浮世絵良し・刀良し・歴史良し ありそうでなかった【THE HEROES】展が開催!

2022/2/16 19:29 虹



森アーツセンターギャラリーにて、ボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」が開催中です。

本展は、世界最高水準の日本美術コレクションを誇るボストン美術館の所蔵品から厳選した刀剣と、軍記物語や武勇伝説に登場する英雄を描いた浮世絵(武者絵)、そして武者絵と共通のイメージが施された刀剣の鐔(つば)を通じて、さまざまなヒーローたちの活躍を紹介する展覧会です。


手前・小烏丸(模作) 太刀 銘 小沢正寿作 昭和四十五年二月日 毎日新聞社賞受賞之作 昭和45年(1970)2月[原品 平安時代(9世紀)] 個人蔵


そうなんです。武者絵に刀剣、そして鐔。つながりのある三者が一堂に会して歴史を追っていくのがTHE HEROES展のポイント
浮世絵好きにも、刀剣好きにも、歴史好きにも嬉しい展覧会となっています。


源平が熱い今年、リンクする作品が集う!

アメリカのみならず、ヨーロッパやアジア全域にわたり、古代から現代に至る優れた美術品を所蔵することでも知られるボストン美術館。その数なんと約50万点! そのうちおよそ10万点を占めると言われる日本美術は、質・量ともに日本以外では世界一だと言われています。


会場風景


現在ボストン美術館には浮世絵版画約5万点、刀剣約600口という巨大なコレクションが形成されています。その中から今回はすべて初出展となる武者絵が118点、刀剣が約20口、そして27点の鐔が選び抜かれて来日しているのです。

展覧会は日本の歴史に基づき、神話の時代から戦国時代の川中島の戦いまでを紹介。また江戸時代に流行した長編小説の登場人物を描いた作品も登場します。歴史を追うかたちで浮世絵を見せるという手法は王道のキュレーションではありますが、本展にはそこに刀と鐔が加わります。

上杉謙信の愛刀といわれる、来国俊が手掛けた刀剣を傍らに、川中島の合戦図を観る──といった夢のような鑑賞体験ができてしまうのもこの展覧会ならでは。

太刀 銘 来国俊 元享元年十二月日 鎌倉時代 元享元年(1321) 刀剣博物館[(公財)日本美術刀剣保存協会]蔵


また、現在は大河ドラマで「鎌倉殿の13人」が、そしてアニメで「平家物語」が放送されるという、かつてないほどに源平が熱いとき!
会場には源氏と平氏を題材にした作品がずらりと並んでいますので、それぞれチェックしている方は興奮すること請け合いです。


源平合戦のクライマックス「壇ノ浦の戦い」は、三枚続で迫力の見せ方をしています。 歌川国芳「長門国赤間の浦に於て源平大合戦平家一門悉く亡びる図」 弘化2~3年(1845~46)頃 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵


「正直なところ歴史はそれほど詳しくなくて……」という私のような方も大丈夫。
絵本作家でありマンガ家でもある関口シュンさんによる4コマ漫画が解説とともに置かれ、作品に描かれたシーンが何を意味するか理解できるという親切設計です!

画題がわからず、後で調べようと思ってもそのまま忘れてしまうこと、ありませんか? 例えば各所で見かける「土蜘蛛」をテーマにした作品。あれって結局どういう話なんだっけ?──そういった疑問も、その場で解決できるようになっています。


関口シュンさんの4コマ漫画で画題を把握! 歌川国芳「和漢凖源氏 源頼光 薄雲」 安政2年(1855)9月 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵



神、武将、あやかし……有名絵師による大スペクタクル武者絵!



会場風景

浮世絵はすべて初出展ということで、どんな絵師の作品が来ているのか気になる方もいらっしゃるかと思います。

出品目録を見ると、広重、国芳、国貞といった歌川一門のスター絵師に加え、月岡芳年や菱川師宣、北斎門下に勝川派と、有名どころの名が並びます。
ここでチェックしたいのが、絵師ごとの描き方
例えば「一の谷合戦」など人気のお題は、多くの絵師によって描かれてきました。何をどう見せたいか、構図やアングルにそれぞれの個性が出ますから、見比べてみるのも面白いでしょう。

同じ画題も、絵師によって表現の仕方がガラッと変わります。


また、「摺物(すりもの)」も数点来ています。
摺物とは、たっぷりお金をかけて技巧を凝らした、個人が私的に配るために制作した木版画。高度な技が施されていたり、金銀が使われていたりと、とてもゴージャスです。ぜひ正面からだけでなく、少し斜めから観るなどして、贅を尽くした版画の魅力を堪能してみてください。


魚屋北溪「武者松竹梅番続 弁慶」 文政11~12年(1828~29)頃 William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵  魚屋北溪は北斎一門の実力派のひとり。豪快な武者と繊細優美な職人技のコンビネーションを味わえるのは、摺物ならではの楽しみです


歴史以外にも、「読本(よみほん)」と呼ばれる伝奇風小説の名場面を描いた浮世絵も展示されています。あやかし退治を中心に、絵師の個性と想像力が遺憾なく発揮された読本の世界は、まさに武者絵の醍醐味!

