょうか。芭蕉の芸術観を読み解くヒントになる作品ではないかと思います。


関西大学名誉教授、藤田真一先生。江戸時代の俳諧研究を中心とする国文学者

記者発表会にて解説していただいた藤田真一先生によると、本作にある50句近くの俳句を追うと、芭蕉の読み方が変化していくのがはっきりと読み取れるそうです。終わりのほうでは耳で聴いてすぐにイメージが湧くような句づくりをするようになっており、のちの代表作「古池や蛙飛びこむ水の音」を予感させる片鱗が見て取れるのだとか。


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》山口素堂による序文

また、芭蕉と交流のあった俳人・山口素堂による序文も、天理本にはない特徴です。

■一般公開は10月22日から

《野ざらし紀行図巻》は、研究者の間で存在は知られていたものの、過去に展覧会などで公に公開された記録が見当たらない作品です。あまり人目に触れて来なかった作品のため、存命の芭蕉研究者ですら、ほとんどの人は見たことがないと思われます。


松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》部分

これまでに複数の所蔵者を転々としてきた作品ですが、保存状態は良好とのこと。筆者も現物を拝見したとき、綺麗な状態で残っていることに驚きました。

一般公開は10月22日からです。この秋は、芭蕉が書いた文字と絵を見るために、京都へ旅に出てみては。

企画展『芭蕉と蕪村/蕪村と若冲』

会期:2022年10月22日(土)~ 2023年1月9日(月)
○前期:2022年10月22日(土)~ 11月28日(月)
○後期:11月30日(水)~ 2023年1月9日(月)

第一会場:嵯峨嵐山文華館(https://www.samac.jp/
第二会場:福田美術館(https://fukuda-art-museum.jp/

※松尾芭蕉《野ざらし紀行図巻》は福田美術館にて、会期中は全期間展示される予定