クレイジーケンバンドのギタリストが全国の焼きそばを食べ歩く「焼きそばの果てしなき旅」

2021/10/14 11:00吉村智樹吉村智樹




食欲の秋です。緊急事態宣言が明け、宣言期間中よりは比較的お酒を飲みやすい状況になりました。鉄板で焼いたアツアツでスパーシーなソース焼きそばを食べながら飲む冷たいビール、恋焦がれていた人も多いのでは。


おススメの新刊を紹介するこの連載、第69冊目は、クレイジーケンバンドのギタリスト小野瀬雅生(おのせまさお)さん焼きそばへの愛を語る『焼きそばの果てしなき旅』です。





■クレイジーケンバンドのニューアルバムがヤバい!


クレイジーケンバンドのニューアルバム『好きなんだよ』が話題です。「カヴァー曲のみ」というコンセプトのこのアルバムには、山口百恵「横須賀ストーリー」からORIGINAL LOVE「接吻-kiss-」まで70's~90'sにかけての邦楽のお宝曲がズラリ。ジャケットにも、同時代にエアブラシを駆使したイラストで活躍した山口はるみが起用されています。





「鉄板曲」と言える矢沢永吉「時間よ止まれ」のカヴァーの、まるで全国民を抱きしめるような横山剣氏の圧倒的な声の包容力。そこに中村晃子「あまい囁き」(ナレーション:細川俊之)のカヴァーが隠し味のシナモンような甘苦い刺激を加え、「聴きやすいのに奥深くてヤバい」サウンドとなっています。ジュージュー焼けるような原曲への愛の熱さがうれしい。矢も楯もたまらず聴きたくなる香ばしい薫りがCDからたちのぼってくるようです。


■ギタリスト初の著書は意外な「焼きそばの本」


クレイジーケンバンド関連には実はもう一つ、話題の新作が。それがリードギタリスト小野瀬雅生さん初の著書『焼きそばの果てしなき旅』(ワニ・プラス)。


「ギタリストが焼きそばの本?」「CKBのギタリストがYKB(焼きそば)の本を?」。ギタリストの書籍デビューが音楽関連ではないのを意外に思う人がいるかもしれません。


実は小野瀬さんはギターの名プレイヤーであるのはもちろん、「食べ歩き名文家」としても名を馳せているのです。外食や買い食いの楽しみを綴ったブログやnoteにはファンが多い。さらに地元「♪ィヨコハマ」こと横浜では食べ歩きの街ぶら番組にも出演しています。


そんな小野瀬さんが愛してやまないのが、みんな大好き「焼きそば」。小野瀬さんは、自身の「サッポロ一番」を食べ比べた記事に対して「サッポロ一番には焼きそばもある」と指摘されたことから、インスタントから名店までありとあらゆる焼きそばの食べ比べをスタートさせたのです。


ツアーで全国を巡る際には必ず地元の焼きそばを堪能。そうして「ウマウマウー!」「焼きそばブラボー!」「美味しかったです! 御馳走様でした!」というキメ台詞とともに味や状況をリポートします。1日に何食もはしごする場合も。


小野瀬さんはさらに休日に、わざわざ焼きそばを食べるために旅に出るのです。自動車の運転免許を持たない小野瀬さんは電車を乗り継ぎ乗り継ぎしながら「カモンレッツゴー!」と現地へ出かけます。焼きそばの味と香りへ想いを馳せ続けているのです。





■シンプルなのに多彩な焼きそばの魅力


幼い頃から、父親がつくってくれる「マルちゃん焼きそば3人前」を食べるために男3人兄弟で争奪戦を繰り広げた記憶が、小野瀬さんの焼きそば原体験(3人前なのに3人で奪い合うのが男兄弟という縦社会&下克上なのです)。成長してからは静岡県の富士宮焼きそばのおいしさに衝撃を受け、ローカル焼きそば底力を身を以って、というか舌を以って知りました。


首都圏~全国の焼きそば名店を訪ね歩いたこの新刊は、もちろん書名にあるように、ほぼ焼きそばしか登場しません。それなのに「味や見た目がこんなにも多様なのか!」と驚かされます。


たとえば、地元横浜「磯村屋」の焼きそばは茹でたポテト入り。JR中央線駅構内にある「長田本庄店」は牛スジとこんにゃくを煮た「ぼっかけ」入り(東京の、しかも駅のなかで神戸長田の味が!)。高島平「あぺたいと」は、まるでせんべいのように両面をパリッと堅焼き。茨城県築西「中山屋」は、具はキャベツのみ。そして腹具合に合わせて100円ずつ無限に増量できるシステムが嬉しい。沖縄那覇「空港食堂」の調味料はソースではなくケチャップ。大阪東成「長谷川」は無味の焼きそばに自分でソースをかけて味をととのえる、あなたまかせ式