中でも曲亭馬琴と葛飾北斎コンビによる江戸時代の大ベストセラー『椿説弓張月』は、あまりにも人気が出すぎて他の絵師たちも筆をとったほど。二代歌川国貞は『椿説弓張月』を題材とした「弓張月振分双六」も手掛けており、今回ショップではそれをグッズ化したものも販売されています。


会場風景



ずらり並ぶ刀の部屋 めくるめく鐔の世界

冒頭でご紹介したように、ボストン美術館は平安時代から江戸末期までの豊富な刀剣のコレクションでも知られています。近年では、日本美術刀剣保存協会名誉会員でもあった世界有数の刀剣収集家、ウォルター・エイムズ・コンプトン氏のコレクションも加わりました。

本展の目玉のひとつである《太刀 銘 安綱》は、ボストン美術館所蔵のうち最古の平安時代(11世紀)のもの。安綱作の刀は現存10点ほどありますが、同館はそのうちの2口を所蔵。今回来日しているのは、安綱の中でも最も長いものだといわれています。


太刀 銘 安綱 平安時代(11世紀)William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵


そのほか国内の刀も数点出品されています。『平家物語』の「剣の巻」に登場する《刀 折返銘 長円(薄緑)》や、上杉謙信の愛刀と伝わる刀剣など、歴史を背負った刀との対面は刀剣ファンならずとも興奮しますよ。

また前述の通り、本展では「鐔」の芸術性の高さにも注目しています。
刀のバランスをとったり、手が刃の方に滑るのを防ぐ役目をしたりと、日本刀にとって重要な一部を担う鐔は、その実用的な役割に加え、美術品としても愛されてきました。


手前:宇治川先陣争い図鐔 銘 江州彦根住喜多川藻柄子入道宗典行年七十一歳製 江戸時代(18世紀)William Sturgis Bigelow Collection ボストン美術館蔵

限られた小さな地は、その全て装飾に使えるわけではありません。刀を通す「茎穴(なかごあな)」やに加え、笄(こうがい)、小柄(こづか)といったパーツを通すための穴、刀身を固定するための「責金(せきがね)」などを設えたうえで、そこから超絶技巧と呼びたくなるような装飾を施しています。

今回は武者絵に描かれたシーンに沿った鐔を武者絵と並べて展示。ミクロの美が織りなす驚きの奥行や斬新な発想を、ぜひ楽しんでください。


音声ガイドが大当たり! 展示が100倍楽しくなる‼



おたくをやっている手前、声優さんが音声ガイドを担当されるとつい注目してしまうのですが、本展の音声ガイドは「早くも今年一番か」というほどの大当たりです!

言わずと知れた「鬼滅の刃」で宇随天元役を演じる小西克幸さん、そしてミュージカル『刀剣乱舞』シリーズにて三日月宗近役を演じる黒羽麻璃央さんによるガイドはわかりやすく、臨場感たっぷりの語りは武者絵の世界にぴったり。特に小西さんがハマりすぎていて、何度もリピートしたくなるほどでした。


宇治川合戦を描いた作品を鑑賞しながら、「平家物語」の宇治川を聴く贅沢!

また、平家物語のエリアでは琵琶法師・今川勉さんによる「平家物語」の宇治川を聴くことができ、「ここまで詰め込んで600円で大丈夫?」と心配になってしまうほどの充実度です。
会場では黒羽さんが刀を鍛錬する映像も見ることができますよ!


武者に着目した「ありそうでなかった」展覧会

浮世絵展は何度も観ているという人にも、「お!」と思わせる力を持っているのがTHE HEROES展です。刀剣単体の展覧会だと少し敷居が高く感じますが、浮世絵と合わさることでぐっと親しみやすくなるのも、この展覧会の特徴と言えるでしょう。


玉鋼ビスコッティ+刀剣ポストカード 1,112円(税込)

展示に沿ったミュージアムショップのセレクトも、浮世絵よりも刀剣にちなんだグッズがたくさん出ていて新鮮です。「玉鋼ビスコッティ」はインパクト大で、これは刀剣好きな方へのお土産としても喜ばれそう。
他にも熟練の職人が手作業で施した刺繍が際立つ「頼光スカジャン」など、凝った品ぞろえとなっています!


頼光スカジャン(受注商品) 187,000円(税込)

先に述べたように、源平の戦いが熱い今、注目したい作品がたくさん並んでいます。ありそうで無かった浮世絵、刀、鐔を組み合わせた展覧会
ボストン美術館の優品を通して、武者の物語を覗いてみてください!

ボストン美術館所蔵「THE HEROES 刀剣×浮世絵-武者たちの物語」
会期:2022.1.21(金)~ 3.25(金)
会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)
時間:10:00〜20:00 火曜日のみ17:00まで
※最終入館はいずれも閉館の30分前まで
休館日:会期中無休
展覧会公式サイト:https://heroes.exhn.jp/