素通りなんて無理! ミュージアムショップは楽しさの宝庫『ミュージアムグッズのチカラ』

2021/8/19 12:34 吉村智樹 吉村智樹




夏休みですね!


夏休み真っ只中のいま、全国の博物館や美術館などいわゆる「ミュージアム」がいっせいに興味深い企画展を開催しています。「ミッフィー誕生65周年展」「ディズニープリンセスの世界」「篠山紀信60年間の初大回顧展」「北斎生誕260年記念全図一挙大公開」などなど、夏休みならではのワクワクする展覧会が目白押し。


博物館や美術館の楽しみといえば、もちろんディスプレイされた作品や現物を愛でること。学芸員さんたちが目を利かせ、腕によりをかけて選んだアートや歴史的資料の数々。リアルに体験するエキシビションは、インターネットや印刷物とはだんぜん迫力が違います。


しかし、博物館や美術館の醍醐味は、それだけではありません。とどめを刺すのが「ミュージアムグッズ」。企画展や常設展にあわせて生みだされた特別な雑貨は、あれもこれも欲しくなる逸品揃い。Tシャツ、作品のレプリカ、マグカップなど器、クリアファイル、トートバッグ、レターセット、スイーツなどなど「ここでしか手に入らない」レアなグッズたちは、まさにお宝。


そんな多彩な「ミュージアムグッズ」の魅力に迫る一冊が発売されました。


おススメの新刊を紹介する、この連載。
第63冊目は、全国の博物館や美術館に併設された販売コーナーに光を当てる『ミュージアムグッズのチカラ』です。





■見ないで帰るなんて損! ミュージアムショップはスグレモノが満載


博物館や美術館を訪れたとき、あなたは「ミュージアムショップ」に立ち寄りますか?


「もちろん! ここでしか、この期間でしか手に入らない稀少なグッズが手に入るんですよ。かわいいものが多いし、記念になるし。うちのマスキングテープ、たいていミュージアムショップで買ったものなんです」


「図録が欲しいから、ちょっと覗くかな」


「売店? すみません。素通りです。意識したこともない」


反応はきっと百人百様でしょう。


■約1000点のミュージアムグッズを集めた超人登場!


北海道にお住いの大澤夏美さんは、おそらく日本で唯一のミュージアムグッズ研究者「24時間、365日、ミュージアムグッズのことばかり考えている」というディープな愛好家です。


大澤さんがこの10年で蒐集したグッズはなんと約1000点にも及びます。コレクションは「常設展で入手」「企画展で入手」など分類され、おうちはさながらミュージアムグッズ・ミュージアム


そんな大澤さんが新刊『ミュージアムグッズのチカラ』(国書刊行会)を上梓しました。


自身のコレクションを公開したオールカラーのこの『ミュージアムグッズのチカラ』、ページをめくれば、楽しいのなんの。たとえば化粧品の歴史を知ることができる「紅ミュージアム」(東京)のクリアファイルやメモパッド、付箋などには「明治時代の化粧道具」や「懐かしのコスメ」がプリントされています。レトロな化粧瓶って、ほんとラブリーですよね。



(C)大澤夏美 (C)国書刊行会

ほか全国の博物館や美術館で入手した、発掘された古鏡をモチーフにしたミラー、「目撃すると幸せになれる」とウワサの黄色い新幹線「ドクターイエロー」を模した瀬戸焼、活版印刷の漢字に見立てたシュガー、砂糖の中に埋もれたハニワ(クッキー)を掘り起こせるキット、実際の重さと色で再現されたパンダの赤ちゃんのぬいぐるみなどなど、「秘宝」と呼んで大げさではない珍しいミュージアムグッズをわんさか掲載。活字シュガーが溶けてゆくコーヒーを飲みながら書き物をすれば、文豪気分にひたれますよ。


■「博物館の余韻」を閉じこめたミュージアムグッズ


「奥州市牛の博物館」(岩手)にある「A5ランク前沢牛肉一筆箋」なんて、霜降り牛肉の便箋というだけでも充分激レアなのに、さらに商標印つき。遊び心が行き届いています。



(C)大澤夏美 (C)国書刊行会

「渡辺淳一文学館」(北海道)にはなんと「失楽園」の直筆原稿がプリントされたハンカチが! 許されぬ恋で涙するとき、ぜひ使ってみてください。


そして大澤さんは蒐集のみならず、多数のミュージアムグッズ開発者を取材しています。「アーティゾン美術館」(東京)は「余韻を持ち帰っていただく」ために、ミュージアムグッズひとつひとつの商品で完結せず、商品全体のファミリー感を大切にしているのだそう。ミュージアムグッズが単なるお土産ではなく、それ以上の感動をもたらすのは「余韻を持ち帰る」という考え方があるからなのだと、腹に落ちました。



(C)大澤夏美 (C)国書刊行会

ほかにも展示品に近づけるため一滴単位で染料を調整したり、地元の繊維工場から出る端材を使って地域貢献を果たしたり、オリジナルパッケージをつくるために県内に一社しかない製函会社を探し当てたり、開発者はいいものをつくるために尽力しているのです。ミュージアムグッズの誕生秘話、精度の高さ、制作行程の手の込みように感動をおぼえます。「そこまで思い入れを注いでつくられていたのか!」って。ミュージアムグッズやミュージアムショップへの見方が変わりますね。日本のミュージアムグッズがあまりにも品質がいいので、わざわざ海外から買いに来るマニアもいるのだそう。