このようにパンチが効いた焼きそばが続々登場。Punch! Punch! Punch! 麺を少しの具とともに焼くだけのシンプルな食べ物なのに、目を見張るほどバラエティに富んでいるのです。





味のみならず立地や店の構造も千差万別。千葉木更津「木更津焼きそば」は、なんと廃業した銭湯を利用したお店。店内はほぼ銭湯のまんま。名古屋の「おやつ饅頭」はその名の通り和菓子屋さん然とした外観。よもや焼きそばがいただけるとは、信じがたい。


ああ、今年の5月に閉店してしまった西浅草「花家」、行ってみたかった。これほど見事なレトロ風情は再現不可能。76年にも亘って飾り気がない焼きそばを淡々と焼き続けた店で、しみじみ昼下がりのひとときにひたりたかった。このように、迷うほどメニューがあるなかで焼きそばが黒光りする店があれば、頑として「ソース焼きそばのみ」一本勝負の店もある。食堂ではなく、甘味どころのサイドメニューとして脇に従える店もある。


焼きそばは和食のような洋食のような、国籍がないファストフード。「食事」でもあり「おやつ」でもあり「酒のアテ」でもあり。すべての世代に寄り添ってくれる気のいいおっちゃんなんですよね。それでいて皿には、しっかり美学が反映する。「これってまさにクレイジーケンバンドだよなあ」と思うわけです。


■「焼きそばの果てしなき旅」は続く


こういったいろんな顔を持つ焼きそばの名店を紹介する小野瀬さんの文章がこれまた「ウマウマウー!」。とってもいいんです。「メープルの香りがグンバツなクルミもチョーウマし」「超常現象的ロングディレイインパクトに見舞われました」などなど表現がおもしろい。バンドマン文体というか、言葉のリフが効いていたり、アームでうねりまくっていたり。


いやあ、アーティストの文章って、味わい深いですよね。テンポがいいし、小賢しい文章屋には書けない自由なグルーヴがある。そしてなにより「焼きそば、好きなんだよ」という気持ちがびんびん伝わってくる。小手先のテクにがんじがらめになっているライターは「ショック療法」を試すつもりで読むべきでしょう。


そばというタイガー&具というドラゴンがおりなす、食べやすいのに奥深くてヤバい「焼きそば」の世界。小野瀬さんはこれからも鉄板(ステージ)から降りることなく、焼きそばのソウルを追い求め、東洋一の焼きそばライティング・マシーンとして、果てしない旅へ出かけます。


「美味しかったです! 御馳走様でした!」



焼きそばの果てしなき旅
小野瀬雅生 著
定価 : 1,300 円+税
発行:ワニ・プラス
発売:ワニブックス

クレイジーケンバンドのギタリストにして食エッセイの達人・小野瀬雅生が贈る、国民的愛され食「焼きそば」の本。
日本全国の焼きそばの名店66軒を食べ歩いた探訪記やお取り寄せ焼きそば自作コラムまでオールカラーでウマウマウー満載!
焼きそばスキスキスー!
カモンレッツゴー!!


メディアプラットフォームnoteでクレイジーケンバンドのギタリスト・小野瀬雅生さんが連載したエッセイが、『焼きそばの果てしなき旅』としてワニブックスから9月17日(金)に発売されます。

「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションに掲げる私たちは、これからもクリエイターのみなさんの活動をサポートしていきます。

小野瀬 雅生(おのせ・まさお)
1962年神奈川県生まれ。「クレイジーケンバンド(CKB)」のリードギタリスト、バンド「小野瀬雅生ショウ」のリーダー、歌も担当。通称は”のっさん”。緩急自在なギタープレイは“ハマのギター大魔神”の異名をとる。アコースティックユニット「小野瀬雅生と須藤祐」やソロ名義でもライヴ活動を行うほか、数多くのアーティストと共演、楽曲提供をしている。横浜DeNAベイスターズの熱烈ファンであり、高級・B級問わぬ食べ歩き家としても知られる。ブログやnote、YouTubeなどでさまざまな分野の文章や動画を配信しており、横浜市商店街総連合会の食イベント『ガチ!シリーズ』に例年参加など多岐にわたる活動を精力的に行っている。


2020年5月にnoteを始めて、色々と書いているうちに見事にハマってしまった焼きそばの世界。最初はこうして本になるなんて思いもよらずに、ひたすら焼きそばを作っては食べてその顛末を書きなぐっていただけでした。そうこうしているうちに自分の中に想い出の焼きそばが幾つもあることに気が付いて、焼きそばへの思い入れが過熱。素晴らしい出逢いも多発して、果てしなき旅となり、遂にはこうして本になるまでになりました。ご一緒に焼きそばの果てしなき旅を楽しんで戴けたら幸いです。クレイジーケンバンドのカヴァーアルバム『好きなんだよ』も是非よろしくお願い致します。
https://www.wani.co.jp/event.php?id=7119



吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy