不気味すぎる寄生虫がアナタを襲う!『眠れなくなるほどキモい生き物』

2021/9/9 13:00 吉村智樹 吉村智樹




サバやカツオ、サンマなど、もうすぐ秋の魚がおいしい季節がやってきます。楽しみですね。


けれども気をつけなければならないのが「寄生虫」。魚や貝、魚卵などには寄生虫がいる場合があります


魚介は流通の段階で冷凍や加熱、さらにこの頃は電気ショックなどで寄生虫を死滅させているので、おおかたは安心。しかしながら、自分で釣ったり、水揚げされたばかりの海鮮だったりすると、まだ生きているんですよね、彼らが。「とれたての活きたイカを刺身にしようとさばいたら、皮の下でアニサキスがうにょうにょ動いていた」なんて光景に出くわした経験がある人もいるのでは。


なかには人体に害を及ぼし、人を殺してしまう場合さえある寄生虫。あなたの暮らしのなかにも、彼らはそっと忍び寄ります


おススメの新刊を紹介するこの連載、第66冊目は、おぞましくて目を背けたいのに、なぜか惹かれる寄生虫たちの不思議な生態を描いた『眠れなくなるほどキモい生き物』です。





■人間の体内に居座る恐怖の寄生虫


先日「森林が減って、北海道帯広の市街地にキツネの出没数が増えた。そのため寄生虫“エキノコックス”の感染リスクが高まっている」というニュースを見ました。


「エキノコックス」とは「トゲがある球」を意味する名前の寄生虫。まずエキノコックスの卵を口にしたネズミの体内で「頭部だけ」が大量につくられます。そのネズミがキツネに捕食されると、エキノコックスはキツネの体内でおよそ2~4ミリに成長。エキノコックスの後端には200個ほどの卵が詰まっており、彼は後端を自ら切り離しながら卵をばらまきます


その卵が人間の口に入ると体内で孵化し、増殖。肝機能不全など障害を起こし、ときに死に至らしめられる危険性があるのです。しかも体内での増殖のスピードは遅く、のろのろと十数年もかけて増えながら移動します。


キツネってかわいいから、山道などで出くわすと、ついついなでちゃうんですよね。キタキツネなんて映画の主役になったくらいカワイイ。けれどもキツネをなでた結果、十数年後にエキノコックスに内臓を食い荒らされる。「七年ゴロシ」どころじゃない因果が、あなたにめぐってくるわけです。エキノコックスに感染してから十数年もムシが体内を這いずりまわっているだなんて、眠れなくなるほどキモい! キモすぎる! そんなにキモいとモテないぞエキノ!



@2021 Ohtani Tomomichi Nekoshowgun Printed in Japan
@NekoshowguN


そんなキモさ大爆発な寄生虫の生態をあらわした、サイエンスライター大谷智通さんの新刊『眠れなくなるほどキモい生き物』(集英社インターナショナル)が話題となっています。抗寄生虫薬「イベルメクチン」が新型コロナウイルスに「効く」の「効かない」ので論争になっていることもあり、寄生虫にいまスポットライトがあたっているのです


■その寄生虫、凶暴につき


紹介される寄生虫が、誰も彼もマジでキモーショナル。


たとえば「リベイロイア」は鳥にとりつく寄生虫。鳥を最終の宿主とするために、先ずは水辺にすむオタマジャクシなど幼い両生類にとりつき、俗に言う「後ろ足」(後肢)が生える部分へ移動します。


そして後ろ足に形成異常を起こさせ、カエルに成長した際に目立たせ、上空からでも鳥にエサとして発見しやすくさせるのです。鳥がカエルを発見して食べると、リベイロイアは鳥の体内へ引っ越し完了。脚の本数が多いカエルがたまに見つかるのは、寄生虫のしわざである場合が少なくないのです。



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「メジナ虫」は人間の皮下をもぞもぞ動きながら足へ移動する線虫。一年で1メートルもの長さになり、患部はやけどを負ったような激しい痛みに。メジナ虫を取り除くには皮膚から這い出たすきに棒に巻きつけ、数日から数週間かけてゆっくり巻き取らねばなりません。その作業は気絶するほどの激痛を伴うのだとか。しかもその間、仕事をするなど他の行動ができないのですから経済的にも痛い。さらに巻き取る途中で誤ってちぎれると足に残ったメジナ虫に添って化膿し、さらに悲惨なことになるのだそう。



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「エメラルドゴキブリバチ」はその名の通りゴキブリに寄生するハチ。ゴキブリの脳に毒液を注射して麻痺させ、触角を噛み切って前後不覚にして自由な運動をできなくさせます。毒液によって正常な思考ができなくなったゴキブリは、なんと死に場所となるハチの巣へ自ら歩いてついていくのです。


巣穴へ連れてこられたゴキブリは卵を産み付けられ、体内で生まれた幼虫はゆっくりとゴキブリの肉や内臓を食べて育ちます。肉が新鮮なままでいるように、ゴキブリを殺さずに。そうしていよいよ羽化したら、最後までとっておいたおいしいゴキブリの腸や神経を食べ尽くし、ついにゴキブリの身体を突き破って羽ばたいてゆくのです。


ゴキブリは嫌いだけれど「エメラルドさん、なにもそこまでしなくても」と思っちゃいますよね。



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■寄生虫はキモい。けれども同情してしまう


でも、なぜだろう。キモいはずの寄生虫の気持ち、わかるんです私。私はよく、インタビューしてほしいと望んでいるわけではない人に「お話を聴かせて」と押しかけ頼み込んで取材をします。そしてまるで体液を吸うように根掘り葉掘りと質問し、そこで得た情報を原稿に起こし、こんどは宿主(メディア)へ売り込んでゼニをかじりとります寄生虫そのものじゃん! キモい!


