「ぎょうざの満州」「551蓬莱」「福田パン」いまローカルチェーンが激アツ!『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』

2021/9/2 20:30 吉村智樹 吉村智樹




テレビ番組『秘密のケンミンSHOW 極』(読売テレビ・日本テレビ系)の人気コーナーといえば「へぇ~! そうだったのか!? ケンミン熱愛チェーン」


全国津々浦々、地元に愛されるローカル飲食チェーンを紹介するこのコーナーでは、これまで埼玉に本拠地を置く「山田うどん食堂」、仙台「大衆食堂 半田屋」、愛知ケンミンのソウルフードと言って大げさではないラーメンや甘味の「Sugakiya(スガキヤ)、北陸ロードサイドの味「8番らーめん」、静岡ケンミンの胃袋を満足させるげんこつハンバーグの炭焼きレストラン「さわやか」、北海道のハンバーガーチェーン「函館ラッキーピエロ」などなど、数々のローカルチェーンを採りあげてきました。


そして紹介されたチェーン店は放送直後に必ずTwitterなどSNSで一気にトレンド入り。「めっちゃうまいんだよ。しょっちゅう行く」「あのタレはクセになる」「さっき食べてきたばかり」「あの味は我が郷土の誇りですよ」と称賛のコメントが並びます。なかには東京など他都市へ移り住んだのか「懐かしい。子どもの頃によく食べた」「ふるさとへ帰りたい」と郷愁にむせび泣く人も。


そうして放送翌日にはどのチェーン店も長蛇の列に。地元の飲食チェーンを地元の人たちが改めて評価するきっかけとなっているのです。


全国チェーンの猛攻にビクともせず、新型コロナウイルス禍でもしなやかに生きのびるローカル飲食チェーン。マクドナルドや吉野家のような全国を席巻するビッグスターになろうとせず、地域密着型を選んだのはなぜなのか。地元に根を張る秘訣とは。


おススメの新刊を紹介するこの連載、第65冊目『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』です。





■「ローカル飲食チェーン」が恋しくて


わたくしごとで恐縮です。
私は京都に住んでいますが、以前は10年ほど東京で暮らしていました。これは東京在住時代のできごと。


ある日ふと「“丹波屋のおはぎ”が食べたい」と思い、東京で購入できる店をネットで検索したんです。ところが……「ない」


てっきり全国チェーンだと勘違いしていた「おはぎの丹波屋」。まさか関西ローカルだったとは。上京者あるある「出身地にあったローカルチェーンを全国チェーンだと思い込んでいる」を、まさに実践してしまったわけです。


「丹波屋のおはぎ」は独特なんです。白ごはんをそのまんま粒あんでくるんだ、アマチュアっぽい仕上がり。いいように言うと「家庭の味」「おかんの味」。プロの職人ワザである、もち米を半づきした「はんごろし」を感じさせないんです。それゆえ逆に代替品がない


「白ごはんをそのまんま粒あんでくるんだおはぎ? そんな雑なもんが欲しいんだったら白ごはんにあんこを乗っけて食べればいいじゃない」


そうなんです。舌に乗せれば、喉を通れば、胃に入れば同じなんです。同じなはずなのに白ごはんにあんこを乗っけて食べるのには抵抗があるから不思議。やはり、丹波屋のおはぎでないと。


おはぎは東京にいくらでもある。実際に何軒かをめぐって食べました。でも違う。違う違うそうじゃそうじゃない。上品すぎる。こんなにもち米が上品にねっとりしていない。「普通のごはんをあんこが抱え込んでいるあの素朴きわまりないおはぎが、丹波屋のおはぎが、どうしても食べたい!」


そうして私は矢も楯もたまらずついに新幹線に飛び乗り、大阪の丹波屋までおはぎを買いに行きました。おはぎを食べるためだけに3万円近い交通費を使って。けれども願いが叶ってほおばったおはぎのおいしさは私にいっさいの後悔をさせなかった。「これだよ、これ。高級和菓子店にはない、いい意味でアバウトなこの食感を求めていたんだよ!」って。


そして「アマチュアっぽい仕上がりだなんてとんでもない。人の心をここまで奪い取ってしまうなんて、これぞプロの仕事ではないか」と反省。さらに東京に何年住もうと「自分は関西ローカルな人間なのだ」と自分のアイデンティティを改めて確認したのです。


地元に根付き、地元民に愛され続けるローカル飲食チェーン。そこで食べた味の記憶は、人の生き方にさえ影響を及ぼすのだと、痛く感じ入りました。


■全国ローカル飲食チェーン取材を敢行!