■1日4館ものミュージアムを訪れる情熱


それにも増して著者の大澤さんの執念がすごい。北海道在住ながら、よくぞここまで全国のミュージアムグッズを集めてこられました。約10日かけて日本を巡り、多い日で1日4館を訪問するというから頭が下がります。博物館って一か所に密集しているわけではない。山あいに「ポツンと一軒家」であるケースも少なくない。しかも学芸員さんの取材ありですから、それで1日4館をめぐるって、どれだけハードか。


大澤さんの洞察はさらに深く、「お茶菓子や懐紙が売られているということは、近くにお茶室があるに違いない」「職場などで配れそうなお菓子があるから、比較的遠方からの来訪が多いのか」など、ショップの品揃えから推理するのだそう。モットーは「ミュージアムグッズやショップは、博物館のエンドロールだ」。このように、ちゃんと現地へおもむいてエンドロールだけではなく「本編」を鑑賞してからの購入する大澤さん。いわゆるコレクターではない。博物漢と呼びたくなる熱い情熱をいだいた求道者ですよ。


ミュージアムグッズ売り場に着目し、ミュージアムグッズのみで一冊の本をつくる。これは文化的偉業です。日本津々浦々のミュージアムへ足を運び、グッズを自腹で吟味した大澤さんの行為こそ真の「キュレーション」ではないでしょうか。


ぜひとも新刊発売を機会に、大澤さんがセレクトした過去の名品を公開する「ミュージアムグッズのチカラ展」を、どこかのミュージアムで開催していただきたいものです


■ミュージアムグッズ購入がミュージアムを救う


さて、読書を通じてミュージアムグッズの魅力に触れてきましたが、おおもとの「ミュージアム」は現在、危機的状況にあります。猛威をふるう新型コロナウイルスは博物館や美術館など文教施設をも容赦なく襲いかかるのです。


ミュージアムグッズは展示の延長であり、実際に訪れて鑑賞したのちに購入するのがベターなのでしょう。


しかし「緊急事態宣言」ならびに「まん延防止等重点措置区域」が拡大しています。県またぎの自粛が呼びかけられるなどあって博物館や美術館の入場者数は減少。休館や時短、入館制限を余儀なくされるなど存続の危機に立たされているのはご存知でしょう。


維持のためにも、大好きだったり以前から気になっていたりする博物館や美術館の公式Webサイトを覗いてみませんか。多くの施設がオンラインショップを開き、ミュージアムグッズの通販を行っています。気になるグッズを先に購入することで永続のための応援をし、来るべき収束の日を心待ちにする。ウイズコロナの時代、そんな楽しみ方は、もう「あり」なのでは。ミュージアムグッズからチカラをもらいたくて、私はこの『ミュージアムグッズのチカラ』で知った「A5ランク前沢牛肉一筆箋」を購入しました



ミュージアムグッズのチカラ
大澤夏美 著
1,980円 (本体価格1,800円)
国書刊行会

★藤岡みなみさん(文筆家・ラジオパーソナリティ)推薦!

「ぜんぶ欲しい! 博物館は、持って帰れる。制作秘話がドラマだらけ。ここは情熱のデパート。この本を読んで、なぜ人はミュージアムグッズに惹かれるのかがわかりました。それはきっと、グッズたちに魂が吹き込まれているから。日頃からミュージアムを支える方々、研究者、学芸員のみなさんの愛と情熱の産物が、そこに足を運んだ人々の興奮と結びついたとき、忘れられない宝物になるのでしょう。ロマンの出口であり、入り口。絶対に博物館に行きたくなる!」

★ミュージアムグッズの「ステキ」さを、①かわいいを楽しみたい、②感動を持ち帰りたい、③マニアックを堪能したい、④もっと深く学びたい、の4つのテーマで分類して紹介した、ミュージアムグッズ愛好家・大澤夏美による、ミュージアムグッズ愛溢れる一冊。
読み進めるごとに博物館の魅力に夢中になります!

★著者おすすめのミュージアムグッズの紹介だけではなく、「本当にステキなミュージアムグッズ」とは、「作品、資料へのリスペクトが感じられるグッズ」であり、「博物館の活動や、その先の文化、自然などに興味を持てるグッズ」であるという考えに基づき、ミュージアムグッズが作られるプロセスや、ミュージアムグッズの過去・現在・未来について、開発者などのインタビューを交えながら、論じます。

ミュージアムグッズ、それは私たちを博物館へと誘う「チカラ」に溢れています。

著者紹介
大澤夏美 (オオサワナツミ)
札幌市立大学でデザインを学んだのち、北海道大学大学院に進学。
博物館経営論をベースとして、ミュージアムグッズの研究に取り組む。
会社員を経て、現在はミュージアムグッズ愛好家として活動。
研究、実践の両面から、ミュージアムグッズを通じて博物館の魅力を伝える活動に邁進中。
https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336071071/



吉村智樹
https://twitter.com/tomokiy