でもね、寄生虫たちだって生き残るためにキモい行為をやっているわけでね。なので私は読んでいて「キモい」とは思うけれど「悪い」とまでは言えないんです。それに伝染病の予防のため、寄生虫は科学的に駆除される場合があります。我々だっていつなんどき仕事がAIに駆逐されるかもしれない。そう考えれば、忌み嫌われる寄生虫に同情も共感もしたくなります。ハリガネムシやサナダムシと酒を酌み交わして語り合いたいっすよ。



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■キモさにリスペクトの念を抱く作者たち


著者のサイエンスライター大谷智通さんは、自分でつくった標本を「目黒寄生虫館」に寄贈するほどの寄生虫LOVER。そんな寄生虫を愛する大谷さんだから、寄生虫たちの眠れなくなるほどのキモい点だけに焦点を合わせるのではなく、彼らのスナイパーとしての腕前や、戦闘能力の高さに対しても評価します。人間よりずっと昔から地球に宿り続ける彼らに対する畏敬(いけい)の念を感じずにはいられません。



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さらに寄生虫たちの「眠れなくなるほどキモい」効果をさらに盛り立てるのが、氷室京介のアルバムジャケットやホラーアクションゲーム「ロリポップチェーンソー」のキャラクター&武器デザインなどで知られる猫将軍さんのクールなイラスト。猫将軍さんが描く生き物のタッチが精緻ゆえに、宿主の哀しいさだめがいっそうありありと胸に刻まれます。凶暴なヒアリが大谷さんの文章ならば、猫将軍さんのイラストは、そのヒアリの首すら刈り取ってしまう寄生虫タイコバエのような殺傷能力があるのです。



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いや~、ツワモノが全力でバトルする、とんでもないクオリティの本ですよこれは


そしてなにより大谷さんの文章のうまさに舌を巻くばかり。宿主を生かさぬように殺さぬように利用しつつ、むごく、静かに痛めつけ、ついには体内を食い荒らすなどとどめを刺す寄生虫たち。その「蠱惑」(こわく)に彩られたハードボイルドな美学が、大谷さんの筆致から伝わってきます。


まるで脳に小さな針で快楽物質を注射されてたかのような読後感。いつしか読者は著者に操られ、恍惚となり、ゾンビのようにうろうろと歩きまわり、最後は我が子のようにこの新刊を抱きしめてしまう。そして「私にもっと寄生して! もっともっと!」と自ら望んで逆寄生してしまうのです。




眠れなくなるほどキモい生き物
文・大谷智通
絵・猫将軍
¥1,700(本体)+税
集英社インターナショナル

あなたは最後までページをめくれますか?

寄生虫が、寄生する先の生物(宿主)の脳に司令を出すことによって、宿主の行動を操作する生物の存在が、近年解明されつつある。
宿主から恐怖心を奪ったり、ゾンビ化させたり、危険な場所へおびき寄せたり――本書は、背筋がゾワッとしてしまうほどおぞましく、したたかな生態をもつ寄生虫たちを、人気イラストレーター・猫将軍の魅力的なイラストとともに紹介する、世にも珍しい寄生虫本だ。

たとえば、ある寄生虫は昆虫の体内で成虫になって、やがて水中で交配するというライフサイクルをもつ。
寄生虫は昆虫の体内から水中へ移動しなければ交配できないが、昆虫にとって水辺は開けていて明るく、天敵に見つかりやすい場所であり、危険なエリアなので通常は近づかない。
そこで寄生虫がとある化学物質を分泌すると、宿主の昆虫は水の中へ飛び込みたくて仕方がなくなってしまう――。

このように、宿主の行動を自在に操り、自らに都合の良い行動を取らせる寄生中のライフサイクルは、精緻かつ巧みに設計されており、非常に残酷かつ興味深い。
本書はそうした寄生虫のなかでも特にキモ怖い生物を厳選して、その生態を紹介。
読めばキモ怖すぎて眠れなくなること間違いなし。

大谷智通
サイエンスライター、編集者。東京大学農学部卒業後、同大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻修士課程修了。大学では魚病学研究室に所属し、魚介類の寄生虫の研究を行う。出版社勤務を経て独立。主な著書に『増補版 寄生蟲図鑑 ふしぎな世界の住人たち』(講談社)、『えげつないいきもの図鑑 恐ろしくもおもしろい寄生生物60』(ナツメ社)など。

猫将軍
イラストやキャラクターデザインを得意とするアーティスト。和歌山県在住。ゲームのコンセプトイメージやジャケットイラストなど、数多くのアートワークを手掛ける。昆虫、動物、女性、宝石、肉、スイーツといったモチーフを得意とする。画集に『猫将軍画集』(2021年・玄光社)『ILLUSTRATION MAKING & VISUAL BOOK 猫将軍』(2014年・翔泳社)がある。
http://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-7976-7397-5


吉村智樹
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