そんな愛しきローカル飲食チェーンがなぜ屈強な存在なのか。丹念な現地調査と当事者インタビューで解き明したビジネス書が発売されました。それが『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』(PHPビジネス新書)。


紹介されたローカル飲食チェーンは、以下の7社。


●お客さんが鍋を持参してカレールー(カレーソース)を買いに行ける北海道『カレーショップ インディアン』
●60種類以上の具材で2000以上の組み合わせができるコッペパンサンドの岩手『福田パン』
●和服の女将さんが出迎えてくれる茨城『ばんどう太郎』
●「3割うまい!!」でおなじみ埼玉『ぎょうざの満州』
●新幹線のなかで開けると車内が臭気で大変なことになる「豚まん」でおなじみ大阪『551HORAI』
●本社では1日5回、キャラクターの桃太郎が電動でせりあがってくる三重『おにぎりの桃太郎』
●スーパーマーケットレベルの品揃えを誇る熊本『おべんとうのヒライ』



(c)Yuki Tatsui2021 Printed in Japan (c)PHP研究所


地元の人からすれば街のあちこちに当たり前に目にする、食べなれた店ばかり。けれどもひとたびエリア圏外へ出ると、一気に誰も知らない存在になる。なんともミステリアスな存在のローカル飲食チェーン。大げさではなく、世界遺産や国宝、重要文化財など観光地に比肩するほどの、訪れなければ体感できない「地元の顔役」です。「現代の郷土料理」とも言えるでしょう。


著者はWebメディア「ジモコロ」「メシ通」「デイリーポータルZ」「ねとらぼ」などなどで記事が幾度もバズりたおしている人気ライター辰井裕紀さん。辰井さんはさらにテレビ番組のリサーチャーも兼ねるパラレルワーカー。かつては『秘密のケンミンSHOW』のリサーチも担っていました。いまでは数少ない地方ロケを敢行する番組を支え続けてきた人ゆえに、初の著書である『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』も実際に現地へ飛んで取材しています。そしてこの新刊の根底にはビジネス書を越えた「ケンミン愛」が満ち満ちているのです。



(c)PHP研究所


■ご当地の味、ローカルなルール


いや~、日本は広い。知らない逸話ばかり。

コッペパンに好きな具材をはさんだりペーストしてくれたりする岩手「福田パン」には、塗り方一つとってもお客さんが「ミックス」と「半々」を選べる(初心者にはすぐにこのシステムの違いが理解できないかも)。


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「豚まん」でおなじみ大阪「551HORAI(蓬莱)」では新商品開発部署がありながらこの13年間新商品をひとつも発売できていない(それだけレギュラーメニューの完成度が高い)。


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女将さんをはじめ店員さんが玄関の外まで見送ってくれるならわしで知られる茨城「ばんどう太郎」では「電球球切れ確認責任者」など従業員の多くがなんらかの責任者となる(パートさん、アルバイターを含め、いわば全員が店の運営にタッチする)。

三重のなかでもさらに四日市に集中する「おにぎりの桃太郎」一番人気商品は「味」(名前が『味』だけ。はじめ校正漏れの脱字かと思った)。

埼玉「ぎょうざの満州」のチャーハンは5割が玄米(だからパラッとしてるのか!)。


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▲『強くてうまい! ローカル飲食チェーン』埼玉限定POP

