ゲームやARの世界が現実に!?ネオンを使った現代アートが凄すぎる!

2020/9/11 20:30 明菜 明菜


ケリス・ウィン・エヴァンス《The Illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》2015年
ネオン 378×319×191cm 展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


大きな吹き抜けに登場した幾何学模様。光る図形が空間にふわっと浮いているみたいに見えます。ツイッターでは「ARみたい!」とのコメントも。

こんにちは、美術ブロガーの明菜です。今回はイギリス出身のアーティスト、ケリス・ウィン・エヴァンスさんの作品を紹介させてください。写真からも分かるとおり、現実の空間にミステリアスな記号が浮かんでいるので、ゲームの世界に入り込んだような錯覚もあって新鮮です。


ケリス・ウィン・エヴァンス《299792458 m/s》2004/2010年
ネオン 展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


今回のポーラ美術館の展示では、館内の大きな吹き抜けや屋外の遊歩道をうまく活かしています。建物×記号、自然×光と組み合わせにギャップがあり、まるでSFやRPGの世界観!

さて、作品について掘り下げていくと、ケリスさんがテーマの一つとしている「コミュニケーション」が浮かび上がってきます。ケリスさんはイギリスのウェールズ出身のため、幼い頃からウェールズ語と英語の翻訳の問題に直面してきました。


ケリス・ウィン・エヴァンス《The Illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》2015年
ネオン 378×319×191cm 展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


現在はどんな言語も機械で翻訳ができるかのように捉えられていますが、話し言葉に込められたニュアンスや情熱を伝えるためには、翻訳する人の創造性が必要です。

何なら、言葉でなくても良いわけです。絵や音楽でも思いは伝えられるし、言葉を尽くすよりも少しの笑顔で伝わる感情もあります。

ケリスさんによるアートは、このような言葉以外のコミュニケーションを目指しているように感じられます。それも、ふんわり雰囲気が伝われば良いとするのではなく、かなり高次元のやり取りを試みているように見えるのです。


ケリス・ウィン・エヴァンス《The Illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》2015年
ネオン 378×319×191cm 展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


というのも、《The illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》は現代美術史の重要人物マルセル・デュシャンの作品《彼女の独身者たちによって裸にされた花嫁、さえも》、通称『大ガラス』のモチーフを引用しているからです。作品の画像を検索していただくと、全く同じモチーフが『大ガラス』にも隠れているのが分かるはず。

つまり、デュシャンが『大ガラス』に込めた意味の一部分にケリスさんが意味を乗せることで、より高度なメッセージになっているのです。

『大ガラス』は現代美術上のとても重要な作品なので、大勢の美術好きが知っています。大勢が知っている作品、すなわち「常識」のようなアートをベースに、ケリスさんが新たな意味を乗せてコミュニケーションを試みようとしているのではないでしょうか。


ケリス・ウィン・エヴァンス《The Illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》2015年
ネオン 378×319×191cm 展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


『大ガラス』の内容も簡単ではないのですが、ざっくり言うと、男性たちから放たれた照明用のガスが、紆余曲折あって、眼科で視力を測るときに使う記号の内側を下から上に抜ける、というもの。女性には直接届かず、鏡の反射によって届けられるので、1人で完結する性の営みを表しているとも考えられます。

ケリスさんが抜き出したのは「眼科で視力を測るときに使う記号」の部分です。『大ガラス』はガラスを使った平面の作品ですが、ケリスさんはそれを立体にし、それも大きな作品にすることで、下から上に突き抜ける強大なエネルギーを表現しているのではないでしょうか。


ケリス・ウィン・エヴァンス《The Illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》2015年
ネオン 378×319×191cm 展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


『大ガラス』を引用していることが分かると、AR体験的な面白さだけでなく、人が生まれることの神秘や強いエネルギーも作品に重ねられると思います。

と、難しい自論を展開してしまいましたが、とにかく見るのが楽しい作品だと思います!現実を忘れてしまう魅力がある、光のアートです。


ケリス・ウィン・エヴァンス《(A)=D=R=I=F=T》2015年
スピーカー、アンプ、メディアプレイヤー、鏡、ステンレススチール展示風景:ポーラ美術館 ©Ken KATO


本展は6月7日から開催されていますが、大型の作品《The illuminating Gas...(after Oculist Witnesses)》が展示できるようになったのは9月から。コロナ禍で海外のアーティストの作品展示も難しくなる中、実現したのは凄いことです。

日本で作品を見られる貴重な機会なので、箱根のポーラ美術館に遊びに行ってみてはいかがでしょうか?

ケリス・ウィン・エヴァンス展
会場:ポーラ美術館 ロビー、アトリウムギャラリー、森の遊歩道
会期:2020年6月7日(日)~11月3日(火・祝) ※臨時休館あり
公式HP:https://www.polamuseum.or.jp/

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