北海道「カレーショップ インディアン」のカツカレーは食べやすいようにカツを細かく割っている(確かにその方が食べやすい)。

熊本「おべんとうのヒライ」人気商品、ちくわの穴にポテトサラダを詰めて揚げた「ちくわサラダ」ポテトサラダの廃棄を減らすために生まれた

などなど辰井さんが聞き込みや体験で得た企業の創意工夫がてんこ盛り。カツカレーの話なんて、地元に人にしてみれば「言われてみればそうだな」と気づかされる視点だったのでは。地元民ではないからこそ発見できることってたくさんある。ライターがコピペではなく現地で真誠に一次情報を見て感じる、それがいかに重要かが伝わってきます。


そして辰井さんの実食リポートが本当においしそうで。「甘い、というより気持ちいい味」「口にパワフルな余韻が残った」「しっかり立った米だから、汁をかけてもハリを保つ」「これを書いている最中にもあのコクを思い出して、思わず身もだえる」。うう、読んでいるだけでヨダレがマーライオン状態。嗚呼、食べてみたいよローカルフード。「食べる」行為を通じてその県その街で生きる人々のいとなみを理解しようとする辰井さんの情愛が文章から響いてきます。


■味を均一化して全国へ進出するよりも


どの会社のどの店も、とてもおいしい。けれども全国展開しようとしない。紹介されたほとんどのローカル飲食チェーンが東京進出を目標としたり地方を越えたエリア拡大を目論んだりしない点で共通しています。「そこに行かなきゃ味わえない方が、価値がある」「地域ごとに舌が違う」。地元以外に店を出すと「味がブレる」。「祖母が『食べ物屋とおできはおっきくなったらつぶれるぞ』と生前からよく言っていた」「その土地で昔から作られるものを食べると身体にいい。身体と土地は一つ」など多くの企業が他圏進出のための味の均一化よりも「地元の味」に重きを置いているのです


読みながらずっと、どんなに有名になろうとも拠点を北海道から移さず地元を大切にし続ける俳優の大泉洋さんを思い浮かべていました。


■コロナ禍時代を「生き残る」知恵


新型コロナウイルス禍は、街の風景を大きく変えてしまいましたね。


私がいつもおいしく食べていたカレーショップが、「緊急事態宣言期間中は休業します」だったのが、そのまま閉店する運びとなりました。残念でなりません。4度にわたる緊急事態宣言および期間延長&まん防のパンチをみぞおちに喰らい続け、ついにこころざし半ばにして倒れてしまった。そのようなお店は日本中いたるところにあるでしょう。


飲食店に限りません。学童用の靴下をつくっているメーカーを取材したところ「子どもたちが学校へ行かないから靴下の需要がない」と操業を停止していました。さらに会社を維持するために、大きな借金をしたのだとか。


「生き残る」が比喩ではなく実際の生死を意味する昨今、この新刊から学ぶことがらは、あまりにも多いのです。



強くてうまい! ローカル飲食チェーン
辰井裕紀 著
1,210円(本体価格1,100円)
PHPビジネス新書


(c)PHP研究所


東京進出しないのには、理由がある。
コロナ禍でも業績が落ちず、ファンが増え続けるローカルチェーン7店の経営の秘密が明らかに。

地域に根差し堅調に営業を続けるローカル飲食チェーン。
豚まんやカレー、おにぎり……メニュー自体の魅力に加え、創意工夫を積み重ねたサービスで、地元の期待に応える。
コロナや震災、全国チェーン台頭などの逆境もハートとアイデアで乗り越えてきた。

本書では、東北ローカルフードの代表格である福田パン(岩手)や、出張者も地元民も愛する551HORAI(大阪)など、「ローカルで繁盛している」「すごいビジネスの工夫がある」の2条件を満たすローカルチェーン7店を紹介する。

かつて「秘密のケンミンSHOW」でリサーチャーとして全国各地のネタを集めた著者が現地で徹底取材。
地元発だからできるローカライズ戦略、看板メニューを磨くワザ、店の稼ぎ頭(何で稼いでいるのか)など「売れ続ける理由」を探る。
「おいしい!」と「すごい!」を同時に味わえて、本編は200ページ超えのオールカラーで楽しめるビジネス×ローカル・グルメ本。

https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84982-9



吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy